学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】 作:ドン・ドナシアン
「なんだよ、話って?」
武道場裏の自販機前にやってきた大悟は、不機嫌さを隠すことなく、待っていたユイに声を掛けた。昼休み前に、ユイからこっそり渡されたメモに書かれていた場所だ。
放課後なら部活の連中がたむろすることもあるが、昼休みは校舎から離れていることもあって人の気配がない。
ユイは自販機の横にある木のベンチに腰掛け、足を組んだままスマホをいじっていた。
大悟に気づくと顔を上げる。
「遅かったじゃん。お姫様をまくのに時間かかった?」
ユイがにやりと笑う。
「真白はいつもの仲間と一緒だよ。別に一緒じゃない」
「いいの? お姫様をノーパンにしといて、放っておくの?」
大悟の胸がわずかにざわつく。
数学の授業中、ポケットから落ちた真白のショーツ……。ユイに見られているのはわかっている。
「なんのことだか、わかんねえな」
しかし、大悟は白ばっくれる。
「惚けんなって」
ユイは肩をすくめる。
「なんも惚けてねえよ」
「……ふうん……。数学のときさ……。メモ拾ったとき、ポケットから落ちたよね」
少し間を置いて、わざとゆっくり言う。
「……ハンカチをな」
「白いショーツだよ。お姫様のね」
ユイがにやりと微笑む。
大悟は、表情が固まりそうになるのを耐える。
「あり得ないだろう──。まあ、万が一、あれが女物のショーツだとしても、真白がノーパンってなんなんだよ……。冗談に付き合うほど余裕はねえんだ。もういいか?」
大悟は息を吐く。
だが、ユイは愉しそうな表情を崩さない。
「だから、そんなのいいって。ほかの連中は気がつかないみたいだけど、いつも冷静なお姫様が、あんなにおどおどして落ち着かない態度だし、左手はずっとスカートの上。わからないはずがないよ……。それに、眼でわかる」
「眼で?」
大悟は首を傾げた。
真白の様子がいつもと大きく違っているとは、とても思えなかった。大悟以外には人形のような無表情は変わってないし、態度に不自然なところはない。
さすがは真白だと思っていたくらいだ。
ただ、ユイの言う通り、ずっとスカートの上に手を置いているのは、珍しい真白の動揺であり可愛いとは感じた。
「……淫乱な雌の眼だよ……。昼休みが始まって、教室を出て行くときも、同じ欲情した眼だった。いつものクラスメイトに囲まれながら、きもダイにすがるように視線を向けてたじゃないか。気がつかなかったのかい」
ユイがけらけらと笑う。
「えっ、そうなの?」
大悟は思わず言った。
真白がそんな風に大悟を見ていたなんて、全く気がつかなかった。
すると、ユイがくくっと笑った。
「はい、当たり。やっぱり、あれは、お姫様から脱がせた下着だね」
ユイがにやりと微笑む。
「俺を試したのか?」
「お姫様があんたを見ていたのは本当だよ。それに、あたしは、あんたたちと二年生のときにクラスメイトになったときから、気がついてたよ」
ユイが言った。
この学園の高等部では、二年生進級時に、進路コース別にクラス分けがあると、三年進級のときには原則クラス替えがない。だから、いまのクラスになって一年以上は経っている。
「気がついていた? なにをだよ?」
「お姫様があんたを見る眼が特別なことだよ……」
ユイが笑みを浮かべたまま意味ありげに告げる。
「特別? 嘘つけ。どうして、そんなことがわかる?」
大悟は吐き捨てた。
真白が大悟のことを本気で相手にするだなんて信じたのは、つい一昨日のことだ。それまで、ずっと近い距離でありながら、大悟は真白のことを高嶺の花としか考えてなかった。
それにもかかわらず、ユイはずっと前から、真白の感情に気がついていたという。
「どうしてわかるかって? それは、あたしが天才だからよ」
ユイが大笑いする。
大悟は小さく舌打ちした。
「天才って……お前、俺よりも成績は下だろう」
大悟が理系組全体で真ん中よりも上くらいだが、少なくとも、三ギャルよりは成績が上の自信はある。なお、真白は常に成績トップだ。
「人を見る眼の天才」
「なんだ、それ」
「でも、レナとミカもそうだし、他の連中は、お姫様とあんたがカップルになったのを驚いているし、まだ信じてないのが大半だけど、あたしは、そうなると思ってた。そのくらいに、お姫様があんたに向ける眼に熱があった」
「そう……なのか?」
「ああ、びっくりだよねえ。キモダイと学園一の美少女がカップルになっただけでも大事件なのにさ。しかも、あんたがご主人様っぽいんだもん。逆ならまだわかるけど」
「それについては、なんのことかわかんねえって言ってんだろ」
大悟は声をあげた。
「おお、こわっ……。でも、意外だったのはあんただ。お姫様があんたを好きなのは、前から察しがついてたけど、カップルになっても、陰キャのあんたが堂々と交際を認めるとは思ってなかった。しかも、喋れないんじゃなくて、喋らないだけだったんだね」
「……もう、話は終わりか? もう、俺は行くぞ」
結局、ただの雑談だったのだろう。
大悟は、背を向けて歩き出そうとした。
「ちょっと待ちなよ──。警戒しなくていいって。誰にも言わないから。あんたらの、学園内プレイのことなんて」
「……誤解だよ。プレイなんてしてねえ。じゃあな」
大悟は振り返らない。
「……なら、せめて、缶コーヒーでも飲んでいきなよ」
背中からユイの言葉とともに、彼女が座っているベンチがコツンと音が鳴るのが聞こえた。
振り返る。
そこには、背中に隠していたらしい缶コーヒーが二本あった。事前に自販機で買っていたものだろう。
「あんたの好みがわかんないから、甘いのとブラックと一本ずつ買った。あたしはどっちでもいい。好きなのを選びなよ」
「はあ? お前が奢ってくれるの?」
「奢るだけじゃないよ。いいもの見せてやるから……、まあ、座りなって、きもダイ」
ユイがベンチの横をぽんぽん叩いた。
「……用件言えよ」
大悟は立ったまま睨む。
「警戒すんなって……。ほら、コーヒー……。それとも、コーヒー、飲めなかった? あたしは、好きだけど」
ユイが二本の缶コーヒーを押して、少しだけ近付ける。
「コーヒーは好きだ……。だけど、おかしいだろ。きもデブの俺になんで奢りなんだよ? 不気味すぎるだろう」
大悟は用心深く立ったままでいた。
距離も詰めない。
「いや、あたしは感心してんだよ……。そして、自分に呆れてるんだ。こんなところに、逸材が隠れていたとはねえ」
「逸材? まさか、俺のことを言っているのか?」
大悟は訝しんだ。
「そうだよ。あたしがコーヒーを貢ぎたくなるほどのね」
ユイがもう一度、自分の隣を手で軽く叩く。
誘うように。
「……座ってくれないと、スカートめくるよ」
ユイが不敵に微笑んだ。
「はあ?」
思わず、声を出す。
聞き間違えたか?
「スカートをめくるっていったのさ。それと、ここに来る前に、下着もスパッツも脱いできた」
ユイはさらりと言う。
「えっ、お前、なに言ってんの?」
慌てて、周りを見る。
十中八九……いや、十のうち十の確率で、三ギャルの残りがどこかに隠れていると思った。
これは、たちの悪い「嘘告」紛いだ。
多分、大悟が反応した瞬間に、どこからかあいつらが登場するに違いない。
いや、すでにどこからか撮影しているかも──。
「なにも、仕掛けてないよ……。つまりは、いま、あたしもノーパンということさ」
そう言うと、ユイは足を組んだままスカートの横をつまんだ。
すっとめくっていく。
腰のあたりまで一気にめくれた。
大悟は息を呑んだ。
横からだけだが、スカートは完全にめくれて、腰骨まで見えた。
本当に、なにも履いていなかった……。
「うわっ、お前……なんで本当にはいてないんだよ──」
思わず声が出る。
「はは……」
ユイが笑った。
慌ててスカートを下ろし、両手で押さえる。
「や、やってみたけどさ。さすがにハズいね……」
ユイの顔は真っ赤だった。
「お、お前……」
大悟は唖然となる。
「すっごいドキドキした……。ああ、恥ずかしい……」
ユイは組んでいた脚をおろして、しっかりと膝を揃えるように座り直している。両手はスカートの上だ。
「そんな反応するくらいに恥ずかしいなら、最初からすんなよ……」
大悟は溜息をつき、ベンチに腰を下ろす。
ユイがびくりと身体を跳ねさせた。
「……だけど、本当にノーパンなのか?」
大悟は半分呆れて訊ねた。
「そう……だよ……。くそう……。もっと、余裕噛ましたままでいるつもりだったのに」
ユイの顔はまだ真っ赤だ。
「お前、痴女かよ」
「女なんて、みんな大なり小なり痴女だよ。隠してるだけさ。あんたのお姫様もそうだろう?」
ユイは大悟の方を向いて笑う。
違う──とは言いにくい。真白と大悟は、成り行きだが、かなりマニアックな愛しか交わしてない。
大悟は変態で、真白は痴女になるのか?
「ほら、否定しないじゃないか──。やっぱり、あんたは、あたしが見抜いた逸材だ……。ほらっ」
ユイが二本の缶コーヒーのうち一本を渡してきた。
受け取り、その缶コーヒーのタブを引いた。
プシュッと音がする。とりあえず、ひと口飲んだ。
「ブラックか」
大悟は小さく言った。
もしかしたら、大悟もまた、動揺しているのかもしれない。渡された缶コーヒーが甘いのか、ブラックなのか確認もせずに口にしていた。
「……で用件は?」
大悟は訊ねた。
しかし、ユイはなかなか口を開かない。
「……コーヒー飲み終わったら、俺は行くぞ」
大悟は缶コーヒーを飲みながら言った。
「……わかってる。でもいざとなればね……」
ユイが大きく息を吐いた。
横を見ると、ユイの顔はまだ真っ赤だった。
大悟はしばらく待ったが、ついに缶は空になった。
横を見る。ユイはまだ一口も口にいていない。しかしスマホは握ったままだ。
「きもダイ、あんた、口は硬いよね?」
ユイが低い声で言った。
そのまま、意を決したように手に持っていたスマホをそうさをしてか大悟へ差し出す。
大悟は眉をひそめたが、とりあえずそれを受け取った。
画面に目を落とす。
「えっ?」
思わず声が漏れる。
そこに映っていたのは、下着姿の少女が縄で縛られている写真だった。
両腕は背中でまとめられ、胸の下から腰にかけて細い縄が幾重にも巻かれている。縄は身体の線に沿って整然と走り、結び目は胸の中央で小さくまとめられていた。脚にも縄が回され、太腿と膝の上を縛っている。
顔は写っていない。肩から下だけの写真だ。
それでも目を奪われる。
構図は素人っぽかった。背景は部屋の壁らしく、照明も普通の室内灯だ。それでも、なぜか、惹きつけられる。
なによりも、縄が凄い。
縛っている縄だけでなく、背後の壁にも縄が張られている。蜘蛛の巣のように広がる縄の線が、身体の縄と繋がるように配置されていた。演出なのかもしれない。
それが妙に綺麗だった。
大悟は唾を飲み込む。
無言で画面をスクロールした。
同じ少女らしい写真がいくつも並ぶ。顔はどれも隠されている。下着姿のもの、水着のもの。縛り方も少しずつ違う。
だが、どれも縄が整っている。
そして少し──いや、かなりエロい。
「……これ、なに?」
大悟は画面を見たまま呟いた。
さらにもう一枚、画面を指で送る。
「綺麗な縄だな……」
思わず口にしていた。
すると、横にいたユイががばりと身体を向け直した。
「あんた、やっぱりあたしが見込んだ逸材だよ。縄がわかるんだね」
「えっ、縄?」
大悟は画面から目を離し、ユイを見る。
ユイはにやりと笑った。
「あたしさ、あんたみたいなの探してたんだ。彼女持ちだしね……。ねえ、あたしのご主人様しないかい?」
「はあ?」
大悟は思わず問い返した。