「うわぁ!?」
私はバサっと飛び起きる窓を見るともう太陽が沈みかかっており、いわゆる黄昏時というやつだろうか。
「身体いったぁ!?」
飛び起きてすぐ全身に走る痛みに気づく。
「おはよう、…とは言ってももう夕方だけれどね。」
凛とした声の方を向くと入り口にはヒナちゃんが立っていた。
「ヒナちゃぁん!!!会いたかっだよぉ!!!」
「な、なんでいきなり泣くのよ…、チナツの件はその…申し訳なかったわ。尋問するよう指示したのは私なのだけれど…でも質問をするだけかと思えばあそこまで酷い目にするなんて…」
「…ヒナちゃんが謝るならもういいよ。気にしてない。」
「……!貴女って人は…お人好しがすぎるんじゃないかしら?一応かなり酷い目に遭っていたと思うのだけれど…」
「ヒナちゃんが謝る必要無いよ。元々無策でゲヘナに来た私のせいだし。それよりもさ!ヒナちゃんには笑っていてほしいな!」
「はぁ、貴女ってホント…不思議な人ね。これ、ご飯よ。おにぎりと…サンドイッチ。後お水も。」
レジ袋からゴソゴソと色々な食料を持ってきてくれたようだ。ヒナちゃん優しすぎやしませんか。まだ風紀委員長じゃないから仕事は少ないのだろうか。
「ありがと!ヒナちゃんはやっぱり最高だよ〜!」
「あの…私たち何処かで会ったことがあるのかしら?」
もっきゅもっきゅとサンドイッチを頬張っているとヒナちゃんからそんな質問が投げかけられた。
「?どうして?」
「だって…私のこと「ヒナちゃん」とか親しい間柄のように呼ぶじゃ無い?それに呼び慣れてるし私の名前を知っているし…」
「……あ。」
そうだった。忘れていた。この世界では初対面なのだった。余りの嬉しさに舞い上がっていたけれど確かに私は不審だ。
「その…以前街でヒナちゃ…さんのご活躍を見つけて…それでかっこいいなって…」
「……ふーん。そう。」
ヒナちゃんは頬を赤らめながらそっぽを向いてしまった。照れている。可愛い。
「後、別にヒナちゃんでもいい…わよ。貴女なら…気にしないわ。」
「フゥゥーーーーー。抱きしめてもいいですか?」
「は、はぁ!?何がどうなってそうなるのよ!!!」
ヒナちゃんとキャッキャウフフしていると病室の仕切りのカーテンが開かれた。
「ヒィッ!?」
その人物に私は怯え思わずヒナちゃんを盾に隠れてしまった。
「あ、あの…そこまで引かれると悲しいと言いますか…」
「……チナツちゃんが良い子なのは分かってるけど…でも怖いものは怖いの!」
「チナツ、どうかした?何か問題でも起きたかしら。」
「美食研究会がA地区内で暴れてしまして…先輩に応援を頼めないかと…」
「わ、私も行きた……!いけどこの身体じゃ無理だよねぇ…」
「当然よ。ここで休んでいなさい。すぐに片付けて戻ってくるわ。」
そのままヒナちゃんとチナツちゃんは部屋を退出した。
静かになった病室に私のため息が響く。
「はぁ…今日は不審な行動が多かったかも、ヒナちゃんをヒナちゃんって呼んじゃうし、ゲヘナに無策できちゃうし…」
もっと考えて行動すべきだったなと我ながら反省する。
そういえばトリニティとゲヘナの関係が最悪なのを完全に頭から抜けていた。十数年前の記憶なので仕方ないといえば仕方ないのだが、それでも迂闊すぎた。
なんとなく暇になったので病室のテーブルに置かれていた私のスマホを取る、
「うっわぁ!?通知999件!?」
モモトークのアプリの右上に通知が凄まじいことになっていた。セイアが285件、ナギサが300件、ミカからは…414件……、既読をつけないようにメッセージを確認してみると
『君は今何処にいるんだい。』
『ゲヘナにいると報告がきた。危険だ今すぐ引き返したまえ。』
『ミカとナギサが暴走しそうだ。早く帰ってきたまえ。』
『君は無事なのか!?襲われたと聞いたが!』
『ねぇ、ハルちゃん、ゲヘナにいるってホント?』
『なんでゲヘナに行ったの?早く帰ってきて?』
『帰ってきたらお仕置き確定だね。』
『襲われたって嘘でしょ?なんで無視するの?』
『ハルさん差し出がましいようですがゲヘナは危険です。早くお帰りになってください。』
『襲われたと聞きましたがご無事でしょうか?お願いですから無事に帰ってきてください。』
『どうかお声だけでもお聞かせください。』
「……皆。」
皆が心配してくれていることへの嬉しさで胸がいっぱいになる。そのままナギサに電話ボタンをタップする。
『ハルさん!!!!ご無事でしょうか!?』
「あはは…心配かけちゃってたみたいだね…」
『本当ですよ!ミカさんなんてゲヘナに行くとか暴走しそうになっていたんですから!』
「ご、ごめんね…ちょっと理由があってゲヘナに行かなきゃだったんだ…」
『まぁ…無事そうなら良いです。ゲヘナの人たちからは何か酷いことをされてはいませんか?』
「大丈夫だよ。美味しいご飯買ってもらっちゃった。」
『相変わらずハルさんは人の懐に入るのが上手ですね。
理由は後で聞きますが…なるべく早く帰ってきてくださいね?』
「うん。セイアや…ミカによろしく伝えといてくれる?」
『わかりました。ちなみに今どこにいるかお聞きしてよろしいでしょうか?』
「今?いまは…ゲヘナの病院かな。」
『病院…ですか。分かりました。ありがとうございます。』
「?うん。じゃあまたね。」
『えぇ、また。あ、毎日一度は私がセイアさん達に電話をしてくださいね?』
「え?う、うーん…」
『して下さいね?』
「は、はい…」
よろしいと言わんばかりにナギサは挨拶をし、電話を切る。安心したという声色が伝わってきて思わずとても嬉しくなってしまった。
皆に謝罪のモモトークを送り、気づいた。
「あれ…ヒフミからもきてる?」
ヒフミからも連絡が来ていた。大丈夫ですか、だったり心配です、だったり。どこで私がゲヘナに向かったのを聞いたのだろうか。あぁナギサに聞いたのかもなと勝手に頭の中で整理してヒフミにも謝罪の連絡を送る。
「ふぁぁ…眠た。もう寝よおっと。」
身体が疲れていたのかすぐ眠くなってしまい、私は意識を手放した。
*
あれから一週間が経った。冬休みがもう二週間しか無いという状況に絶望しつつ身体は完全に回復した。
「痣ももう治りましたね。これなら、退院しても問題ありません。おめでとうございます。」
「ありがとうね!チナツ!」
「礼には及びません…私は貴女に最低なことをしてしまいましたから…」
「もう、気にしないで良いって言ってるのにさ」
「気にします!我を忘れるなんて…なんて不甲斐ないんでしょうか。」
「チナツはかっこいいよ。ずっと色んな人を助けて治療して…優しい子だもんね?」
「……そういうこと誰にでも言っていると…いつか取り返しのつかないことになりますよ?」
「ん?大丈夫でしょ、私なんて何も無いしさ!」
「……はぁ。これは重症ですね。」
服を着替えてトリニティ総合学園の制服に身を通す。
一週間ぶりだからかとても懐かしい気分だ。
「ねぇねぇチナツちゃん!私の退院祝いにご飯行かない?」
「ご飯…ですか?うーん…申し訳ないのですが…今温泉開発部が暴れているそうなので、負傷者の手当てをしなければならないんです。ありがたいのですが…断らせてもらってもよろしいでしょうか…?」
「…よし!」
ピシッと頬を叩いて覚悟を決めた。
「…?どうかしましたか?」
「私も手伝うよ!!」
「…へ?」
「救急医学部のお仕事手伝います!!」
「…うーん、ありがたい申し出なのですが…」
「私実は誰かを手当てするの得意なんだ!幼馴染の一人がよく傷だらけで帰ってきたりするからそのせいでね。」
「それはホントですか?」
「もっちろん!」
「なら…お願いしてもよろしいでしょうか。」
「まかせてよ!」
そのまま私はチナツちゃんに連れられ病院の近くにある医学救急部のテントに着いた。そこには傷だらけの風紀委員の子や医学救急部の子がいた。
私は急いでバッグの中から包帯や消毒液を取り出し
近くの子に手当てを始めた。
「……!」
「あんたは…トリニティの制服…?」
「静かに。体力を温存して。今から消毒するから、染みるよ。」
「うぁっ…」
チナツは予想外というふうに目を見開く。驚いたのは彼女の手際の良さだ。半信半疑だったが慣れているというのは本当のようだ。素早く消毒を終え傷口にバッグから取り出した大きい絆創膏を貼る。クマの柄が着いた可愛らしい絆創膏だ。
「よしっ、これでおっけー。次の子は…、火傷か。なら塗り薬が欲しいな、チナツちゃん、火傷用の薬ある?」
「え、えぇ。もちろん。これです。」
「ありがと。」
ぱっぱっと処置を終わらせすぐに次の負傷者へと移っていく。
「…チナツ、彼女は?」
チナツの背後から音も無く忍び寄り問いかけた人物。
氷室セナ。まだ高校一年生とはいえその優秀さで部長にまで上り詰めた優秀な人物。キリッとした目つきは見たものに威圧感を与える。
「セナ部長!、彼女は…白鷺ハルという子で先ほどまでゲヘナの病棟で入院していたトリニティ総合学園の生徒です。手当てには自信がある…と話していたので少しでも皆の助けになればと…」
「……なるほど。トリニティの…。素晴らしい治療の手際です。した…負傷者をしっかりと気遣いなおかつ迅速に治療を済ませる。慣れていますね。ぜひ我が医学救急部に欲しい人材ですね。」
「彼女が入れば、さらに明るくなりそうですね。」
「………」
セナはチナツの表情を見て少し驚く。彼女は生真面目でなんでも抱え込んでしまいがちなのだがその彼女がそんなことを言うなんて。
「私たちも治療を再開しましょう。幸い優秀な援軍もさらにきてくれますよ。」
セナの言葉と同時に、テントの幕が開かれる。
「救護騎士団、鷲見セリナ現着しました!」
「セリナさん。そちら側の方の治療からよろしくお願いいたします。」
「わかりました!って…あれ?トリニティの制服…?」
「彼女はお気になさらず。後で事情を説明します。
ミネ団長は…?」
「だ、団長は現在温泉開発部と交戦中です。」
「…なるほど。さらに負傷者が増えそうですね。」
アハハ…とセリナは苦笑いをしすぐさま負傷者の治癒に移る。
救護活動は夜まで続いた。
*
「うーん疲れたなぁ…」
「遅くまでの治療お疲れ様です。ハルさんのおかげでかなり楽になりました。」
「これで楽かぁ…チナツちゃん達は大変だねぇ…」
もうすっかり暗くなってしまった街を歩きながら良いご飯屋さんを探す。そんな時だった。チナツちゃんが何かを言いたそうにモジモジしだしたのは。
「どうかした?チナツちゃん。」
「へ!?いや、その……も、もう夜も遅いですよね!」
「そうだね、ご飯屋さんだいたい閉まっちゃってるし。」
「…なら、私の家に来ませんか?」
「え!?いいの!?」
「も、勿論ですよ!今日のお手伝いの御礼を兼ねて…どうですか?」
「行く行く!」
*
フワフワとした良い匂いがするチナツちゃんの自室に私は招かれた。
医薬品などから棚に積み上がっている部分にチナツちゃんらしさを感じて思わず顔がニヤける。
台所からふわりと美味しそうな匂いがしてくる。
今チナツちゃんは私のためにご飯を作ってくれている。
ぐーぐーとお腹が空腹を主張してくるのに耐えつつその時を今か今かと楽しみにする、
少し待つと、チナツが台所から出てきて料理を持ってきてくれた。お味噌汁と卵焼き、白米というザ・家庭料理
を作ってくれたようだ。やばい美味しそうすぎる。
「少し時間がかかってしまいました。すみません。味は大丈夫だと思うのですが…」
「いただきます。」
もぐもぐ…………
「あ…美味しい。」
「へ!?あのハルさん!?なんで泣いて…?」
「あれ…、ホントだ。ご、ごめんね、泣くつもりなんて無かったんだけど…」
ヒフミの時と同じように私は気付けば涙を流していた。
そういえば最近はバイトの数と時間を増やしてまともに食事を取れていないんだった。人が作ってくれたご飯を食べるのは本当に何ヶ月か振りかも。
「あったかいなぁ……美味しくて、幸せで。」
「…ハルさん…。」
「へぁっ?チ、チナツちゃん…?」
気付けば私はチナツちゃんに抱きしめられていた。
柔らかい弾力に包まれて顔に熱が集まる。
「大丈夫ですよ、私はここにいますから。」
ぽんぽんと頭を撫でられ幸せな感覚に堕ちてしまいそうになる。
「ありがとね…チナツちゃん。もう大丈夫。」
「…本当に?」
「フフッ、本当だよ。助けられちゃったな。先輩の威厳が無くなっちゃう。」
「そんなの些細な問題ですよ。」
「それはそうかも。」
最後に頭をもう一度撫でられてから離してくれた。
体温が離れていくのが寂しくて抱きついていたくなったけれど先輩の威厳でなんとか耐えた。
「さぁ、冷める前に食べてしまいましょう。」
「そうだね。滅茶苦茶美味しいし!」
チナツが作ってくれたご飯を食べながら夜は更けていった。
*
「ーーきて!ーーーて!!」
「んぅ……?」
「起きなさい!!!ハル!」
「うぁぁ!?あれ、ヒナちゃん?」
微睡みから覚めたくなくて、布団にくるまろうとしたらヒナちゃんに布団を剥ぎ取られてしまった。
「って!?なんで裸なのよ!?」
「あぇ?ってえぇ!?なんで私裸なの!?」
「知らないわよ!ねぇ、チナツったら起きなさい!」
「……んぅ?ヒナ先輩…?なんでここに…ってえぇ!?」
ヒナがガサゴソと揺らしてようやく起きたチナツはヒナの姿を見て驚き次に自身の格好を見て驚いた。
「な、な、なんで私裸なんですか!?ていうかなんでハルさんと寝てるんですか!?」
「知らないわよ!…取り敢えず着替えなさい。目のやり場に困るわ。」
ヒナは頬を朱に染め目線を逸らす。美人二人の裸は目に毒だとでも言わんばかりに。
「「はい…」」
服を着替えて一旦落ち着いて話そうということになって
近くのカフェに場を移した。私はコーヒーが飲めないのでオレンジジュースを飲むことにした。
チナツとヒナはコーヒーを頼んでいた。大人の女性だ…
「で、二人は何をしていたのかしら。」
「それが…記憶が無くてですね…」
「右に同じです…」
はぁとヒナはため息をつき頭を抱える。
「まぁチナツのことだから…大丈夫だとは…思うけれど。」
「……」
「あ!もしかしたら、私が服脱いで寒くなっちゃってチナツちゃんにあっためてもらってたのかも!」
ハルは手をぽんと叩き今思いついた可能性を提示する。
ヒナは思った。こいつはバカなのかと。チナツはチナツで何も話さないし。この子は自身の外見と性格がどれほど魅力的なのかを理解していないのだろうなと思った。
身長は私やチナツより低く、なおかつ慎ましい胸。私ほどしかない。でも人懐っこい笑みやその優しさが周りにどれほど毒を振りまいているのかわかっていない。
「…まぁいいわ。チナツからは後で話を聞く。」
「……はい。」
「ねぇねぇフレンチトースト頼んでも良いかな!」
「勝手にしなさい。」
「やった!」
チナツのハルを見つめる熱っぽい瞳を見れば大方分かる。何かあったのだろうなと。呑気にフレンチトーストを待つ友人を眺めながら少し胸に走る痛みをヒナは無視した。
朝ごはんを食べ終わりお店を出た。
「ふぃーおいしかった!ゲヘナってご飯も美味しいんだね!てかなんでヒナちゃんはチナツちゃんの部屋に?」
「私はチナツが珍しく遅刻していたから心配になって見にきたのよ。」
「申し訳ありません、遅刻するなど…」
「気にしないでいいわ。昨日は温泉開発部の件で大変だったのでしょ。仕方ないことではあるわ。」
「おぉ…流石ヒナちゃん。」
「そういえばヒナ先輩、ハルさんの処置について…」
「あぁ、そうだったわね。色々なことがありすぎて頭から抜け落ちていたわ。」
「ん?私の処置?」
「そう、貴方の処遇。」
「え…私なんか悪いことしちゃった?」
「違うわよ…言い方が悪かったわね。ゲヘナ地区でトリニティ生が怪我をしたなんて大問題よ。そして貴女がゲヘナ地区に来たのはかなりの大事なの。ティーパーティー側から直接コンタクトを取られたほどなのだから。」
「もしかしてセイア…?」
「そう百合園セイア。ティーパーティーのホストにしてトリニティのトップ。貴女が問題を起こしていないかとか無事かとか。」
「…うひゃー迷惑かけちゃってる…」
「まぁ幸運なことに貴女はあまり目立っていないからこの一件は上層部とティーパーティーのトップの秘密ということになったわ。良かったわね。」
「あ、そうなんだ…後でセイアに謝らなきゃ…」
「貴女、やはり色々な人に愛されているのね。」
「う、うーんそうなのかなぁ…」
「少しは自分に自信を持ちなさい。…どうせ貴女のことだから観光にきたなんて嘘なんでしょ?」
「……!あはは…バレちゃってました?」
「「バレバレよ」でしたね。」
二人の声が重なる。まさかバレていたとは。
「実は…」
なんて言おう。未来の風紀委員長と仲良くなりたかったですとか?いやそんなの変なやつすぎる。でも親しくはなっておきたい。そしてヒナちゃんのメンタルケアと仕事を少しでも減らすために来ました。なんて言っても頭のおかしい人認定されるに違いない。
「……ごめん。まだ話せない。」
「…まぁいいわ。とにかく、今後貴方のゲヘナ内の立場についてだけど」
「私の立場?」
「そう、貴女の立場。トリニティ生がゲヘナ内を彷徨くのは危険だし、これからは…私の補佐官という立場ね。アコと同じで。」
「え?それってどういう…」
「つまり貴女はヒナ先輩の部下という立場になりました。私と同じで。」
「あ、そうなんだ…」
「正直嫌でしょうけどゲヘナ内で自由に行動するためにはこれが必要なの。許してちょうだい。」
「い、嫌なわけないよ!?ヒナちゃんの下につけるなんて嬉しいし!ただ驚いただけ。」
「…ふーん。」
「ハルさん、そういうの良くないですよ。」
「え?なんの話?」
*
あれからまた一週間が経った。救急医学部の活動を手伝いながら、ヒナちゃんの戦闘の補佐をする日々が続いた。とはいえ救急医学部はセナや、いつの間にかしゅんと現れるセリナのおかげで私がいなくても余裕で回せるレベルだ。一応セリナはトリニティの子のはずなのにきていて大丈夫なのだろうか。
セリナがいるのに気づいた時は叫び出してしまいそうだったが、なんとか耐え初対面のように振る舞った。いや実際には初対面なのだが。もう何度もスマホでではあるけど何度も話したり姿を見た身としては知り合いのような気分である。
セリナは私をよく褒めてくれる。治療の手際が素晴らしいだったり、トリニティに戻ったら是非救護騎士団に欲しいだったり。
好きなキャラに褒められるのが嬉しすぎて天国に昇りそうな気持ちで手伝いをすることができた。
セナとも話したかったのだがあまり話す機会がなく、すぐにゲヘナの滞在期間が終わってしまった。冬休みは後一週間ほどしかないのでそれまでに帰らなければいけない。
ヒナちゃんの手伝いだが、アコがとても優秀なので私なんてほとんどいらなかった。時々ヒナちゃんに抱きつこうとするのをヒナちゃんが制したりとキャラ達の掛け合いを目の前で見れたのがとても満足だった。
戦闘面でも私は余り前に出れないどころか銃さえまともに扱えないので負傷者を庇いながら時間を稼ぐので精一杯だった。少し耐えればヒナちゃんは必ず来て圧倒的な実力でボコっていくのでゲヘナはヒナちゃんがいれば安心というのにも頷ける。
そんなこんなで足手纏いになりながらも楽しい日々が続いた。おかげでイオリや、アコ達とも仲良くなれた…気がする。間違えてアコのおっぱいに触ってしまった時は中々に手痛いビンタが飛んできた。ヒナちゃんとイオリは呆れたような目で見てきた。酷い。
そしてトリニティに帰る日がやってきた。
雪が降って、しんしんとしている街にお別れを告げよう。
「また遊びに来るねー!!!」
「えぇ、いつでも好きな時に来なさい。風紀委員会は貴女を歓迎するわ。」
「ハルさん…トリニティでもお元気で!」
「ヘンタイかと思ったが…まぁ…また来いよ!」
「ヒナ先輩の秘書は私だけで十分ですが…まぁ使える人材ではありましたね。また来ることを許可してあげます。」
皆がそれぞれ激励の言葉をかけてくれる。
「……ふぅ、ありがとう!!!皆!!」
そのまま私は駅に向かって走った。お別れが寂しくなってしまう前に。
「トリニティじゃなくて…ゲヘナに来てくれないかしら。」
「仕方ありませんよ。彼女はティーパーティーのお気に入りのようですし。ヒナ先輩には私がいますよねぇ!?」
「うるさいわよ、アコ。帰りましょうか。」
「酷い!ヒナ先輩ひどいです!」
「アコちゃん…その辺にしとこうよ…」
*
ショートストーリー
風紀委員の部室にて。
モブ風紀委員ちゃん×2
「ねぇ、あんた行かなくて良いの?」
「は?何が」
「あたしたちを治療してくれたトリニティの子今日帰っちゃうらしいよ。」
「……別に。」
「はー意気地なしだねぇ…」
「意気地なしじゃない!ただヒナ先輩や、アコ先輩達だってお別れしたいだろう。譲っただけ。別に逃げたわけじゃない。」
「ふーん、まぁそれならいいけど。ねぇちょっと自分語りして良い?」
「どうした急に」
「あたしさ、トリニティのやつらなんて平和ボケしたお嬢様ばっかだと思ってたの。」
「…それは私も思ってた。」
「でもさ、ハルさんに治療されて、あの人に大丈夫だよ、って手を握られてさ。」
「なんだ自慢か、私だって頭撫でられたぞ。よく耐えたねって」
「は?」「は?」
「……まぁいいや、でさ、トリニティの子って平和ボケした人たちばっかじゃないんだって思ったよ。私たちみたいに苦労してないあまちゃんばっかじゃないんだって。」
「私もそう思った。やっぱり直に話さなきゃ分からないのかな。」
「キヴォトス人なんてそんなもんでしょ。」
「…でさ、私…惚れちゃったかも。」
「え゛」
「「え゛」じゃないわよ、どうせあんたも同じでしょ」
「バレてたか」
「だから、覚えてくれてないだろうけど、ハルさんにお別れとお礼を言いに行こうかなって。」
「……」
「だからさ、一緒に行こ?」
「……あんたって変な気きかすよね。」
「うるさい、行くよ。」
「うん」