学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】 作:ドン・ドナシアン
真白は、迷いなく白いブラウスのボタンを上から外していく。
「……ちょ、おい、いきなりかよ……。待てって」
大悟は思わず声があげた。
真白の指先は止まらない。
「なに、大悟?」
しかし、上から三つ目まで外したところで、ようやく手が止まる。
そのままボタンから手を離し、腕を自然に横へ落とした。
体をわずかに傾けて、大悟の方へ向けた。
上側のボタンはほとんど外れている。開いた隙間から、白いブラに包まれた胸の輪郭がそのまま覗いていた。
喉が鳴る。無意識だった。
「なにって……いきなり脱ぐなって……」
言いながらも、視線の置き場が見つからない。
見慣れたはずなのに、慣れることはない。むしろ、少しだけ覗く方が余計にまずい。
真白は、ほんのわずかに首を傾ける。
「下着で撮影だから脱ぐけど……。問題あるの、大悟?」
「あるだろ……。いや、あるっていうか……」
言葉が詰まる。
「いいねえ、お姫様。上はそのままでいこうか。スカートは完全に脱いでくれよ」
すると、ユイがライトを調整しながら口を挟んできた。
さらに、手を止めずに続ける。
「……最初から下着よりも、着てるやつの方がエロそうだ」
「エロいって……。お前、ちゃんとしたやつを撮影するんだろうなあ」
大悟が顔をしかめる。
ユイは笑ったまま、撮影にでも使うのか、三脚で立っているカメラの正面に椅子を引き寄せてきた。
「ばーか、写真ってのはさ、エロくなきゃ意味ないんだよ」
ユイがきっぱりと断言するように言った。
真白が、迷いなくスカートの横に手を伸ばした。指先がホックにかかり、外れる。そのまま、布が足首まで滑り落ちた。
「わっ」
反射的に、大悟は背を向ける。
「こらっ、きもダイ──。お前が恥ずかしがってどうするんだ。それよりも、縄を準備しなよ。お姫様はお前の縄じゃないと嫌だって言ってんだ」
ユイが機材の向こうから声を飛ばす。
「……黙れ……。大悟は照れていい。あたしを好きな証拠」
すぐ近くで、真白が言う。
距離が近い。
反射的に振り返った。
そこに、真白がいた。生足がそのまま露わになっている。ブラウスの裾がわずかに揺れて、ショーツの上端だけが隠れている状態だった。
そのまま腕が伸びてくる。脱いだばかりのスカートが、大悟の腕にぽんと乗せられた。
「わっ」
思わずまた声が出る。
ユイのけたたましい笑い声が響く。
「なんだ、お前ら。てっきり、やることはやってんだと思ってたけど、きもダイはまだ童貞か?」
「そんなわけない……。大悟の初めては全部もらってる」
真白がすかさず言う。
「へえー、それでその初々しい態度かよ。下着姿が嬉しいなら、あたしも下着になってやろうか? さっきのお詫びにな。目の保養くらいにはなるぞ」
ユイがスカートの横に手をかける仕草をする。
「うわっ、やめろ、ユイ──。マジに洒落にならないから」
大悟は思わず怒鳴る。
「冗談にきまってんだろ──。でも、そこまで否定されると普通に傷つくんだけど」
ユイは肩をすくめて手を離し、苦笑した。
そのまま動きを止めず、機材の方へと歩く。
カメラの向いている方向、その少し奥にある装置に手をかけると、上部から大きな白いスクリーンがゆっくりと降りてきた。
端のテーブルに腰を下ろし、ノートパソコンを操作する。
数秒後、白い面に光が走って、背景が浮かび上がる。
錆びた鉄骨、崩れた壁、無機質な空間──。
限られたスペースのはずなのに、そこだけが別の場所に変わったように見えた。
大悟はカメラの後ろに立ったまま、思わず目を凝らす。
「へえ……すごいな。本格的だ」
思わず感嘆が漏れる。
「当たり前だよ──。あたしは、カメラに関しては本気だからな」
ユイは画面から目を離さずに言う。
そのまま手元の操作を終える気配だけが伝わる。
大悟は、その手際を眺めながら、なんとなく視線を自然と横に流した。
真白の身体が目に入る。
外れたボタンの隙間から、白いブラがはっきりと見えている。背中側から覗く形になるせいで、布の境目と肌の白さの対比がやけに生々しい。
腰のくびれからそのまま下に落ちるラインと、むき出しの太腿が視界に入る。
ブラウスの裾はわずかに揺れ、白いショーツが完全には隠れきらずに覗いていた。
布越しに伝わる丸みが、そのまま形を主張してくる。
喉の奥が熱くなる。
目を逸らそうとする。
だが、遅れる。
真白が振り返って、目線が真っ直ぐに合う。
心臓が痛いくらいに暴れ出す。
「……大悟、昂奮してる」
真白の視線がすっと大悟の下腹部に落ちた。
「うわっ、しょ、しょうがないだろ」
大悟は半身を隠すように横を向く。
「わかっている……。あたしも昂奮している……。大悟に見られるから」
真白の口元がわずかにあがった。
しかも、ちょっとだけ頬が赤くなる。
大悟は息を呑む。
「……撮影……やめる? それでもいい。あれは追い出す」
すると、真白がとんでもないことを口にした。
「そうはいかないだろ」
大悟は慌てて言った。
そのとき、パソコンの前にいたユイが立ちあがって、二回手を叩く。
「さて、準備できたよ。きもダイとお姫様はいいか?」
ユイが前に出てきながら声をかける。
「大丈夫」
真白は短く返す。
「お、おう……ちょっと待て……」
大悟は慌てて足元のトートバッグに手を突っ込み、縄束を引き出して絡みを解しはじめる。
指がもつれ、ほどいた端がまた絡む。
なんとか、外していく。
「いいか、設定は誘拐されたお嬢様、最初は“怒り”から入る。そこから“恐怖”、“屈辱”、縄に馴染んで、最後は“欲情”と“支配を受け入れる快感”までを順に落とす。各段階を一枚ずつ抜く。前提は全部エロ、ただし段階ごとに質を変える。怒りは目線で押す、恐怖は呼吸で浅く、屈辱は姿勢で崩すな、縄に入ったら身体で圧に寄れ、最後は逃げずに受けろ」
「……わかった……。あと、女が変わっている時間の設定は?」
真白だ。
「時間は何日もかけて変わる前提でいく、でも衣装替えはしない、構図も背景も位置も固定、変わるのは中身だけだ。あとは加工。その辺は任せてくれ」
ユイが一息で言い切り、モニターの輝度を一段だけ落としてフレーミングを固定した。
「了解」
真白がそれだけ返す。
大悟は言葉を失ったまま、手の中の縄を見下ろす。
意味は追えるが、実感が伴わない。呼吸だけが浅くなる。
「じゃあ、お姫様はこれで顔の上半分を隠してくれ……」
ユイが白いマスクを差し出す。
薄くて顔に貼り付くタイプの仮面だ。
目の部分だけが開いている。
「だけど、本当にそれだけでいいのか? 完全に顔を構図から消滅させるかい?
「さすがに、顔がなければ演技できない。ちゃんと別人になるから大丈夫」
真白は受け取り、そのまま顔に当てる。
ぴたりと密着する。
顔の上半分が表情ごと消えて、眼だけが残った。
「じゃあ、最初は前手縛りだ。きもダイ、やってみな」
ユイの声を合図に、真白が一歩前に出た。
なにも言わずに、両手を差し出す。
その動きを見た瞬間、大悟の身体が止まった。
いつもと同じ仕草のはずなのに、どこかがおかしい──。
仮面から出ている眼が合う。
突然に背筋に冷たいものが走った。
理由はわからない。
だが、さっきまでとは違う。
目の前にいるのは真白のはずなのに、まるで別人だ。
刺すような視線だった。
敵意としか言いようがないものが、まっすぐに向けられている。
息が詰まる。
これが真白……。
だが、間違いなく違う。
視線が外せない。
身体が、動かない。
遅れて、息を吸い直す。
「……大丈夫、大悟?」
そのとき、真白が声をかけてきた。
なにも変わらない。
でも、眼だけが変わった。
あの刺々しさが完全に消滅して、いつもの真白に戻っている。
ほっとするとともに、大悟は舌を巻いた。
一瞬にして、眼だけで別人になりきった──。
これが真白なのか……。
気がついたら口のなかに唾が堪っていた。
急いでそれを飲み込んだ。
「へ、へえ、さすがはお姫様だよ……。いや、DAIというモデルさんかな」
ユイがカメラ越しに言う。その声には、わずかに感心したような響きが混じっていた。
真白は動かない。前で揃えられた両手も、姿勢も、そのままの形で保たれている。
怒りの表情だけが、崩れずにそこにある。
大悟はその正面に立ったまま、縄を持つ手を止めていた。
やるべきことはわかっている。今日使う緊縛についての手順も頭に入っているし、動画で何度も見てきた。ひとりでの練習も繰り返してきた。
だが、実際に人を相手にするのは初めてで、しかもその相手が真白であるというだけで、すべての感覚が狂ってしまう。
距離が近い。体温が伝わる。視線が外せない。
その状態で縄を通そうとすると、指先が思うように動かない。通すべき場所を外し、力を入れれば締めすぎ、緩めれば形が崩れる。
「おい……。指が震えてるぞ」
ユイが呆れたように言う。カメラは首にぶら下げたまま、まだ動かしてない。
「う、うるさい──」
大悟は歯を食いしばって縄を持ち直すが、指の震えは止まらない。
「なりきって」
そのとき、突然に正面から声を掛けられた。
「えっ?」
大悟は顔を上げる。
さっきまでの視線の圧力は消えていた。
いつもの真白だ。
「大悟は、あたしを誘拐した……。エロがしたくて……。あたしを見下して欲情を向ける。そういう男になりきる……。大悟は優しい……。でも、いまは、汚くてキモい別人になって」
真白が言い切る。
大悟は小さく笑った。
「……俺はもともと、汚くてキモい男だよ。でも、わかった」
目を閉じる。
一度、息を吐く。
真白の言葉をそのまま飲み込む。
その瞬間、あの眼に掴まれる。
奥底に沈めていたものを、指で抉り出されるように引き上げられる。
抗えない。
目の前にいるのは、真白じゃない。
ただ攫ってきただけの女だ。
そして、自分が欲望のまま、女をさらって陵辱するような汚い男──。
そう思った瞬間、胸の奥がぞくりと震えた。
さっきまでの緊張とは違う。
熱に近いものが、内側から広がる。
指の震えが、止まる。
縄を通す。
迷いがない。
さっきまで引っかかっていた場所を、すっと抜ける。
締める。
形が整う。
容赦なく締めつける──。
前手縛りが、あっさりと完成した。
さらに、縄尻を握ったまま、目の前の女を見る。
睨んでいる。
その女が憎悪を向けてくる。
視線に、胸の奥でなにかが弾けた。
肩に手を置いて、力を込める。
そのまま、椅子へ押し倒す。
「あっ」
女の口から短い悲鳴が漏れた。
背中と腰が椅子に叩きつけられる。
縄が張る。
だらしなく椅子に叩きつけられた女が睨んだ。
その視線を、受け止める。
心の底から震え立つ嗜虐欲とともに……。
横でシャッター音が連続して弾けた。
「あっ、ごめん」
大悟は我に返った。