翌日。
「深海ぃー!」
朝。鎮守府本庁舎の廊下を、慌てた様子の空母水鬼が深海に向って走ってくる。
だが深海はその慌てた様子の理由をすぐに理解した。深海は振り返ることなく廊下を歩いていたが、空母水鬼が後ろから飛びつこうとした瞬間、その腕を力の限り掴むと、そのまま背中を丸める様に空母水鬼を背負い上げ、そのまま廊下に叩きつけた。
ガシャーン!!
と、盛大な音を立てて、空母水鬼は廊下に大の字になって倒れた。
そんな空母水鬼を、深海はまるでゴミでも見るかのような表情で見下ろしていた。毎度のことながら、このバカ母の背後からの全力ハグには頭が痛い。
隙あれば、抱きしめようとしてくるのだ。
「いったたたぁ…もう深海!何も背負い投げすることないでしょぉ!?」
「後ろから襲われたら、背負い投げが相手の動きを封じるのが得策だ。って俺に教えたの、母さんだろ…」
「それは相手が、殺意を持って襲ってきた時の話でしょ!お母さん、殺意も何も持ってないじゃない!」
空母水鬼は起き上がり、膝立ちで深海を見上げながら、まるで悪びれてなどいない。そんな少し怒っているようにも見える表情で深海に言い返す。しかし深海は呆れたような口調で答える。
「ああ、確かに殺意はなかったな。代わりに『深海だぁー!抱きしめなきゃー!』って心の声は、嫌って程にダダ洩れだったけど」
「じゃあ抱きしめさせて!」
「ヤダ」
「ヒドッ!?」
完全に塩対応な深海に、空母水鬼は、ガーン!と口を開ける。ギャグマンガの登場キャラみたいな顔じゃないか。と深海は呆れかえる。
深海は立ち上がった空母水鬼の横を通り過ぎて、廊下を歩きだす。今日は鎮守府本庁舎裏山にある農場の手入れの日なのだ。早く準備を済ませないと、他のメンバーに怒られかねない。
すると空母水鬼が後ろからついてきた。だが今度は、抱きしめようとする様子もなく、ただ隣に並んで歩いているだけだ。
「……何してるんだよ母さん?」
「農場のお手伝い。お母さんもしないとだから!」
後ろで手を組んだ空母水鬼はニコッと笑って深海を見下ろす。そんな空母水鬼を見上げながら、深海は、やれやれ。と肩をすくめて前を向いた。
(距離感バクってるし、空気は読めないし、天然だし、愛情過多だし、おまけに馬鹿だし、本当に困った母親だよ)
だがそれ以上に――
(本当に、俺たちのことが大好きな、優しいお母さんなんだよなぁ)
深海の口元に小さな笑みが浮かび上がった。
「ねぇ、今夜もお母さんとする?♡」
「しない」
「ガーン!Σ(゚д゚lll)」
やっぱり前言撤回だ。