学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】 作:ドン・ドナシアン
「手首は揃えて、少し高め。そこ決めたら止まるな。そのまま上に回して、腕は体に沿わせろ。胸の上を通して、下でもう一度拾う。首は引っ掛けるだけで締めるな」
ユイの声が一息で落ちてくる。
「……わかった」
大悟は短く返し、真白の背後に回った。
真白は両手を後ろで組んだまま立っている。
背筋は伸び、顎はわずかに引かれている。ブラウスは下の二つだけが留められ、胸元は大きく開いていた。白いブラは隠れずに現れ、呼吸に合わせて静かに上下している。下はショーツだけで、腰から脚へ落ちる線がそのまま露出している。
肌はうっすらと汗を帯び、首筋から鎖骨にかけて細かな光を拾っていた。体温が上がっているのが見て取れる。薄らと汗をかき上気している肌は、それだけで大悟の奥を熱くする。
大悟は、邪念を捨てて素早く手首をまとめた。練習のとおり。
揃えたまま軽く持ち上げ、指で位置を固定する。
「きつくないか?」
「問題ない」
短い返答。
大悟は、そのまま縄を手首の束の下からすくい上げ、ひと巻きでまとめる。引きすぎず、緩めすぎず、テンションだけを残す。
そのまま縄を二の腕に沿わせる。肘から上腕へと縄を滑らせて、背中に戻って持ち上げる。
真白の肩がわずかに引かれ、胸が開く。
呼吸が一拍浅くなる。
「そのまま胸の上で拾え。ライン崩すなよ」
大悟の手管を見守っているユイの指示。
軽く頷き、視線だけで位置を確認し、縄を前へ回す。開いた胸元の上をなぞるように通す。肌と布の境目をかすめ、乳房の形をなぞる。強く締めない。一度反対側の二の腕で固定する。
前に返って、縄を下へ落として胸の下を拾う。さっき通した線と平行になるように、ずれを指で修正する。
ここで引き切る。
これで完全に両腕が身体と一体化する。
「んっ」
真白の呼吸が一瞬だけ止まり、すぐに戻る。
「……あっ、きついか? これでどうだ」
少し胸の締めを気持ち緩めた。
「ばか、緩めるな──。縄の線が汚くなるだろ」
ユイが叱咤した。
「大丈夫、大悟。思い切りしていい……。遠慮しないで。駄目なときは言う」
真白が間を置かずに言う。
「す、すまん」
大悟はもう一度縄の締めを強くしてから。縄を背中に戻した。
さらに、もう一度腕に沿わせる。さっき作った線と干渉しない位置を探り、わずかにずらす。指先で整える。
「首はラインだけだ。引くなよ」
ユイの真剣な声が飛ぶ。
大悟は縄を上に送り、首元をかすめる位置で流した。触れるだけで力はかけない。そのまま前に戻す。
全体を一度、軽く引く。
ばらけない。ずれない。形がそのまま残る。
「んっ」
真白の身体がわずかに反応した。
肩が引かれ、胸が開いたまま固定される。呼吸は浅いが、身体の線は崩れていない。
大悟は手を止めず、最後の余りをまとめた。位置を中央に寄せ、結びを整えていく。
「よし」
後手縛りが完成し、大悟は真白から手を離した。
やりきったという手応えがあった。
小さく息を吐く。
改めて真白を見るために、数歩後退った。
背中で高くまとめられた真白の両腕は、完全に動きを封じされ、身体に沿って通された縄は胸の上と下で線を揃えられている。開いた胸元と、その上をなぞる縄の位置が、身体の輪郭を隠すどころか際立たせている。
整った姿勢のまま拘束されているその姿は、不自然さがなく、むしろ目を引く完成された形に見えた。
「ま、真白……。そ、その……ありがとう。変なこと言うようだけど……綺麗だ」
大悟は真白から眼を離せずに言った。
「変なことじゃない……。嬉しい。ありがとう」
真白が小さく返した。
心なしか、顔の上半分に白い仮面を付けた真白の頬がわずかに赤くなっていることに気がついた。真白にしては珍しいことだ。
横で、ユイが連続のシャッター音を鳴らす。
「と、撮るな。いまのは……ずるい」
真白が慌てたように顔を逸らす。
「なにがずるいんだよ、お姫様。まあ、いい顔だよ。あんたらが恋人で夫婦だというのがわかるよ」
ユイがカメラをおろしてけらけらと笑う。
次いで、大悟に視線を向けた。そのときには、真顔になっていた。
「……縄掛けについては、とてもいいな。初めてとは思えないね」
ユイが再び何度かシャッターを切る。
今度は、真白は不満は言わずに、そのまま立っている。
だが、大悟は呆然となっていた。
真白に見とれてしまっている。
特に強く目を引くのは、形の整い方だった。
背中で拘束されているはずなのに、姿勢が崩れていない。肩は自然に引かれ、胸元は開かれているが、不自然さがない。むしろ、その状態のまま、身体の線がそのまま表に出ている。
縛られているというよりは、まるで縄を衣装としてまとっているようにさえ見える。
綺麗で……煽情的で……眼を離すことができない。
しかも、呼吸に合わせて、わずかに上下する動きがある。その程度の変化でも、全体の印象が揺れる。その些細な仕草が、大悟の中の熱をあげさせる。
自分が縄を通したはずなのに、出来上がったものは少しだけ距離を置いて見える。
だが同時に、目が離れない。
ただ、見てしまう。
「……縄道もしっかりしているし、動きも悪くない。形もいい」
ユイが続ける。
「ありがとう」
大悟はやっと応じた。
しかし、視線は真白から離れていかない。
見ているだけなのに、どこか落ち着かない。
「……ただな……。自信なさそうな態度はだめだ。自信のない相手には、縛られる側は身を預けられない。形が良くても、そこで全部崩れる。なくてもいいから、自信を持ってる振りしろ。迷うな」
ユイが言う。
「……あ、ああ」
大悟は小さく返す。
真白を縛るということになり、限られた時間なりに必死に予習した。でも初めてで……。しかも、相手はこの真白だ。自信たっぷりなんて無理だ。
でも、ユイに言われた通りだと思った。
縛る側が迷っていれば、不安になるのは当然だ。Sは堂々としなければ。だから、Mは信頼して身を委ねるのだ。そんなのは当たり前のことだった。
「……ユイ、偉そう……。大悟はあたしの旦那様。お前が偉そうにするのは変。助手のくせに」
すると、真白が口を挟んだ。
「なんだよ。あたしは、こいつに緊縛を教えろって言われたから、そうしてんだよ」
「だったら、大悟がうまくできないのは、お前のせい。そもそも、大悟は上手。あたしは昂奮している」
「昂奮してる……って。お姫様も露骨だねえ」
ユイが笑った。
その笑いを残したまま、カメラを持ち直す。
「……じゃあ、ここからが本番だ。第二写目。誘拐されたお嬢様の恐怖をやる。このまま立ちでいい」
ユイが指先で角度をわずかに調整する。
すでに表情が変わっている。
一方で、真白の様子も一変した。
なにも答えないが、ただ息の入り方が変わったのだ。
そして、わずかに胸が上がり、次の瞬間、重心が前へ流れた。
後手に縛られているため、本来であれば胸が自然に開くはずの姿勢だ。しかし、真白の身体はそれを拒むかのように、ほんのわずかに前屈みになる。逃げようとする意志と、逃げられない拘束とが、同時に身体に現れていた。
視線は定まらない。床を見、前を見、戻り、また揺れる。そのすべてが計算されたものであると分かるのに、どこか現実の不安定さを帯びていた。
まさに、恐怖を帯びた女性だ。
大悟は一瞬で起こった変化に、改めて息を呑む。
「いい、そのまま続けてくれ」
ユイの操るシャッター音が一定の間隔で響き始めた。
真白は動かない。だが、動かないまま、状態だけを変えていく。呼吸、視線、わずかな緊張、それらが連続して積み重なり、同じ姿勢のまま、まったく別の印象を作り上げていく。
それは、演技として完成していた。
大悟は、ユイと真白から少し離れて立ち、なにもせずにそれを見ていた。
自分が縛ったはずの形が、まるで別の意味を持ち始めている。開いた胸元に沿って上下する布の動きや、首筋に浮いた汗の光が、やけに鮮明に見える。
視線を外す理由が見つからなかった。
「少し汗を足そうか」
ユイが言い、小さな霧吹きを手に取る。
首筋と鎖骨──さらに髪の毛に、ごく軽く霧が落ちていく。粒は流れず、肌の上にとどまり、光を拾うだけである。
そのわずかな変化に合わせて、真白の呼吸が一瞬だけ乱れた。
「いい、その一瞬だ。そのまま維持してくれ」
シャッター音がわずかに速くなる。
やがてユイは短く言った。
「よし、恐怖は抜けた。これでいい」
シャッターの音が止まり、ユイがカメラをおろす。
「……お疲れ」
真白は一度だけ息を吐いた。
帯びていた恐怖が一瞬にして消滅して、いつもの真白になる。
「第三写目だ、屈辱。意味を変える。位置はそのまま。監禁されて何日も経っている令嬢だ……ほら、きもダイ──」
ユイが首環を示すと、大悟は一歩前に出てそれを受け取り、そのまま真白の前に立った。
首元に手を伸ばしたとき、声をかけるべきかという考えが一瞬よぎったが、すぐに消える。この場で躊躇するのは違うと判断し、そのまま手を動かした。
金属が肌に触れ、静かな音とともに首環が閉じる。
真白の呼吸がほんのわずかに止まったのがわかるが、大悟は手を止めない。鎖が垂れ、その重みが視界に入ったとき、真白の姿勢が変わった。
先ほどまで前に逃げようとしていた身体の流れが消え、力が抜けたようにその場に収まる。
逃げる方向を失った身体が、ただ置かれているように見えた。
シャッター音が続く中で、真白はその状態を保ったまま視線を戻し、見られていることを受け入れた表情を作る。
その完成度は崩れていないはずだったが、ほんの一瞬だけ表情が抜け、その奥でわずかに口元が緩む。
「……いまのいい、大悟」
小さくそう言って、すぐに表情を戻す。
「のろけはいいんだよ。次だ」
ユイが遮るように言い、カメラを下ろさないまま次の構図へと移っていった。
三写目、四写目と進み、撮影は途切れることなく続いていく。
ユイが軽くミストを当てると、真白の肌に汗の光が乗り、呼吸と視線だけを変えながら、同じ縛りのまま印象が塗り替えられていく。やがて姿勢が変えられ、再び椅子に座らされる。
照明も切り替わり、影の落ち方が変わる。同じ場所であるはずなのに、まるで別の空間に置かれたように見えた。
「さて、じゃあ、そろそろ縛りを変えるか……。きもダイ、なにかやってみたい縛りはあるか?」
ユイが言う。
大悟はすぐには答えなかった。
やってみたい縛りはいくらでもあるが、特にひとつと言われれば、真っ先に思うものがあった。
ただ、真白が受け入れてくれるかどうかわからないので、ちょっと不安がある。
真白を見る。
胸の奥がじわじわと熱を持つ。
そして、遅れて自分の身体の状態に気づいた。
無意識のうちに、下半身が固くなっている。
それを意識した瞬間、理由がはっきりした。
ただ見ているだけでは、足りないのだ。
苦悶する女体──望まぬ快感に苦闘し、哀願しながら震える真白──。汗と……蜜の香り──。そういうのがいいんだ。
これまでの真白は、撮影のために作った演技だ。でも、かなうなら、演技ではなく、本気で縄で苦悶する真白を見てみたい。
「……なにか、あるの?」
真白が大悟を見つめながら、わずかに首を傾げた。
大悟は視線を外さないまま口を開いた。
「……股縄を、やってみたい」
大悟は思い切って言った。
「股縄──? だめだめ。素人には無理だよ。簡単そうだけど難しんだ。ほかのにしな──」
しかし、ユイが一蹴する。
「だまれ、助手」
すると、真白が冷たく口を挟んだ。