学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】 作:ドン・ドナシアン
028 大悟がこうした。責任……とって
夜の七時を回っている。
空にはまだわずかに青さが残っているが、街の明かりの方が強い。
昼と夜の境目は、すでに地上では崩れていた。
連休中の都心の街は、人で埋まっている。
歩くたびに肩が触れそうになる。
その中を、真白は大悟の腕に、自分の腕を絡めたまま歩いていた。とてもじゃないが、腕に掴まらせてもらわないとまともに歩けないのだ。
大悟の腕に両手でしがみついて、身体を預けるようにしている真白は、端から見ればかなりのバカップルだろう。
身体が触れている。歩幅も自然と揃う。
——こういうのも、悪くない。
気分は軽い。
ただ、完全に意識を外すことはできない。
さすがに、崩れそうになる顔を俯かせて隠す。
原因ははっきりしている。
施錠された革帯の下着の内側で、存在を主張してくる二本のディルドだ。動かないとはいえ、かなり揺れる。
歩くたびに、深々と打ち抜いている異物が真白を翻弄して、全身に刺激を伝えてくる。
それだけでなく、卵型の突起もまた、小刻みな振動をもっとも敏感な股間の突起に刺激を送り込み続ける。
今日は、大悟に受ける“路上調教ごっこ”の日──。
真白に玩具を仕込んだのは大悟だけど、提案したのは真白。
大悟はエッチだ。こういう遊びが好きなことを知っている。でも、真白はもっとエッチかもしれない。大悟に受ける玩弄は悪くない。逃げ場を取りあげられて追い詰められることが堪らない。
腕に掴まっているとはいえ、うまく歩けないために、人にぶつかりそうになって、身体が揺れる。
そのたびに、逃げ場がないことを思い出す。
それでも、嫌ではない。
髪は少し重い。
赤い毛の混ざった明るい茶色のウィッグが肩でゆるく巻かれていて、歩くたびに毛先が頬や首筋に触れる。前髪も長く、視界の端にかかる感覚が落ち着かない。
肩の出た薄いトップスと短いスカート。普段より軽い布地と露出のせいで、肌の感覚が妙に残る。ヒールも高く、自然と大悟に体を預ける形になる。
——変装は条件だった。
“ごっこ遊びなんだから、ちゃんと別人になれ”と、大悟に言われた。
最初は戸惑ったが、嫌ではなかった。
鏡で見た自分は、少しだけ他人みたいで、そのズレが思ったより楽しい。
これなら、気づかれない。
少なくとも、学園で見せている一条真白──いや、木許真白とは、結びつかない。
隣を見る。
伊達眼鏡をかけた大悟が、なにも言わずに歩いている。
雰囲気は変えているつもりらしいが、体型までは隠せていない。
見慣れたままだ。
腕を組ませたまま、歩調だけを合わせてくる。
まだ意地悪はない……。
——でも、そのうち来る。
そう思うと、少しだけ意識がそちらに向く。
むしろ……。
なにをさせられるのか、少しだけ愉しみにしている。
連休中の夜の街は騒がしい。
看板の光も強く、人の声も絶えない。
聞き慣れない言葉も混ざっている。
片道三車線の広い四差路で信号が赤に変わった。人の流れが止まり、真白たちも交差点の前に足止めされる。
「やっぱ、お前、目立ってんな」
不意に、大悟が前を向いたまま言う。
「……うーん、面倒」
街に出れば視線は感じる。
いつものことだ。慣れてはいるが、気持ちがいいわけではない。
「変装しても美少女は美少女だからな」
「大悟のせい……こんなの、はかせるから」
「そうか? とにかく、注目されてる。気を抜くなよ」
短く言われる。
その意味を考えるより早く——。
次の瞬間、股間に喰い込んでいる革帯の前に仕込まれた卵型の突起が、突然動き出した。
「んんっ」
思わず腰が落ちる。
片側の手が下腹に伸びた。
その動きだけで、周囲の視線が集まる。
息を整えようとするが、次第に振動が深くなる。
身体を起こせない。
腕にしがみついたまま、懸命に体勢を立て直そうとするが、うまくいかない。
不意に、振動が止まった。
「大丈夫か」
大悟が素知らぬ顔で声を掛ける。
「うう、白々しい……」
視線を向けた。
両手で大悟の腕を掴み直そうと、身体を伸ばす。
しかし、その手が、すっと抜かれてしまう。
「えっ、なに?」
大悟を見る。
わずかに距離を取られている。人ひとり分ほど。
「せっかくのごっこ遊びだ。簡単じゃ面白くないだろ」
大悟が信号の向こうを見る。
真白も顔をそっちに向けると、丁度、歩行者信号が青に変わった。
「ひとりで来い」
「えっ?」
思わず声が漏れる。
その直後、股間で振動が走った。
「くっ」
今度は予期していた。
だから、さっきよりは声も抑えられたし、動きも小さい。
それでも、きつい。
ふたりで、こういうことをするようになって、半月は過ぎている。
大悟のSは、少しずつ強くなっていく。
それに合わせて、自分の方もMとして馴染んできている気がする。身体もそれに応じて、敏感になっている。
この程度の刺激でも、意識が持っていかれる。
いまでも、立っているだけで精一杯だ。
太腿から膝にかけて、さざ波のようなおののきが走り続けている。
立ちすくんでいる真白を置いて、大悟はひとりで歩き出していた。
「だ、大悟、待って……」
声を飲み込みながら、真白は後を追う。
ミニスカートから伸びる脚は、自分のものではないように力が入らない。
まっすぐ歩こうとしても、高い踵がぐらつく。
足取りも不安定で、正面から来る通行人と何度もぶつかりそうになる。
振動を受けたままでは、咄嗟に避けられない。
そのたびに動きが遅れて、距離が開く。
気づけば、人混みの中に大悟の姿を見失っていた。
それでも、なんとか赤になる前に交差点を渡りきる。
横から、大悟が現れた。
「ああ、大悟」
真白はすぐに、両手でその腕に掴まる。
「さすが、真白だ。慣れてきたな」
「うう、早く止めて……」
「いや、その様子なら大丈夫だろ」
大悟が笑う。
「だ、大丈夫じゃない……」
いまも刺激は続いている。
こうして立っているだけで、気力を総動員しなければならない。
それでも、さっきの刺激の余韻が、じわりと内側に残っている。
革帯の内側は、じっとりと熱と蜜を帯びていた。
「なら、やめるか?」
「……や、やめなくて……いい」
「お前、やっぱり、ドエッチだな」
大悟が小さく笑う。
「……大悟が……こうした。責任……とってもらう……」
「なら、もう少し頑張ってもらおうかな」
その後も、大悟は真白を夜の街に連れ出したまま歩かせ続けた。
振動は、断続的に繰り返される。
動いては止まり、止まってはまた始まる。
そのたびに、真白の足取りは乱されていく。
気がつけば、ラブホテルが並ぶ坂道に入っていた。
赤と黒の看板が目に入る。
“サド侯爵の館”
大悟は、その入口の前で足を止めた。
「いいか?」
大悟が真白を見る。
「いい」
真白は頷いた。
「……撮った?」
「撮った」
亜美はスマホを一度下ろすと、すぐに画面を確認した。
ちゃんと残っている。
女の方は俯き加減で顔まではよくわからないが、男の方ははっきり写っていた。普段はかけていない眼鏡をしているものの、あの体型は見間違えようがない。
「やっぱ、あれ、三年のきもダイ先輩だよね」
栄子が耳元で囁く。
亜美は小さく頷いた。
「多分、間違いない」
「へえ、あのきもダイ先輩って、案外もてるんだね。一条先輩とカップルって噂もあるのに」
「脅してるって噂もあるけどね」
「でもさ、一条先輩があんなとこ来るわけなくない?」
「だよね。雰囲気も全然違うし」
「もっとちゃんとしてるっていうか、あんな遊んでる感じじゃないよね」
「うん。だから普通に別の女でしょ」
「じゃあこれ、浮気じゃん」
「でしょ。しかもホテル直行だし」
「うわ、それやばくない?」
ふたりで顔を見合わせる。
「これ、ネタになるじゃん」
「だよね。土産にできるでしょ」
「褒めてもらえるかもね」
「やったじゃん」
亜美と栄子は笑みを交わした。
それから急いで物陰を離れると、ラブホテル街から抜けるように、小走りで坂を下っていった。