※この作品はR-18です。

学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】   作:ドン・ドナシアン

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022 なりきって

 真白は、迷いなく白いブラウスのボタンを上から外していく。

 

「……ちょ、おい、いきなりかよ……。待てって」

 

 大悟は思わず声があげた。

 真白の指先は止まらない。

 

「なに、大悟?」

 

 しかし、上から三つ目まで外したところで、ようやく手が止まる。

 そのままボタンから手を離し、腕を自然に横へ落とした。

体をわずかに傾けて、大悟の方へ向けた。

 上側のボタンはほとんど外れている。開いた隙間から、白いブラに包まれた胸の輪郭がそのまま覗いていた。

 喉が鳴る。無意識だった。

 

「なにって……いきなり脱ぐなって……」

 

 言いながらも、視線の置き場が見つからない。

 見慣れたはずなのに、慣れることはない。むしろ、少しだけ覗く方が余計にまずい。

 真白は、ほんのわずかに首を傾ける。

 

「下着で撮影だから脱ぐけど……。問題あるの、大悟?」

 

「あるだろ……。いや、あるっていうか……」

 

 言葉が詰まる。

 

「いいねえ、お姫様。上はそのままでいこうか。スカートは完全に脱いでくれよ」

 

 すると、ユイがライトを調整しながら口を挟んできた。

 さらに、手を止めずに続ける。

 

「……最初から下着よりも、着てるやつの方がエロそうだ」

 

「エロいって……。お前、ちゃんとしたやつを撮影するんだろうなあ」

 

 大悟が顔をしかめる。

 ユイは笑ったまま、撮影にでも使うのか、三脚で立っているカメラの正面に椅子を引き寄せてきた。

 

「ばーか、写真ってのはさ、エロくなきゃ意味ないんだよ」

 

 ユイがきっぱりと断言するように言った。

 真白が、迷いなくスカートの横に手を伸ばした。指先がホックにかかり、外れる。そのまま、布が足首まで滑り落ちた。

 

「わっ」

 

 反射的に、大悟は背を向ける。

 

「こらっ、きもダイ──。お前が恥ずかしがってどうするんだ。それよりも、縄を準備しなよ。お姫様はお前の縄じゃないと嫌だって言ってんだ」

 

 ユイが機材の向こうから声を飛ばす。

 

「……黙れ……。大悟は照れていい。あたしを好きな証拠」

 

 すぐ近くで、真白が言う。

 距離が近い。

 反射的に振り返った。

 そこに、真白がいた。生足がそのまま露わになっている。ブラウスの裾がわずかに揺れて、ショーツの上端だけが隠れている状態だった。

 そのまま腕が伸びてくる。脱いだばかりのスカートが、大悟の腕にぽんと乗せられた。

 

「わっ」

 

 思わずまた声が出る。

 ユイのけたたましい笑い声が響く。

 

「なんだ、お前ら。てっきり、やることはやってんだと思ってたけど、きもダイはまだ童貞か?」

 

「そんなわけない……。大悟の初めては全部もらってる」

 

 真白がすかさず言う。

 

「へえー、それでその初々しい態度かよ。下着姿が嬉しいなら、あたしも下着になってやろうか? さっきのお詫びにな。目の保養くらいにはなるぞ」

 

 ユイがスカートの横に手をかける仕草をする。

 

「うわっ、やめろ、ユイ──。マジに洒落にならないから」

 

 大悟は思わず怒鳴る。

 

「冗談にきまってんだろ──。でも、そこまで否定されると普通に傷つくんだけど」

 

 ユイは肩をすくめて手を離し、苦笑した。

 そのまま動きを止めず、機材の方へと歩く。

 カメラの向いている方向、その少し奥にある装置に手をかけると、上部から大きな白いスクリーンがゆっくりと降りてきた。

 

 端のテーブルに腰を下ろし、ノートパソコンを操作する。

 数秒後、白い面に光が走って、背景が浮かび上がる。

 錆びた鉄骨、崩れた壁、無機質な空間──。

 限られたスペースのはずなのに、そこだけが別の場所に変わったように見えた。

 大悟はカメラの後ろに立ったまま、思わず目を凝らす。

 

「へえ……すごいな。本格的だ」

 

 思わず感嘆が漏れる。

 

「当たり前だよ──。あたしは、カメラに関しては本気だからな」

 

 ユイは画面から目を離さずに言う。

 そのまま手元の操作を終える気配だけが伝わる。

 大悟は、その手際を眺めながら、なんとなく視線を自然と横に流した。

 

 真白の身体が目に入る。

 外れたボタンの隙間から、白いブラがはっきりと見えている。背中側から覗く形になるせいで、布の境目と肌の白さの対比がやけに生々しい。

 腰のくびれからそのまま下に落ちるラインと、むき出しの太腿が視界に入る。

 ブラウスの裾はわずかに揺れ、白いショーツが完全には隠れきらずに覗いていた。

 布越しに伝わる丸みが、そのまま形を主張してくる。

 

 喉の奥が熱くなる。

 目を逸らそうとする。

 だが、遅れる。

 真白が振り返って、目線が真っ直ぐに合う。

 心臓が痛いくらいに暴れ出す。

 

「……大悟、昂奮してる」

 

 真白の視線がすっと大悟の下腹部に落ちた。

 

「うわっ、しょ、しょうがないだろ」

 

 大悟は半身を隠すように横を向く。

 

「わかっている……。あたしも昂奮している……。大悟に見られるから」

 

 真白の口元がわずかにあがった。

 しかも、ちょっとだけ頬が赤くなる。

 大悟は息を呑む。

 

「……撮影……やめる? それでもいい。あれは追い出す」

 

 すると、真白がとんでもないことを口にした。

 

「そうはいかないだろ」

 

 大悟は慌てて言った。

 そのとき、パソコンの前にいたユイが立ちあがって、二回手を叩く。

 

「さて、準備できたよ。きもダイとお姫様はいいか?」

 

 ユイが前に出てきながら声をかける。

 

「大丈夫」

 

 真白は短く返す。

 

「お、おう……ちょっと待て……」

 

 大悟は慌てて足元のトートバッグに手を突っ込み、縄束を引き出して絡みを解しはじめる。

 指がもつれ、ほどいた端がまた絡む。

 なんとか、外していく。

 

「いいか、設定は誘拐されたお嬢様、最初は“怒り”から入る。そこから“恐怖”、“屈辱”、縄に馴染んで、最後は“欲情”と“支配を受け入れる快感”までを順に落とす。各段階を一枚ずつ抜く。前提は全部エロ、ただし段階ごとに質を変える。怒りは目線で押す、恐怖は呼吸で浅く、屈辱は姿勢で崩すな、縄に入ったら身体で圧に寄れ、最後は逃げずに受けろ」

 

「……わかった……。あと、女が変わっている時間の設定は?」

 

 真白だ。

 

「時間は何日もかけて変わる前提でいく、でも衣装替えはしない、構図も背景も位置も固定、変わるのは中身だけだ。あとは加工。その辺は任せてくれ」

 

 ユイが一息で言い切り、モニターの輝度を一段だけ落としてフレーミングを固定した。

 

「了解」

 

 真白がそれだけ返す。

 大悟は言葉を失ったまま、手の中の縄を見下ろす。

 意味は追えるが、実感が伴わない。呼吸だけが浅くなる。

 

「じゃあ、お姫様はこれで顔の上半分を隠してくれ……」

 

 ユイが白いマスクを差し出す。

 薄くて顔に貼り付くタイプの仮面だ。

 目の部分だけが開いている。

 

「だけど、本当にそれだけでいいのか? 完全に顔を構図から消滅させるかい?

 

「さすがに、顔がなければ演技できない。ちゃんと別人になるから大丈夫」

 

 真白は受け取り、そのまま顔に当てる。

 ぴたりと密着する。

 顔の上半分が表情ごと消えて、眼だけが残った。

 

「じゃあ、最初は前手縛りだ。きもダイ、やってみな」

 

 ユイの声を合図に、真白が一歩前に出た。

 なにも言わずに、両手を差し出す。

 

 その動きを見た瞬間、大悟の身体が止まった。

 いつもと同じ仕草のはずなのに、どこかがおかしい──。

 

 仮面から出ている眼が合う。

 突然に背筋に冷たいものが走った。

 理由はわからない。

 だが、さっきまでとは違う。

 

 目の前にいるのは真白のはずなのに、まるで別人だ。

 刺すような視線だった。

 敵意としか言いようがないものが、まっすぐに向けられている。

 

 息が詰まる。

 これが真白……。

 だが、間違いなく違う。

 

 視線が外せない。

 身体が、動かない。

 遅れて、息を吸い直す。

 

「……大丈夫、大悟?」

 

 そのとき、真白が声をかけてきた。

 なにも変わらない。

 でも、眼だけが変わった。

 あの刺々しさが完全に消滅して、いつもの真白に戻っている。

 

 ほっとするとともに、大悟は舌を巻いた。

 一瞬にして、眼だけで別人になりきった──。

 これが真白なのか……。

 

 気がついたら口のなかに唾が堪っていた。

 急いでそれを飲み込んだ。

 

「へ、へえ、さすがはお姫様だよ……。いや、DAIというモデルさんかな」

 

 ユイがカメラ越しに言う。その声には、わずかに感心したような響きが混じっていた。

 真白は動かない。前で揃えられた両手も、姿勢も、そのままの形で保たれている。

 怒りの表情だけが、崩れずにそこにある。

 

 大悟はその正面に立ったまま、縄を持つ手を止めていた。

 やるべきことはわかっている。今日使う緊縛についての手順も頭に入っているし、動画で何度も見てきた。ひとりでの練習も繰り返してきた。

 だが、実際に人を相手にするのは初めてで、しかもその相手が真白であるというだけで、すべての感覚が狂ってしまう。

 

 距離が近い。体温が伝わる。視線が外せない。

 その状態で縄を通そうとすると、指先が思うように動かない。通すべき場所を外し、力を入れれば締めすぎ、緩めれば形が崩れる。

 

「おい……。指が震えてるぞ」

 

 ユイが呆れたように言う。カメラは首にぶら下げたまま、まだ動かしてない。

 

「う、うるさい──」

 

 大悟は歯を食いしばって縄を持ち直すが、指の震えは止まらない。

 

「なりきって」

 

 そのとき、突然に正面から声を掛けられた。

 

「えっ?」

 

 大悟は顔を上げる。

 さっきまでの視線の圧力は消えていた。

 いつもの真白だ。

 

「大悟は、あたしを誘拐した……。エロがしたくて……。あたしを見下して欲情を向ける。そういう男になりきる……。大悟は優しい……。でも、いまは、汚くてキモい別人になって」

 

 真白が言い切る。

 大悟は小さく笑った。

 

「……俺はもともと、汚くてキモい男だよ。でも、わかった」

 

 目を閉じる。

 一度、息を吐く。

 真白の言葉をそのまま飲み込む。

 その瞬間、あの眼に掴まれる。

 奥底に沈めていたものを、指で抉り出されるように引き上げられる。

 抗えない。

 

 目の前にいるのは、真白じゃない。

 ただ攫ってきただけの女だ。

 そして、自分が欲望のまま、女をさらって陵辱するような汚い男──。

 

 そう思った瞬間、胸の奥がぞくりと震えた。

 さっきまでの緊張とは違う。

 熱に近いものが、内側から広がる。

 

 指の震えが、止まる。

 縄を通す。

 

 迷いがない。

 さっきまで引っかかっていた場所を、すっと抜ける。

 

 締める。

 形が整う。

 容赦なく締めつける──。

 

 前手縛りが、あっさりと完成した。

 

 さらに、縄尻を握ったまま、目の前の女を見る。

 睨んでいる。

 その女が憎悪を向けてくる。

 

 視線に、胸の奥でなにかが弾けた。

 

 肩に手を置いて、力を込める。

 そのまま、椅子へ押し倒す。

 

「あっ」

 

 女の口から短い悲鳴が漏れた。

 背中と腰が椅子に叩きつけられる。

 

 縄が張る。

 だらしなく椅子に叩きつけられた女が睨んだ。

 その視線を、受け止める。

 心の底から震え立つ嗜虐欲とともに……。

 

 横でシャッター音が連続して弾けた。

 

「あっ、ごめん」

 

 大悟は我に返った。

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