Dust to dust 作:解毒発酵DNA
ヴォルタ視点の話です。
オリキャラとのCPになっているので、苦手な方はご注意ください。
なんでこんなもん書いた(正気)
──────その女を見かけたのは、本当に偶然だった。
補給部隊のクソガキだった男を、片手で撫でくりまわしてやっていたときのことだった。
昔馴染みであるイグアスと、話していただけの女である。
白い髪。
白い肌。
氷のような青い目。
切れ長のその目は猫のようで、大きく、美しかった。
「………おいタム、イグアスと喋ってるあの女………どこの誰だ」
「はい?………あァ〜、レナ医務官すね。綺麗っすよね〜高嶺の花ってな見た目で」
医務官。
それにしては見たことがない、と思っていると、タムから聞こえてきたのはこんな言葉だった。
「あの人メンタル担当なんで、G4には多分縁無いッスよ」
「分かんねえだろ」
「いや世話になんねーに越したことねえでしょ………聞いてますゥ〜?」
純粋に綺麗だと思った。
あれが欲しいと思った。
その氷のような表情を見て、しばらくその背を目で追ったのだった。
これが恋だと言うのなら、世の中案外、皆こういう浮かれた気分で過ごすのか。
あの絹糸のような髪が、滑らかな肌が、潤んで、自分の手に収まったらきっと。
それはそれは、大変、満足することであろう。
その日知ったその女の名前を頭の中で反芻しながら、一旦は訓練に向かうことにしたのだった。
「なあイグアス〜」
「ゲッ………んだよヴォルタ、テメエがそう言う時は大体めんどくせえんだ」
訓練の後、医務室に向かうのがわかっているイグアスをとっ捕まえる。
その顔が非常に嫌そうにゆがんだが、大体いつもこんな感じのヤツなので流した。
「あの女紹介しろ」
「誰だ」
「白い女、ああ、えーと………レナ医務官だ」
「………あァ、あの女かよ………テメエ、医務官に手ェ出す気か………」
「ンだよ、お前も前に出してたろ」
「やめとけあの女は」
なんで?と聞けば、イグアスは非常に主観で答えを言った。
「あれはテメエのツラもろくに覚えねえぞ」
今思えば、それは正しかった。
本当に人をよく見ている男だ。友人ながら、そこに感心するばかりである。
次にその女を見たのは、一般隊員に言い寄られて無理矢理、という場面で痛烈な一撃を股間に食らわせた時であった。
いやあ、痛そう。
追撃とばかりに、股間を押さえて蹲る男のドタマをかち割るか、という勢いで足を振り上げたのが見えた。
流石に止めてやった。
「はいはい、落ち着いてくれや医務官殿」
「………G4、ですか」
顔───には目が止まらず、ピアス、服、手、そしてエンブレムに視線が止まった。
その様子に違和感を覚えつつ、やはり、この女は声もまた美しいと思った。
「コイツは締めとくさ」
「………彼は戦闘部の人間ですので、処遇は貴方に任せます。………次は無いですよ」
男にそう言い捨て、女は医務室に戻っていった。猫らしく爪はきっちり研いであるらしい。
そのさまもやはり綺麗だと、襲った男には関節技を極めながら、女が自分のコールサインを呼んだ声をもう一度聞きたいと思った。
次に出会ったのは、その女がG6 レッドと話していたときのことだった。
「G6、バイタルサインが最近落ちているようですね」
「ああ、………いや、心当たりはないが………そう主治医に言われたのだ。レナ医務官はどう思われる」
「………そうですね。最近出撃もありませんから、そこでフラストレーションが無意識に溜まっている可能性はあります」
「さほど自分では感じていないのだが」
「どうでしょう………ああ、ネルソン班長ですか?」
レッドをじっと見た後にそんな事を言い放つと、レッドは急に慌てだした。こいつもこいつで分かりやすいヤツである。
「なっ、ななな、なぜネルソンの話がッ」
「最近彼女、ラプラタ班長との会話が多いですね?なんでも彼の体調不良時、ヘッドブリンガーの調整を彼女が行ったことで聞きたいと───」
「や、そういう、訳ではァ………ッ!」
こいつもなんであんな小動物が好きかねえ、と思いながらも、容赦ないレナ医務官から助けてやるために割って入ったのだった。
「なんだァ嫉妬かァ?」
「ヴォルタ先輩」
「………G4」
やはり顔に目が止まらない。
ピアスは今日は無かったので、服、手、身体、エンブレムと見て、やっと彼女は俺のコールサインを口にした。
「よおレナ医務官殿」
「はい」
「ン〜、まあコイツに関しちゃどうにでもなんだろ」
「先輩!?」
「極論はそうですね」
「レナ医務官ッ!?」
わしゃわしゃとレッドを撫でくりまわしてやっていると、女は少し笑う。
「仲がよろしいんですね」
「まあ可愛い後輩だしなあ〜?」
「あ、わ、っと、やめてください先輩ッ」
笑うと、猫がすり、と頭を擦り付けてくるかのような可愛らしさがある。
そのまま立ち去った女を眺めていると、恐る恐る、といったふうにレッドが話しかけてきた。
「ヴォルタ先輩………レナ医務官にその、好意を?」
「狙ったら殺す」
「しませんよ………」
「よーしよしよし、いい子だなァレッド〜」
しかし、レッドもまた、あの女の違和感には気づいていた。
「しかし顔を覚えてもらうのには、相当かかるでしょうね」
こんな忘れられねえツラした男がそういうのだから、俺だって当然、覚えられてはいないのだった。
次に出会ったのは、俺が死にかけるレベルの大怪我をした時だった。
キャノンヘッドもコアの半分が破壊、右腕も吹っ飛んで左腕は撃ち切った、もう少しで死ぬ、といったところで、半分意識を飛ばしながら帰還したのだった。
「G4、G4 ヴォルタ、聞こえますか」
「………レナ、医務官」
目が覚めた時、その美しい女がそこにいた。
青い目が俺を見ている。
包帯まみれになった自分がそこに映っている。
手を動かそうとして、動かないのに気がついた。どうして、と思っていると、レナ医務官が口を開く。
「落ち着いて聞いてくださいね。現在脳内デバイスの四肢接続と痛覚接続を切っています。よく生きて帰ってきましたね」
ああ、だから今何も痛くないのか。
ぼんやりそれを受け入れて、おそらく精神安定剤も入れられてるな、と思いながら女を見る。
優しい手が俺に触れた。
おそらく診察されているだろうその手つきは丁寧だ。爪の立たない女の手は柔らかく、そして少し冷えている。
それが酷く心地よかった。熱い自分の体温を持っていかれる感覚があった。
「………G4?」
「フフ………なあ先生、もう少し………」
「貴方今死にかけているのに何を………」
呆れたように、熱を出した子供をあやす様に額、頬、目元に触れられた。死ぬなら死ぬで、こんな綺麗な女に触られた記憶が最後なら、悪いもんではないだろう。
「ありがとう」
「………」
女は酷く悲しそうな顔をした。
その顔すら綺麗だった。しかし、出来れば、笑っていて欲しい気がした。
リハビリ担当は別の医務官だったが、大怪我した兵士と言うのは大概暴れたり泣いたりするもんなので、レナ医務官は俺のメンタルケアとして診察時間が定期的に設けられた。
俺はそんなにヤワではないが、女と話せるならそれで良かった。
「先生〜、俺まだメシこれェ?」
「腹に穴が空いたのですから我慢してください」
「煙草………」
「肺が半分ほど無くなったんですからやめなさい。次は移植できるか分かりませんよ」
「眠い………」
「食べてから寝てください。死にたいのですか」
まあ大抵こんな感じのやり取りであった。
素っ気ないやり取り、素っ気ない反応。
大抵レナ医務官と話すとこれで諦める男が多いようだが、俺は逆に、この女はいったいどうやったら笑うのか気になっていた。
馬鹿な話もした。
アホなこともした。
しかし女は笑わない。
たった唯一笑ったのは、俺が礼を言う時だった。
それがわかってからは、絶対に礼は言った。そうすると愛想笑いだとしても笑うので、ああ、本当にそれが可愛らしくて仕方ない。
欲しい。
自分だけに向けて欲しい。
その欲求は強まるばかりで、またそれが出ると女は俺から距離を取る。なかなか敏いようなので、もう女に下心と好意を隠すのはやめた。
そうすると、なんと全く目線が合わなくなった。
ただ、身体には触れても怒らない。
まさか押したらイケるのか、しかし目が合わないのは寂しい。
抱き寄せる度に感じる薄い腹も、やわらかい筋肉と程よい脂肪も、絹のような髪も、少し紅潮する白い肌も、全てが綺麗な女だった。
そういえばその頃辺りに初めて体に堂々と触った時、なんだか猫のフレーメン反応だか、猛禽類のパカーっと空いた口だか、そんなような顔をされた。
あんまりにも間抜けで、しかもそれがまた可愛らしくて笑ってしまった。
女は強くなっていった。
きっかけはどうやら、また男に襲われたのをイグアスに助けられてかららしい。
まあイグアスのことなのでどうせ『うるせえから殴った』くらいの理由だろうが、しかし面白くない。
せっかくなら俺がかっこよく助けてやりたかったと思いつつ、その話を聞いたのだった。
「なあイグアス、お前今日先生の診察だろォ」
「ゲッ………」
「なんだテメエその顔」
まるでゴキブリでも見たかのような顔をされたので、アイアンクローをかましてやろうとする。
まあ当然抵抗される。コイツはタムやレッドとは違うので。
「俺も連れてけッ」
「来んなボケがッ、テメエ関係ねえだろうが!」
「つれねえこと言うなよなァ!」
「バカかッ!用がねえなら行くなアホッ!」
正論であった。
しかしンなもん関係ねえのである。嫌がるイグアスを押し切って、俺はレナ医務官に会いに行くのだった。
「先生〜」
「保護者同伴ですか」
イグアスを見るなりそう言い放ったレナ医務官に、俺はしばらく話せなくなるくらい笑ったのであった。
そのあとイグアスと殴りあったらまとめてレナ医務官に絞められた。猫に引っ掻かれるのもご愛嬌というヤツだ。
「なあ先生〜、俺は?」
「貴方は健康体でしょう」
「えぇ〜?」
「もう一発欲しいならそうと言ってください」
「お〜ッ………やめとくわ」
結構本気の目だったので、腰に回した手を離した。そのあとぐいぐい押し出されてイグアス諸共追い出されたが、やはりあの女は可愛らしい。
あの後レナ医務官の仕事場に入り浸っていると、医務官は呆れた顔で自分の部屋を教えてくれた。
まじかこの女、という思いと、そこまで心を開かせることに成功したことが嬉しかった。
次第に抱き寄せても何も言われなくなった。それどころかその白い手が俺のジャケットを掴む時もあるので、本当に愛おしいと思った。
「先生」
「はい」
可愛らしい目が、やはり、俺の顔ではなく概ね顔のある位置に留まる。
見て欲しい。
俺だけを。
そう思って、物陰に彼女を引っ掴み、逃げられないように腰を掴んで口付けた。閉じた唇を開け、と舌でなぞれば、観念したように口が開く。
そのまま小さな舌を絡めとった。ちゅ、ちゅ、という音だけが響く。
「………ん、ふ………っ………」
「………」
必死に息を吸う彼女が可愛らしい。
熱が集まって熱くなった部分はあまり意識しないようにしたが、やはり、欲しい。
彼女に押し付けるようにその熱を与えてしまっていると、力なく胸を叩かれた。
「やめ、て」
「………、」
潤んだ目が、悲しそうな、辛そうな。そんな顔だった。
「先生」
「………だめ、」
胸を押される。
手が震えていた。
「………ごめん」
その顔に、集まった熱は冷めた。恐怖に震えた身体を温めるように、もう一度優しく口付ける。
「悪かった」
「………大丈夫、です。ただ、その………あまり、苦しいのはやめてください」
「ん」
女はそう言って、物陰から出ていった。
女を怖がらせてしまったことに、少しの後悔が残ってしまった。
あれから触れる以上のことはやめた。
たまに我慢が効かずに口付けまではするが、それ以上はしなかった。女もそれを受け入れていた。
しかしどうしても、顔を見てはくれなかったしそれ以上を受け入れることもなかった。
「………ン〜………」
ピアスも見てねえしなあ、と思いながら耳元をいじっていると、おい、と背後から声がした。
「ンだよイグアス」
「テメエ、マジにあの女狙ってんのか」
「わかるだろ」
「………人のツラ覚えねえだろうが」
やはりそうか、と笑う。
ここまで来たら自分も気づいている。彼女は他人の顔をうまく見れていない。
相貌失認というやつか、とも思ったが、にしても患者は間違えない。不思議な女である。
「やっぱ覚えてねえよなあ」
「無駄だろ」
「キスまではいったんだけどな」
「よくやるなテメエ………」
「ちょっと押したらイケるかと思ったが、泣かれちまったし」
「ヤらなかったのかよ」
「だって先生だぜ?ちっちゃいことで泣く女じゃねえよ」
「………フン」
それには同意らしい。
鼻を鳴らすだけのイグアスに笑い、口にする。
「デカい事がねえとありゃダメだなあ」
「やめんのか」
「ンなわけ、生きてるうちに欲しい」
「そうかよ」
「いいだろ?俺が死んだらあんな綺麗な女に泣いて貰えたらよ」
「分かんねえな」
「あァ〜?イグアス〜ゥ、お前そういうとこだぜ」
ま、そんなデカいことなんてそうそうねえわなあ。と、その時は呑気に構えていたのだった。
ガリア多重ダム。
あの時に、美しく空を飛ぶ女にイグアスが『壁越え』の情報を、わざわざご丁寧に解放戦線の前で教えてやるまでは。
イグアスはそのあとミシガンにボコボコにされていた。俺は沈黙を貫いたので一発で済んだ。
タムは新しく敷く補給路に苦戦していたし、自分の担当のナジノンや、イグアスの担当のラプラタは整備で忙しくしていた。
ふと、小柄な背中が跳ねるようにドックを移動しているのが見えた。確かアレは、ネルソンだ。
レッドは出撃しないからあの女は忙しくないはずだが、と思っていると、俺を探していたらしく駆け寄ってきた。
「G4ッ、さ、作戦変更ッ、聞いてますかッ」
あの間延びした口調をどこにやったのか。
焦りに揺れるグリーンの目が、俺を見ている。
「なんだ」
「なんだって、G5が、『壁越え』から外されるって話ッ、ですよ」
「………そんなことになってんのか?」
「聞いてないじゃないですかあッ、誰だもうッ………とにかく聞いてください、」
「一旦てめえが落ち着け」
嫌な予感がした。
「『壁』には、貴方単独での出撃が決定されましたッ………第4MT部隊ももちろん向かいます、でも、第5MT部隊とG5は………!」
「………そうか」
そうか、死ぬのか。
そしてこの女がここまで焦っているのは、レナ医務官のためだと分かった。仲がいいのは知っていたから、俺の事など得意ではないくせに、わざわざ教えに来たのだろう。
「レナ医務官は」
「………仕事ですよお………聞いた時、すっごい、泣きそうでしたからあ………」
「ン」
「行ってあげてください………」
ネルソンの頭を適当に撫でた。ポケットにあった薄荷の味がする飴玉を駄賃代わりに2つやって、後ろ手を振る。
「前夜に俺が消えても何も言うなよ」
「………当たり前ですよお………」
泣きそうな声だった。相変わらず、他人事を他人事として受けられない女である。
向かったレナ医務官の部屋は静かだった。
今日は何もする気が起きなかった。
それは緩やかに決まった死への絶望か、それとも諦念かは分からない。
いつも部屋で煙草を吸うと怒られる。しかし、いつしか1本だけなら何も言わなくなった。
1本取り出し、火をつける。
嗅ぎなれた匂いが部屋に満ち、肺に落ちた煙はいつもの重さで、味は相変わらずの苦味をもたらしてくる。
「………」
さいごに押すなら、死ぬ前だ。
1本だけわざわざレナ医務官の部屋で吸って、ああもう、これみよがしに『俺のものになれ』と言うかのようではないか。
自嘲に口の端が持ち上がった。
それから作戦前夜まで、俺は女の部屋には行かなかった。
正確には行けなかった、が正しい。
作戦前夜、不自然に空いた数時間に疑問があってタムを見れば、『やることやっといたらどうすか』なんて返事が来た。
お前もお前で勝手に外堀埋めてんじゃねえよ。
ネルソンもラプラタもナジノンも何も言わなかった。
部屋で女を待っていれば、すぐに来た。
猫のようだと思っていた青い目が丸くなって、そうして泣き出した。
「おう、先生」
「ヴォルタ」
「………初めて名前呼ばれた気ィすんな」
今まで番号だけだったのにな。
愛おしさと、もうこの女を二度と腕には抱けないだろうという思いが胸に交錯する。
「だって、貴方、あんな場所に一人で」
「おう、聞いたか」
「なんで」
「先生〜、泣いちゃってまあ」
「茶化してる、場合じゃ」
医務官であれど『壁』の噂は聞いているらしい。泣きながら俺の服を掴んで、縋るような白い手がぼんやりとした部屋の明かりに照らされている。
愛おしいその女を優しく抱きしめた。しばらく頭を撫でて、落ち着くのを待つ。
「先生」
「嫌」
「………聞いてくれよ」
「………何」
潤んだ目がこちらを見た。
やはり最期まで、この女は俺の顔を覚えられなかった。
「最期にお願いがあるんだが」
「………いや………」
「聞けって」
またボロボロと涙が零れていくのを、指先で受け止める。
「あんたが欲しい」
女の鼓動が早くなったのがわかる。
そうして泣いているのとは別枠で、顔に熱が溜まって赤くなっていった。
本当に愛おしい。
その絹のような銀髪に口付けしていると、女は葛藤からか変に呻いた。
「はは、別に初心な訳じゃねえだろ」
「………分かってます………本当に、生娘のようで、自分を嫌悪しています………」
「おいおい、悪いたァ言ってねえよ」
渋面が下から出てきて笑ってしまった。
本当に可愛くて、ついその唇を食む。いつもより抵抗のないそれは、今までで一番、自分の中の熱を熱くさせた。
口を離して、女を見る。
女はしばらく迷って、それから俺の上に乗って耳元に唇を近づけた。
「………いいですよ」
やっと、欲しいものが手に入った。
死ぬ前にこんないい女を抱けるなんてな、と、胸に残る不安や苦しみにその軽口のような考えで蓋をした。
女は裸も美しかった。
形のいい大きめの乳房、程よく肉と脂肪の着いた身体、丸く形のいい尻、滑らかな肌、自分の黒い肌に落ちる銀髪。
ナカに何度も自分の生きた証を刻むように注ぎ、女の体を貪った。得られる快感よりも、俺はこの女にどこまでの痕を残せるかと考えてばかりいた。
子供ができたってそれはそれでよかった。
それなら女を一生縛ってやれそうだった。最低だが、誰にも、渡したくなかったからだ。
一通り行為に満足したあと、女を腕に抱いて横になっていると、女は一言だけ言った。
「待ちますからね」
それに答えることは出来なかった。
女はそれきり、眠ったようだった。
着替えて4番ドックに向かえば、しゃがんで蹲る整備班の連中とタムがいた。
「G4〜、やること終わったすか」
「ん。レナ医務官になんかあったら頼むわ」
「うす」
タムにそう告げて、ラプラタの方に行く。
「イグアスは頼んだ」
「ふざけんな、帰って来い」
その言葉に返さず、ネルソンに言う。
「お前もレナを頼む」
「………はあい」
いつもよりも元気がなかった。
そうしてナジノンに向けて、言った。
「俺は死ぬ」
「ヴォルタ………ッ」
「あんまりよ、イグアスに当たるなよ?アイツ意外と気にしいなんだよ」
「だとしても、さあ………!」
納得いかない、というふうにくってかかるナジノンに言う。
「頼んだぜ」
有無を言わせずうなづかせた。そうしてタラップに足をかけ、キャノンヘッドに乗る。
コイツが俺の、墓標代わりになるだろう。
「………イグアス………てめえも上手く、サボったな………」
最期に見たのは、あの女の髪のような、銀の世界だった。
────ポケットの飴玉は食べる気になれなかった。
別にヤバいものが入っている訳じゃない。なんなら口がスッキリするので、自分もたまに放りこんでいる。
それでも何故か、嫌だった。
その男が嫌いだったからでもなく、ただ、食べられなかったのだった。
「どうぞ〜、煙草吸えない時に」
そんな事を思っていたから、たまたま、残っていたので渡したのだった。
ある意味で遺品でもあるその飴玉を、同じく気に入らない男の手に落とした。