学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない 作:ドン・ドナシアン
いきなりだった。
顔になにかを被せられたのだと悟ったときには、すでに強い力で身体を後ろに引っ張られていた。
「なにをするっ──。誰だ──」
叫んだが、顔に被せられている布のせいで、くぐもった声にしかならなかった。
視界は完全に塞がれている。
なにが起きているのか、まったくわからない。
背後から両腕ごと羽交い締めにされ、抵抗する間もなく、どこかへ押し込まれた。
がちゃり──。
すぐ横で、鍵のかかる音がした。
──……え?
男子トイレの個室に連れ込まれたのだと気づいた。
足が洋便器らしきものに触れる。
──なんだ。なんなんだ、これは──?
心臓が激しく脈打ち始めた。
目の前は真っ暗で相手の姿はもちろん、自分がどんな状態に置かれているのかさえわからない。
──まさか、工藤の仲間か。
先ほどの会話が脳裏をよぎった。
盗み聞きしていたことに気づかれたのだろうか。
頭の中を、いくつもの可能性が駆け巡った。
暴れようとしたが、しっかりと関節を極められている。力すら入らない。
背筋に冷たいものが走った。
「お、おい……。誰だよ。なにするんだ……」
返事はない。
それどころか、背後から身体を締めつける力が、さらに強くなった。
──まずい……。
大悟は必死に身体を捩ろうとした。
そのときだった。
「……くすっ」
耳元で、小さな笑い声がした。
同時に、やっと自分の後頭部に柔らかい肉の塊のようなものが触れていることに気がついた。
んっ……?
この感触は……?
大悟は強張っていた全身の力を抜いた。
すると、後ろから大悟を抱きしめている〈人物〉がくすくすくすと、愉しそうに笑った。
「……真白か」
「当たり」
愉しそうな声とともに、顔に被せられていた布がするりと取り払われた。
同時に、羽交い締めにしていた腕が緩み、大悟の身体がくるりと反転させられた。
目の前にいたのは、赤組のTシャツを胸元まで捲り上げ、白いブラジャーを覗かせた真白だった。
そのまま正面からぎゅっと抱きしめられ、大悟の顔が真白の胸元に埋まる。
「お、おいっ」
どうやら真白は、背後から大悟を抱きすくめると同時に、自分が着ていたTシャツの裾を引き上げ、大悟の頭にすっぽりと被せていたらしい。
つまり、さっきまで大悟の視界を塞いでいたのは、真白が身につけているTシャツそのものだったのだ。
「ふふ、大悟、そこで喋らないで。くすぐったい」
真白が大悟の頭をかき抱くようにしながら、また笑った。
顔に押しつけられている真白の体温と柔らかな胸の感触に、一瞬だけ思考が白く弾けた。
だが、すぐに我に返って、真白の肩をそっと押し返した。
「……真白、ここ男子トイレだぞ」
「知ってる。だから、すぐに個室に隠れた」
悪びれた様子もなく、真白は頬を上気させたまま大悟を見下ろしてきた。大悟の方が首ひとつ身長が低いので、どうしても真白が見下ろすかたちになる。
黒い瞳の奥に、獲物を仕留めた猫のような愉悦が揺れている。
こいつめ……。
「個室って……。そういう問題じゃないだろ。誰か来たらどうする」
大悟は小声で言った。
少なくとも、いまはほかには誰もいなかった。だが、いつ入ってくるのかと思うと落ち着かない。
「大丈夫。ここ、あまり人が来ない」
「……まあ、そうだけど」
確かに、このトイレは一般生徒の応援席からは遠く、わざわざこちらまで来る生徒は少ない。ただ、本部席からは一番近いので、運営係の生徒たちは普通に利用している。
それにしても、工藤たちはどうしてこんなところにいたのだろう。
「さっきのサルたちも、もう行った。だから、しばらく大丈夫……と思う」
「思うって……。本部委員や運営係は普通に使いに来るぞ」
「そのときは、そのまま隠れていればいい。心配ない」
「心配ありありだよ……」
大悟は嘆息した。
だが、大悟は真白の言葉からふと気がついた。
「……ところで、真白。もしかして、俺を追い掛けて来たか?」
ほんのささやき声だ。
真白の両手は、いまだに大悟の頭をぎゅっと抱きしめている。
「そう。本部テントを出たのを見たから。そのままこっそりと追い掛けて来た」
やっぱりそうだと思った。
ならば……。
「……だったら、もしかして、さっきの工藤たちの話も聞いてたか……?」
大悟は真白に抱きしめられたまま、顔だけをあげた。
工藤が口にした、あまりにも身勝手で下品な嘘──。真白があんなことを言われたのを耳にしたのであれば、真白は傷ついていないだろうか……。
「ん? サルたちの話って、あたしがあのサルと付き合っているとかいうやつ?」
真白が、大悟の顔を上から覗き込むように身を屈めた。
その拍子に、捲り上げたままのTシャツの裾がさらにずり上がり、白いブラジャーに包まれた胸元が、いっそう露わになった。
しかも、真白が大悟の顔を自分の胸に押しつけるように抱いているので、谷間に顔が密着している。
さすがに落ち着かない。
それはともかく、どうやら真白は、あの下品な工藤たちの言葉を聞いていたようだ……。
「……やっぱり、聞こえていたか……」
「昔からあたしには、いろいろと言う人がいる。いちいち気にしてない。でも、大悟が傷ついたなら、あたしが処置する。……大悟、傷ついた?」
真白は、大悟の顔を覗き込んだまま、淡々と言った。
「俺じゃない。お前の心配してんだ」
大悟は、真白の体側に手を置いて、少し強い声で言った。
「あたし? 問題ない。あたしは大悟の妻。あのサルがなにを言っても他人のこと」
短く言った。
それだけだ。
大悟は真白の顔を改めて見る。
強がりでも、心配かけまいという虚勢でもない。心底、気にしてないというのが顔に表れている。
大悟は息を吐いた。
こいつが気にしてないならいいか……。
「……お前、それよりも、なんのつもりだよ……。男子トイレで襲撃なんてしやがって、心臓がとまるかと思ったぞ」
大悟は話題を変えた。
「大悟を見つけたから」
「見つけたらなんだよ。俺を見たら、お前は男子トイレに襲いに来るのか。どんな痴女だよ」
「あたしは痴女かも……。大悟だけの痴女……」
「……それは……。まあ、それについては、俺にも責任の一端が……あるか……」
ソフトSMの〈ごっこ遊び〉なんて教え込んだのは大悟だ。真白は元々、大悟の性癖に合わせようとしてくれたに過ぎない。真白がエッチで淫乱になったのだとしたら、よく考えれば、それは大悟のせいか……。
「体育祭も、久しぶりに愉しい。みんな、大悟の作った得点板を褒めてる」
「……それは、ありがたいけどな」
「でも、大悟成分が足りない」
「足りないって……。朝から何度も顔を合わせてるだろ」
「顔を見るだけじゃ足りない。抱っこもしてほしいし……」
真白は、大悟の首に回した腕に、ぎゅっと力を込めた。
「抱っこ?」
「……お仕置きも」
「お仕置きって……お前なあ……」
「だって、大悟とそういうことをするのが好き」
「……そういうこと、平気で言うなよ」
「大悟だから、言う」
「あのなあ……」
「大悟、お仕置き……」
真白は甘えるように言った。
大悟は大きく息を吐いた。
ここでか?
扉の向こうから、遠くグラウンドのアナウンスが聞こえてくる。
次の真白の出場競技は、午前中最後の二人三脚だ……。確かに、それまでは、たぶん三十分以上あるはずだが……。
まあ、時間はある……。
でも、人が来る可能性が……。
「大悟、ねえ……」
真白が甘えた声を掛ける。
大悟だけにしか口にしない口調だ。
「待て──。いま考えているから──」
大悟は真白に抱き付かれたまま言った。
だが、よく考えれば、なにがだめなんだ?
最悪、ほかの生徒に見つかったとしても、この真白は気にしそうにない気がする。まあ、停学程度は喰らう可能性はあるが、大悟と真白は夫婦なのだ。
退学まではいかないだろう……。多分……。
それに、そうなれば、工藤のような戯言を口にする者は、金輪際いなくなるだろう。
真白が誰の妻なのか、いやでもわかる。
だったら、別にいいのか──?
そして、あることが、ふと頭によぎった。
「……そういえば、次は二人三脚か。あの工藤と組むんだったな」
「……うん、そう」
大悟を抱きしめていた真白の身体がびくりと震えた。その顔にあからさまな嫌悪の色が浮かぶ。
本当に嫌いなんだな。
大悟は、その反応を見逃さなかった。
そもそも、さっきの工藤が、この真白に密着して、二人三脚をするなんて、腹も立つか。
あいつが嬉しがっている真白との二人三脚──。その直前に、大悟がその真白を抱いて犯してしまうというのは、ある意味、工藤への当てつけにはならないだろうか。
我ながら、考えることが暗いが……。
まあいい……。
どうせ、俺は根暗のきもデブだ──。
「……じゃあ、お仕置きの前渡しだな。俺以外の男とくっつくんだものな」
「……えっ?」
真白が目を見開いた。
しかし、次の瞬間、その表情がぱっと明るくなった。
「……そっか。くっつくんだものね」
「そういうことだ」
真白のショートパンツのポケットから鉢巻きの端が覗いていることに気づき、それをすっと抜き取る。
おそらく、二人三脚用のものだろう。
「……大悟?」
「お仕置きだ。そこのパイプの向こうに両手首を出せ」
「……う、うん……」
真白は小さく頷いた。
その顔には、隠しきれない喜びが浮かんでいた。
なんだか、真白へのお仕置きというよりは、真白の手の上で踊らされている気もするが……。
まあいいか……。
いつ誰が来るのかわからないというのも、たまにはスリルがあって面白い──。
見つかっても、生徒同士だ。なんとかなる──。
大悟は、壁のパイプに鉢巻きを回して、真白の両手首をぎゅっと縛った。
「……んっ」
「痛いか?」
「……ううん。大丈夫」
両手首を前方のパイプに繋ぎ留められた真白は、両腕をまっすぐ突き出し、上体を大きく前に倒す格好になった。
便器が邪魔になるため、真白は腰を引き、両脚を左右に大きく開かざるを得ない。
狭い個室だ。その姿勢のまま、身動きもままならないだろう。
大悟は真白の姿を確かめると、その背後へと回った。
いつ誰かが来るかもしれないという不安も、こうして始めてしまえば、頭の隅へ追いやられていた。
「……じゃあ、覚悟はいいな。お仕置きだ。途中でやめねえぞ」
大悟は、後ろから真白が突きだしているお尻にそっと触れる。
真白の腰がびくんと跳ねた。
しかし、すぐに静止する。
「やめなくて……いい……」
「そうか。じゃあ、あとは真白が覚悟するだけだ」
「……大悟もね」
「言ったな」
真白は、大悟の目の前で両腕をまっすぐ突き出し、上体を大きく前に倒している。
赤いTシャツの裾が捲り上がったままで、白いブラジャーのレースが胸元で覗いていた。
そして、ショートパンツから出ている白い太腿が左右に大きく開かれている。便器の前に中腰で立たされ、身動きもままならないその姿は、可憐で、あざやかで……、そして、どうしようもなく淫らだった。
「……真白……」
大悟は真白に小さく呼び掛ける。
だが、工藤のことを思い出すと、やはり胸の奥がざわめく。
真白を抱いたことがあるだと──。ふざけるな──。
ふつふつと黒い感情が込みあがる。
工藤と大悟──。
これほどの美少女だ。どちらが真白に相応しいのかと問われれば、十人が十人とも大悟を選ぶことなどないだろう。工藤のような性格最悪の男は論外としても、大悟自身、自分が真白に相応しいとは思えなかった。
大悟が真白の隣にいるのは、真白が大悟を選んだという一点のみなのだ。
だったら汚してやる。
真白を、大悟に相応しいほどに……。
真白のこんな姿を知っているのは、世界中で大悟だけだ──。
あいつに、なにがわかる──。
真白は俺の女だ──。
俺だけの淫女だ──。
「んっ?」
大悟が少し押し黙ったからだろう。
真白が肩越しに振り返ってきた。
「……自分で誘ったんだ。責任もって声は我慢してくれよ」
大悟は真白のショートパンツと下着を、無造作に膝までずりさげた。
「あっ」
さすがの真白も、慌てたように声をあげる。
「声を出すなと言ってんだろう……」
大悟は指を伸ばすと、真白の双臀の中心を上下にくすぐるように軽く動かす。
お尻の穴──。
大悟が開発してやった性感帯だ。
そこへの刺激で真白が乱れることは、真白が大悟の女である証のような気がした。
「あっ、んんっ」
真白が膝を折りかけた。
その官能のうねりに狼狽する姿に、大悟の昂奮は一気に昂ぶる。
大悟は自嘲気味に笑ってしまった。
淫らな刺激に苦悶する真白を前にして、自分は間違いなく喜んでいる。
淫乱でエッチなのは、大悟の方のようだ。
「……まったく、自分から仕掛けてきたんだろう」
真白の耳元でささやきながら、真白のお尻の穴を、さらに執拗に指でくすぐってやった。