※この作品はR-18です。

学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】   作:ドン・ドナシアン

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026 全部終わってから言うことじゃねえだろ

「……はああっ」

 

 ユイの声が裏返る。

 そして、そのまま数秒、動かなかった。

 

「……ふ、ふ、ふざけんなよ」

 

 ようやく出てきた声は低かった。

 怒鳴る直前で抑えたような声だ。

 

「全部、最初からそのつもりだったってことかよ」

 

「当たり前。あたしは、大悟に切っ掛けをあげたかっただけ」

 

 真白は即答する。

 迷いはない。

 後手に縛られ、股縄を受けて、いまでも呼吸が切なそうなのに……全身を火照らせて肌に浮かんだ汗と、縄が喰い込んでいるショーツに大きな染みができているのに……いまの真白は圧倒的な圧をユイに向け、毅然とした態度を崩してない。

 わずかに歩幅が狭く、重心の乗り方が少し浅い。

 でも、それだけだ。

 

「こっちは条件も飲んだ。顔も隠した。撮影もした。なのに全部なしって、それが通ると思ってんのかよ──」

 

「通る」

 

「通らねえ──」

 

「いや通る……。そもそも、これはあたしと大悟のためのもの。お前の作品じゃない」

 

「はあ?」

 

「技術はもらった。環境も使わせてもらった。それで十分」

 

 言い切る。

 ユイの顔が引きつる。

 

「……それで、満足しろって……?」

 

「するしかない。これで終わりだから」

 

 完全に断ち切る声。

 そこで、ユイの肩がわずかに上がった。

 怒りで息が荒くなる。

 

「ざけんなって言ってんだよ。こっちは遊びでやってんじゃねえ」

 

 言いながら、一歩踏み出す。

 距離を詰めてくる。

 ユイが激昂のまま真白にぶつかる寸前──。

 

「ちょっと待てって」

 

 大悟は、慌ててユイと真白の間に身体を入れた。

 

「きもダイー──。お前もグルか──。このあたしを虚仮にしたのかよ──」

 

 ユイの視線が一瞬こちらに来る。

 さっきと違う。

 測るような目だ。

 ……でも、引くわけにはいかない。

 

「いや、落ち着けって……。とにかく、真白が駄目だと言ってんだから駄目だろ」

 

 大悟にはそれしか言えない。

 

「なら、最初から言えばいいだろう──。全部終わってから言うことじゃねえだろ──」

 

 ユイが喚く。

 

「まあ……それもそうだけどなあ」

 

 大悟がとりあえず、落ち着かせようと宥める。

 そして、これをどう片付けるのか懸命に頭を捻る。

 

「とにかく、約束だからな──。投稿するぞ。こっちにはデータもあるんだ。口頭とはいえ同意もとった。勝手にやらせてもらう──」

 

「……投稿したら、どうなるかわかってる?」

 

 真白が言う。

 声は変わらない。

 静かなまま。

 

「はあ?」

 

 ユイが眉を寄せる。

 

「投稿した時点で送る」

 

 真白が淡々と続ける。

 

「送る──? なにをだよ?」

 

「内容証明付きで訴状を……。お前の母親に」

 

 そこで、空気が落ちた。

 はっきりわかる。

 

「お母様に? き、汚えぞ」

 

 ユイが喚いた。

 しかし、さっきまでの怒りとは違う。

 ユイの顔から、色が引く。

 ほんのわずかに。でも、確実に。

 

「自撮り……緊縛……。それもばれる。お前の母親はなかなかに厳しそうだった。困るのはお前……」

 

「……お、お前なあ」

 

 声が低くなる。

 さっきよりも、さらに。

 大悟は、ふたりあいだに立ちなにも喋れない。いまの大悟の役割は、ユイが真白に飛び掛からないように、あいだに立つことだけだ。

 

「あたしは、やるときはやる」

 

 即答。

 間はない。

 

「……わかったよ……。もう帰れ。その代わりに、このことは、忘れねえからな。覚えとけよ……」

 

 ユイが真白と大悟をすごい形相で睨みつけながら言った。

 そっとするほどの恨みのこもった眼だ。薄らと涙が溜まっている。ちょっと可哀想になってきた。

 

「覚えてとけって、どういうこと?」

 

 真白が言った。

 

「さあな、だが、覚えとけというのは、覚えとけってことだ。それだけだ……。じゃあな」

 

 ユイが手で真白を追い払うような仕草をする。

 

「言っておくけど、大悟になにかあったら、全部お前のせいにする」

 

 真白が淡々と告げる。しかし、大悟にも、そこにぞっとするほどの圧があるのがわかった。

 ユイの目が細くなるとともに、たじろぐような表情が顔に浮かぶ。

 

「……な、なんだよ?」

 

「事故でも、病気でも、関係ない……。大悟になにかあれば、母親に全部ばらす」

 

 真白が言葉を重ねる。

 ユイの呼吸が、一度だけ乱れる。

 

「……そこまでだ。ふたりとも落ち着け」

 

 大悟は言った。

 

「あたしは落ち着いている」

 

 真白が返してきた。

 

「あたしは、まったく落ち着いてねえよ──」

 

 ユイだ。

 

「とにかく、ユイ」

 

 大悟はユイを見る。

 

「はあ?」

 

「いずれにしても、あの写真は外に出さない。それについては終わりだ」

 

 言い切る。

 ユイはなにも答えない。喉の奥で押し殺したような低い音だけが鳴る。不本意だと顔に出ている。

 大悟は視線を外さない。

 

「それと、真白──」

 

 今度は振り返る。

 

「流された俺も悪いけど、やり方はよくねえ」

 

 大悟は少しばかり強い口調で言った。

 真白は一瞬だけ目を瞬かせた。わずかに相好が崩れる。

 

「……大悟のお説教。珍しい。わかった。やり過ぎた。大悟に縛ってもらいたかっただけ」

 

 あっさりと引く。その言い方も変わらない。

 大悟は短く頷く。それ以上は触れない。

 

「……チッ。結局、お前らのダシかよ。……まあいい。わかったよ。あの写真は出さねえ」

 

 ユイが吐き捨てる。視線は落とさないまま、不満が残っているのは明白だ。

 大悟は一度だけ息を吐く。そこで終わらせず、真白を見る。

 

「……なあ、真白。写真は一切だめなのか。ユイのモデルになるのも、全部なしか」

 

 呼びかける。

 真白はきょとんとした顔になった。しかし、すぐに理解したように視線が戻る。

 

「……別に駄目じゃない。あたしは大悟のもの。大悟がいいなら、さっきのも出してもいい」

 

「えっ、そうなの?」

 

 ユイが声を上げる。

 振り返ると、目が大きく開いている。怒りは消え、計算が戻っている。

 

「……じゃあ、きもダイ次第ってことだよな」

 

 言葉を選ぶように口を開く。声の調子が変わる。軽くはないが、さっきより柔らかい。

 大悟は首を横に振る。

 

「だめだ。さっきのは全部なしだ。あんまりエロすぎる。ただ、撮り直すなら話は別だ。服を着たままならいい。それが条件だ」

 

 静かに置く。

 部屋が一瞬、止まる。ユイは黙ったまま大悟を見る。測るような目だ。

 そして、ゆっくり息を吐いた。

 

「……なるほどな……。最初からそう言えよ……と言いたいけどな」

 

 小さく頷く。

 それで十分だった。

 横で真白が静かにこちらを見る。なにも言わない。ただ、視線だけがある。

 

 その意味はわかる。

 

 ──任せた。そういう眼だ。

 大悟は視線を外さずに受けた。

 

「だけど、ただ服を着ただけじゃつまらねえ。真白にも罰を与えないとな」

 

 大悟はにやりと笑った。

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