ほぼ原作通りだし。
原作における一年生編2巻のメインイベントとも言える須藤による暴力事件。
記憶の整理もかねて、簡単に流れをおさらいしておこうと思う。
六月の末、須藤は部活帰りにCクラスのバスケ部仲間の『小宮 叶吾』と『近藤 玲音』に呼び出しを受ける。
元々、部活内でも仲が良いわけでもなく度々二人から嫌がらせを受けていた須藤はすっぱりと決着をつける為に承諾。
待ち合わせで指定された場所は何故か普段はあまり使われない特別棟の一室。
監視カメラが無い事で有名な場所に呼び出された時点で普通は罠を疑うとは思うんだけど、少なくともイラついていた須藤は気にもとめなかったらしい。
呼び出された教室に向かうとそこに居たのは当事者の二人だけでは無く、見るからにガタイが良くて喧嘩慣れしてそうな男子生徒『石崎 大地』までが待ち受けていた。
須藤は言うまでも無く素行の悪い不良。石崎も見た目を裏切らない荒くれ者。バスケ部の二人も気が短い。
もはや語るまでも無い事かも知れないけれど、当然のように殴り合い……否。須藤による一方的な蹂躙が始まる。
結果、須藤は無傷。三人はボコボコに。
雑魚が群れたところで強者たる自分には敵わない。あまりの弱さに鼻で笑ってその場を颯爽と去る須藤は気づきもしなかった。
そもそも。この状況、全てがCクラスの王である『龍園 翔』が描いた謀である事に……。
「本当最悪だよ……。せっかく増やしたポイントも須藤くんのせいで吹き飛びそうだし、軽井沢さんとか平田くんが提案したから目撃者探しも断れなくて時間潰されるし。おまけに生徒会が主導する裁判? みたいなのにも巻き込まれそうだし」
「ええと。お疲れ様です」
もはや定番となりつつある喫茶店での放課後の会合にて、盛大に愚痴りまくっては中々にいいお値段がするガトーショコラをヤケ食いしているのは僕の唯一の協力者たる松下さんだった。
「もう、本当に疲れたよ。っていうか暫くは当ても無い目撃者探しに半強制的に巻き込まれて疲労困憊の日々が待ち受けていると思うと本当に憂鬱……はぁ」
「まあ、その。今日も僕が奢りますから、取りあえず思う存分に甘い物でも食べて元気出して下さい」
「奢りについては遠慮なく。でもあんまり甘い物食べ過ぎるのは女子的に怖いモノがあるから遠慮しておくよ」
松下さんの整った顔には不満と疲労の色がくっきりと浮かんでいるせいで、芸能人顔負けの美貌に陰りが差していた。
乙女にとっての特効薬である(僕の偏見)高級スイーツですら癒やし尽くせない程のストレスを抱えているとは。
俗に言う一軍女子は色々と大変なんだろうなぁ。人付き合いが苦手な僕は思わず同情した。
「っていうか真白くんも手伝ってよ、放課後の目撃者探し。どうせ須藤くんが適当なことを言っているだけだから見つかるわけ無いだろうけど、形だけでも協力してくれる姿勢を見せてくれたっていいじゃない」
「えぇ? でも、ほら。僕はまともな友人なんて居ませんし、他クラスの人達なんて殆ど喋った事すら無いんですよ? そんな僕が聞き込みに参加したところで役に立つとは思えないんですけど」
松下さんの言い分も分かるけれど、僕の言っている事だって本当だ。
そもそも僕がクラスでまともに話をした事があるのは目の前にいる松下さんを除けば、平田くんと櫛田さんのみ。
そんな交友関係が激狭である僕が他クラスに聞き込み? 考えるまでも無く、やるだけ無駄に決まっている。
……まあ、松下さんにガンガン行動を起こさせて僕の隠れ蓑になって貰いたいから動かない。という本音も無きにしもあらずだけれど。
「そういう逃げ方ズルいと思うなー。そもそも私がいつの間にかクラスの中心人物の仲間入りしちゃったのだって、真白くんが自分の功績を私に押し付けたからじゃない」
「いや、まあ。はい。それについては、ごめんなさい」
ジト目でぶつぶつ文句を垂れ流す松下さんに対して僕はコメツキバッタの様にひたすら謝りながらも。須藤による暴力事件の今後の展開について考えていた。
原作では暴行事件が起きた後、須藤を責めるような声があちこちで上がっていたけど平田くんや櫛田さん。ついでに軽井沢がフォローに走った結果、須藤が「居た気がする」という事件の目撃者を探す為に各クラスで聞き込みを開始する。
結論から言ってしまえば目撃者の正体は同じクラスの『佐倉 愛理』さん。内気で友人も少なく、野暮ったい眼鏡と自信無さげな猫背のせいで目立たない陰気な女子生徒だ。
……いや、まあお前も人のこと言えないだろうというツッコミは置いといて欲しい。
で、話を戻して。堀北さんのズバ抜けた洞察力のお陰で彼女が目撃者だと確信出来たはいいものの、コミュ力の高い櫛田が協力を依頼しても佐倉さんはコミュニケーションを徹底的に拒否。あえなく撃沈してしまう。
が、そこからは紆余曲折有りながらも我らが主人公である綾小路の活躍のおかげで佐倉さんと仲良くなっていく。
佐倉さんの買い物に付き合った際に、やけに気色の悪い電気屋さんの店員から彼女を庇ったり。
地味で目立たない佐倉さんの正体が超人気グラビアアイドルである『雫』である事に気付いたり。
雫のブログ内に幾つもある変態染みた異様なコメントがきっかけで電気屋さんの店員が彼女のストーカーであると確信したり。
と、まあ。色んなステップを踏んだ結果、佐倉さんは綾小路への恩を返す為に生徒会の裁判で目撃者として出廷する事になったのだ。
……正直、ちょっと時系列はあやふやだけれど多分そんな流れだった気がする。
「……あー、うん。ごめん。愚痴ったら落ち着いて来た。真白くんのお陰で私は散々イイ思いしてるんだから君に八つ当たりするのはお門違いだったよね。本当にごめんね?」
僕が原作知識をおさらいしつつも、ひたすら松下さんの愚痴を聞き流してはタイミング良く相槌をうつマシーンになっていると、ガス抜きの効果が出てきたのだろう。
幾らかマシな顔つきになった松下さんが僕に頭を下げて丁寧な謝罪をしてきた。
「いえいえ、お気になさらず。僕も松下さんに色々と押し付けちゃっている自覚もありますから」
育ちが良いお陰なのだろうか。細々とした所作が美しいところや、自分が悪いと思った時には素直に頭を下げられるところは美点だと思う。
「ん。そう言ってくれるなら納得しておく……で、話は戻るけど目撃者だよ。ぶっちゃけ真白くんは本当にいると思う?」
「うーん。どうですかね?」
幾分か気を取り直した様子の松下さんがそんな事を僕に訪ねて来た。
もちろん僕は目撃者がいる事を知ってはいる。
ここで佐倉さんの名前をあげて原作通りに今回のイベントに巻き込むことも可能ではあるのだけど……。
「まあ、僕としてはそんな都合の良い人間がいるとは思えないですね」
「だよねー。やっぱり望み薄、か」
僕はあえて佐倉さんの名前を出さない事にした。
理由としては簡単で彼女にはこの事件に関わらないでいて貰いたいから……じゃなくて、佐倉さんとコミュニケーションを計る難易度と労力が見合っていないからだ。
「それに、仮に目撃者が居たとしても平田くんや松下さん達が既に結構な人数に聞き込みをしているんですよね? にも関わらず、誰も名乗り出ないという事は面倒事に巻き込まれたくないから知らんぷりしているのかも知れませんよ?」
「ああ、そっか。確かに私が目撃者の立場だったら名乗り出ないかも。須藤くんに味方したら柄が悪いらしいCクラスの三人に恨まれるかもだし、その逆は言うまでもないし」
「もしも僕が目撃者だったとしたら絶対に名乗り出ませんよ。間近で殴り合いの現場なんか見たら恐くて震えてしまうかも……」
「まあ、真白くんは見るからに喧嘩とか苦手そうだもんね」
そもそも佐倉さんは禄に会話もした事の無い櫛田さんに対して本能的に警戒を抱く直感を持つ上に、人と目をまともに合わせるのが難しいレベルの人見知りの筈だ。
そんな理不尽なまでに他人との心の壁が分厚く聳え立つ佐倉さんが、何故か原作で綾小路のみに心を開いた理由が『目が恐くなかったから』という何とも、あやふやなモノ。
その『恐さ』というのが豊満な身体つきをしている彼女の悩みである異性からの下心の目線を指しているのか。
それとも櫛田さんのような非常に陰険で攻撃的かつ危険な二面性を指しているものなのかすら、ハッキリと分からない現状。
仮に僕が綾小路と同じ行動をトレースして佐倉さんとどうにか接点を持とうとしても上手くいくとは思えない。
「こんなナリですからね。産まれてこの方、荒事とは無縁の生活を送って来ましたよ。話を戻しますけど、須藤くんは無傷だったらしいですけど被害者の人達は結構な大怪我なんですよね? 」
「確か櫛田さん情報だと骨折とかまではいかないみたいだけど傷だらけで顔に大きな青痣とか出来てるらしいよ? 改めて考えると関わり合いになりたくないよね……あーあ、目撃者探しなんか幾らやっても完璧に時間の無駄になりそう」
まあ、色々と言い訳を並べてみたけれど簡単に言ってしまえば僕の能力不足って話になってしまうのだけれど。
単純に僕がコミュ障気味だし僕以上に他人とコミュニケーションを計るのが苦手同類であろう佐倉さんとじゃ、まともに会話が繋がる気がしないし。
机の上に項垂れてしまった松下さんを眺めながらそんな事を考える。
「肝心の目撃者探しはもう全クラス周ったんですか?」
「うん。平田くん率いる男子勢がAクラス、櫛田さんが中心の女子勢はBクラスにね。Cクラスは敵視されてるみたいだから碌な聞き込みは出来なかったけど」
それに、佐倉さんと交流を深めると、彼女のストーカー問題に巻き込まれる可能性が大きくなるんだよなぁ……。
前世でよく読んだ二次創作のパターンなんかでは、佐倉さんがストーカーに襲われそうになる現場にオリ主が乱入して身体を張ってストーカーを退治するのがお決まりだけど、現実的に考えて僕みたいな貧弱なチビには土台無理な話だ。
原作では綾小路と一之瀬の三文芝居にビビって逃げてったけど二次創作とかではナイフ振り回すパターンとかもあるし。僕ならサクッと刺されて死んじゃいそう。
かと言って佐倉さんのストーカーを放置するのは倫理道徳的な観点からいってあまりにもアレだから僕に出来る範囲での対処はするつもりだけど。
「まあ、今回の件はどう考えてもCクラスが被害者側でしょうからね。須藤くんも自分が殴った事自体は認めているみたいですし」
「須藤くんはハメられた。って騒いでたけど手を出してる時点で論外だよね。まあ、仮に須藤くんが一切手を出してない。なんて主張したところで彼の日頃の言動を考えると普通に疑わしいけどね。普段から仲良くしてる筈の池くんや山内くんだって疑ってたし」
そもそも、エスカレートしたストーカーが暴発して佐倉さんがいつか性的な暴行を受けたり監禁されたりするかも知れない。そういう18禁二次創作も読んだ事あるし。
最低の考えではあるけど仮に佐倉さんなんかどうなってもいいや。と、見捨てたとしても、追い詰められた佐倉さんが極度の男性恐怖症を患って自主退学でもしてしまえば確実にクラスポイントは100は減ってしまう。
茶柱先生との契約もあって、意地でもAクラスにならなければいけない僕の目標から見ても、彼女の問題を放置するのは得策とは言えない。
「現場は特別棟でしたっけ? 監視カメラがあれば須藤くんの主張が正しいか否か、はっきりするのに残念ですね」
「個人的な考えとしてはわざわざカメラの無いところに呼び出したCクラス側が怪しいとは思うけどさ。かと言って、挑発に乗って暴力を振るった時点で須藤くんが悪い。って話で終わっちゃうでしょ」
「結局はそういう結論になっちゃいますよね」
まあ、長々と脳内で語っておいてなんだけど、実は佐倉さんの問題には一応の解決法を思いついているので特に心配はしていない。
と、言うわけでそろそろ僕も松下さんを動かしてイベントを進めていかなければならない。
未来のストーカー事件よりも直近の暴力事件を解決しなければ。
「……目撃者探し。軽井沢さん辺りを説得して中止にできないかな?」
「うーん、平田くんと櫛田さんが悲しむんじゃないですかね?」
「だよね―……ハァ」
罠にハメられた須藤を救済する為が0.1パーセントぐらい。
せっかく中間テストを乗り越えたご褒美で増えた貴重なクラスポイントを守る為が0.9パーセントぐらい。
「とは言え、意味の無い事で時間を浪費するのも骨折り損のくたびれ儲けになっちゃいますからね。ここは、ちょっと発想を変えて新たな行動を起こしてみませんか?」
「発想? 行動? 真白くんは何か考えがあるの?」
何よりも茶柱先生からエッチなご褒美を貰う為なのが99パーセント以上!!
「松下さん。もし良かったら一度、事件が起こった現場に行ってみませんか? 新たな発見や、もしかしたら解決の糸口になる証拠とかが出てくるかも知れませんので」
僕はそんな台詞で松下さんを誘い込んで、二人一緒に特別棟の一室に向かう事となった。
わざわざ暑いだけで何も無い特別棟に向かう理由?
そんなものは、もちろん言うまでも無い。
「あれ? 帆波ちゃん?」
「千秋ちゃん? それに君は確か……ランニングの時の」
「あ、あの時はお世話になりました」
暴力事件を解決に導く為のキーパーソン。
『一之瀬 帆波』さんと協力体制を築く為なのだから。
高評価、感想ありがとー!もっとプリーズ!
サブヒロインについて
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