※この作品はR-18です。

学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】   作:ドン・ドナシアン

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003 既成事実は作った。 あとは、消せない形に

 ホームルームを待つ教室は、いつもと同じだった。

 教室の空気は、四月特有のまだ落ち着かないざわつきを含んでいる。前の席では誰かが小声で笑い、後ろではスマホを机の陰に隠しているやつがいる。

 

 なにも変わらない。

 なにも──。

 

 大悟は窓際の後方、自分の席に座っていた。机に肘をつきぼんやりとしていた。

 今朝教室についたときから声を掛けてくる者はいない。視線も飛んでこない。

 

 いつも通りだ。

 真白は教室の中央付近。周囲には自然と人が集まっている。男子がなにかを話しかけ、女子がノートを見せ合っている。

 

 笑っている。

 これも、いつも通り。

 

 廊下ですれ違っても軽くうなずく程度の距離。それが学校での二人の関係だ。それも変わらなかった。

 昨日の夜など、存在しなかったみたいに。

 

 ──朝、目が覚めたとき。

 最初に感じたのは、シーツの冷たさだった。

 身体を動かして、違和感に気づく。

 裸だった。自分だけが。

 慌てて起き上がる。部屋は静かで、カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいる。

 

 隣には誰もいなかった。

 脱ぎ捨てたはずの真白の服も、トートバッグもない。革枷も見当たらない。床にも、机にも、痕跡らしいものはなにも残っていない。

 ベッドの皺も、ひとりで寝ていたような形にしか見えなかった。

 

 胸がざわつく。

 夢なのか──?

 

 だが、唇に触れた感触は覚えている。舌が触れた瞬間の熱も。手首にかけた革の感触も。真白の肌の感触も、彼女の喘ぎ声も──。身体がやっと繋がったときの感動も──。

 

 夢にしては、生々しい。

 けれどなにもない。

 

 起き上がって服を着る。鏡を見る。いつもの自分だ。腹の出た、丸い体。昨夜の高揚を知る者は、どこにもいない。

 階段を下りると、母親が普通に朝食を出してきた。特別な顔はしていない。

 隣の家も、静かだった。

 

 そしていま。

 

 教室の真ん中で笑っている真白は、完璧な学園のヒロインのままだ。

 大悟に近づくこともない。

 視線も寄越さない。

 あれは、本当にあったのだろうか?

 

 ホームルーム開始のチャイムが鳴る。

 担任がやってきて、日直だった真白が号令をかけて、全員が挨拶をする。

 そして、淡々と連絡事項を読み上げる。文化祭実行委員の募集、模試の申込期限、進路希望調査の再提出。

 

 やっぱり、いつもと変わらなかった。

 ホームルームが終わり、担任が真白を見る。

 

「一条さん、号令を」

 

 担任の言葉に、真白はそのまま応じることなく、座ったまま手を真っ直ぐにあげた。

 

「……なにかあるの、一条さん?」

 

 担任が真白を見る。

 大悟だけでなく、全員の視線が真白に集まる。

 

「はい、あたし、結婚したので、今日から一条ではなく、木許真白になりました」

 

 騒然となった。

 教室が悲鳴と雄叫びと叫び声で揺れる。

 大悟はびっくりした。

 教室が悲鳴と怒号で揺れる。

 

「はあああ──?」

 

「嘘だろ──」

 

「誰とだよ──?」

 

 担任が声を張り上げるが、誰も聞いていない。

 真白は立ち上がらない。

 ただ静かに、教室の斜め後方を見た。

 視線が突き刺さる。

 

 次の瞬間──。

 周囲の何人かが、同じ方向を見る。

 波のように、視線が流れる。

 

 大悟の席へ。

 

 喉が乾く。

 身体が固まる。

 

 真白がバッグからスマホを取り出し、ほんの一瞬だけこちらに向ける。

 大悟は慌てて自分のスマホを開く。

 通知が一件。

 

『やっぱり、すぐに提出してきた。木許大悟さん、旦那様』

 

 呼吸が止まる。

 顔が熱くなる。

 教室中の視線が刺さる。

 

「木許って──まさか、キモだいとか?」

 

「本当?」

 

「いや、違うだろう──」

 

 また叫び声がクラスを包む。

 しかし、真白は、囲まれながらも微笑んでいる。

 

 昨日の夜と同じ顔で……。

 その瞬間、大悟は理解した。

 

 夢じゃなかった。

 しかも、学園一の美少女は、本当に自分の妻になったのだ。

 

 真白は、囲まれながらも微笑んでいる。

 昨日の夜と同じ顔で……。

 ほんのわずかに、唇の端が上がる。

 視線が絡む。

 

 その瞬間、舌が触れた感触が蘇る。

 背中で革がきしむ音も。真白の綺麗な裸身もありありと──。

 

 喉が熱くなる。教室中の視線が突き刺さる中で。真白は、静かに瞬きをした。

 ――逃げ場は、ない。

 

 


 

 

 早朝、目が覚めた。

 

 隣で小さないびきが聞こえる。

 横を見る。

 

 小太りで、小柄で、丸い寝顔。

 可愛い……。

 

 布団の中は静かだ。

 互いに何も身につけていない。

 肌が触れている。

 昨夜の熱が、まだ残っている。

 

 股間にわずかな違和感がある。

 痛みというより、内側が広がった感覚。

 身体が変わった証。

 

 大人になった。

 

 時計を見る。

 四時半を少し過ぎている。

 外は薄く明るい。

 

 昨夜、わかったことがある。

 

 大悟は、思った以上に器用だ。

 最初はぎこちなかった。

 けれど、すぐに真白の反応を観察し始めた。

 どこに触れれば息が変わるか。

 どの速さで動けば声が変わるか。

 

 学習していた。

 そして、止まらなかった。

 真白の限界を探るように、追い詰める。

 けれど乱暴ではない。

 逃げ道を塞ぎながら、壊さない。

 

 危ない……。

 

 大悟は、多分、もてるようになる……。

 

 学校では喋らないし、目立たない。

 笑われる側にいるのかもしれない。

 

 でも、話せば理路整然としているし、パソコンの話になると、目が変わる。

 それに、優しい。

 嘘をつかない。

 

 大人になれば、評価基準は変わる。

 見た目の優劣は消える。

 残るのは能力と人柄。

 

 真白の勘は外れない。

 大悟は、いずれ認められる。

 

 だから──。

 真白は決心した。

 

 本当は、婚姻届は卒業後に出すつもりだった。

 両親にもそう話している。

 

 でも……。

 

 それでは遅いかも……。

 

 いまは真白だけのものでも、社会に出れば、誰かが気づく。

 

 優しさにも、頭の良さにも、そして昨夜知った──あの一面も……。

 

 奪われる可能性がある……。

 それは許せない。

 

 真白はそっと身を起こす。

 寝ている頬に、軽く口づける。

 

「……旦那様。届を出しに行ってきていい?」

 

 小さく囁く。

 返事はない。

 ならば、承諾したのだと思おう。

 

 昨夜使った手枷をトートバッグに回収する。

 すごかった。

 大悟を誘うために準備したけど、途中からは真白の方が、動けなくされて大悟に責められることに夢中になった。我を忘れた。

 これは危険だ。

 だけど、まだこれを使ってもらおう。

 

 服を抱えて、一階へ降りる。

 自分の家ではないが、勝手は知っている。

 大悟の義父と義母を起こさないように、静かに浴室へ入る。

 

 熱い湯が肌を流れる。

 鏡に映る自分を見る。

 少しだけ、女の顔になっていた……。

 

 制服を着る。

 髪を整える。

 

 五時を過ぎたところ……。

 時間はまだある。

 いまから役所へ寄っても、十分間に合う。

 自転車で行って自宅に戻り、支度をし直して学校に行けば十分──。

 

 今日──。

 真白は、大悟と夫婦になる。

 

 既成事実は作った。

 あとは、消せない形にするだけ。

 

 たぶん、大丈夫。

 なんとかなる。

 

 真白は、今日──木許真白になる──。

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