※この作品はR-18です。

学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない   作:ドン・ドナシアン

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038 文芸部に入らないっすか?

 大悟が、遠藤かおるとともに文芸部の部室に戻ると、夏制服姿の真白が窓際の椅子に座っていた。

 窓から差し込む午後の陽射しが、真白の長い黒髪を照らしている。椅子に腰掛け、スマホを眺めているだけなのに、妙に絵になる。背筋を伸ばし、長い脚を揃えて座る姿は、まるで雑誌の一ページのようだった。

 

 ……本当に、綺麗な奴だよな。

 毎日一緒にいるのに、こうして不意に目にすると、いまだに見惚れてしまう。

 

 部室は、教室の半分ほどの広さだった。

 中央には長机が二つ並び、周囲にはパイプ椅子が置かれている。壁際には古い書棚があり、文庫本や文学全集、文芸雑誌などが並んでいた。

 その一角には、文芸部が発行したらしい季刊誌が、号数順に数冊ずつ、丁寧に並べられている。

 ただ、その本棚の横には段ボール箱がいくつも積まれていた。蓋が開いている箱を覗くと、棚に並んでいるものと同じ冊子が、ぎっしりと詰め込まれている。箱には年度と号数が記されており、古いものは数年前の日付だった。

 

 ……売れ残りかな?

 文芸部は、季誌を発行していて、部活動の一環として販売もしていると、かおるが言っていた気がする。しかし、大して売れてないのだろう。ただし、管理は行き届いているようだ。書棚にも机にも埃はなく、段ボール箱もきちんと揃えて積まれている。

 売れていないからといって、ぞんざいに扱われているわけではないようだ。

 それはともかく、そんな飾り気のない部室に真白がひとり座っているだけで、まるで違う場所に見えてしまうのだから、不思議なものだ。

 

「大悟、お疲れさま」

 

 大悟たちが入ってきたことに気づくと、真白がスマホから顔を上げて、座ったまま弾けるような笑みを向けてきた。

 普段は無表情な真白が、大悟にだけ見せる、心からの笑顔だった。

 大悟は、思わずどきりとしてしまった。

 

「うわっ、真白先輩、そんな顔で笑うんですね」

 

 横に立っているかおるが驚いたような声をあげた。

 

「ああ、待たせたか」

 

 大悟は真白のところまで歩いていく。

 

「大丈夫。あたしも、さっき来たところ。運営係の仕事は終わった?」

 

「ああ。今日はもう終わりだ。明日からは放課後だ。ペンキ塗りだ」

 

 大悟は長机にあったパイプ椅子を窓際に持っていって、真白の横に座る。

 

「大悟先輩って、意外に器用なんすね。驚きました」

 

 かおるが真白に声を掛けた。

 

「そう。じゃあ、帰ろうか、大悟」

 

「ちょっと待ってくださいよ。あたしもいるんすけど。さっきから無視っすか。見えてますよね」

 

 横にやってきたかおるが立ったまま声を掛けてきた。

 

「ちゃんと見えてる。羽虫、お疲れさま」

 

「いや、なんすか、その扱い……」

 

 かおるは笑っている。

 すると、真白はスカートのポケットから鍵を取り出した。

 

「羽虫、これ。助かった。ありがとう」

 

「ああ、部室の鍵っすね。どういたしまして」

 

「ちょうどよかった。サルに誘われて、鬱陶しかったから」

 

「……サル?」

 

 かおるが鍵を受け取りながら、首を傾げた。

 

「二人三脚は息が合うことが大事だとか。親睦を深めるためにカラオケにでも行こうとか。本当にサルがうるさかった。だから、ここに逃げ込めて助かった」

 

「さっきから、サルって、誰のことっすか?」

 

「二人三脚でペアを組むことになった、うるさい男……。名前は忘れた」

 

「工藤だろ」

 

 大悟は横から口を挟んだ。

 

「ああ、それ」

 

「工藤先輩のことっすか。あのサッカー部の工藤先輩ですよね。赤組のキャプテンじゃないっすか。なんで、サルなんすか」

 

「いつもキーキー喚いている。だから、サル」

 

「いや、あの人、女子にはかなり人気あるんすけどねえ……」

 

「知らない。興味ない」

 

 真白はあっさりと言い切った。

 

「あいつ、まだお前のことをしつこく誘ってるのか。あれで懲りたんじゃないのか」

 

 大悟は呆れて言った。

 工藤は以前、大悟の目の前で真白に告白していた。それも、大悟より自分の方が真白にふさわしいと、人前で大見得を切ったのだ。

 真白は工藤をあっさり振ったばかりか、大勢の生徒が見ている廊下で、大悟にキスまでしてきた。

 あのときは、生活指導室に呼ばれたりして大変だった。

 その工藤が、今度は二人三脚を口実にカラオケとは……。

 まだ、懲りてないらしい。

 そもそも、真白はもう人妻だ──。

 

「ねえ、ちゃんと言った。大悟に隠し事をしなかった」

 

 真白が大悟に真っ直ぐに視線を向けてきた。

 

「ああ、そういうことか。ちゃんと報告してくれたんだな」

 

 大悟は自然に手を伸ばし、真白の頭を撫でた。

 真白が褒めてもらいたそうな顔をしていると思ったのだ。

 

「うん……」

 

 真白は嬉しそうに目を細め、撫でられるままになっている。

 やっぱり、当たりだった。

 

「……なんか、すごいもの見せられてる気がするんすけど」

 

 かおるが呆れたように呟いた。

 

「なにがだ?」

 

「いや、あの真白先輩が、頭を撫でられて喜んでるんすよ。学校の連中が見たら、腰抜かすっすよ」

 

「羽虫、うるさい……」

 

 真白はかおるを睨んだが、頭は大悟の手に押しつけたまま、離れようとはしなかった。

 

「ほら、その態度の違いっすよ……」

 

 かおるが肩をすくめ、長机の前にあるパイプ椅子に腰掛ける。

 大悟は、真白の頭から手を離すと、さっき売店で買ってきたペットボトルをレジ袋から取り出した。

 

「真白、これ」

 

「……水?」

 

「ああ。練習で汗をかいただろ。ここで飲め。飲み終わったら行くぞ」

 

 真白は一リットルのペットボトルを受け取ったものの、すぐには動かなかった。

 

「……ここで?」

 

 不思議そうに大悟を見上げてくる。

 大悟はその視線を受け止めながら、今度は鞄から深紅のチョーカーを取り出した。

 真白は、大悟がチョーカーを取り出したことで、眼を大きく見開いた。

 

「……髪をあげろ」

 

 真白の首の前に、開いたチョーカーを持っていく。

 慌てたように、真白が髪を持ちあげる。

 大悟は開いたチョーカーを真白の首に回し、留め具を合わせた。

 小さな金属音が鳴り、ロックがかかる。もう、大悟の持っている解除信号を出すスマホソフトでないと外れない。プログラミングは大悟自身だ。

 真白はじっと大悟の顔を見つめている。

 大悟が留め具を確かめてから手を離すと、真白が何度か瞬きをした。

 

「……水は残すな。ゆっくりでいい。でも、飲み終えてから行くぞ」

 

「……わかった……」

 

 その声は、さっきよりもずっと小さかった。

 真白がペットボトルの蓋を開ける。

 

「……なんすか、なんすか……。あたし、なにを見せられてるっすか?」

 

 かおるが大悟と真白を交互に見た。

 

「なにって、チョーカーを嵌めただけだろう」

 

「いや、それは見ればわかるっすよ。なんで、そんな当たり前みたいに嵌めてるんすか?」

 

 かおるは真白を見た。

 

「それに、真白先輩も……。なんか、急に雰囲気が変わったような……。なんか……エロいっす……」

 

 真白はペットボトルに口をつけかけていたが、かおるに視線を向けた。

 

「……羽虫、うるさい」

 

「うわっ、そっちはいつもどおりっすね……」

 

 かおるがわざとらしく声をあげる。

 大悟は黙ったまま、口元を綻ばせた。この深紅のチョーカーは、欲しいと強請った真白のために、大悟が準備したものだ。そして、このチョーカーを嵌めることが、ふたりの秘密の〈ごっこ遊び〉に入ることの合図でもある。

 真白は、すでに〈ごっこ遊び〉のモードに入っている。

 

「それに、その水なんすか? 作業の後、購買部でわざわざ買ってたけど、どういうことです」

 

「どういうこともない。真白が練習終わりで喉が渇いているかと思ってな。いいから、気にするな」

 

 大悟が言った。

 

「いいや、気にするっす。なにが始まったんです?」

 

「うるさい、羽虫──」

 

 真白が一生懸命に飲んでいたペットボトルから口を離して、かおるを睨みつけた。

 しかし、真白はすぐにペットボトルへ口を戻す。

 透明なボトルが傾き、水が少しずつ減っていく。

 真白は両手でボトルを支え、何度か喉を鳴らしている。途中で息をつき、また飲み始めた。

 大悟は黙って、その様子を眺めていた。

 時折、真白が大悟の顔を窺うように視線を上げる。そのたびに、大悟がなにも言わずにいると、またペットボトルに口をつける。

 

 ……本当に、素直だな……。

 もちろん、かおるがいることは承知している。

 むしろ、かおるには、ある程度知っておいてもらおうと思っていた。これからも付き合いが続くのなら、真白と大悟の関係を、少しくらい理解してもらった方がいい。

 なにしろ、かおるには以前にも、大悟と真白の〈ごっこ遊び〉を目撃されているのだ。学園内で協力者を作るとすれば、このかおる以外にはあり得ない。

 もっとも、なにもかも説明するつもりまではなかった。

 そこは、夫婦だけの秘密だ。

 

「……真白、練習の後で、トイレに行ったか?」

 

 大悟は訊ねた。

 真白がペットボトルを離して、首を横に振る。

 

「……行ってない……。大悟に……命令されたから……」

 

「俺は命令してないぞ。なるべく、行くなって言っただけだ」

 

「午後は一度も行ってない」

 

 真白はそれだけを言うと、再びペットボトルに口を付けた。

 

「……うわ、うわ、うわ……。あのう、大悟先輩」

 

 かおるが声を潜めた。

 

「なんだ?」

 

「もしかして、あれ……あのときみたいな……命令っすか?」

 

「どうしてそう思う?」

 

 大悟はかおるを見た。

 

「いや、あのときと同じ眼をしているから……。真白先輩も……大悟先輩も……。そもそも、さっきの会話、どういう意味っすか……。トイレ行くなって言ったんすか?」

 

「言ってはないな。なるべくって、言ったんだ……。なあ、真白?」

 

 大悟は真白を見る。

 真白が水を飲み続けながら、小さく頷いた。

 

「……いや、なるべくって……。なんすか、それ……?」

 

 いつの間にか、かおるの顔は真っ赤になっていた。

 

「羽虫……聞こえてる」

 

 真白がペットボトルから口を離した。

 

「わっ、すみません。でも、気になるじゃないっすか。なんで真白先輩も、そんなに一生懸命、水を飲んでるんすか?」

 

「大悟が、飲めって言ったから……」

 

「……それだけ?」

 

「それだけ」

 

 真白は当然のことのように答えると、またペットボトルを傾けた。

 かおるはしばらく、その姿を呆然と眺めていた。

 だが、やがて、大きく息を吐いた。

 

「……あーあ、あたし、やっぱり、とんでもない夫婦に関わっちゃった気がするっす……」

 

 かおるが大袈裟な仕草で肩を竦めた。

 しばらくして、真白がやっとペットボトルの水を飲み干した。

 空になったボトルを大悟に差し出す。

 

「……飲んだ」

 

「ああ。よくできたな」

 

 大悟が頷くと、真白は満足そうに目を細めた。

 

「あっ、それ、捨てとくっす」

 

 かおるが横から手を伸ばし、空のペットボトルを受け取った。

 

「どうもな」

 

「いえいえ……」

 

 かおるはペットボトルを手にしたまま、真白と大悟を交互に見た。

 

「……なんか、わかってきた気がするっす」

 

「なにがだ?」

 

「真白先輩って、大悟先輩の言うことなら、なんでも聞くんすね」

 

「なんでもってわけじゃないぞ」

 

「そうっすかねえ……」

 

 かおるは少し考えるような顔をした。

 

「……だったら、ちょっと相談があるんすけど、大悟先輩……」

 

「相談?」

 

 大悟はかおるを見た。

 

「おふたり、文芸部に入らないっすか?」

 

「なに言ってんの、羽虫」

 

 真白が口を挟んだ。

 

「いや、悪い話じゃないと思いますよ。実は、この文芸部って、部員が五人しかいないんすよ」

 

 かおるが真剣な顔を真白に向ける。

 

「五人?」

 

 大悟は思わず聞き返した。

 

「はい。しかも、あたし以外はほぼ幽霊部員っす。生徒会からも校友会本部からも、部員が少ないうえに活動実績も乏しいって言われてて……。このままじゃ、部室を明け渡さなきゃならないかもしれないんす」

 

 かおるが困ったように頭を掻いた。

 

「お前以外って……。もしかして、文芸部の部長って、お前なのか?」

 

 大悟は言った。

 考えてみれば、この部室には何度も来ている。しかし、かおる以外の文芸部員と顔を合わせたこともない。

 

「それを知らなかったんすか? あたしが部長っす。だから、部室を貸したりできるんす」

 

 かおるがちょっと憤慨したように応じた。

 

「だって、まだ二年生だろ」

 

「二年生だから、なんすか。三年生がいないんすよ。別に、大悟先輩たちが入っても、部長になってくれなんて言わないっす。面倒なことは、全部あたしがやります。名前だけ貸してくれればいいんす。まあ、できれば季誌に投稿くらいはしてほしいっすけど……」

 

「季誌?」

 

「文芸部で発行してる雑誌っす。本当は年四回なんすけど、去年から年二回に減っちゃって……。それでも全然売れないんすよ」

 

 かおるが本棚に視線を促した。

 整然と並べられた季誌がそこにある。箱詰めされているものもだ。

 

「俺たちに名目だけの部員になれってことか?」

 

 大悟は首を傾げながら、真白を見る。

 真白は無表情だが、あまり興味を抱いてないのはわかった。

 

「そうっす。真白先輩が……いや、おふたりが入ってくれれば、部員も増えるし、なんとかなるんじゃないかなって……」

 

「だから、なに?」

 

 真白が冷たく言った。

 

「えっ?」

 

「それになんの得があるの? お前じゃなくて、あたしたちに」

 

 すると、かおるが真白に笑みを向けた。

 

「……この部室、あたし以外は幽霊部員で、実質的にあたししか使ってないんす。だから、さっきみたいに変なことするんなら、部室を貸してもいいっすよ……。いつかみたいに、階段で変なことするより、安心じゃないっすか?」

 

 かおるが、さっき真白から受け取った部室の合鍵を見せた。

 

「……スマホで連絡してくれれば、あたしも近づかないっす。これも渡しとくっすよ」

 

「へえ……」

 

 大悟は思わず声を漏らす。

 確かに、悪い話ではないと思ったのだ。

 

「却下」

 

 しかし、真白が即答した。

 

「なんでっすか──?」

 

 かおるが素っ頓狂な声をあげた。

 

「あたしたちを入部させたいのは、新しい部員を確保するためよね?」

 

 真白が冷ややかな眼をかおるに向けた。

 

「そうっす。真白先輩が部員になったっていうだけで、入部希望者が殺到すると思うんすよ。……あっ、いや、おふたりが入ってくれれば……」

 

「もういいよ。取り繕わなくて」

 

 苦笑しながら、大悟は口を挟んだ。

 

「あっ、すいません……。でも、入部の条件を作品ひとつの提出にしておけば、それだけで季誌の原稿集めに苦労しなくて済むっす」

 

「さっきから、お前の利点と、こっちの利点を混ぜるな、羽虫」

 

 真白がかおるの言葉を遮った。

 

「えっ?」

 

「部員が増えれば、この部室には人が群がることになるかもしれない。でも、あのサルみたいなのが集まってくれば、部室なんて使えなくなる。意味がない」

 

「それもそうだな……」

 

 大悟も気がついた。

 真白が入部したとなれば、大勢の生徒が文芸部に押しかけてくることは十分に考えられる。

 しかも、そのほとんどは真白目当てだろう。

 そんな連中が部室に入り浸るようになれば、二人きりになるどころではない。むしろ、面倒なことになるだけだ。

 

「羽虫の提案は、むしろ面倒。だから、却下」

 

 真白が言い切った。

 大悟も頷いた。

 

「あっ、ちょっと待ってほしいっす。だったら、こっちはどうっすか?」

 

 かおるが慌てたように立ち上がった。

 本棚から分厚い文学全集を一冊取り出すと、机の上に置いて表紙を開く。

 大悟は思わず眼を見張った。

 本の中身が四角くくり抜かれ、そこに小さな空間が作られていたのだ。

 かおるはその中から鍵束を取り出した。

 

「これを渡すっす」

 

「……なんの鍵だ?」

 

 大悟が訊ねた。

 

「この前、先輩たちが屋上の階段で変なことしてたじゃないっすか。その横に、使ってない古い茶室があったの、覚えてるっすか?」

 

「ああ、あそこか……」

 

 大悟は頷いた。

 以前、真白と屋上へ続く階段にいたとき、踊り場の近くに古びた扉があるのを見かけていた。

 茶道部の部室だったらしいが、普段は閉ざされていて、人が出入りする様子もなかった。

 

「あそこ、もう何年も前に茶道部が廃部になって、それっきり使われてないんすよ。その合鍵っす」

 

「……なんで、羽虫がそこの鍵を持ってるの?」

 

 真白が眼を細めた。

 

「なんででもいいじゃないっすか」

 

 かおるが視線を逸らした。

 

「……お前、まさか勝手に合鍵を作ったんじゃないだろうな?」

 

 大悟が訊ねると、かおるは答えずに鍵束を揺らした。

 

「屋上の合鍵も一緒につけるっす。これなら、先輩たちは文芸部の部室に来る必要もないっすよ。あの茶道室なら邪魔も入らないっす」

 

「ほう……」

 

 大悟は声を漏らした。

 確かに、それなら話は違ってくる。

 文芸部にどれだけ人が集まろうと、茶室には関係がない。誰にも邪魔されず、真白と二人で過ごせる場所が手に入るというわけだ。

 

「……ただし、こっちを渡すんなら、名前だけの入部じゃ困るっす。ちゃんと作品を提供してほしいんすよ」

 

「作品?」

 

 大悟は首を傾げた。

 

「真白先輩の写真を五枚……。いや、表紙にも使いたいんで、六枚っす。それをもらえれば、あたしが詩をつけて、先輩たちの名前でフォトポエムとして季誌に載せるっす」

 

「フォトポエム?」

 

「写真と詩を組み合わせた作品っす。真白先輩の写真なら、絶対に見栄えがするっすよ」

 

「つまり、お前が俺たちの代わりに詩を書くってことか?」

 

「そうっす。どうせ、毎回、ほかの部員の名前だけ借りて、作品は全部あたしが書いてるんす。ひとつくらい増えても同じっすよ。でも、真白先輩の写真が載るなら、絶対に季誌も売れるっす」

 

「……お前、全部ひとりで書いてたのか?」

 

 大悟は呆れてかおるを見た。

 

「仕方ないっす。さすがに、投稿者がひとりだと、部誌としては成り立たないっすから」

 

「それで、季誌が年二回になったのか」

 

「あたしだって苦労してるんすよ……」

 

 かおるが情けない顔をした。

 

「確かにな。だが、写真かあ……」

 

 大悟は頷いた。

 真白は母親の紹介で、以前からカタログモデルの仕事をしている。学校の雑誌とはいえ、写真を載せることに問題はないのだろうか。

 大悟は真白を見た。

 

「……悪くない……。次の季誌はいつ?」

 

 真白が眼を細めた。

 

「秋の文化祭っす。夏休み明けに写真をもらえれば、あとはこっちでやるっす。詩も編集も、全部あたしが引き受けるっすよ」

 

 かおるが嬉しそうに答えた。

 そして、鍵束を真白に差し出しかけたが、思い出したように手を止めた。

 そのまま、大悟の方へ差し出してくる。

 

「大悟先輩。あの茶室なら、誰も来ないっすよ。鍵も掛けられるし、変なことし放題っす」

 

 かおるがにやりと笑った。

 

「お前なあ……」

 

 大悟は呆れた声を出した。

 しかし、悪い提案ではなかった。

 もう一度、真白を見る。

 

「……カメラマンが大悟ならいい……」

 

 真白がぼそりと言った。

 

「俺が撮るのか?」

 

「……うん。大悟が撮った写真なら、いい……」

 

 真白は静かに頷いた。

 大悟は少し考え、それから、かおるが差し出していた鍵束を受け取った。

 

「わかった。入部願書をくれ」

 

「本当っすか──」

 

 かおるが勢いよく立ち上がった。

 机の引き出しから取り出された入部申込書が渡される。

 大悟と真白はそれぞれ名前を書き込んだ。

 

「やったっす。これで文化祭と季誌は、間違いなく乗り切れるっす」

 

 かおるが二枚の申込書を嬉しそうに受け取った。

 

「まあ、そこまでしてくれたんだ。まるっきり知らない振りはしねえよ。全面的にとはいかないけど、多少は部の活動に協力するから」

 

「ありがとうございます。大悟先輩が来てくれれば、真白先輩も必ず来てくれるっすからね。これで文芸部も危機を乗り切れるっすよ」

 

 かおるが満面の笑みを浮かべた。

 

「……だったら、もういいよね……。大悟、そろそろ……」

 

 真白が大悟を見た。

 大悟は改めて、真白の姿を眺める。

 その声には、どこか落ち着かない響きがあった。

 視線を下げると、真白は太腿を小さく擦り合わせるように動かしている。

 大悟は内心でほくそ笑んだ。

 そろそろ、飲ませた水の効果が出てきたのだろう。

 

「そうだな……。お仕置きだったな……」

 

 大悟は鞄を開け、全国展開しているハンバーグチェーンの紙袋を取り出した。

 それを真白に差し出す。

 もちろん、中身は食べ物ではない。

 試験の準備と試験期間中、二人は一週間にわたって〈ごっこ遊び〉を控えていた。

 その期間が終わったら、真白と遊ぶつもりで、大悟は前もって道具を用意していた。

 今日の「お仕置き」は、たまたま都合のよい口実ができただけだ。

 そうでなくても、真白と遊ぶつもりだったのだ。

 だから、鞄に入れて持ってきていた。

 

「……これって……」

 

 真白が紙袋を開き、中を覗き込んだ。

 途端に、その顔が真っ赤になった。

 

「つけろ」

 

 大悟はそれだけを言った。

 

「……羽虫、出ていって」

 

 真白がかおるを見る。

 

「えっ、出ていけって……。ここ、あたしが部長なんすけど。それに、屋上手前の茶室の鍵を渡したじゃないっすか」

 

「つべこべ言わなくていい。さっさと行く──」

 

 真白が怒鳴った。

 いつもの冷ややかな口調とは違い、明らかに余裕を失っている。

 

「わ、わかったっす。すぐ出ていくっす。鍵は閉めといてくださいね」

 

 かおるは慌てて部室の鍵を長机に置いた。

 そして、大悟と真白を交互に見たかと思うと、逃げるように部室を後にした。

 大悟は、かおるがいなくなるのを待って、改めて真白に視線を向ける。

 

「……それと、下着は袋に入れて渡せ。スパッツもな」

 

「……はい……」

 

 真白は紙袋をぎゅっと抱きしめると、真っ赤な顔のまま大きく息を吐いた。

 ……ちょっと、人には見せられない顔になっているな。

 大悟は思わず口元を緩めた。

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