学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】 作:ドン・ドナシアン
「あっ、ごめん」
大悟は思わず声をあげた。
押し倒した体勢のまま、真白の前手縛りに繋がっている手にしている縄の感触がやけに鮮明に伝わってくる。
目の前にいる真白を見た。
椅子に叩きつけられた姿勢のまま、上体はやや反り返り、腰は座面に押しつけられている。
両手は前でまとめられ、縄尻が張った状態で動きを制限されている。
その顔には、はっきりとした変化があった。
さっきまでの憎悪は残っている。だが、それだけではない。
呼吸が浅い。胸が細かく上下している。
視線が、ほんのわずかに揺れている。
怯え──。
だが同時に、睨むような侮蔑も残っている。
そして、大悟の乱雑な扱いに対する怒りも消えていない。
複数の感情が、同時にそこに存在していた。
ブラウスの上側のボタンは外れたままで、白い布地の隙間からブラの一部が大きく露出している。
脚はわずかに開いたまま固定され、裾から覗く白い布がいやでも視界に入る。
大悟は、握っていた縄を緩めかけた。
「やめるな、キモ──。続けろ」
ユイの声が飛ぶ。
「えっ?」
思わず横のユイを見る。
ユイはカメラを神経な表情で覗いたままだ──。連続するシャッター音が鳴り響き続ける。
「お前は令嬢を陵辱するためにさらった嗜虐者だ。もっと怯えさせろ」
途切れずに鳴り続けるシャッター音──。
シャカ、シャカ、シャカ、と一定の間隔で空間を刻む。
大悟は息を吐いた。
音が続く。
同じリズムが繰り返される。
周囲の情報が、少しずつ薄れていく。
意識が、目の前の一点に寄っていく。
真白の眼──。
仮面に覆われた顔の中で、そこだけがむき出しになっている。
「もっとだ──。お姫様の本気に応えられるのは、お前だけだ──」
ユイの声が重なる。
その言葉が、頭の中で反響する。
応えられるのは、大悟だけ──。
その通りだ──。
大悟は一度、動きを止めた。
視線を外さないまま、わずかに息を吸う。
さっき、自分がなにをしたのかは、わかっている。
あれは衝動だった。
だが──。
目の前の女は、まだ終わっていない。
呼吸は浅い。
視線は揺れている。
逃げたいのに、逃げていない。
なら……。
ここで止める理由はない。
縄を握り直す。
緩めかけた力を、そのまま上へ引き上げる。
大悟の中から、一切が消えていく。単調なシャッター音の繰り返しにより。大悟であって、大悟でなくなる感覚が襲う。目の前の真白が、真白であった真白でないように……。
大悟が上に縄尻のために、真白のあげた両手がさらに引き延ばされて、姿勢が崩れる。
肩に力が入り、真白の呼吸が一瞬だけ詰まった。
その反応を見た。
目を離さない。
さらに一歩、距離を詰める。
シャッター音が続く。
思考がさらに静かになっていく。
余計なものが削がれていく。
目の前の状態だけが、はっきりする。
もっと、追い込めたい──。
そう思った。
手を伸ばす。
ブラウスの開いた部分へ。
指先が布に触れる直前で、一瞬だけ止まる。
視線はそのまま、真白の眼に固定されている。
逃げない。
逃げられない。
その状態を、理解する。
手を動かした。
布の隙間からブラのフロントホックに触れる。
片手で操作する。
小さな音とともに外れた。
ブラが左右に分かれる。
白い乳房の一部が露わになる。
「くっ……」
真白が初めて短く息を漏らし、顔を横へ向けた。
視線が外れる。
呼吸が乱れる。
肩がわずかに引く。
シャッター音が強まる。
「いいよ──そのまま続けろ」
ユイの声が低く入る。
大悟は動きを止めない。
ただし、さっきとは違う。
距離を詰めたまま、視線を外さずに、真白の反応を視線で受け止める。
真白が、ゆっくりと視線を戻した。
呼吸はまだ浅い。
だが、目の奥の意志は消えていない。
恐怖の中に、確かに残っている。
縄の引き方を変えられるたびに、真白の体勢がわずかに崩れる。
前でまとめられた両手が引き出され、支点がずれる。
上体が傾き、呼吸が詰まる。
すぐに戻す。
完全には崩さない。
呼吸は浅いまま整わない。
視線は揺れる。
それでも逸らしきらない。
怯えと侮蔑と怒りを同時に保ったまま、受けている。
シャッター音が一定の間隔で続く。
大悟の動きは乱れなくなる。
引き方と止め方が揃う。
崩れる手前で止める。
その状態が維持される。
「はい、オッケー──」
ユイがカットを告げた。
シャッター音が止まる。
真白はすぐに力を抜いた。
呼吸を整え、顔を正面に戻す。
さっきまでの表情は残っていない。
「大悟、すごい」
いつもの声だった。
一方で、大悟はだんだんと頭から霧が晴れるかのように、冷静になっていく自分を感じていた。なんか、いまおかしかった。ちょっと呆然となる。
そのとき、大悟ははっとした。
視界の中心に、剥き出しになったままの乳房が入ったのだ。
さっき自分がブラを外したまま、当たり前だけど、なに戻されていない。
反射的に手を伸ばす。
だが、途中で止まる。
触れていいのか?
指先が、胸の直前で止まる。
「なにしてんだ、きもダイ? おっぱじめるのはいいけど、写真撮影終わってからにしてくれよな」
ユイが笑う。
「お、おっぱじめるって……そんなことするか」
「してもいい、大悟。大悟がその気になったら撮影はやめる。それが条件。大悟がご主人様。一番偉い」
真白が静かに言う。
大悟は言葉を失う。
「自重しろよ。きもダイ。じゃあ次の縛りだ。準備しな」
ユイが言った。
大悟はようやく視線を外し、縄に手を伸ばした。
手を伸ばして、前手の縄を解く。
真白の手首には、しっかりと縄痕が残っていた。
「助手、縄痕どうする? 時間が経過している設定なら、縄痕消さないとおかしい」
真白がユイを見る。
「助手って、あたしのことかよ?」
「大悟の助手。今日の主役は大悟」
「まあいいけど。縄痕なあ……」
ユイが首をわずかに傾げた。
「……うーん、でも、そこまでこだわると撮影に一日以上かかるしな。それに次は後手縛りだ。手首は写真に入らない。このまま行こう」
「わかった……。じゃあ、大悟.お願い」
真白が立ちあがり、大悟に背中を見せると、両手を背中に回して水平に組む。
大悟は、縄を握り締めたまま、息を呑んだ。