※この作品はR-18です。

学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】   作:ドン・ドナシアン

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01 学園一の美少女は、きもデブの俺を逃がさない
001 本気に決まっている。名前、書いて


「おとなになったら、けっこんして?」

 

 五歳のとき、砂場で交わした約束だ。

 

 だが──俺はきもデブの陰キャになって、あいつは学園一の美少女になった。

 

 誰が見ても不釣り合いで、学園では会話すらない仲だ。

 だから、その話はもう終わっているはずだった。

 

 


 

 

 シャープペンの先が、何度も同じ数字の上で止まっている。

 

「そこ……公式違うよ」

 

 向かいに座る真白が身を乗り出し、ノートを指で軽く叩いた。

 大悟は小さく息を吐く。言われるまで気づかなかった。計算式が途中で破綻している。

 高校三年の四月。受験まで残り一年──。

 放課後は、大悟の部屋で真白と勉強するのが最近の習慣になっていた。

 

 大悟は教室の隅でゲームの話をする側の人間だ。体格は丸くて小柄。制服のブレザーはどこか窮屈そうで、座れば腹が机に触れる。あだ名は「キモダイ」。笑われることにも、もう慣れている。

 

 真白は違う。

 まず背が高い。廊下では自然と目線が上がる。手足は長く、立っているだけで姿勢が絵になる。制服なのに、なぜか雑誌の一ページみたいに見える。

 顔は小さく、目は大きいがきつくない。笑えば目尻がふわりと下がる。その瞬間、周囲の男子が一斉に静かになる。

 黒髪は艶があり、歩くたびにゆっくり揺れる。体育のあとでも乱れない肌は、やたらと光を反射する。

 「芸能人にいそう」という言葉では足りない。「芸能人より可愛い」と言い出す者が出るタイプだ。

 告白された回数は両手では足りない。断られた男子が廊下で落ち込む姿も、もはや季節の風物詩になっている。

 それでも女子から嫌われない。性格までちゃんとしているから、手がつけられない。

 教室に入るだけで、空気の温度が一段上がる。

 

 大悟とは、まるで別の世界の住人だった。

 そんな二人が幼馴染で、放課後に同じ部屋にいることなど、誰も知らない。

 知るはずもない。

 

 家は隣同士だ。

 生まれたときからの付き合いで、赤ん坊のころは同じ布団に寝かされていたらしい。物心つく前から隣にいるのが当たり前だった。

 小学校の高学年に上がるころには、真白はすでに目立っていた。運動会では保護者席がざわつき、授業参観では母親たちがひそひそと名前を確認し合う。学年が上がるたびに、可愛いという言葉が美人に変わっていった。

 それでも、放課後になると変わらず大悟の部屋に来た。

 ゲーム機の前に並んで座り、コントローラーを奪い合い、負ければ本気で悔しがる。

 中学に上がっても、高校に入っても、それは変わらなかった。

 真白がどれだけ目立つ存在になっても、大悟の部屋だけは昔のままだった。

 

 学校ではほとんど話さない。

 廊下で目が合っても、軽くうなずく程度。

 だが放課後になれば、隣のインターホンが鳴る。

 「入るね」という遠慮のない声とともに、真白はいつも通り上がり込む。

 

 真白のことを異性として意識していないと言えば、嘘になる。

 同じ机を挟んで向かい合うだけで、距離の近さに神経が集中する。身を乗り出してノートを覗き込まれれば、ほのかに甘いシャンプーの匂いが届く。そのたびに、意識するなと言うほうが無理だった。

 けれど──格が違いすぎる。

 

 廊下を歩けば視線を集める存在と、教室の隅で笑われる側の人間。

 並んで歩くだけで不釣り合いだと分かる距離だ。

 あれだけ告白されて、どうして誰とも付き合わないのかは分からない。もっと似合いの相手はいくらでもいるはずなのに……。

 それでも大悟は、考えないようにしていた。

 

 放課後に部屋に来る。ゲームをして、いまは一緒に勉強をする。それだけで十分だった。

 欲を出せば壊れる。

 壊れたら、もう二度と戻らない。

 真白と抱き合うようなことを思い浮かべるのは、夜、布団に入ってからだけだ。天井を見つめながら、もしも、と想像する。指先が触れたらどうなるか。肩を抱いたらどんな顔をするのか。

 

 だがそれは、現実では絶対に越えない線の向こう側だ。

 欲だけをひとりで処理して、すべて胸の奥に押し込める。

 幼馴染でいること──。それが、大悟の分相応だと信じていた。

 

「トイレ」

 

 大悟が立ち上がる。

 

「逃げた?」

 

「違う」

 

 短く返して部屋を出る。

 廊下の静けさに、少しだけ胸が落ち着く。

 「好きだ」とは言えない。言ってはいけない。

 いまの距離が壊れるくらいなら、この関係のままでいい。

 

 一階のトイレで用を足して、再び階段を昇って二階の部屋のドアを開ける。

 真白が本棚の前に立っていた。

 手にしているのは、表紙を別にして奥に隠したはずの一冊。女性の裸の写真集だ。いわゆる「エロ写真集」だけど、ただのエロ本じゃない。女が緊縛され責められている写真集だ。

 ただ裸なだけでは足りない。拘束され、身動きが取れない姿にこそ、大悟は強く惹かれる。

 キモい自分の性癖を真白に見つけられて、大悟の背筋が凍る。

 

「な、なにしてるんだよ──」

 

 声が裏返る。

 真白はゆっくり振り向く。

 

「これ」

 

 開かれたページには、全裸の女が後ろ手に縄で縛られ、テーブルの上に正座させられている写真があった。肌には縄の食い込み跡がくっきり残り、頬は紅潮している。

 視界に入った瞬間、大悟は駆け寄った。

 

「返せよ──」

 

 半ば奪うように取り上げる。手が震える。

 本棚の奥へ押し込む。さらに奥へ。

 耳が熱い。顔の温度が上がっているのが自分でもわかる。

 

「勝手に触るなよ」

 

「ごめん。ちょっと気になっただけ」

 

 真白は怒っていない。むしろ落ち着いている。

 その落ち着きが、余計に大悟の胸を締めつける。

 

「……ああいうのが……好きなの……?」

 

 小さな声……。

 

「いいだろう──。放っておいてくれ」

 

 言った瞬間、自己嫌悪が押し寄せる。

 こんな自分が、彼女と同じ空間にいる資格があるのか。

 

「……ごめん。きもいよな……」

 

 俯いて、言葉を出す。

 いつもそうしてきた。

 

「きもくないよ……。ただ、大悟がああいうのが好きなのか訊いただけ……。教えて……」

 

 真白がすっと大悟に近づいた。

 その距離はあまりにも近くてびっくりして顔をあげる。

 ほとんど顔が接するくらいの近さで視線が合う。

 慌てて距離を取ろうとしたが、真白に腕を掴まれて阻まれる。大悟の腹が真白の身体に触れ、真白の胸が大悟の肩に当たる。

 目の前の真白は真っ赤な顔をしていた。

 

「……十八歳なんだから普通でしょ」

 

「普通って……」

 

「いいよ」

 

 すると、真白が言った。

 

「いいって……なにが?」

 

 大悟はたじろいだ。

 

「ああいうことしても……。あたしもちょっと興味あるし……」

 

「えっ?」

 

「……それと、あたし、大悟のこと好きだからね」

 

「はっ?」

 

 耳にしたことが信じられずに、大悟は思わず問い返した。

 すると、目の前の幼馴染の美少女は、大悟の身体の腕を回して抱きついてきた。

 真白が大悟の腕を掴んだまま、壁際まで押し込む。高さの差で、大悟の視界は真白の胸元に塞がれる。

 逃げようと動いた拍子に、柔らかな感触が頬に触れた。

 

「逃げないで」

 

 真白が小さく囁く。

 

「お、おい……」

 

 大悟は真白の胸に顔を押しつけられたまま小さく返す。

 

「だから、あたしが大悟のことが好きってこと……」

 

「えっ……」

 

「聞こえた?」

 

「あ、ああ……」

 

「わかってる?」

 

「わかっているって……?」

 

「友達として好きとか、幼馴染として好きとか言ってないからね……。好き。ちゃんと男の人として……」

 

「えっ、えっ……あ、ああ、ありがとう」

 

 やっとのことで言った。

 

「じゃあ、返事は?」

 

「……はあ?」

 

「返事。大悟は、あたしのこといまでも好き?」

 

「いまでも?」

 

「約束のこと覚えている?」

 

「約束?」

 

 大悟は首を傾げた。

 真白の腕の力がわずかに緩む。

 大悟は反射的に身体を引こうとする。

 だがすぐに、手首を掴み直される。

 

「……あたし、忘れてないよ」

 

 真白は真っ赤なまま視線を逸らさない。

 

「大人になったら結婚するって言ったこと」

 

 胸がざわつく。

 

「ああ……あれ……幼稚園のとき、公園の滑り台の下だろ?」

 

 記憶が一気に蘇る。

 真白の顔が微笑む……。いや、実際にはほとんど表情は変わってない。でも、大悟にだけはわかるのだ。真白は喜んでいる。

 

「いや、滑り台じゃなくて、砂場」

 

「そうだったか?」

 

「そうだよ。あれ、冗談じゃないから」

 

 真白は間を置かずに言う。

 

「あれって……あれは、子どもの約束で……」

 

 大悟は視線を外す。

 

「あたしはずっと覚えていた……。だから、子供のときの約束じゃない……。大悟も忘れてないと思ってた」

 

 掴む力が強くなる。

 

「い、いや……だって……」

 

 ──まさか、この学園でも有名な美少女になった真白が、きもデブの俺と?

 

 あれは容姿も立場も関係なかった頃の話だ。いまは違う。一緒に過ごせるだけで奇跡だと思っていた。

 

「まさか、忘れてたの」

 

 問いが落ちる。

 

「忘れてない」

 

 大悟は息を飲む。

 

「じゃあ、いまは?」

 

 真白の瞳が揺れない。

 

「いまも、あたしのこと好き? 大悟に飽きられないように、頑張って綺麗になったつもり。胸だってたくさん頑張ったし……。大悟って、おっぱい大きい方が好きだよね。隠している写真は、そんな女の人が多かった……」

 

「お、多かったって、見たのかよ──?」

 

 声をあげた。

 

「見たよ。大悟に気に入られる女の子になりたかったし。縛ったりするのが好きなのも知ってる……」

 

「お、お前……か、勝手に……」

 

「返事して。あたしは告白した。大悟はどうなの? あたしのこと嫌い?」

 

 真白が真っ直ぐに大悟を見る。

 もう逃げ道はない。

 

「……す、好きに決まっているだろう……。お、俺が真白のこと嫌いなものか──。大好きだよ。でも、お前は高嶺の花で──こんなきもデブの俺とは釣り合わなくて……」

 

「あたしは高嶺の花じゃないし、大悟がこんなってなに──? ……まあいいや。じゃあ、約束……」

 

 真白が大悟の腕をやっと離す。

 トートバッグからなにかを探して座り直すと、迷いなく透明のファイルを取り出した。そのファイルからなにかの紙を拡げる。

 

 『婚姻届』──。

 

 そこにはそう書いてあった。

 本物だ。

 

「は、はあ、なにこれ──?」

 

 大悟は声をあげた。

 役場に提出する本物の婚姻届だ。

 しかも、すでに名前が書いてある。

 

 “妻になる人”── 一条真白──。

 

 “夫になる人”の欄は空欄だけど、証人の欄には、真白と大悟の母親の署名が終わっていた。

 

「大人になったら結婚してくれるって約束した……。あたしも大悟も、十八の誕生日が終わって大人……。名前を書いて」

 

「書いてって……お前」

 

 大悟は息を呑んだ。

 真白も大悟も四月生まれで誕生日は近い。だからこそ、隣同士で、赤ん坊の頃から親同士が仲がよかったのだが、確かに、この前ふたりの誕生日の終わったいまは、一応は成人していることになる。

 だけど……。

 

「……あっ、だけど、なんで……お袋たちの名前が……?」

 

「あたしのお母さんは、あたしの気持ちをずっと知っているから……。大悟のお父さんとお母さんは泣いて喜んでくれた」

 

 真白は幼稚園のときに父親を亡くして母子家庭だ。大悟の家で預かることも多く、大悟の両親も“お父さん”“お母さん”と呼ぶ。その親たちもすでに認めているってこと?

 

「名前、書いて──。約束、守って……。そしたら、大悟が好きなこと……あたしにしていい……」

 

 真白が婚姻届を大悟の方に押しやる。

 

「好きなことって……」

 

 大悟は息を飲む。

 

「これ……でしょう?」

 

 真白は大悟がとりあげて、まだ手に持ったままだった、女が縛られているエロ写真集を指さした。

 

「言っておくけど、答えは、“はい“か”うん”。あの約束が嘘と言うなら、あたしにも考えがある」

 

「なんだよ………。考えって……?」

 

「……さあ。ただ、最終的には大悟はわかってくれる……それだけは言っておく」

 

 真白がじっと大悟を見つめる。

 大悟は、息を呑んだ。真白が真剣であることがわかったからだ。

 長い付き合いだ。

 真白は一度決めたことは絶対にやり遂げる。どんなことでもだ。

 これは、逃げられない。

 逃げれば、真白は言葉のとおり、どんなことでもするだろう。

 大悟は、それを理解した。

 

「お、お前……本気……なんだな……」

 

「本気に決まっている。名前、書いて」

 

 大悟がテーブルに座り直すと、真白は筆入れからボールペンを取り出して、大悟に渡してきた。

 震える手でボールペンを受け取る。

 紙の上に置いた瞬間、ペン先がわずかに引っかかる。

 

 ──木許。

 

 一画目で止まる。呼吸を整え、もう一度。

 

 ──大悟。

 

 最後の払いが歪んだ。インクがわずかに滲む。

 それでも、名前はそこに残った。

 書き終えた瞬間、真白が素早く婚姻届を取り上げる。

 ためらいなく透明ファイルに挟み、そのまま胸に抱いた。

 

「これで、法的に大悟は、あたしの旦那様」

 

 表情のない真白には珍しくくすりと笑う

 婚姻届をファイルごと抱きしめたまま、目を細める。

 

「……あの……それ……どうするんだ?」

 

 大悟が恐る恐る訊ねる。

 

「提出するよ……。いつかね……」

 

 あっさりと言う。

 

「……いつか……か」

 

「うん……。でも、これで大悟はあたしの旦那様だからね。浮気は許さないから」

 

 ファイルをバッグにしまいながら、真っ直ぐに睨む。

 

「す、するわけないだろう。お前、この俺だぞ──。木許大悟で“きもだい”で“きもデブ”の俺だ。女になんか相手にされるものか──」

 

「ならいい……。ずっときもデブでいて。大悟はあたしだけのきもデブでいて」

 

 立ちあがり、近づく。

 

「これで、あたしもいずれは、木許真白。もう戻らないよ」

 

 静かに笑う。

 

「……お前……本当に……いいのか……俺で……」

 

 声が掠れる。

 

「大悟がいい。大悟以外は考えられない」

 

 即答だった。

 視線が逸れない。

 逃げ道は、どこにもない。

 だが、不思議と嫌ではなかった。

 

「……じゃあ、あたしも約束……」

 

 真白はトートバッグを抱えたまま、大悟のすぐそばに正座した。

 膝を揃え、背筋を伸ばす。その仕草はどこか儀式めいている。

 バッグの中を探り、ゆっくりと取り出したのは、黒い革の枷だった。金具が小さく光を反射する。

 

「えっ?」

 

 大悟の喉から声だけが漏れる。

 

「……調べた……。大悟は縛るのが好きだけど、経験はないでしょう?」

 

 落ち着いた声だった。

 

「そ、それは……」

 

「それはこれから先で練習しよう……。とりあえず、こんな簡単なものでした方がいい」

 

 真白は革枷を大悟の手に押しつける。

 そして、迷いなく両手を背中に回し、大悟に向けて差し出した。

 

「えっ、えっ、えっ……お前って?」

 

「手錠して……好きなことしていい」

 

「い、いや……それって……。いやいやいや、そもそも、これ……どうやって……」

 

「通信販売。大人だからこんなものも買える」

 

 さらりと言う。

 

「買ったのか」

 

「さっきも言ったけど、最初から縄は無理だと思う。はじめはこれで……」

 

「え、でも……」

 

「いいの……。あたしも……そっちが興奮するかも……。ほら……」

 

 真白はさらににじり寄る。

 距離が詰まり、甘い匂いが濃くなる

 大悟は口の中に溜まった唾を飲み込んだ。

 

 震える指で、細い手首に革枷をかける。金具が小さく音を立て、固定される。

 真白はわずかに肩を揺らし、背中で両手を試しに動かした。

 

「ふふふ……これで、なにも抵抗できないよ……。大悟も興奮する?」

 

 試すように視線を向ける。

 

「こ、興奮する……」

 

 大悟は思わず頷いた。

 

「……ほんとだ」

 

 真白が大悟のズボンの前をちらりと見た。

 

「ま、真白……大事にするから」

 

 大悟は手を伸ばして、がばりと真白に抱きつく。

 そのまま押し倒そうとした。

 しかし、真白が少し抵抗する。

 

「……最初はキスから……」

 

 真白が顔を突き出すようにする。

 大悟は後ろ手のままの真白を抱き寄せて、思い切り口づけをした。

 がちんとちょっと歯が当たったが、真白はなにも言わずに、口を少しだけ開いて、大悟の口の中に舌を差し込んできた。

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