Dust to dust 作:解毒発酵DNA
ルビコン行くまで〜その後の行間みたいな話です。
補給部隊の『何でも屋』
花という物を見たことがない。
自分の出身は、緑が一年中芽吹いているような星だったという。穏やかな場所であったという。
食料生産の為に入植した星だったが、それが上手くいって、食料庫としてたいそう大事にされた星だったと聞いている。
優しい風が吹いていて、草の匂いがする場所だったという。
木星戦争で、全てが焼けてしまうまでは。
元々ファーロンが支配していたこの一帯の惑星圏をベイラムが焼いたらしい。
らしい、というのは、昔の事なので自分はそれを知らないという意味である。
自分の周囲はそれはそれは恨み骨髄といった風で、いかにも憎々しげに、露悪的に、ベイラム・インダストリーという企業とそこが持つ戦力である傭兵集団『レッドガン』を詰るのだった。
自分がやられたことも無いくせに、いかにも自分がやられたように言って詰っている大人は、子供の自分の目には酷く馬鹿馬鹿しく映った。
だいたいその時に、戦えなかった人間はみな死んだ。残ったのは逃げ回っていた臆病者だけである。自分も含めて。
勝ったのはベイラムだ、負け惜しみをぐちぐち並べ立てたところで全く意味がない。そんなもので腹が膨れるなら幾らでも罵ってやる。
憎しみを植え付けるため見せられる映像は、見覚えがないのにしっかりと目に焼き付いている。
レッドガン総長、G1 ミシガンの鬼神のごとき戦いようはそれはそれは凄まじかった。
がっちりとした四脚のフレームが宙を浮き、蜘蛛のように獲物を捉えて狩りとっていく。
流石にこの男を表立って悪くいう人間はいなかった。ベイラムについた裏切り者だ、なんて、口が裂けても言えないだろう。
しかしその思いは言われなくとも雄弁である。どいつもこいつも分かりやすい程の馬鹿ばかりだった。
自分は金になればなんでもした。
と言っても盗みや殺しや売春ではない。
死体処理、介護手伝い、荷物配達、荷物輸送、ただの事務職、その辺の店の店員。
わりかし普通に過ごせた。だって危険なことに首つっこんで死ぬなんて馬鹿馬鹿しくなるだろう。
あの時はたまたま募集があったので応募したのだ。レッドガンの隊員に使いっ走りにされるだけの薄給バイトが。
自分とさほど変わらないくらいの歳の男が指揮していた。今は分かるが、アレがG6 レッドだった。
アルバイトが本社から来た偉い人とお気軽に話せる訳もない。その時は無駄にでかい声で挨拶だけしておいた。仕事をする時は声はデカければデカいほどいい。
レッドガン隊員たちにやれ荷物運びだ簡単な雑務だなんだとコキ使われたが、だいたい素直に「ハイッ!」「ウス!」「シャス!」くらいでなんとかなった。あとは仕事をどこまで頑張って要領よくやるかである。
仕事終わりにまあまあやるじゃねえか、いえいえそんな、みたいな会話をして、じゃあ帰るかとなった時だった。
「………お。………おい、バイト、こっち来い」
「ハイ」
何かを見つけたらしい1人のレッドガン隊員に手招きされ、通路を見るように指さされた。失礼します、と言って見てみれば、そこにはミシガン総長がいた。
「ラッキーだなァお前〜、こんなところに総長がお見えになるなんざよっぽどだぜ」
「怒られるッスかね俺」
「んや?多分フツーに確認」
「なんの………って聞いたら死ぬッスよね」
そう聞くと、にべもなくレッドガン隊員は言った。
「うん。殺すわ、この場で」
「ウス、聞かなかったことにしてくださいッス」
「お利口さんだな〜」
触らぬ神に祟りなし。
お金だけもらってとっととズラかろう。遠目に『歩く地獄』を拝んでおいて、その日は普通に帰った。
次の日も次の日もコキ使われ、多様なアルバイトで培った経験を発揮した俺はいつしか『何でも屋(Factotum)』から取って、『タム』とあだ名されるようになった。
「あ、今日タム居んじゃん」
「ウス、お疲れす!あ、これ要りますか」
「丁度欲しかったわソレ」
すっかり顔なじみになったレッドガン隊員が手洗い場から出てきたので、取り替えの為に出したペーパータオルを渡す。
「タムさァ、バイトでいいの?」
唐突にそう言われ、頭にハテナを浮かべていると、彼は笑った。
「お前が随分元気に挨拶してくから、G6がちょくちょくお前気にしてんの。歳近いし」
「恐れ多いッスね〜」
気のない返事を返すと近寄ってきた。なんで?
「俺らもお前居たら助かるなァ〜?」
「死にたくないッス」
「別にレッドガンだからって皆が皆AC乗りやMT乗りって訳じゃねえよ」
「でもついてくじゃないッスか!戦闘地域に!」
「それはそう」
ケラケラ笑ってその隊員は離れた。
「ま、考えといて」
それが最期の会話だった。彼はこの補給が終わった後の作戦中、罠に気づいて皆を退避させ───残って死んだらしい。たしかに細かなことに気がつく、優しい人であった。
その訃報を聞かせてくれたのはG6だった。
再度アルバイト募集に応募して、あの人がいないか探していた時の事だった。
作業中、急に話しかけられてすっげえびっくりしたけど、思ったよりは堅物じゃないし怖くもなかった。
「仲が良かっただろう」
「え?あ、まア、色々気ィ回してくれて、嬉しかったス」
隊員の服を繕いながら返事をすれば、奇妙な空白が産まれてしまう。
やっぱ作業しながら聞くのはダメだったか、と針仕事をやめようとすれば、G6はそのままでいい、と言った。
「上手いな」
「男でもやれるようになっとけって、ばあちゃんが教えてくれたッス」
「そうか」
俺、余計なこと喋ったなあ。
そう思っていると、G6がまた口を開く。
「その服はやる」
「………んぇ?」
「残った遺品だ」
「あ、ヤ、え、その、流石に」
「ゴミと一緒に燃やされるくらいなら貰ってやってほしい」
重いよ。
レッドガンのエンブレムが刻まれたフライトジャケットは、たしかに見覚えがある。あの人のものだ。
「同じ補給隊の者のジャケットだ、お前が着てもいいだろう」
「俺レッドガン隊員じゃないッス………」
「………違うのか?」
ここで致命的な間違いが発覚した。
どうやらG6は俺を正規の隊員だと思っていたらしく(番号持ちだろうが恐れない挨拶、皆につけられた愛称などで)、わざわざ遺品を1個確保して渡してくれたという。
いや、たしかに自分は分かりやすいから、と補給隊のジャケットを貸してもらっていたのでそう思われても仕方ない。仕方ないがちょっと面白くて笑ってしまった。
「そんなに笑うな」
「あ、や、すんません、フフ」
「………ふっ」
それを見ていたほかの隊員には、『お前本当に怖いもの知らずだな』と言われた。だって怖くなかったもん。
その日からG6とちょくちょく話すようになってしまった。彼はどうやら独立傭兵たちとの窓口担当らしく、たまーに、本当にたまーにだが、『話を聞かないヤツが多い』とぼやく。
まあそうだよね、独立傭兵なんて自分に自信満々じゃなきゃやらないよね。
それに命令を聞いて、そこに従えるような強者はそもそも独立傭兵なんてしないのだ。企業所属になった方がよっぽど給料もいい。
その日話しかけられた時も針仕事をしていた時だった。
まあ荷物運びと雑用の間に頼まれて繕っているだけである。いつも通りタム、と呼ばれたので、なんでしょ、とだけ返す。
「少し手を止めろ」
「ウス、どうしました───、か」
「このガキが『何でも屋』かァ?ふぅん………」
「………チッ」
ウワ〜、怖〜。
なんつーか、目が怖い。G6が連れてきた2人は、ああもう本当に嫌な予感がする人達であった。
嫌な笑顔と、クソ不機嫌そうな顔が並んでいる。
こ〜れ媚びてもダメです。ぶん殴られるやつ。
初手でG6だけだと思ってナメた返事を返したことを後悔した。
気を緩めすぎたな〜、やっべえ〜、という思いのまま、まあまあデカい声で挨拶した。
「うす、『何でも屋』のタムっす、すんませ、」
「これ」
ぽい、と片方に投げられたのは、硝煙の匂いがする服だった。このまま袋叩きにされるぅ!と怯えていると、笑っているのが分かる声が聞こえてきた。多分目は笑ってない。怖い。
「とっととやれ、さっきみてえにナメた口きいたら殺すぞ」
「ハイ、すんません」
最後通牒がはえーよ。マジで怖すぎる。
ちょっと震える手で針を持ちつつ、投げられた上着を見て固まった。
ヘラクレスオオカブトと赤のエンブレム。
───G4じゃん。
おいなんでこんなとこに居るんだよ、なんで俺んとこに連れてきたのG6、とか思いつつも、補修する部位を探す。
「随分派手にやりましたねこれ」
「直んねえか?」
派手に表の生地が破れている。なんで?
怖〜、とまた軽く恐怖を味わいながらも、直します、と言って取りかかる。
見た目が派手なだけで別に難しい訳じゃない。似た色の布がたまたまあったので、布を当てながら縫えば間近で見られなければ大丈夫なくらいにはなった。
「ほー、やるじゃねえか」
「あざす………ア、そちらの方は………」
「殺すぞ」
G4に殴られずに済んだことにホッとしつつ、隣の不機嫌そうなのに話しかけたらコレだ。エェ〜、既に殺意〜?
話しかけなきゃ良かった。そう思って固まっていると、G4が爆笑している。情緒どうなってんの?怖い………。
「フツーお前、このツラしたイグアスに話しかけるかァ?だっははは!」
「笑ってんじゃねえぞヴォルタ………おいガキ、てめえも気安く話しかけてんじゃねえ」
「さーせんした………」
怖〜………(n回目)。コイツG5かよ。
ちなみにこの2人、この辺りの補給隊内では非常に評判が悪い。理由?見たらわかるでしょ、こういう事だから嫌がられてんの。
ちなみに俺、G6はこの2人にいじめられたりしないのか?と思って様子を盗み見たこともあるが、コイツはマジでヤバいんだと理解しただけだった。
普通に殴り合うし普通にその後一緒に飯食って話してた。怖すぎ〜。
恐怖のあまりアルカイックスマイルの俺に適当になんか飴(見たことない。多分ドラッグとかヤバいの入ってるタイプ)を寄越したG4は、一向に機嫌の良くならないG5を引き連れて帰って行った。
『また頼むぜ』とか言って。やめて欲しい。
震える俺に、G6が言った。
「お前にはちょっと早かったか」
「二度と連れてこないで………」
「お前ならすぐ直せると思った、すまない」
「直せるけど怖い………」
「なるべく俺も居てやるから」
「当たり前じゃい………」
そんな感じだった。初対面って本当に大事だよね。なんなら俺は、今でもあの2人が怖くってしょうがないのだった。
そんな俺だが、結構補給隊の面々には気にいられ、明らかに『コレ、バイトがやっていいやつじゃないな』という仕事も入ってきた。
明らかに後継者に教えるみたいなつもりだよねえ!?と隊長さんを見れば、俺みたいなアルカイックスマイルが返ってきた。そういうことじゃん。
まあそこまでには色々あったのだけど───この部隊の隊長さんや補給隊員たちにめちゃくちゃ勧められ、俺はベイラム本社のAC戦闘部隊『レッドガン』の採用試験に臨むのでした。
こうやって纏めると、なんか戦闘狂みたいだな俺。
ちなみに面接官の怖いおじさんに志望動機は?と聞かれた時に言ったのは『バイトした時、補給隊の人と働いて楽しかった』とか言っておいた。どうか落としてくれ頼む。
ちなみに補給隊とはいえある程度のMT、AC操作技術が求められる。自分は運良く強化人間ではないけど、強化人間のほかの志望者はめちゃくちゃ強かった。
俺?俺は並。MTはまあ、下手くそって感じだし、ACは『初めてにしてはマニュアル操作上手いね〜』のお世辞付きだから。見てたG6は『お前に戦闘は無理か』だった。
訓練と修練の鬼みたいなヤツにそれを言われちゃあ、もうお察しだよね。
試験が終わったあと、ぬぼーっとしながら作業して、バイト終わって帰る。
その間G6に会うことも無かったし、特に変化が無かった。
しかし、次の変化は割とすぐだった。
「おっタム、採用おめでとう」
「唐突なネタバレ………」
サラッと補給隊のメンツに口々にそう言われ、俺は採用されたのだと知ったのだった。
なんで?ナメた返事しといたのに。
そう思っていると、笑いながら隊長が言った。
「あの面接、お前誰に『楽しかった』なんて言ったと思ってんだ」
「………ええ?」
誰だろう。
面接官は男の老人2人だった。
名乗られはしなかった。
普通に質問されただけ。
片方はめっちゃ怖くて、片方は真面目そうだけど怖い方よりは怖くなかった。
「アレ、ミシガン総長とナイル副長だぞ」
………。
怖〜(n回目)。
根性叩き直される、と震えていれば、隊長は大爆笑だった。
「あの後なあ!総長がわざわざ俺たちのところに来てお前の話聞いてったよ!フフ………別に怒ってなかったぜ?なんなら『いい度胸だ』って言ってたし」
「怒ってません?」
「怒ってねえよ?『鍛えがいのある役立たずが来たようだ』って言ってたし」
「怒ってるってば………」
「怒ってねえって」
この後入社前までにめちゃくちゃ仕事した。おかげで他の新人に比べて成り上がるスピードもめちゃくちゃ早かった俺なのであった。
ベイラムの正社員になった俺を、周りは祝福した。形式上は。
裏じゃめちゃくちゃ言われていた。
それを知ったのが入社して2,3年後だったのが唯一の幸運だったろう。
何だったかな。
されたことを忘れたのか、とか、ひとつも俺たちの思いを考えちゃいない、とか。そういうのだ。
うるせー。
お前たちが直接された訳でもない。
お前たちの思いなんて知ったこっちゃない。
そもそも『可哀想なんで憐れんでください』とか被害者ぶる有様が、本当に気持ち悪い。
それが俺の得に1回でもなったかよ。
ああ、本当に、気持ち悪い。
ただ、その時からちょっと身体の調子が悪くなった。
仕事中も身体が重くて、休憩中座っててもいつの間にか寝落ちしてて、なんなら事務はマジでダメ。いつでもトイレに行けばケツから血がダバダバ。初めて出た時、ビビりすぎて声出た。
そんな様子に、周りもさすがに心配したのか俺は医務室に突っ込まれた。
内視鏡に細菌検査にと大わらわで調べられた結果はストレス性の腸炎だった。結構症状は重め。
寝てろ、と宿舎にぶち込まれてゴロゴロしていると、誰かが来た気配がする。
「起きているか」
「レッドだ………」
G6とは随分仲良くなった。コールサインを適当に呼び捨てても怒らないくらいには。
レッドガン隊員の宿舎にしょっちゅう来るし(たまーにG4が居るのは怖すぎだからやめて欲しい)、一緒に飯食うし。
「顔色悪いぞ」
「貧血………」
「だろうな。初回の下血が見られた時に言え、全く」
「………だって………使えないって思われたくなくってさ………」
帰る場所もないし。
布団の中でそうぼやけば、G6は静かに、そうか、とだけ返した。
「タム」
「なに………」
「周りの言うことなど気にするな」
うん、とだけ返した。
そのまま寝てしまって、起きた時には枕元に飲み物が置いてあった。美味しかった。
ということがあっても、仕事は仕事。
割合的には事務仕事多めで俺復活!食い物はまだ病人食だけど!
周りもめっちゃ心配してくれたけど、わりかし元気な俺に安心したらしい。申し訳ねえ〜、と思いながらもめちゃくちゃ仕事した。
症状も落ち着いた。薬も飲まなくて良くなって、ご飯もまあまあ食っていい!これほど嬉しいことはなかった。
元気になったのでG6に飲み物のお礼を言いに行くと、横にいたすっげえ美人のお姉さんにくっそ睨まれた。怖かった。
後に聞いたが、あれがG7 ハークラーらしい。
基本的にコールサイン持ちってのはG6 レッド以外は危険物だと思っている(失礼ながら)ので、あんまりお関わり合いにならないようにしようと決意した。
日常は緩やかに進んでいく。
3年、4年、と時が経って、ある時のことだ。
────この世界には、『コーラル』という物質がある。
燃料にも食い物にもなる夢のようなその物質は、手に入れれば巨万の富が築けるだろう。
強化人間手術にもそれが必要で、より強い兵士を作るなら重要である。
生の活性コーラルを使った強化人間たちが第一〜第四世代型、代替技術を使った強化人間たちが第六世代以降だ。
………なーんて、説明されなくてもこの世界では割と常識であるが。
ウチにいる強化人間たちの中で、唯一、G5 イグアスだけが第四世代型だという。
『旧型』『ゴミ』と馬鹿にされているのを聞く度に───言ってるお前らはその旧型より弱いくせに、という呆れしか心に残らなかった。
人格はまあ、マジで、ゴミだけど。本当にフォローのしようがない。ガチであの人のいいところってもんはない。
すぐキレるし、補給待ってくれないし、気に入らないとぶん殴ってくるし。俺も度々蹴られては本気の殴り合いになって負けている。
褒めるならG4が横にいたら多少マシ、くらい。これG4褒めてるだけだな。
しかしそういう人であっても、強けりゃいいのだ。特にこんな場所では。
だからその時は────本当に衝動的に口に出た。あんまりにも、仕事を中断してまでそんな事言ってるのにイラついて。
あの人だって仕事くらいはしている。
お前らも仕事しろや。
「そういうお前らが、いっちばん気持ち悪ィよ」
その後リンチみたいになった。
でもガチで腹が立ったので、噛み付こうが相手が何言おうがぶん殴った。押さえつけられようが噛み付いて、目の前の気に入らないヤツをぶっ飛ばさなきゃ気が済まない。
なんであんなにキレたの?と言われると、分からない、としか言えない。
だって本当にムカついたから。
そんな感じだったので、本当に、俺が止まったのは相手が血まみれになったくらいだった。俺の方がボコボコだったけどね。
暴れる俺を気絶させて回収していったのは、G5だったそうだ。
「………」
「………」
起きた時にもG5が近くにいた。
無言で見られていた。ちょっと怖い。
目にはなんの感情もない。苛立ちもない。憎しみもない。
ただ『何も無い』のが、そこにある。
第四世代型の強化人間には、『感情の起伏が乏しくなる』という症状が少なからず出る。
そこで、なんとなくわかった。
ああ、この人。
喜怒哀楽で人間の心を表現するなら、『怒』だけがマトモに残っただけで、あとは全部どこかにいってしまったのか。
だから感情の出力が『怒』だけになる。
だから蹴るし、黙ってたと思ったらすぐキレるし、今キレる理由がなければ恐ろしいほど平坦になる。
このままなんの感情も湧いていない目で見られるのはかなり嫌だったので、思っていたことを口にした。
「別にアンタ、普通に最低最悪っす」
「………ああ?」
怒りの色が出た。
ああ、いつもの調子になった。ちょっと安心しつつ続ける。
「すぐキレるし、すぐ蹴るし、待ってくんねーし」
「………」
「でも一応仕事はするし、なんも言わないけど考え無しじゃないし」
「おい………」
「フツーにアイツらが気に入らなかったッス」
「………ふん、それには同感だぜ」
G5の口に皮肉るような笑みが浮かんだ。
俺もちょっとだけ笑った。
「仕事しないし」
「てめえほどやってる奴もいねえだろ」
「アイツら覚えねえからダメっす………」
「殴ればいい」
「G5ったら物騒〜」
ふふふ、と笑うと傷が痛んだ。ほんとに痛い。
呻いていると、また何も無い目で見られる。それが怖くてドキドキしていると、やっぱり皮肉げで小馬鹿にした顔で言われた。
「じゃあな、治ったらまたコキ使ってやるよ」
「うす、また」
それ以来、あの人が俺を蹴っ飛ばすことが無くなった。キレるけど。
G4には『やるなあ〜?』なんて言われた。めっちゃニヤニヤしてたけどなんすかマジで。
G6にはお叱りの後に、『それにしても仲良くなったな』と言われた。
あれでかよ。仲良しの最低ラインが低すぎるっつの。威嚇しまくりの野良猫か何か?
まあでも仲良くなった、らしい。
急に来たG5に引き摺られていくと、たまーに戦闘部隊の人に混じって賭けに参加させられることもある。強制じゃねーか!
そう、そこで分かったのだが、俺は賭け、というか天運が異様に強いらしい。
初回勝てばビギナーズラックだ!次はねえ!と周りにも言われて何回もやったが、結果は絶対俺が大勝する。
そしたら呼ばれなくなった。悲しい。
しかし見せてはくれるので、賭けはしないがその動向を楽んでいた。
その日常が続いていたある日、『レイヴン』という傭兵が企業にある情報を流した。
『ルビコン3に大量のコーラルが眠っている』
ルビコン3は、先の『アイビスの火』という災害で全てが焼けた星だ。
生き残りも居るらしいけど、ほとんどが死んだ氷と灰の星らしい。そうとなったら企業は黙っていられない。『レッドガン』の投入を決定した上層部は、早速俺たち補給隊に無茶振りをかましてくれたのだった。
やってらんねー!
「あァ〜………むり………」
「萎れてんなあ〜タム〜」
「あでででで………やめてくださぁい………」
G4に頭をぐりぐりされていると、G5に言われる。
「その辺に浮いてるパンツみてえ」
「例えが最悪すぎるッス………」
宇宙空間だからね。パンツくらい浮くさ。キッショ、誰だよ片付けろや。
まあそんなことはどうだっていい。
ルビコン進駐のために総出で準備したあと、宇宙船の中で無気力に漂っていた俺をG4とG5が捕まえた。
この頃になれば俺の立場も『補給隊総括』とかいう仰々しいものになっている。え、バイトだった時の補給隊の隊長はって?
あの人は、
『いやあ〜自分よりタムの方が若いですし向いてますよ〜!』
とか言って俺を売ったぞ。
こうやってコールサイン持ちに絡まれるのが嫌だったの丸わかりだからなアンタ。
そんなこんなでお偉いさんになっちまったので、ああもう本当に輸送路の手配やら業者の手配やらで胃が痛かった。腸炎も再発して本当にキツかったぞ。
げっそりしていた俺を引き連れて、どこに向かうのか。ぼやーっとしていると、医務室だった。なんで?
あれよあれよという間に俺は強制入院したのだった。あの2人が来たのは、俺がまた暴れたら困るかららしい。暴れないよ。
着くまでの入院ライフは快適だったけど、ルビコンに突入してからはそうも言ってられなかった。
無茶振りに無茶振りを重ねた出撃。G7 ハークラーの殉職。続けてG4 ヴォルタ、G2 ナイルも殉職。
雰囲気は最低だったし、最悪だった。
1番キツかったのは、荒れて壊れるG5だ。
見ててなんか、しんどいな、という感情が残る。だからといって気ぃ使ってあげられないし、そういうのも求めて無さそうだったけど。
幻聴、耳鳴り、頭痛。
時折吐きそうな顔色でぐったりしているのも見る。それでもG5の悪態は悪化するばかりだし、俺も最近また蹴られる。
それでも医療班が嫌がって渡さない飲み物なり頭痛薬なりを、俺はあの人に持っていくのだった。
「………おい」
「なんでっしゃろ」
ある日、暗いままの声で呼ばれた。名前はいつも呼ばれない。何か用かと思ってG5を見ていれば、あの時のような凪いだ目の色をしていた。
怒っているかと思っていたのに、そんな表情だったので拍子抜けてしまったのを覚えている。
「もう要らねえ」
「………うす。また欲しくなったら医療班に」
「ああ」
それ以来会話もしていない。
暗い空気感で話すのはうんざりだが、でも、やっぱり気にはしてしまうのだ。
ああ、でも確か、G5が最近気に入っている女が居るらしいのは知っている。
G13 レイヴン。あの情報を齎した傭兵と同じ名前だけど、違う人間だろうなあ、という予感がある。
私情で出撃して、ベイラムの依頼の最中だったその女を殺しかけたんだとか。
しかもなんか、身体関係があるとかないとか、そういう噂がまことしやかに囁かれていた。
怒ってたり軽蔑していたりという人間が多い中で、俺は単純になにやってんのあの人、と思っている。
普通に理解できなかった。
確かにガリア多重ダムで任務は一緒に行ってたけど、そこでそんなに執着するほどの女傭兵では無かったはずだ。
『壁』が理由だろうか。
だったとして尚更逆恨みでしかない。
あの人が多重ダムで漏らした言葉から推測され、解放戦線に上手いこと補給路も退路も全てが絶たれた『壁』。
さすがにG4も生きて帰ることは出来なかった。
それだけの話だ。
それに、彼女は俺たちでは機体の断片しか回収できなかったG4の遺骨とドッグタグを持ってきた傭兵だ。
本当になんでそんなことしたんだか。
鴉は光物が好きだ。
でも、それが光物に思えるのか?無駄なものを集めたところで、アーキバスにどうこう言われちゃかなわないだろうに。
きっと情で、情けだった。
それが気に入らないと言うやつは居るけど、手元に残っただけマシだと言うのは、ここにいれば誰だって実感できることである。
きっとレイヴンもそうだろう。何も残らないままゴミのように死ぬのが、かわいそうになったんだ。
それが包んであった布は俺のものになった。だから今、ぼんやりしながらそれを手に取っている。
赤い布の質感はいい。
色も重厚感がある。鮮やかな血液みたいな色だった。俺の故郷にこういう色をした石があって、それは地元の言語で『死者の花』という意味の言葉で呼ばれている。
そんなことを、思い出していた。
こんなのルビコンのどこに売ってたんだろうな。
指先でそれを弄び、そして畳む。
薄らとした明かりに照らされる表面は艶があって綺麗だった。
「………」
風の音がしている。
俺にはこの後、何が残るのだろうか。
それは誰も知らないだろう。
そして、きっとその時終わる、俺すらも。