簡潔に結論から言うと、DクラスはCクラスに無事に打ち勝った。
松下さんと二人で特別棟にある事件現場の教室に現場検証に行ったところ、原作通りに作中随一の善人であるBクラスのリーダー『一之瀬 帆波』さんと出くわす。
先月中の僕の指示の甲斐もあり、松下さんと一之瀬さんは既に仲の良い友人同士。互いを「帆波ちゃん」「千秋ちゃん」と呼び合う程に打ち解けていたのは嬉しい誤算だった。
原作では堀北さんのハリネズミのような対応にも誠心誠意向き合ってくれた大天使ホナミエルさんは、仲の良い友人の力になってあげたいと協力を即決。
あれよあれよと言う間にBクラス全体を巻き込んで目撃者探しの手伝いやCクラスの粗探しなど、徹底的にDクラスに味方する体制を作り上げてくれた。
以降の流れは大体は原作通りだったらしい。
一回目の裁判では互いの主張が真っ向からぶつかり合い、結論が出ずに再審に持ち越し。
再審直前に櫛田さんの携帯でCクラスの三人を呼び出し、偽の監視カメラと嘘の脅迫で揺さぶりをかける。
特別棟の暑さ。絶対にあってはいけない場所にある監視カメラの存在。Dクラスに全面協力しているBクラスのリーダー、一之瀬帆波の存在感。
これら全ての要因が彼らの精神に莫大な不安とストレスを与えた結果、被害者三人組は訴えを取り下げたのだとか。
ちなみに何で僕がこんなに他人事のようなダイジェスト形式で語っているかと言うと、話は単純。
僕自身は裁判に一切参加していなかったからだ。
「お疲れ様でした、松下さん。これは裁判とその後のもろもろに対する報酬です」
「本当に容赦なくコキ使ってくれたよね真白くん……って、こんなに貰っちゃっていいの?」
「今回は結構な重労働でしたし適正価格だと思いますよ? もしご不満でしたらもう少し色をつけますけど」
お馴染みの喫茶店にて苺のパフェをつまみながら松下さんとの報告会にて。
松下さんから裁判中の流れを確認していたのだけれど、原作との差異が結構あった。
その中には僕がアドバイスと称して松下さん達に入れ知恵して意図的に起こした変化もあれば、僕が全く予想してなかったものまで多数あった。
「いや、十分過ぎるって。10万ポイントも貰えるとは思ってなかったからビックリしただけ。それに裁判は思ったよりは楽勝だったしね」
「多分Cクラス側は自分達が攻められる事なんて一切考えてなかったんでしょうね。話を聞いてる限りでは、ちょっとツッコまれただけで、しどろもどろになっちゃったみたいですし」
「まあね。真白くんがバスケ部の人達に証言して貰おう。だなんて言い出した時は意味があるのか不安だったけど、須藤くんがあそこまでバスケ部の中で信頼されているとは嬉しい誤算だったよ」
僕からのアドバイス……という体を取った松下さんへの指示は大まかに二つ。
その中の一つが証人としてバスケ部の部長と副部長をやっている三年生に裁判にて証言して貰う。というものだった。
「なんかCクラスのバスケ部二人って部活内ではあんまり評判良くなかったみたいだし。部長も副部長も『一年生の中でも一際ストイックな須藤がわざわざお前らみたいな不真面目な人間を呼び出すなんて思えない』って断言していたよ」
「Cクラス側から須藤くんを呼び出したのか。須藤くんがCクラスの人間を呼び出したのか。お互いの主張が真っ向から対立してるから、片方は確実に嘘をついてるって事ですしね」
「Cクラス側の動揺が露骨過ぎて生徒会の人も思いっきり疑ってたからね」
須藤は勉強も出来ないし喧嘩っ早い上に素行も不真面目な絵に描いた様な不良男子。
けれどもそんな彼はバスケットボールに対してはどこまでも真剣な男なのだ。と、言う内容を原作知識で知っていた僕はバスケ部の先輩に須藤を擁護して貰えば裁判の流れを有利に傾けられるのではないか。と考えた。
今回の暴力事件は結果的に須藤が手を出しているので敗訴は免れないけれど、相手側……つまりCクラス側も悪かったのでは? と生徒会側に疑念を持たせる事は可能な筈。
本職の裁判官ならともかく、生徒会と言えども一生徒でしかない。Cクラスの人間に悪印象を持たせれば有利になると思った故の口入れだったけど、役に立ったみたいだ。
まあ、これもCクラス側が結構な嘘を吐いた上に作戦もガバガバだったからこそ成功した作戦でしか無かったけど。
「あとはバスケ部に付いてきた石崎くんの存在が余計だったかもね。ちょっと情報集めただけで名前が上がるほどの有名な不良を連れて来たのに喧嘩する意思が無かった。っていうのはだいぶ無理がある主張だし」
「地元では相当に暴れていたみたいですね、石崎くん」
そして松下さんにお願いしたもう一つの指示。
これは別に大した話では無くて、僕が前世にて原作を読んだ時にCクラス側の主張を聴いて、単純にツッコミどころだな。と思った点を質問して欲しい。と頼んだだけなのだけれど。
「喧嘩する意思が無い上に人数だって三人。Cクラス側の主張が正しいと仮定した上で『なら、どうしてその場から逃げなかったの?』って聞いたらポカーンとした顔してたよ、三人とも」
「僕は単純に相手側が一人で味方側が三人いたなら、一人ぐらい逃げ出したり助けを呼んだりするのが普通では? って思っただけなんですけどね」
「一対一ならともかく、三対一なら三人側は一人ぐらい逃げ出せそうだもんね。言われてみれば私も納得したけど」
割と当然の疑問だと思うのだけれど、Cクラス側はそんなところをツッ込まれるとは思っていなかったらしい。
「そんなダサいことは出来ない!!」だとか「仲間を置いて逃げるなんて有り得ない」とか何とか反論していたみたいだけれど、まあ普通に考えたら苦しい反論なわけで。
「あれで完璧にこっちのペースに引き込めたね。Cクラス側が慌てれば慌てる程、生徒会の人たちの視線がどんどん冷めてったし。その上でダメ押しのBクラスの参戦でしょ?」
「僕もその話を聞いて驚きましたよ。まさかBクラスが僕達Dクラス側に、あそこまでの全面協力してくれるとは」
「神崎くん。だっけ? 見た目はクールだったけどCクラスへの鬱憤がよっぽど溜まってたんだろうね。思いっきり小宮くんと近藤くんを煽ってたからね」
そして、僕が全く予想していなかった原作との差異の一つ。
それがBクラス側の協力体制と裁判での証言について……否、正しくはBクラスの参謀である『神崎 隆二』くんの全面協力と証人としての発言だった。
で、その神崎くんが何故ここまで大きく動いてくれたか。その理由が本当に予想外で想定外。
「それにしても真白くん。神崎くんと幼馴染だって本当?」
幼馴染。果たしてその言葉が正しいかは分からないが、結論から言ってしまうと僕と神崎くん……じゃなくてリュージくんは幼い頃に何度か遊んだ事のある友人同士だったのだ。
「いや、まあ僕も忘れていた話ですけど。幼馴染と言うよりは小さい頃に何度か遊んだ程度ですよ? 小学生になったばかりの頃の話ですし、ぶっちゃけ僕は神崎くんに名前を呼ばれるまで気付かなかったですよ」
「パーティで知り合った。って言ってたけど神崎くんも真白くんももしかしてお金持ちの家系だったり?」
「神崎くんのお家は確かエンジニア系の会社をやっていたんじゃなかったかな? 僕の家はそう大したことも無いですけど」
「ふぅん?」
ちなみに何で僕もリュージくんも入学してからお互いの存在に気づいていなかったか。と言うと、単純な話。
僕は幼い頃の友人の『リュージ』くんと、ライトノベルの登場人物の『神崎 隆二』というキャラクターを完全に別物だと考えていたせい。
リュージくん側は、僕の苗字が幼い頃と変わっていたからだ。『真白』という姓に変わったのは引越しの関係でリュージくんとも遊ばなくなった後の話だったし。
「まあまあ。僕の話なんかどうでもいいですから裁判でのリュージくんの活躍を聞かせて下さいよ」
「……まあ、いいけど。Bクラスは前からCクラスにクラスぐるみで嫌がらせされてたんだって。態とぶつかって因縁つけてきたり、ストーカー行為をされたり。あとはカツアゲみたいな事まで」
これも原作知識通りの出来事だ。過去にCクラスは龍園からの指示でBクラスに迷惑行為を行っていたらしい。
確か理由はクラス間の揉め事のどのラインで学校側や生徒会側が介入するかの見極め。だったかな?
須藤がハメられたのもボーダーラインの見極めの総仕上げみたいなノリだったと思う。
「で、神崎くんはその嫌がらせの幾つかの証拠を持ってたってわけ。ボイスレコーダーで悪口とか因縁つけてきたりしたところを録音したり。嫌がらせしてきた細かい日付けを記録しておいて、周囲の監視カメラに映ってないか確認したりね」
「おぉーリュージくんも中々やるなぁ。昔から行動力はありましたからね」
「小宮くんと近藤くんなんかは特にBクラス側に迷惑をかけてたみたいでね。神崎くんに名指しで指摘されたら顔色が真っ青になってたわよ」
バスケ部の先輩方の証言や石崎くんの存在理由などのツッコミ所のせいもあり、Cクラス側が嘘を吐いている疑いは濃厚になり。
オマケにBクラス代表として証言したリュージくんの活躍もあって、Cクラスはクラス一団となって他クラスに陰湿な攻撃と嫌がらせをした前科がある。とバレてしまった。
Cクラスの担任である坂上先生は「Bクラスの証言は今回の件とは無関係だ」と突っぱねようとしたものの「Cクラス側かDクラス側。証言の矛盾から言ってどちらかが嘘を吐いているのは明白。Cクラス側の主張の信憑性を明確にするという点では無関係とは言えないのでは?」と言う茶柱先生の発言と、それに同意した生徒会側の意見により旗色は完全に此方に傾いたのだとか。
「それでも須藤くんが手を出したのは事実だから此方が不利なのは変わらないけどね。Cクラス側は喧嘩両成敗で互いに停学一週間を主張したけど、私と平田くんは真白くんの言った通りに完全無罪を主張……ギリギリだったけど生徒会の桐山先輩が後日の再審を認めてくれて助かったよ」
「裁判に出席していた生徒会役員は生徒会長じゃなかったんでしたっけ?」
「橘先輩っていう三年生の女子と桐山先輩ッていう二年の男子だったよ。生徒会って忙しいらしいから生徒会長や副会長は揉め事に滅多に顔を出さないんだってさ」
「……そうですか」
そしてもう一つの僕の予想外。それは原作とは違って生徒会長である『堀北 学』が今回の裁判に参加しなかった事だ。
これは改めて考えると理解は出来る話。今回の裁判でDクラス側の弁護人は平田くんと松下さん。つまり会長の妹君である堀北さんが参加していない。と言うか、堀北さんは裁判どころか今回のイベントについて全く関わっていないのだから。
原作で茶柱先生が生徒会長がこの規模の揉め事に顔を出すのは珍しい。という旨の発言をしていたのを思い出す。
つまり原作で生徒会長が裁判に参加したのは自分の妹である堀北さんの活躍と成長を見守る為。その為だけに多忙の合間を縫って参加したと考えるのが自然だろう。
あそこの兄妹って拗らせシスコンと拗らせブラコンの傍迷惑な兄妹だし。
原作では今一影の薄い役員である『桐山 生叶』先輩が再審を認めてくれなかったら危うくこちらの戦略が破綻する。
思わぬ落とし穴と自身のうっかり具合に僕は内心でヒヤヒヤだった。
「再審が認められた後は真白くんの指示通り動いたら楽勝だったよ。翌日に櫛田さんの端末から三人を特別棟に呼び出して、偽の監視カメラを視認させる。焦っているところに一之瀬さんと神崎くんの迫真の演技で追い打ち。あっさり訴えを取り下げたから拍子抜けしちゃった」
「作戦が上手くいったようで何よりです」
後はまあ、原作通りの流れだったらしい。
嘘には嘘で追い詰める。この作戦に善人である一之瀬と平田は当初難色を示したようだけれど、この方法でなければ須藤の無罪は勝ち取れないという松下さんの説得。
そしてそれを援護するかのようにリュージくんもここでCクラスに成功体験を与えてしまったら益々つけ上がるに違いない。という援護もあって作戦は進行。
原作との細かい差異はあったものの、こうしてCクラス側は訴えを取り下げて事件は無かった事に。
結果的に須藤の完全無罪が成立してDクラス側のクラスポイントが減らされる事も無くなった。というわけだ。
「取り合えず、これにて須藤くんの事件は一件落着ですね」
ボクは松下さんに微笑みを見せながらも、内心では小躍りしたくなる程にはご機嫌だった。
茶柱先生からはクラスポイントの失点を50以内に収めたらフェラチオしてくれるとの言質を取っている。
それが今回は失点0で無傷の完全勝利なのだ!!
果たしてどんな『ご褒美』を頂けることやら!!
あまりの期待に頬が色づき口角が上がるのが抑えきれない。
では早速、茶柱先生へ成果の報告にいかなければ!!
喜び勇んで椅子から飛び上がるように席を立とうとした……
「あ、そうそう。これから裁判お疲れ様会って事でBクラスと合同でカラオケで打ち上げやるから真白くんも参加してよね? 神崎くん直々のご指名だから断るのとかは無しだから」
瞬間に盛大にずっこけて膝をテーブルの下に打ちつける事になったのでした。
ちなみにカラオケは結構、楽しかったです。
何故か裁判とは一切関係無い筈の松下さんの女友達にやけにくっつかれてドギマギしたけど。
やけにくっついてきた女友達は松下視点でその内、ね?
サブヒロインについて
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いらない。
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