シュルシュルという摩擦の音にクチュリと淫猥な水音が混ざりあっては小さく響く。
男と女。生徒と教師。
職員室の一角。密室である生徒指導室。の、更に奥にある狭苦しい給湯室。
「せ、先生っ……!」
僕の陰茎に纏わりつくようにして、悪戯な動きで弄ぶ先生の手淫。
俗に言う『手コキ』による、淫らふしだらな音は密やかでありながらも匂い立つような淫猥さを奏でている。
染み一つ、皺の一本も見当たらない先生の光沢を放つ真っ白な手が僕の陰茎を握り扱く度に。僕の鈴口からはトロトロと先走るものが滴り落ち、先生の綺麗な手をどんどんと汚していく。
「あっ、そこ駄目ですっ……あうぅ……うぐぅ……!」
年頃の男にしては余りにも情けない甲高い喘ぎ声が、僕の喉奥から絞り出さられるかの様にして漏れ出ていく。
興奮と恥辱。快感と罪悪感が入り交じった悲鳴じみた情けない事この上ない喘ぎ声をどうにか抑えようと、ブレザーの裾を伸ばして噛み付いたのだが気休めにもならなかった。
「おい、気色の悪い声を出すなバカ者」
侮蔑と嫌悪を隠そうともしない先生の冷たい罵声は普段だったら萎縮してしまいそうなものだというのに、今の状況では寧ろ興奮をそそり立てるスパイスに他ならなかった。
初恋の女性に敏感な陰部を触られる。
たったソレだけで脳髄に電流が走ったような刺激が脊髄にまで迸り僕の未熟な身体は打ち振るえて自身の身体の制御すらままならなくなってしまう。美麗な女教師の指先一つでパペットのように操られてしまう現実はどこか非現実的である。
やっている事は時たま自分が右手で行っている性処理と殆ど変わらない筈だというのに、別次元の快楽。
今までの人生で感じた事の無い異性からの愛撫のその衝撃的な甘ったるい痺れに僕はすっかり骨抜きにされていた。
「ごっ、ごめんなさい……でも、気持ちよくて……声がっ……!」
「……ふん」
女性の靭やかで柔らかな手が、こんなにも気持ち良く。そして淫らである事など。
今世ではもちろん。情けない事に前世ですら、僕は知らなかったのだ。
「人畜無害とでも言いたげな身形の癖して、少し誘っただけであっさり勃起させるとは。Dクラスの中では多少は頭が回る奴だと思ってはいたが、結局はお前も色欲に逆らえないバカな男に過ぎなかったな」
流れるようにして悪態を吐き続けている先生は、きっとこの淫らな時間を早く終わらせたいのだろう。
手淫の快楽による震えに抗いながらもどうにかして彼女の顔を見上げてみれば、実に退屈そうな表情が浮かんでいる。
榛色の瞳はすっかり輝きを無くし、嫌悪感と倦怠感による煙ですっかり曇り煤けてしまっている。先生にとってこの性的な行為がいかに不本意なものであるかを物語っているようだった。
「所詮はお前も不良品の一部でしかなかったというわけだ」
「ごめん……なさ、い! ……あぁ、ソコ、駄目ですっ……」
「はぁ……。まあ、扱い易いに越したことは無い。とっとと終わらせるぞ」
飽いたのか、それとも焦れたのか。
短く嘆息したと同時に、竿を上下に扱くだけの単調だった動きから一転。
時おり亀頭を掌で撫でてみせたり、指先を絡みつかせたかと思えば桜の花弁のような艷やかな爪先で鈴口の入り口をカリカリと引っ掻いたり。
「あぅっ……それ、ヤバいですっ……!」
「何だ? もう限界なのか。早漏は嫌われるぞ」
「だ、だって! せっ、先生。いきなり激しいっ……」
「手で処理してやってるだけで激しいも何もあるかバカが」
気怠げで投げやりな言葉とは裏腹に先生の手の動きは段々と早くなるだけでは無く、あっという間に複雑化していく。
年上の女性による手淫の妙技の威力は想像以上に凶悪であり、これ以上は硬くなるまいと隆々と勃起していた陰茎が更に硬度を増しては反り返っては睾丸に茹でるようにして精液が溜まっていくのが分かってしまう。
先生の右手一つ。ただそれだけで僕という人間はあっという間に追い込まれていた。
「せっ、先生……もうイきますっ!」
「ん。そうか。とっとと射せ」
「イッ……イク!!」
初めて味わう淫らなピンク色の快感に成すすべなどある筈も無く。
僕は情けない宣言と共に脈打つ血管が破裂するかのような勢いでもって、自身の肉欲を白濁した液体という形で吐精した。
「随分な量を射したな。何だ、溜まっていたのか?」
「ごめんなさい……あの、気持ち良すぎて」
蓋をするようにして受け止めた先生の掌がドロドロとした精液に汚されていく。
僕に寄り添う彼女の髪から薫る女性の甘い体臭に、むせ返るような精液の臭い。それからほんの少しだけ香る煙草の残り香が全て混ざり合って、なんとも媚薬めいた、蕩けるような気持ちを沸き立たせる。
薄っすらと霧にでも包まれたような惚けた思考の片隅で、僕は快楽の余韻に溺れていた。
「おい、お前はいつまで寄りかかっているつもりだ。とっととその粗末なモノをしまえ」
「あっ……ごめんなさい」
射精直後の気怠さのせいか。それとも単に僕の体力が貧弱で、唐突に訪れたこの官能的な非日常への衝撃に精神的に疲労が蓄積されていたせいのか。いつの間にか僕は先生に寄りかかっていたらしい。
学校側から不良品と称された僕たち劣等生を見下す侮蔑の視線が氷柱の様に僕の瞳を貫いている。
教室でいつも見るような不遜な仏頂面のまま、先生は邪魔くさそうな様子で僕の肩を押しのけると、いつの間にやら用意していたウェットティッシュで掌に纏わりついた白濁液を丁寧に拭い取っていた。
「チッ……全く。たかが手で処理してやっただけだというのに、一体どれだけの量を射したんだか」
舌打ちと共に先生が軽く頭を振ると、呼応して黒髪の尾が宙に靡いた。
芸能人でも滅多に見ることの無いような端正な顔立ち。くすみの一つも見えない真っ白な美しい肌。
それに加えて思わず生唾を飲み込む程に肉感的でありながら、均整のとれた女性として見事なプロポーション。
それを恥じるどころか寧ろ誇らしげに下々民に見せつけるように、クールに着こなしているレディーススーツはあえて胸元を着崩し、大きく開けられている。
最低でもFカップはある筈。そんな事をクラスメイトの男子達がやに下がった顔で熱く語り合っていたのを、ふと思い出した。
「さて。念の為にもう一度伝えておくが、コレはあくまで『報酬』の前払いだ」
手を拭き終わったのだろう。汚れたティッシュペーパーをゴミ箱に放り投げながら先生はそう告げた。
美人女教師からの秘密の個人授業。
字面にすれば如何にも扇情的かつ淫靡な字面。まるで三流の官能小説じみた現状に見えるかもしれないが、決してこの行為は恋人同士の逢瀬などでは無い。互いの肉欲を発散する為だけの俗に言う『都合の良い関係』なんてものでも無い。
これはあくまでも『取引』。
先生の野望を叶える事に対する報酬が先程のような性的サービスである。ただ、それだけの事なのだから。
「お前は私の為にAクラスを目指せ。歴代最悪の不良品と呼ばれた今年のDクラスがそれを成し遂げるには文字通り死ぬ気の努力が必要だろう」
Sシステムの裏側が明かされた五月一日。あの日、教室内を包み込んだ絶望を思い出す。
クラスポイントを己等の愚行によって全て吐き出した僕達Dクラスの面々は開校して以来の、最悪な伝説を作り上げてしまったらしい。
トップであるAクラスとのポイント差は900以上。文字通りの絶望的な差はまるで天と地のそれだ。前世の知識を持っているとは言え、死に物狂いで足掻かなければどうにもならないだろう。
「だが、お前が私の望みを叶える道具となり。従順な駒である内はその『対価』として」
気が付けば茶柱先生は僕の直ぐ目の前に立ち、こちらを見下ろしていた。野望を隠そうともしない暗い笑みにはベッタリとした影が張り付いており、瞳の奥だけが狂気的な情念によって黒い炎が灯っている。
一言で言えば狂人の笑みだった。背筋が泡立ち、本能的な恐怖を引き出す様な凶悪な笑み。
にも関わらず先生の美貌は陰る事が一切無い。目の前に立つ『茶柱 佐枝』という女性は、それ程までに美しかった。
「お前に」
一歩。距離が縮まる。
衣服越しとは言え先生の豊満なバストが僕の身体に押し付けられた。
「褒美を」
また一歩。
互いの吐息の熱が感じられる程の至近距離。ほんの少しでも首を動かせば唇が触れ合う程。
「与えてやろう」
艷やかな唇は僕の耳元に滑るように近付くと、掠れるような囁き声で静かに。甘い甘い誘惑を落とすのだった。
「何度でも、何度でも。快楽という名の褒美を……な?」
ダメ押しとばかりに先生は態とらしく僕の真っ赤になった耳元に、吸い付くようなリップ音を立てた。
「気持ちいいコト。したいだろ?」
抗いきれない大人の色気に、つい先程に欲望を発散したばかりだというのにスラックスの中にしまいこんだ己の息子が再び熱を持ち始めてしまう。
もっとシて欲しい。もっと彼女に触れたい。そして願わくば貴女と一つになりたい。
嗚呼、それにしても。一体どうしてこんな事になっているのだろう。僕はクラス間闘争になんか関わり合いになるつもりなど無かったのに。
媚薬めいた桃色の霧に脳内が痺れていく事を自覚しつつ。薄らぼんやりとした夢心地のまま。
僕は現実逃避の様にこの『高度育成高等学校』に入学してからの事を思い返すのだった。
サブヒロインについて
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