※この作品はR-18です。

ようこそ茶柱先生の個人授業へ   作:薔薇尻浩作

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ストーリーは一旦ここまで。次でようやくエロ入ります。


第3話

 

 洋楽というのは歌詞の意味が分からなくても何となくお洒落に聴こえてしまうから不思議だ。

 何かのテレビ番組の主題歌で聴いたのか、それとも有線ラジオを環境音代わりに垂れ流しているデパートやスーパー辺りで聴いたのか。

 そんな、何となくリズムだけはどこかで聴いたことがあるような無いような。特に興味がある訳でも無い洋楽をワイヤレスイヤホンで聴きながら考えるのは今朝のDクラスの惨状の事だった。

 

 

 原作通りに学級崩壊を引き起こしたDクラスの面々は、これまた原作通りにクラスポイントを全て吐き出して0ポイントの評価を受けた。

 Sシステムの根幹に始まり、クラス分けの真意……つまり僕達Dクラスは学校側から不良品認定されている衝撃のネタバラシ。

 つい先週に行われた小テストの点数を晒しものにされながら、赤点を取った生徒は即退学という厳し過ぎる現実。

 皮肉混じりに徹底的にクラスの面々をこっ酷く詰り尽くす茶柱先生の冷酷なまでの豹変ぶり。

 

 『井の頭』を始めとした気の弱い生徒はショックで泣き出し、山内含む赤点組は絶望に蹲り、プライドの高い幸村などは劣等生扱いされた事実に憤慨していた。

 唯一例外は唯我独尊を貫く『高円寺』ぐらいで、あとは皆大なり小なり今後の生活に大きな不安と衝撃を覚えているようだった。

 

 それはきっと僕の隣人たる『堀北 鈴音』もそうなのだろう。

 

 

「……!」

 

「……!」

 

 

 イヤホンを跨いで部屋の外から会話らしき女性の声が微かに聞こえてくるけれど、一昔前に流行ったらしい米国の女性ボーカリストのハスキーな歌声がノイズを遮ってくれた。

 

 そもそも僕がどうして大して興味も無い海外アーティストの曲なんかを聴いているかというと、それは音楽を楽しむ為では無くて耳栓代わりにしているからだ。

 今僕が居るのは給湯室。職員室の近くにある生徒指導室の中の一室の、狭い空間でぼんやりと壁に寄りかかって時が過ぎ去るのを待っている。

 

 何でこんな事をして時間を潰しているのかと言うと話は簡単。

 放課後の教室、特に用件も分からぬままに校内放送を経由して茶柱先生に呼び出されたかと思えば有無も言わさずこの部屋に押し込まれたのだ。

 

 

「余計な事は一切するな。私がいいと言うまで物音を立てずに静かにしていろ。言うことを聞かなかったら退学にする」

 

 

 そんな横暴極まりない台詞と共にこの部屋に軟禁された訳なのだけれど、正直な話をすれば校内放送が流れた時点でこの展開は読めていた訳で。

 原作通りの流れで給湯室の扉越しに茶柱先生を訪ねて来た堀北さんとの問答が聞こえて来た時点で僕はイヤホンをして耳を塞いだのだ。

 

 正直な話『堀北 鈴音』というキャラクターはあまり好きじゃない。リーダーとして覚醒する前の初期の彼女は特に苦手だ。

 だからと言って特に関係も無い第三者に勝手に会話を盗聴(半ば強制的とは言えども)されたら普通に気分を害するだろうし、僕としても好きなキャラクターじゃないからという理由で嫌がらせしてやろうだなんて思わない。そもそもあまり関わり合いになりたくないし。

 

 第一、生徒を己の野望を満たず為の駒と考えてる茶柱先生の掌の上で踊らされるのも癪な訳で。

 

 

「おい!! 聴いているのか真白!!」

 

 

 目を瞑ってぼんやりとそんな事を考えていると、唐突に右耳にハメていたイヤホンを取り上げられた。

 思わず目を開けて首を傾げて見れば、そこには苛立ちを浮かべた茶柱先生がガンをつけるかのような勢いで僕の事を見下ろしていた。

 

 

「ええと、あの。何の話でしょうか?」

 

「私が呼んだら大人しく出てこいと言ったたろうが。退学にされたいのか」

 

 

 正確には「私がいいと言うまで余計な事はするな」みたいなニュアンスだったと思うのだけれど。

 とは言え、茶柱先生の怒り顔は普通に怖い。元が異常なまでの美人だからか迫力も凄い。正直、あまり気の強い方では無い僕としてはビビってしまう。

 

 

「ええと……余計な事をせず静かにしていろとの事でしたので。とりあえず言いつけを守る為に大人しくしていたつもりなのですが」

 

「私が悠長に音楽鑑賞を愉しんでいろ。とでも命じたと言いたいのか? うぅん?」

 

 

 僕の口答えが面白くなかったのか。茶柱先生はズイッと勢いつけてその美貌を僕に押し付けるようにして近づける。

 大人に理不尽な怒りを向けられる恐怖はもちろんあった。けれど、それ以上に問題だったのは目の前の女教師の反則的なまでに整った顔面が目の前に迫って来た事だった。

 

 枝毛一つ見当たらない艷やかな茶髪に透き通る白い肌。

 涼やかな柳眉が彩りを添えた榛色に輝く美しいアーモンドアイ。

 どんな彫刻よりも美しく芸術的な鼻筋。

 そして言の葉を紡ぐ為にフルフルと震える唇は薄い紅で彩られているせいか、完熟した薔薇の実の様に艷やかだった。

 

 改めて実感した。こんな美人は前世でも今世でも見たことが無い。

 

 

「いや、ええと……あの、違うんです」

 

 

 しどろもどろ。正にそんな醜態を晒しながらも僕は慌てて、視線を反らす。反らしたのだけれども、その先が悪かった。

 視線だけを素直に横に逸らせば良かっただけだと言うのに、変にパニックになっていたせいだろう。特に考え無しのまま反射的な勢いで僕は頭ごと下に向けてしまった。

 

 するとどうなるか。

 

 

「……おい。まじまじと何を覗き込んでいるんだ、この痴れ者が」

 

 

 茶柱先生の胸元を。もっと正確に言うならばジャケットの下で第三ボタンまて大胆に開け広げられたカッターシャツの奥底で、ムッチリとした肉感的な主張をこれでもかと強調している豊満な谷間の奥底を覗き込む形になってしまったのだ。

 

 

「ちっ、違います!! いや、あの。ごっ、ごめんなさい……」

 

 

 こうなってしまうともう駄目だ。原作知識というある種のチートがある僕が冷静になって考えれば、幾らでも正論で茶柱先生を言い包める事は簡単だろう。

 だけども顔は羞恥で真っ赤に染まり脳内は不意打ちのような色香で沸騰寸前の今となっては、まともな思考など出来るはずもなくて。

 

 

「あのっ……本当に。失礼な態度を取ってしまい。それから、ええと……とにかくごめんなさいっ!!」

 

 

 こうして必死に謝罪を繰り返す事しか出来なかった。

 頭を下げるとそのまま先生の胸元にダイブしてしまうからカクカクと小さく頷きまくるような動きしか出来ないけど、本当にいっぱいいっぱいだった。

 前世も今世も女性に対しての縁など皆無で、耐性が全く無い事がこうも仇になるなんて。

 

 

「はぁ……もういい。とにかく時間も無い。とっとと私に付いて来い」

 

 

 真っ赤な顔で混乱しつつも謝罪を繰り返している僕の事を暫くの間ジトっとした視線で睨みつけていた先生だったけれど、多分色々と面倒になったのだろう。

 呆れ果てたような溜息を零しながら頭を振ると、とっとと背を向けて給湯室のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は本当に面白い生徒だな、真白」

 

 

 生徒指導室は給湯室のすぐ隣とは言え、その広さも当然の事ながら部屋の雰囲気もまるで違う。

 寮の自室と同じ位の広さがあるのにどこか狭苦しいような息苦しいような雰囲気を感じるのは間取りのせいか。それとも指導室という堅苦しいイメージのある名前のせいだろうか。

 僕がそんな現実逃避を脳内で繰り広げていると、茶柱先生は先程までのやり取りを仕切り直すかのように語り出した。

 

 

「僕は先生から面白い。と言われる程に個性があるような人間では無いと思いますけど」

 

「そうか? 少なくとも先程のように赤面して半泣きになりながら謝罪を繰り返す様は中々に面白かったと思うがな」

 

「あの……その件につきましては本当にこれ以上は勘弁して下さい」

 

 

 仕切り直したところで会話の主導権はしっかりと先生に握られてしまっている模様。

 隣の席に座っている堀北さんからの怪訝な眼差しが心に刺さってとっても痛い。彼女からすればAクラスに上がるヒントになる人間がいる。と茶柱先生に紹介されたからこうして指導室に居残っている立場だ。

 とは言え、原作の綾小路とは違って彼女との絡みは皆無。堀北さんから見れば僕はただのどこにでもいるモブ生徒にしか見えないだろう。

 

 

「先生。本当に彼のような生徒がAクラスに上がる為に有用だとでも言いたいつもりでしょうか? もしも冗談のつもりなら私は失礼させて頂きたいのですが」

 

「何だ堀北。真白はお前のお眼鏡にかなわなかったか? 少なくともパッと見ただけでも不良品共の中では割とマシな部類だとは思うがな」

 

「……授業態度こそクラスの中ではまともな方ですが、唯それだけでしょう。特別、有用な人間には思えません」

 

 

 先週行われた難易度が低い小テストでも僕は75点しか取れなかったし、水泳の授業ではカナヅチなせいで男子どころか女子を含めて成績は圧倒的な最下位。

 むしろ堀北さんから見た僕はDクラスに相応しい不良品の代表格と思われているかも知れない。授業は真面目に受けている分、山内や池よりかはマシな評価をされていると思いたいけれども。

 

 

「はははっ。随分と辛辣な評価をするものだな堀北。すると、何だ? お前はこの男よりも自分の方が優秀だと自覚しているのか?」

 

「……何が言いたいのでしょう?」

 

 

 挑発的に嗤う茶柱先生の言葉に、唯でさえ言葉の節々に苛立ちを見せていた堀北さんの顔が分かり易く歪んでいく。

 そんな彼女の様子が滑稽だったのか、茶柱先生は口端を釣り上げるようなニヒルな笑みを浮かべながら語りだした。

 

 

「おお、そう言えば『優秀な生徒』と言えばつい先日こんな話があったな。入学して二日目の放課後に、とある生徒が職員室でこんな質問をしに来たらしい。『この学校内においてポイントで買えないモノは無い。ならば逆にポイントでとあるモノ買い取って貰う事は可能なのか?』とな」

 

「それが……どうだと言いたいのですか? 要点を簡潔に述べて頂きたいのですけれど」

 

「まあ、最後までゆっくりと聴いていけ。短気は損気だぞ? ……学校側は生徒にこう答えた。買い取りは可能だが、当然ながらその価値は持ち込んできたモノによる。お前は何を売りたいのか? そう確認すると、その生徒は職員室中が驚嘆する程の飛んでも無いモノを売り払いに来たんだ」

 

 

 ますます怪訝な顔を深める堀北を誂うようにして、茶柱先生はテーブルに身を乗り出すようにして堀北に顔を近付けた。

 その際にスチール製の天板に押し潰される形で先生から実っている魅惑の果実がムニムニと大きく形を変える。思わず目が惹き込まれそうになるのを堪えるのが大変だった。

 

 

「Sシステムの情報だよ。クラス分けの真意やその理由。毎月変動するであろうポイントとその審査基準にAクラスの卒業特典である理想の進路の確約の裏側まで。入学してたった二日目だぞ? その情報を生徒達に公開しない代わりに情報を買い取って欲しいと持ち掛けて来た訳だ」

 

「なっ!?」

 

 

 僕が煩悩と脳内で格闘している内に茶柱先生の語りは佳境を迎えたらしい。

 勢いよく振り向いた堀北さんは信じられないものを見るかのように瞠目して『何故か』僕を見詰めている。

 

 ……いや、まあ。そりゃあ、この状況じゃ気付かないわけが無いんだろうけど。一応、先生には口止め頼んでおいたんだけどなぁ。ポイントだってわざわざ三万ポイントも支払っておいたのに。

 多分、固有名詞を出さなければセーフとか、そういう高育イズムあふれるグレーゾーンギリギリのラインを攻めているつもりなんだろうけども。

 

 まあ、最初から茶柱先生なら何だかんだ理由をつけて一部の生徒にはバラすだろうなと思っていたから、諦めはつくけれども。

 思わず漏れてしまいそうな溜息を静かに飲み込むと僕は静かに目を瞑って素数を数え始めた。

 

 ……あくま目を瞑っているのは、この茶番劇に呆れているだけであり、茶柱先生の胸元に吸い寄せられてしまいそうだから。だなんて理由では無い。

 そんな理由では無いけど取り合えず僕は頭の中で素数を数える事に集中した。煩悩退散とかに効果有りそうだし。

 

 

「五月一日の種明かし前にSシステムを見抜く生徒は稀にだが存在する。現にAクラスやBクラスの一部生徒は入学して十日程で職員室に色々と質問しに来たからな。まあ、その時は『その質問には現時点では答えられない』と各担任が返答したようだが」

 

 

 その質問に来た生徒。っていうのは誰だろう?

 Aクラスは『坂柳』かな? いや、でも『葛城』だってこの学校と相性が悪いだけで、典型的な優等生だから疑問に思った事を確認しに来ているかも知れない。

 Bクラスは『一之瀬』は当然として『神崎』かな? あとは意外にも捻くれ者だけど学力が高い『姫野』なんかも気付いていたかも。

 

 

「入学してたった二日目でSシステムの全貌を暴いた慧眼。これは正に偉業だな。当校が開校して以来の最短記録だそうだ。上級生を担当している先生方もお褒めになっていたぞ。なあ、堀北? もしもの話だぞ? あくまでも、もしもの話だが。もしも、そんな隠れた実力者がDクラスに潜んでいたとしたら……」

 

 

 ニヤリ。そんなべったりとしたオノマトペが鳴り響きそうな邪悪な笑みを浮かべた先生は、悪魔が誘惑するかのような囁き声で堀北さんに問い掛けた。

 

 

「使い用によってはAクラスに上がる事も不可能ではない。そうは思わないか?」

 

 

 己の野望を剥き出しにした肉食獣のような浅ましくも獰猛な笑みを浮かべながらチラチラと此方に視線を向ける茶柱先生。

 

 疑念や驚愕を通り越し、自らよりも優秀な存在が隠れ潜んでいた事にプライドが傷つけられたのか焼き尽くす様な熱を込めて睨みつける堀北さん。

 

 僕はそんな二人の視線に気付かないフリをしながら、ぼんやりと脳内で素数を数えていた。

 

 

 

サブヒロインについて

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