学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】 作:ドン・ドナシアン
「ねえ、朝、校門で公開告白したっての、ホント?」
「一条さんとあんたが婚約したってのも、流れ出したけど? あんた、なんかしたの?」
なぜか、三人の女子が面白がるように、大悟の机に寄ってきた。
片桐レナ、姫野ミカ、神崎ユイ。クラスのギャル三人組だ。
上位グループではないが、空気を気にしないので誰にでも絡む。大悟からすれば、正直、関わり合いになりたくない連中だ。
大悟は座ったまま、とりあえず、三人を見上げた。
「付き合ってるのは本当だよ」
仕方なく、短く答える。
「うわ、即答?」
「迷いゼロじゃん」
「へえ、否定しないんだ」
三人の顔に浮かんでいた嘲りが、少しだけ形を変える。
面白がるような笑みに近くなった。
「ねえ、ねえ、朝に大勢の生徒の前で公開宣言ってなにさ? なんか、学内SNSで流れまくってんだけど」
「まあ、それも本当」
大悟は淡々と続ける。
「言ったって……マジのマジ?」
「なんか、すごかったって話だけど、どんな風に言ったのさ」
「どうって、真白の恋人が俺だって……」
答えてる途中で、三人が一斉に途中で歓声をあげる。
「うわっ、“真白”呼び?」
「あんたさ、あのお姫様のこと呼び捨てしてんの?」
「ちょっと待ってよ。あんた、くそ度胸あるじゃん」
「きもダイって、もっとさ」
「……もっと陰キャかと思ってた」
「うわっ、ユイ、はっきり言っちゃうの?」
「だめだよ。こんなデブでも、お姫様のお相手なんだから」
三人が顔を見合わせて、次の瞬間、同時に吹き出した。
そもそも、大悟が口を挟む余裕もない。
まったく、なにしに来たんだろう。
「あわあわするタイプじゃなかった?」
「あたしらにも、堂々としてるしさあ」
「否定しないというのは男らしいね。うん、ポイント一点ね」
「百点中の一点だけどね」
大悟は息を吐く。
早くどこかに言って欲しいんだが……。
三人で盛り上がるなら、別の場所でやってほしい。
大悟は、三人の会話を聞き流しながら、カバンから数Ⅲの教科書とノートを出す。そのあいだも、三人は大悟の前で愉しそうに笑い続ける。
「……ちょっと、キモ──。無視しないでよ」
片桐レナが笑いながら大悟の肩をぐいと押した。身体が少し引き起こされる。
そのときだった。
「……なにしてるの?」
すぐ横から声が落ちた。
三人だけでなく、大悟の動きも止まる。
そこに、立っていたのは真白だった。
ぱん、とレナの手が払いのけられた。
「えっ?」
レナが顔を向ける。
「あれ、真白?」
思わず、声をかける。
ついさっきまで、教室の中央でカースト上位の連中に囲まれていたはずだ
大悟の席は窓際の一番後ろだから、いつ移動してきたのか、まったく気づかなかった。
それはともかく、スカートの中になにもはいてないのが気になるのか、片手はしっかりとスカートの上に置かれている。大悟はそれに気がつき、少しほくそ笑む。
真白の顔を見る。
相変わらずの無表情だが、大悟には怒っているとわかった。
さらに、三人を押しのけるようにして、大悟とのあいだに割り込んできた。
しかも、レナが触れた大悟の肩に、上書きするように手を置く。
三人が呆気にとられている。
だが、すぐにレナが口元を緩め、ちょっと挑戦的な表情になる。
「へえ……どうしたのさ、お姫様……。まさか、あんたの王子様を助けにきたの?」
「安心してよ。あたしら、きもダイをどうこうする気ないから」
ミカも揶揄うように肩を竦める。
「ただちょっと、話を聞いてただけだし」
ユイは真白と大悟を見比べて、くすりと笑う。
だが、真白は答えない。
大悟の肩に置いた手を、そのまま動かさない。
ただ三人を順番に見た。
「……話まではいい……。でも、触らないで……」
静かな声だった。
「なに? まさか、嫉妬?」
「そんなキャラじゃないでしょ」
「焦んなくても、こいつを狙う女子なんて、ないって」
「うんうん、ないない」
ミかが笑いながら、手を下に向けて振る動作をする。
ほかのふたりも、ふざけた雰囲気で笑っている。
ただ、真白は三人を睨んだままだ。
すると、その三人の顔が硬直したようになった。
「えっ、なに、本気で怒っているの?」
「お姫様が?」
「ああ……大丈夫だよ、一条さん……。あんたがいるのに、きもダイがあたしらに気なんか向けないって」
三人が気後れしたように、半歩ずつ下がる。
「大悟は、あたしのだから」
真白が静かに言った。
すると、授業開始のチャイムが鳴る。
「えっ、お姫様って、そんなキャラ?」
レナが呟くのが聞こえた。
教室の前の戸が開き、教師が声を掛けながら入ってくる。真白は、大悟たちに背を向け、何事もなかったかのように戻っていく。
大悟はほっとした。
「びっくり、マジ?」
「なんか……おもしろ……」
「……お姫様がマジ」
三人が真白の背中を見送りながら小さくささやき合ったのが聞こえた。
ユイがすっと大悟に振り返った。
「ねえ、あんたのお姫様……やばくない?」
「こらあっ──席につかんか、お前ら──」
すると、すでに教卓にいる数学教師が苛立ったように怒鳴る。
三人が慌てて席に走った。
「ここを微分する。極値は導関数がゼロになる点だ。ここまでは機械的にできるようにしろ」
数学教師がそう言って黒板に向き直り、チョークを走らせ始めた。教室には式を書きつける乾いた音が響く。それに、ノートをめくる音、シャープペンの走る音、誰かの小さく咳が混じる。
ほとんどの生徒は黒板を見ている。
教室の中央付近にいる真白もノートに式を書き写していた。背筋を伸ばしたまま、顔は上げない。
その瞬間だった。
ぽん──。
小さな紙の包みが大悟の机に当たる。
だが勢いが足りなかったらしい。端に当たって跳ね、そのまま床に落ちた。
大悟は顔を上げて、投げた方向を見る。
神崎ユイ──。
さっきの三ギャルのうちのひとりだ。
大悟と同じ最後尾席であり、ユイは一列向こうの列の最後尾だ。ふたりのあいだの席は空いていた。
ユイは、片膝をついて、こっちを覗き見るようにしながら、肩を震わせている。どう見ても笑っている。
大悟は小さく息を吐いて、机から身を乗り出して、腰を屈めて落ちた紙を拾う。
そのとき、「ぽと」と音がした。
はっとする。
布が床に落ちていた。
一瞬、大悟の動きが止まる。
白いショーツ──。朝のホームルーム前に、真白から脱がせたものだ。
一瞬、頭が空白になる。
慌てて、拾い上げて、ポケットに押し込む。
反射的に周囲を見た。
ユイと目が合う。
その眼が大きく開かれている。
驚いた顔だ。
頬がわずかに赤い。
固まっている。
すると、ユイの表情がゆっくり変わっていく。顔が赤いまま、意味ありげに微笑む。
そのユイの視線が、大悟のポケットに向く。
ついで、もう一度、大悟を見る。
口元が、再びにやりと緩んだ。
なにかを察した顔だ。
大悟は小さく舌打ちする。
とりあえず、ユイから視線を外して、拾いあげた紙の包みを開く。
『あんたのお姫様、ガチ惚れ?』
大悟は紙を机に置く。
すると、すぐに二枚目の紙が飛んでくる。
今度はちゃんと机の上に落ちた。
ユイを見ようとしたが、ちょうど数学教師が生徒側に振り返ったときだったのでやめる。
その代わりに、二通目のメモを開く。
『昼休み、お話しようか』
大悟はとりあえず無視した。
意識を教師の説明に戻す。
すると、三枚目が飛んできた。
今度も机の上にちゃんと落ちる。
仕方なく、開いた。
『大丈夫、二人だけ。秘密は守るよ』
大悟は顔を横に向けて、ユイを見る。
ユイは、もう笑っていなかった。
じっと大悟を見ている。
そして、悪戯を思いついた子供のような顔になったかと思うと、突然にこっそりとスカートの横のチャックを下ろしだした。
そのまま視線を向けていたら、ユイが完全に開いた制服のスカートのチャックの部分から、スパッツを少しだけずらして。白いショーツを見せた。
大悟の肩がびくりと跳ねる。
ユイの肩が、必死に笑いを堪えるかのように、小刻みに震えだした。