七月。
中間テストを退学者無しで乗り越えればクラスポイントが増える。
どこから広まったか分からないそんな噂はすっかり生徒達に浸透していた。
「サエちゃん先生!! 俺たち今月も0ポイントなんですか!?」
だからこそ、Dクラスの朝は荒れていた。
茶柱先生が入室するや否や、立ち上がりながら慟哭するような勢いで声をあげた池に続々と他の生徒達が続く。
「中間テストあんなに頑張ったのに!! 私達学年でも平均点が一位だったんでしょ!?」
「Bクラスの友達から聞いたけど中間テストを乗り切ったらクラスポイントが増える。って担任が言ってた。って聞きましたよ!?」
「これ以上0ポイント生活なんて耐えられません!!」
貧すれば鈍する。やはり高校生にお小遣い0の生活はキツかったらしい。
いや、冷静に考えれば四月に10万貰ってるんだから三ヶ月分ぐらいは普通に保ちそうなものだけど……散財した人多いみたいだからなぁ。
少なくとも松下さん情報では軽井沢さんや篠原さんのグループに所属している人で一万ポイント以上を持っている人は居ないらしい。
軽井沢さんはカツアゲしまくって懐に余裕あるみたいだけど。平田くんは何で彼女を注意しないんだろう?
「お前達が朝っぱらからやけに騒がしいと思ったらポイントの件か」
「俺達はこの一ヶ月、マジで死ぬ気で頑張ったじゃないっすか!? 中間テストもバッチリだったし授業態度だって……私語も居眠りも遅刻も零っすよ!? なのにポイントが零のままなんてあんまりじゃないっすかね!?」
「解った解った。今から説明してやるから勝手に結論を出すな。先ずは座れ、池。せっかく増えたポイントが授業妨害でまた減らされてもいいのか?」
「うっ……はい」
ややおざなりながらも諭すような茶柱先生の言葉に池は勢いを削がれた様で、ようやく席に着いた。
けれども彼の顔色は嘆きの声をあげていた頃よりも落ち着いている。きっと茶柱先生が言った『増えたポイント』というワードが仄かな期待感を産み出したからだろう。
「色々と連絡事項もあったのだが……まあ、お前達も待ちきれないだろうから、早速今月のクラスポイントを発表していく」
茶柱先生は呆れた様にそう言いながら、手に持っていた大きめの模造紙を黒板に広げて貼り付けた。
そこには各クラスのクラスポイントが書かれている。他クラスはともかくとして、肝心の我がDクラスは果たして……。
「え!? 俺達92ポイント!? プラスになったって事だよな!? よっしゃあああああ!!」
「0ポイント生活脱却だぜ!!」
池と山内が歓喜のあまり飛び跳ねるようにして立ち上がるとそのままハイタッチを決めた。
彼らほどに露骨では無いにしてもクラスメイトは大なり小なり喜びの表情を表している。
と言うか、この結果には僕も驚いている。
細かい数字までは流石に覚えてはいないけれど、確か原作では七月時点でのDクラスのクラスポイントは80代後半だった記憶がある。
何かの要因で多少加点された。もしくは減点要因が無くなった。という事だろうか。
「Aクラス……1004ポイント」
隣から聞こえてきた呟きに首を向けてみると、堀北さんが苦虫を噛み潰した様な顔で黒板に貼り付けられた紙を、より正確に言うならばそこに記載されている一番上のAクラスのポイントを睨みつけていた。
クラス内での立場は原作以上に悪くなってしまったとは言え、彼女自身のAクラスを目指すモチベーションは変わっていないらしい。
まあ、だからと言って今の彼女に出来る事は何も無いとは思うのだけれど。
「喜ぶのは結構だが程々に現実も見ろ。他のクラスにもポイントは支給されている。退学者を出さず無事に中間テストを乗り越えた褒美として、各クラスに最低100ポイントを支給したに過ぎない」
先生はそう言ったものの、僕達Dクラスに支給されたポイントは92ポイントで、Aクラスに支給されたポイントは計算してみると64ポイントだと分かる。
BクラスもCクラスも支給されているのは中途半端なポイントなので、どう考えても100ポイントきっちり支給されたとは思えない。
中間テストの結果発表が六月の頭。
つまり六月の月初に100ポイントが加算されて、六月中の授業態度やその他の問題行動分が引かれた結果。
残ったポイントが今月に加算されたという事だろうか?
それにしては優等生揃いの筈であるAクラスに加算されたポイントが少な過ぎる気もするけど……。
ううん、謎だなぁ。
「あれ? ちょっと待てよ? 俺達のクラスポイントが92になったって事は今月の小遣いは9200円。って事っすよね? なら、何でまだポイント入って来てないんだ? ポイントの支給は毎月一日だよな?」
一通り、はしゃぎ回ってようやく落ち着いたのだろう。池がキョトンとした顔で茶柱先生に質問した。
「ああ、その件なんだがな。実はちょっとしたトラブルがあって、一年生全体でポイントの支給が遅れている。金欠のお前達には悪いとは思うがもう少し我慢してくれ」
「えぇ……ここまで糠喜びさせといてマジっすかぁ?」
「学校側の不手際なんだから何か、こう。オマケとか無いですか? 詫び石的な」
茶柱先生からのまさかの告知に不満たらたらの池と山内だが、今回ばかりはクラス一同同じ気持ちだったのだろう。
女子グループも唇を尖らせたり頬を膨らませたりと不満の色を顕にしている。
「そう言われても学校側の判断だからな、一担任でしか無い私にはどうにも出来ん。トラブルが解決され次第ポイントは問題なく支給される筈だ……ああ、もっとも?」
スラスラと饒舌に語っていた茶柱先生は唐突に意味深な溜めを作り、教室内を舐めるようにしてゆっくりと眺めた。
やがてニヤリとオノマトペが鳴りそうな偽悪的な笑みと共に、こんな台詞を残していく。
「支給されるポイントが、残っていれば。の、話だがな」
天国から地獄。
そんな言葉が今のDクラスにはピッタリだと思う。
「須藤の話。マジ最悪じゃね?」
三馬鹿の相性で親しまれており、Dクラス内では須藤の親友だと思われている池の言葉が皮切りだった。
「他クラスと喧嘩騒ぎとか絶対にポイント引かれるやつじゃん……須藤のせいでまた今月も0ポイント生活かよ。マジで有り得ねえ」
「あんな奴、中間テストで退学になっとけば良かったんだよ」
「本当に余計な事しかしないよね、須藤くんって。マジで邪魔」
「っていうか何でヤンキーの分際でこの学校に入れたんだろうね?」
「買いたい物、ようやく買えると思ったのになあ」
トラブルが有り支給は遅れているものの、クラスポイントが加算された事を知らされたのは、つい昨日の話。
流石の不良品クラスと言えども五月の手痛いしっぺ返しに反省したのか、授業態度こそ乱れはしなかったものの全体的に浮かれた雰囲気が漂っていた。
女子グループは雑誌を片手に集まっては、ポイントが入ったらアレが欲しい。コレを買おう。と黄色い声をあげながらショッピングの計画を立てていた。
男子生徒も池や山内が中心となって、やれカラオケに行こう。ボーリングに行こう。いや、先ずは0ポイント生活脱却を祝ってちょっとお高い外食で祝勝会を挙げよう。とワイワイ騒いでいた。
だと言うのに、日が明けた本日。
朝のホームルームでまさかの告知。
「ポイントの支給が止まっているトラブルについてお前達に通告がある。トラブルの内容についてだ。簡単に言うとそこに居る須藤がCクラスの人間に暴力を振るったと訴えられた」
「クラス間でのトラブルや争い事は生徒会が主催する裁判によって結論が争われる。Cクラス側が勝訴した場合、少なくない額のクラスポイントが減額。もしくはCクラス側へ譲渡される事になるので、そのつもりで」
原作通り、須藤による暴行事件が発生したのだった。
「須藤の件を何とかしろ」
「えぇ……? 指示が乱暴そのものにも程がありません?」
寮の自室。Dクラスの教室。補習の度に死にかけている室内プール。
この次ぐらいにお馴染みとなりつつある生徒指導室の中で、僕は茶柱先生にこんな命令をされていた。
「何度も言っているだろう。お前はAクラスになる為に黙って私の指示に従っていればいい」
「いや、流石に今回の件は厳しいのでは?」
原作知識によって解決策……と言うか問題を無かった事にする方法を知っている関係で比較的に余裕のある僕と違い、先生の声色は硬くて表情も厳しい。
それもその筈。きっと茶柱先生だって定期テストや将来的に行われるであろう特別試験で躓く生徒が現れる可能性は考慮していただろう。
けれどもSシステムの種明かしをされたにも関わらずに、白昼堂々他クラスと喧嘩を起こす。それも一方的に殴りつけた上に自身の暴行をあっさりと認めてしまった。という致命的なやらかしを行うトンチンカンなお猿さんが現れるとは茶柱先生も想像が出来なかったのだと思う。
「だって、須藤くんは自分が殴った事を認めちゃったんですよね? その時点で傷害やら暴行やらは確定しちゃってるわけですから。それを何とかしろと言われても……精々が示談に持ち込んで、罪を少しでも軽くするぐらいしか出来ないのでは?」
「はぁ……確かに現状は厳しい。何も完全無罪を勝ち取れとは私も言わない。せめてクラスポイントの減額を30。いや、50以内に収めろ」
頭を押さえて溜息を漏らす茶柱先生の美貌は衰える事は無いけれど、それでもいつもの凛とした覇気のようなものが萎れてしまっている。
今回の一件は状況だけで言ってしまえばほぼ詰んでいるのが先生にも理解出来ているのだろう。
「ちなみになんですけど、Cクラスの訴えと要求が100パーセント通った場合ってどの位Dクラスのクラスポイントは引かれちゃうんですか?」
「……あくまでも前例を叩き台にした職員会議での仮決定の段階だから外部には漏らすなよ? 須藤は一ヶ月の停学処分の上にDクラスは30クラスポイントの減額。更に被害者の数×20クラスポイントをCクラスに譲渡となる」
「今回の被害者って三人いるんですよね?」
「ああ。結論から言えばDクラスは90ポイント分のクラスポイントを失う事になる。中間テストを乗り越え、ようやくクラス間闘争のスタートラインに立とうとしているこの時期にこの失点は有り得ない。単純なポイントの問題だけでなく、間違いなく士気が崩壊する」
「最悪、2ポイントしか残らないって事ですか。子供の御駄賃より少ないのは悲惨だなぁ」
茶柱先生がついには頭を抱えて込んで俯いてしまったけど、それも無理はない。
多分、このタイミングでほぼ0ポイントにまでクラスポイントが落ち込んだらDクラスの雰囲気は崩壊する。
具体的に考えれば、まずクラス全員が須藤を責める。そして須藤がキレる。クラス内で内乱。また停学処分、もしくは退学処分となりクラスポイントがまた減額される。
そんな負の無限ループが起こるであろう事が僕の足りない頭でも簡単に思い浮かぶのだ。
茶柱先生の苦悩は相当なものだろう。
「真白。もう一度言うが今回の須藤の問題、クラスポイントへのダメージを50以内に収めろ。そうしたらお前への『褒美』の内容も考えてやる」
「はぁ。まあ、出来るだけ頑張ってみますけど。ちなみにクラスポイントの被害を50以内に収めた場合って、その……ご褒美の内容としては」
「……口で処理してやる」
渋々と言った茶柱先生の言葉に僕は内心でガッツポーズを決めた。
クラスポイントへの被害を50以内に収めればフェラチオをしてくれるのだ。
ならば原作の内容に沿って事件そのものを無かった事にすれば。
つまりクラスポイントへの被害を無かった事にしたら、一体どんな『ご褒美』を頂けるのだろうか。
がんばるぞい! とポーズを決める僕を胡乱げな瞳で見つめる茶柱先生に気付かないフリをして、早速行動を開始する事にした。
氏名 真白 祷
クラス 1年Dクラス
学籍番号 S01T021533
部活動 無所属
誕生日 1月11日
学力:B−
知性:C−
判断力:D−
身体能力:E−
協調性:D−
面接官のコメント
学力は平均以上だがその他の能力が平均して劣っていると評価せざるを得ない。面接では緊張の為か何度も言葉をつっかえたり要点を抑えながらの回答が出来なかったりと他者とのコミュニケーション能力にやや不足の傾向が有り。小中学校時代から体育の成績は常に最低ランク。また、身体が弱く頻繁に学校を休んでは通院していた形跡も見られる。
Dクラスに配属し、必要最低限の社会性と運動能力を身に着ける事を期待する。
担任メモ
面接での知性と判断力の評価に疑問が残ります。歴代でも最速で学校のシステムを見抜いた慧眼はそれぞれA+に匹敵するでしょう。あと身体能力についてはE−でも足りません。F−相当です。
サブヒロインについて
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