Dust to dust 作:解毒発酵DNA
原作キャラ(ヴォルタ)と設定の濃いオリキャラのCPです
彼女視点はコレで終わりになります。
創作している時は正気になってはいけない
そんな事が続いていた日だった。
────ガリア多重ダムにて、G5 イグアスが致命的な情報漏洩を行ったとして『壁越え』の任務を外された。
相手はG13 レイヴン、コールサインがあるとはいえ、便宜上『協力者』くらいのナンバーである。
縁起が悪い、と皆言っている。悪魔の数字だと。そんな事は今重要では無い。大事なのはG5の出撃が取り消されたこと、そして。
G4 ヴォルタが、単独での出撃となった事である。
解放戦線の拠点である『壁』は、企業や傭兵たちの間で難攻不落の要塞として知られており、もちろん我々医務官ですらも、その堅牢さはよく知っている。
そこにMTを引き連れて行くとはいえ、たった1機のACが向かうのだ。
聞いた時は仕事に手がつかなくなった。何とか動揺を抑えて、震える手に見ないふりをして、泣きそうな表情を抑えた。
死ぬわけがない。
まずくなればきっと上手く逃げられる。
大丈夫だ。
そんな事を考えながら仕事を終え、急いで部屋に戻る。
煙草の匂いがした。
「おう、先生」
「ヴォルタ」
「………初めて名前呼ばれた気ィすんな」
そこに男はいた。いつも通り、手持ち無沙汰というふうにベッドを背もたれにして床に座っている。
「だって、貴方、あんな場所に一人で」
「おう、聞いたか」
「なんで」
「先生〜、泣いちゃってまあ」
「茶化してる、場合じゃ」
決壊した思いのままに泣きながら近寄っていけば、いつものように抱き締められた。
そのままあやす様に頭を撫でられる。優しい温度が伝わってきて、やはり泣くのは止まらない。
しばらくそうしていると、普段からは想像のつかないような優しい声が降ってきた。
「なあ先生」
「何………」
「さいごに、お願いがあるんだが」
本人も生きて帰る保証ができないのだと分かった。それだけ過酷な戦場に行くと、そう言われて、どうしてまだ貴方はその黄色と橙色を私に見せているのだろう。
「………嫌」
「聞いてくれ」
「………」
色が、一段と暗くなる。
橙色と黄緑色の割合が増えたその色は、ほんの少しだけ水色や青が混じっていた。
手を握られた。無骨な刺青だらけの手に、縋るような自分の白い手が重なった。
「………あんたが欲しい」
「………」
初めて直接そう言われて、心臓が跳ねた。
「はは、別に初心な訳じゃねえだろ」
「………分かってます………本当に、生娘のようで、自分を嫌悪しています………」
「おいおい、悪いたァ言ってねえよ」
そのまま互いに唇を合わせた。
次第に舌を絡ませて深くなるそれをただ、受け入れる。
しばらくそうして、唇を離した。彼の目がこちらを見ている。答えを待っているかのようだった。
「………」
身体が疼く。
熱が籠って、それを移したくなる。
彼の上に乗る形で抱きつきなおした。股座に感じるものは、これからの情交を予感させるように熱い。
耳元で、誘うように口にした。
「いいですよ」
答えは口付けで返された。
感じる苦味は悪くなかった。
体温を与えるようにわけ合う唾液は、煙草のせいで少し苦い。
服の下に彼の大きな手が入り込んできて、そのまま下着のホックを外された。
吐息に微かな嬌声が混ざり始めたとき、ゆっくりとシャツと同時に脱がされる。
彼は露わになった双丘をじっと見て、それから無骨な手をそこに沈めた。
向き合って優しく胸を触られていたが、こっち、と言われて彼に背中を預ける形になる。
そのまままた胸に手が沈んで、固く立ち上がった先端から感じる快感にじわりと秘部が滲んだ。
「………っ………ふ………」
「声聞きてえんだけどなあ」
「だ、って………」
恥ずかしい。
それは声にならなかった。くりくりと先端を捏ねられて、その快感が痺れるように駆け巡る。
つい声をあげそうになったとき、唇を塞がれた。
そのまま口の中をじっくりと舐るように、食べられているかと思うような口付けをされる。
しばらくそうしていて自分だけ達してしまったあと、少し笑いながら彼は言った。
「分かってる」
「………」
そこからの行為は酷く暖かく静かで、優しいものだった。
優しく秘部を蕩けさせられ、押さえた口の隙間から、みっともなく甘くなった声が漏れていく。丁寧に指でナカを解されたあとは、熱く反り立つそれが宛てがわれた。
水音を立てて何度も繋がる様を確かめるように、彼の肉体がナカで動いている感覚がある。
言葉は交わさなかった。
それでよかった。
彼の色はやはり暖かくて、しかし、どこか寂しさを帯びている。
とん、とん、と身体の奥に伝わる振動が心地よく、大きな嬌声が上がりそうになる度に口を貪るように塞がれる。
何度も自分の中に注がれる彼の熱は、まだ彼が生きていることの証左のようであった。
繋がった部分から混ざりあった体液が零れ落ちている。そのまま抱き締められて、その熱をただひたすらに感じていた。
これが失われてしまうのは、なんだかとても嫌で────そんな自分が本当に女々しくて嫌になる。
終わったあとにしばらく胸板に顔を埋めてまどろんでいると、静かな呼吸と体温だけが近くにあるのが感じられる。
色は見なかった。見たくはなかった。
見たら、きっと自分は余計なことを言ってしまうだろうから。
そのまま抱き締められながら、それでも死にに行くことを少しだけ呪うように言う。
「待ちますからね」
返事はなかった。
それでも少しだけ呼吸が変わったので、それで返答とした。
起きた時には、彼はもう居なかった。
医務官である自分は預かり知らぬところであったが、あの日は作戦の前夜だったらしく───数時間姿を消してから戻ってきたG4に、特に皆何も言わなかったらしい。
今頃どうしているだろう。
彼は戻ってこられるのか。
作戦終了の予定時刻をすぎてなお戻らない、空っぽの整備ドックがその答えであった。
泣いている整備4班の班長、ナジノンの声が響いていた。
慰めるように6班のネルソンがそばに居る。G6 レッドの姿も確認できた。3人の色は概ね、青や水色であった。
G4の遺体は回収できなかったという。
直後、便乗するようにアーキバスのV.Ⅳラスティと、G13 レイヴンが『壁越え』を成した。
レッドガンの拠点中を歩き回っても、あの暖かい黄色がない。橙色を纏うあの色がない。黄緑色がない。
意味の分からない焦燥に突き動かされながら、日々の仕事を終えた。
1日泣いて、2日何もせずに寝て、3日何も食べられなかったのを無理やり口に詰め込んで、4日目にやっとまともに人間と会話した。
心配そうにあらゆる人に声をかけられ、しかし何を返せているかも分からない。
大抵水色、半分位は紫色。
話しかけるな、と言いたい気持ちは抑えた。
抑えていた。
それなのに。
「いつまでああしてるのかしら」
「そろそろ迷惑よね」
────そもそも、お前たちの慰めなんて要らない。
きっと自分は今までに見ない赤い色をしていただろう。それだけの激情を、そう言った名も知らぬ隊員にぶつけたのだった。
喪失感。
それをむざむざと残されたことを実感したのは1週間経ってからだった。
「形見分け」
「ッス。レナ医務官もどっすか」
その日そう言ったのは、前に診察した補給総括官だった。確か名前は、『タム』である。
G4の遺していった物品をみんなで分けるのだという。
欲しいものは特にないけれど、忘れないようなものは欲しい気がした。
「タムさんは」
「俺はコイツでいいんで」
手には赤い布があった。
そんなものを持っていたようには思わないけど、と思って聞こうとした時、彼は言った。
「G4の骨とドッグタグを、G13 レイヴンがG5に持たせたんす。そん時包んであった布がコレ」
「………骨………」
「骨はG3が持ってったッスよ。ほら、あっちの戦死者運ぶ納骨堂あるじゃないすか。あそこ持ってったと思います」
そんなものがあったのか。
私がレイヴンのように飛べたのなら────
「レナ医務官」
「………は、い」
改めて私を呼んだ彼の色は、警戒するようなオレンジと赤だった。
「くれぐれも変な気は起こさねえように」
「分かって、います」
「アンタは強化人間じゃない、ACも乗れない、アンタがどうにか出来た話じゃない。分かってるか?」
いけない方向にいった思考を振り払い、すみません、と言った。
「もう少し冷静になってから、行きます。形見分けは………」
「行くなら俺も行くッスよ」
「お願いします」
案内されたのは、普段行かない方面の廊下を通った先の部屋だった。部屋には既に何人か居たが、私を見て皆そそくさと出ていった。
それにほんの少しだけ眉を顰めつつ、タムとともに中に入れば、そこにはコールサインを持つ人間たちの大半が集っていた。
「レナ医務官………!?何故ここに」
「G6に………、」
「………てめえか………」
無言でG3は壁際に寄っていた。中心部分で何かを持っていたのはG5で、その横に居たのがG6だった。
何を言うべきか。
いつもの鮮烈な赤い色がほぼ消えていて、あるのは深い青と水色、そして漂うような紫色がある。
そんな様子を見るのが初めてで硬直していると、G6が慌てたようにG5と私を遠ざけようとした。殴り掛かるとでも思ったのかもしれない。
それにほんの少しだけ笑って、大丈夫です、と言った。
「用があるのは、部屋自体ですから」
「………そうか。好きな物を持っていけ、………残ったものは全て燃やしてしまうからな」
いつもの元気な声が、気を使うように潜められた。どうやらずいぶん、自分とあの男は噂になっていたらしい。
思えばG4の部屋に入ったことは無かった。
意外に綺麗で、本当、案外几帳面な部分のある男である。
匂いが微かに残っていた。あの時近くで感じた匂いだ。口元が緩んで、ついでに緩みそうな涙腺は気合いで引き締めて、部屋の中をゆっくり見た。
特に、特別なものがある訳ではなかった。
アクセサリー類や服、靴と、意外と量のある本たち。そしてベッドと机と椅子。それくらいだった。ものが少ない訳でも多い訳でもない。
そして案外、自分はあの男のことを知らなかったな、と思った。
なぜ彼は私を求めたのか。
なぜ彼は、ああいった感情を私に向けてくれたのか。
私は色ばかり見ていて、その内にある本人の意志を知らないままに過ごしていた。
「………」
無意識に腹に触れていた。
ああして注がれても、人間の代謝によってその痕跡は消えていってしまう。
自分もあの男に似た刺青くらい、思い切って入れてしまおうか。流石にあれほどびっしり入れる気にはならないが。
そうして貰っていきたい遺品をじっくりと見ていると、おい、とG5が話しかけてきた。
「なんでしょうか」
「てめえは………てめえは、何も………言わねえのか………」
「何を」
「………ッ!」
傷と刺青の入った手が伸びてくる。それが帯びる赤を明確な攻撃の意志と取った私は、そのまま殴り返してやろうと思って構えた時だった。
「何をしている、G5」
「離せジジイ………!」
筋肉質な腕が割って入った。ここまで間近にこの人を見たのは初めてであった。
「ミ………ミシガン総長………!?」
「ひえ〜、怖〜………」
G6の動揺の声と、タムの呑気な声が響いた。
G1 ミシガン。このレッドガンのトップであり、最も強い傭兵であり、その名は『歩く地獄』とあだ名されている。
「………」
「敬礼はいい、貴様がレナ医務官だな」
「はい」
無意識にそうせねば、と動いていた身体の動きを緩める。その目に見つめられるとどうにも恐ろしく、そして息の上がってしまいそうなことか。
目が細まって、それから、総長は思わぬ言葉を口にした。
「作戦前夜まで、G4とずいぶん仲が良かったようだな」
「ん゛ッ!?!?」
「あれ以来貴様があまりにも食わんので、身体検査でもするかという話になっていたぞ」
「えっ」
そうして察した。
わざわざ総長がこう言うのは、たかが医務官と戦闘員ならまだしも────遺体も帰らず死んだばかりのコールサイン持ちの男と、医務官だからである。
恥ずかしさといたたまれなさに、少し目線を下に逸らしてしまった。
「貴様は医務官を辞めるつもりだったか?」
「………いいえ」
「医務官としての務めを果たせ、今の貴様はあまりにもみっともないぞ」
「はい」
「分かったな!それと本題はこれだッ、形見分けを終えたらとっとと医療班へ戻れッ!」
叩きつけられるように渡された(色は薄い水色や少しの青だったので怒ってはいない)のは、身体検査の通知書であった。
その中にしっかりと妊娠検査もあり、ああもう本当に、恥ずかしい。
「はい、総長」
から元気で声を出せば、総長は頷いて帰っていった。そういえば騒いでいたG5は、と見れば、赤、はあるが。淡い水色に包まれており、私を何か理解できないものを見る目で見ていた。
「てめえ、なんで、そうなら………ッ、俺に何も言わねえ………!」
「………私が、貴方に………何を言うというんですか?」
「ヴォルタは………俺が、俺は、………ッ!」
掴みかかってはきたが、ただ服を掴まれているだけで、特に何も無かった。
深い青。
沈むような青。
強い後悔と自責の念が、ありありと自分の目には映っている。
「別に、私はあなたに怒ってなどいないのです」
「………ッ、」
「許すほど怒っていたことも無ければ、貴方に何か、憎しみや恨みを思った事も無いんです。
………ああ、でも、羨ましいというのは少しあったかもしれません。貴方は彼の親友でしたから、私の知らない彼を知っているでしょう」
残酷な宣告だと分かっている。
しかし、これほどに後悔している男にこれ以上、追い詰めるような何かを言うのも違う気がした。
「ひとつだけ、知りたいことがあります」
「………なんだ」
彼のアクセサリー類が仕舞われている箱を見た。
「どれが1番、彼が気に入っていたんだろうと思って」
「………ああ………?ッチ………てめえ、ンなのも知らねえのかよ」
無造作に彼は一対のピアスを取り出して、私の手に落とした。シンプルなシルバーのピアスである。
「てめえに会う時はいつもそれだった」
「………」
「案外見てねえのか」
「そうですね、ちょっとした………ああ、ええと。ううん」
感情の色はよく、人の顔を塗りつぶしてしまう。だから私は軽く相貌失認の気がある、とされていた。間違ってはいないのだけど、こうして嘘をつくのも好きではなかった。
「………あまり人の顔が見えなくて」
「………それでなんで医者やれてんだ、てめえはよ………」
そりゃあそういう反応にもなる。苦笑を返し、礼を言って出ようとすると、おい、とまた声をかけられる。
「全部持ってけ、女なら使えるだろ」
「えっ」
まあまあ大きさのあるその箱が、私の形見分けの結果となったのだった。私だけ多すぎないかな、これ。
G3もG6もタムも普通に持っていけ持っていけとゴリ押してきた。いや多いから。話聞きなさいよ。
流石に多すぎるので、一旦それを部屋に置いて、私は検査へと向かうのだった。
「にしたって意外に教えるんスねG5」
レナが去った後、タムはそんなふうに言った。
「あの女か」
「そそ。いくらG4が抱いたからって、アンタにしちゃ優しいじゃないスか」
「………」
その言葉に、イグアスは深いため息をついた。
「あの女、顔が見えてねえつったろ」
「え?ああ、ですね」
「じゃあなんで他で覚えねえんだ」
「………あ?確かに………」
確かにそういう時は、1番、覚えやすいのはアクセサリー類を見ることな気がする。このような環境ではそんなに付ける人間もいない。
それから、髪色、肌色、雰囲気、匂い。そういうものを見て複合的に判別する筈である。
嘘か、と思ったが、そんな振りをする理由も分からない。
「ヴォルタのやつも気付いてた、目が合わねえ、焦点が顔に合ってねえってな………俺もよくあの女に会うから分かる」
「ああ、だからあれ付けて………」
「だってのに、それも見てねえときた」
唸るタムに向けて、イグアスはなんとも言えない表情で口にした。
「あの女は一体何を見てヴォルタだと思ってたんだかな」