※この作品はR-18です。

学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】   作:ドン・ドナシアン

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033 選んだのは大悟。サルに関係ない

「手紙?」

 

 真白の声は低い。

 廊下の中央に立っている男子生徒は、すぐに目に入った。

 背は高く、姿勢がいい。短く整えられた髪に、無駄のない体つき。制服の着こなしも崩れていない。鼻筋の通った整った顔立ちで、派手さはないが、目を引く。笑えばそのまま人気が出るタイプだとわかる。

 サッカー部のエース、工藤だ──。

 

 名前くらいは知っている。学園でも目立つ存在だし、女子からの人気も高い。

 大悟と真白が一緒にいるようになってからも、なぜか学園内のSNSでは、真白の本命は工藤だという話が消えない。冗談なのか本気なのかは知らないが、そういう噂が出る程度には、この男は“釣り合う側”にいる。

 工藤の興味が真白に向いていることは、なんとなく前から気づいていた。

 真白が選んだのは大悟だったが、それ以前は、ああいう男が釣り合うのかもしれないと、ぼんやり思ったこともある。

 

 工藤と真白と大悟──。廊下にわずかに空間ができる。

 通り過ぎる連中が足を緩め、自然と距離を取る。女子の視線が集まっている。誰も騒がないが、この場の中心がどこかははっきりしていた。

 

「読んでくれたか、一条?」

 

 工藤がまっすぐに言う。

 そのまま距離を詰めてくる。迷いのない足取りだった。

 大悟はわずかに前に出る。

 完全に遮るほどではない。だが、真白との間に半歩だけ入る。

 工藤の足が一瞬だけ止まった。

 

 だが、それだけだった。

 視線は一度も大悟に向かない。最初から最後まで、真白だけを見ている。

 

「……読んでない。必要ない。それと、邪魔」

 

 真白が即座に答えた。

 

「読んでない? 俺の手紙を」

 

 工藤の声がわずかに変わる。

 驚きというより、戸惑いに近い気がした。それでも姿勢は崩れない。

 大悟は一拍だけ置いた。

 

「……読んでないぞ。俺が捨てた」

 

 短く言う。

 

 工藤の視線が、そこで初めて動いた。

 わずかに、大悟へと向く。工藤の身長は百八十センチを超えているだろう。上から大悟を見下ろす姿勢だ。

 

「お前が捨てた?」

 

 工藤の表情がわずかに険しくなる。だが、それは一瞬で消えた。

 視線はすぐに真白へ戻る。

 

「読んでないなら、ここで言う──。一条真白──。お前が好きだ」

 

 次の瞬間、周囲の女子から小さな悲鳴のような声が上がった。

 

「お前には、俺の方が合ってる。だから、俺と付き合え」

 

 工藤がきっぱりと言い切った。

 

「付き合わない。もう一度言う。邪魔──。どいて」

 

 真白が即答する。

 そして、前に立つ工藤を避けるように横に動く。

 

「待て──」

 

 工藤が真白の前に動く。

 大悟は強引に間に入った。

 

「おっと」

 

「いてっ」

 

 工藤と大悟は思い切りぶつかった。体勢を崩したのは工藤の方だった。数歩、後ろに下がる。

 

「デブでよかったと、はじめて思ったな」

 

 大悟は軽く笑った。

 工藤はなにも言わなかった。

 ただ、ゆっくりと姿勢を戻す。

 その視線が、今度ははっきりと大悟に向いた。

 

「さっきから、なんだ。俺は一条と話している。邪魔をするな」

 

「いや、邪魔するだろう。人の女を目の前で口説くなよ」

 

 大悟は吐息をつく。

 

「人の女? まるで、もの扱いだな。一条がお前の物ではない、ひとりの人間だ」

 

 工藤が大悟を睨む。

 

「んっ? あたしは大悟のもの。もの扱いで十分」

 

 真白が小さく声を挟む。

 

「お前、ややこしくなるから、口挟むなよ」

 

 大悟は苦笑した。

 

「そうやって、お前は、いつも彼女を縛っているのか──」

 

 工藤が大きな声で喚いた。

 

「縛る? いまの言葉のことか?」

 

 大悟はきょとんとなった、

 

「いつも、縛る?」

 

 そのとき、真白が我慢できなくなったかのように、突然に吹き出した。

 多分、余計なことを想像してしまったのだろう。しかし、学園内での真白の笑顔は珍しい。周囲が騒然となる。

 

「お前が一条の弱みでも握っているという噂があるな」

 

 工藤の声は大きい。周りも「マジ?」、「脅しって?」などとささやいているのは耳に入ってくる。

 面倒だな。

 大悟は内心で舌打ちした。

 

「一条──いや、真白。俺に言え──。ただ一言──。助けてと。そうすれば、俺はすべてからお前を救ってみせる」

 

 工藤が大袈裟な素振りで手を振り回す。

 役者か──。

 大悟は突っ込みそうになった。

 そのときだった──。

 

「……さっきから、キーキー、うるさい、サル」

 

 声の主は真白だ。

 視線を向ける。

 真白は無表情だった。珍しく大悟には、いまの真白の感情が読めないでいた。

 

「えっ、サル? まさか、俺のことじゃないよな?」

 

 工藤は困惑している。

 

「大悟、ちょっと床を見て」

 

 不意に真白が言う。

 

「えっ、床か?」

 

 目線を落とす。

 なにもない。

 

「次に上見て」

 

「上?」

 

 訝しみながら顔をあげる。

 すると、大悟の頬に温かい感触が触れた。

頬に触れたのは、手のひらだった。

 次の瞬間、上から唇に真白の唇が触れていた。

 びっくりして、身体を硬直させてしまう。大悟の眼は大きく見開いていた。見えているのは、悪戯が成功して喜んでいるときの真白だ。

 

 真白の顔が離れた。

 目の前の工藤は明らかに狼狽している。

 一方で、周囲は完全な静寂に包まれていた。次いで、爆発するような絶叫が襲いかかってきた。

 

「あたしが選んだのは大悟。サルに関係ない」

 

 真白が大悟の腕をしっかりと両手で握って、工藤に言い放つ。

 

「あっ、うわ……そんな……」

 

 工藤は衝撃を受けてしまった雰囲気だ。

 気後れするように、その場から数歩後退った。

 

「行こう、大悟」

 

「あ、ああ……」

 

 大悟は頷く。

 その大悟を真白が腕を抱えたまま引っ張られて歩き始めた。

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