学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】 作:ドン・ドナシアン
真白の部屋は静かだった。
物が少ない。机の上にも棚の上にも余計なものはほとんど置かれていない。整然としていて、生活の気配が薄い。几帳面な真白の性格もあるが、それだけではない。
一条家は母子家庭だ。
母の麗子は、女性向けの服や装飾品を扱う店をいくつも経営している女社長で、家を空けることが多い。
そのため真白は、昔から木許家に預けられることが多かった。
大悟の家には真白の自室まで用意されているくらいで、生活に必要なものの多くは、むしろあちらに置かれている。
この部屋にあるのは、本当に必要なものだけだった。
その床の中央に、大悟は胡座をかいて座っている。
真白は、一階に入浴をしに行っており不在だ。
目の前には数束の縄が広げられている。
麻縄だ。
束ねられていたものは全部解かれており、大悟が一本一本をまっすぐ床に伸ばして並べたものだ。半分は真白がいつの間にか購って押し入れに隠していたものだが、残りの半分は大悟が小遣いで購入したものである。
大悟は、もう一度、その中の一本を手に取る。
両端を持って軽く引く。
縄がぴんと張り、撚りが揃っているか目で確かめるようにゆっくり視線を走らせる。
途中で指を止めた。
表面の繊維が、まだ少しだけ飛び出していた。
膝の横に置いていた小さなはさみを手に取り、縄を軽く摘まんで、飛び出した繊維だけを、慎重に切り落とす。
切りすぎないように。
表面だけ整える。
はさみを置くと、今度は床に置いていた蝋燭に手を伸ばした。
小さな燭台に載っている蝋燭の炎が揺れる。
大悟は縄を軽く張ったまま、炎をそっと近づけた。
表面をなぞるように火を走らせる。
ぱち、と小さく音がして、飛び出していた細い繊維が焦げる。
黒くなるほどではない。表面が軽く炙られる程度だ。
焦げた繊維を指で払うと、表面が少しだけ整った。
蝋燭を離し、今度は小さな布を手に取る。
その布には、わずかに油が染み込ませてある。
大悟は縄を布に挟み、ゆっくりと引く。
繊維に油を馴染ませるように、少しずつ通していく。
塗りすぎないように。
軽く滑りが出る程度でいい。
全部通し終えると、縄を両手で持ち替えた。
手のひらで擦る。
麻の繊維が擦れ合う、乾いた音が部屋に小さく広がる。
一度目に触ったときより、だいぶ柔らかくなっている。
新品の麻縄は硬い。
手に食い込むし、結びも締まりすぎる。
こうして何度も手入れして、少しずつ馴染ませる。
そうすると、扱いやすくなる。
なによりも、真白の白い肌に傷をつけにくくなる。
ネットで調べた。
本でも読んだ。
SがMに使う縄はただの道具ではない。使うなら、きちんと整えておくべきだと書いてあった。
大悟はもう一度、縄を張る。
指先で撚りをなぞる。
硬さを確かめる。
問題ない。
大悟は、その縄をまとめると、次の縄を手に取った。
軽く振って癖を伸ばし、床にまっすぐ広げる。端を持って引き、撚りを確かめる。
静かな部屋に、麻縄の擦れる音だけが続いていた。
そのとき、部屋の扉が開いた。
「わっ、お前なんて格好なんだ」
大悟は思わず顔を上げる。
入ってきたのは、バスタオル一枚の姿の真白だった。
胸の上で押さえるように巻かれた大きめのタオルが身体を覆っているだけで、肩から鎖骨にかけての白い肌がそのまま露わになっている。
その肌は風呂上がりの赤みをわずかに残しながらも、乳液を塗り込んだ後のようにしっとりとした艶を帯びていた。自分で丁寧に手入れしてきたのだと分かる滑らかさだった。
髪も濡れたままではない。
きちんと乾かされた黒髪が肩から背にかけて真っ直ぐに落ち、整った顔立ちを縁取っている。頬にはまだわずかな赤みが残り、いつもより柔らいだ表情に見えた。
胸の前に、パジャマとブラを抱えている。
「どうせ、すぐ脱ぐから」
真白は首をわずかに傾げる。
「すぐ脱ぐって、お前」
大悟は縄を持ったまま目を瞬かせた。
「着ているものを脱がしたいなら、今から着る……。でも、ショーツはつけている」
真白は腕に抱えているパジャマを机に置くと、ほんの少し持ち上げて、白い下着を見せた。
「ま、まあ、合理的だけど……」
大悟は視線の置き場に困り、とりあえず、手元の縄を片付け始める。
「それより、なにをしていたの?」
「縄の手入れだ。そ、その……明日はユイが来て、撮影するだろ。……そのう、緊縛を……。だから」
大悟は縄束をひとつひとつ丁寧に箱にしまっていく。
「ふうん。縄って、手入れがいるものだったんだ」
真白が、大悟が縄を片付けた箱を覗き込んでくる。
「なんでもそうだ。革枷だって手入れがいるぞ。真白の肌に直接に触れるものだからな。あっちもさっき終わった」
「ふうん、優しいんだ」
真白が身体を軽くすり寄せ、大悟の顔を見る。
いい匂いがして、それだけで大悟は心臓が痛いほど動悸が激しくなった。
「お、お前を苛める道具を整えているだけだ。優しさなんかじゃねえ」
大悟は照れ隠しに、思わず眼を逸らす。
「教えてくれれば、あたしがやるのに」
「ばーか、これはSの役目だ」
大悟は立ちあがり、真白が使っている椅子に腰をおろして座る。
すると、真白が押し入れに向かい、一冊の本を持ってきた。
「……じゃあ、今夜はこれ……。一応勉強したけど、色々なやり方が書いてあった、正解がわからなかった。だから、大悟が教えて」
真白が大悟に手渡してきたのは、薄めのエロ雑誌だった。
「……お前、これ」
表紙には派手な文字と、胸と下腹部を剥き出しにされたスーツ姿で縛られている女が跪いて、女生徒を扮しているらしい童顔の女がしているペニバンを口に含んでいる写真が並んでいた。SM専門誌だ。目立つ文字で、『フェラ特集』と書いてある。
また、雑誌のページの端には色とりどりの付箋がいくつも貼られていた。
「通信販売で買った。口でするのは、妻の大事な役割と書いてあった」
真白が平然と言う。
「前から思っていたけど、お前、多分、読む本がかなり偏っているぞ」
大悟は思わず雑誌をめくる。
ページのあちこちには、付箋だけでなく、書き込みや所々に薄く線まで引かれている。
「一応、全部読んだ。でも、よくわからなかった」
真白は、バスタオル一枚の格好で大悟にぴったりと接するように寝台に座ってきて、大悟の手元の雑誌を覗き込みながら、一枚のページを指さす。
「例えば、ここ」
そこには、口淫のやり方と題された特集ページが載っていた。図解付きでいくつかの方法が紹介されている。
「最初はどこから触るのが正しいの?」
真白は真顔で訊いた。
「……いや、正しいとかねえだろ」
大悟は思わず即答する。
「そもそも、こっちでは腕を縛られている。それなのに、こっちの頁で、袋の部分をさすりながらと書いてあるのは矛盾する」
「生々しいな」
大悟は苦笑してしまった。
「この人は先端からって、書いてる」
真白は別の付箋をめくった。
「……でも、こっちでは、最初は横から舌で軽く触れるって」
さらにページをめくる。
「……ここのところでは、やっぱり、まず手で慣らすって。結局、拘束をするものなの? しないものなの?」
「読みすぎだ」
大悟は雑誌を閉じて、寝台のヘッドボードに雑誌を置いた。
「結局、どっちが正解?」
真白が小首を傾げた。
「真白はどっちがいい?」
大悟は微笑む。
真白が少し考える仕草をしたあと、やがて、口を開く。
「……拘束される方」
「なんでだ?」
「……わからない。どきどきする……。最初は大悟が好きそうだから、拘束されたかった……。でも、いまは、それが好きかも」
「まだ、三日目だぞ。真白はエッチだな」
「あたしは、多分、エッチで淫乱……。大悟にだけだけど……。だめ?」
「駄目じゃない。手を後ろに回して、背中を向けろ」
大悟は、枕の陰に隠しておいた革の手枷を手に取る。真白の細い両手首にそれを嵌めた。
「……寝台から降りて跪け。教えてやる」
真白の眼がすっと変わった。
理知的な光が消え、代わりに艶のある暗い色が差し込む。妖艶というより、淫靡と言った方が近いかもしれない。
類いまれな美貌、優秀な成績、スポーツ万能で、カリスマ性まである真白なのだが、もともとM気質は強いのだろう。真白自身が言っていた通り、拘束されたり、少し冷たい言葉を掛けられると昂奮しているのは、大悟は観察していてわかった。
だから、大悟はいま、精一杯の虚勢を張っていた。
Mの真白を愉しませるためには、Sの大悟が躊躇したり、気後れしたりしてはいけない。
なにもわからなくても、すべてを知っているような“ご主人様”を演じる。
こんなきもデブの自分を、ここまで慕ってくれる真白への義務だと思った。
──だが、実際のところ、大悟には余裕などこれっぽちもない。
三日前まで、正真正銘の童貞だったのだ。
それなのに、目の前の絶世の美少女にフェラを躾ける?
そんなことができるわけがない。
いま大悟が怖れているのはただひとつ。
余裕がなくて、あっという間に射精してしまう醜態だった。
真白より先に風呂に入ったとき、とりあえず二度抜いておいた。
それで大丈夫だろうと思っていた。
だが、バスタオル一枚の真白が部屋に入ってきた瞬間、その余裕は全部吹き飛んだ。
股間はもう完全に固くなっている。
それでも──。
なんとか“ご主人様”を演じなければならない。
大悟は心の中で繰り返す。
ご主人様。
ご主人様。
俺はS。
そのときだった。
「……あっ、しまった。蜂蜜、持って来るの忘れた」
大悟の脚の間に歩み寄った真白が、ふと思い出したように声をあげた。
「……お前、マニアックなものまで読みすぎだって」
大悟は、ちょっと呆れてしまい即座に言う。
「ええっと、つまりは蜂蜜はいいってこと?」
真白が小首を傾げる。
「いいから集中しろ。だけど、蜂蜜プレイは……いつかな」
「いつか?」
「それはいいから……。それよりも、まずは俺の性器を外に出せ。そっからだ……。」
「えっ、出す? でも、手が」
真白がきょとんとした顔をする。
革の手枷で、両手は後ろに回されている。
「それは予習になかったか? 手でできねえ奴隷はどうするんだ?」
「どうするって……」
「口だ……。口でしろ」
大悟は言った。
真白が一瞬、眼を見開く。
だが、すぐに口角がゆっくり上がった。
大悟にしか見せない、あの微笑みだった。
「……大悟、鬼畜……。でも、いい……」
真白は寝台の前で静かに膝を折る。
バスタオルの隙間から太腿の白い肌が覗く。
床に膝が触れると、わずかに布がずれた。
大悟の脚の間。
ちょうど股間の前に、真白の顔が来る位置だった。
真白が顔を上げる。
その視線は、どこか期待しているようで、少しだけ潤んでいた。
風呂上がりの大悟は、まだ半ズボンを履いている。
真白は少し身体を近づけると、ためらいなくゴムの部分を口で咥えた。
布を歯で軽く引く。
その仕草だけで、大悟の腹の奥が熱くなる。
「……これは邪魔だな」
大悟は、真白の身体を包んでいたバスタオルを掴むと、そのまま引き剥がして床に落とした。
真白の裸身がびくんと揺れるとともに、真白の白い身体が露わになる。
風呂上がりの肌はほんのり赤く、艶があった。形の整った丸い乳房。その中心に小さな薄桃色の乳輪と乳首がある。
乳首はすでに固く立っていた……。
「……これは、まずい……」
思わず小さく呟く。
真白が色っぽすぎる。
しかも、半ズボンを口で引き下ろそうとしている真白の顔が、布越しに股間へ触れてくる。
それだけで、かなり危険な刺激だった。
「は、早くしろ」
大悟はわざと厳しい声を出す。
そして脱がせやすいように腰を少し持ち上げた。
真白が布を強く引く。
半ズボンと下着が一気に膝まで落ちた。
大悟の股間が露出する。
「で、できたっ」
顔を上げた真白が、嬉しそうな声をあげた。
一方で、大悟の性器は、痛いくらいに勃起し、真白の整った顔に突きつけられている。
「……どうした。早く舐めろ。犬のようにぺろぺろとな……。あっ、いや、まずは口づけだ。お前を調教する大事なものだ。誠意を込めて先に口づけしろ」
大悟は、精一杯の“ご主人様”を演じていった。
「わ、わかった」
真白が唇を閉じ、そっと大悟の怒張の先端にキスをした。
大悟はそれだけで暴発しそうになり、必死に下腹部に力を入れる。
【作者より】
フェラシーンが終わらなかったので、閑話は次も続きます(笑)。