※この作品はR-18です。

学園一の美少女は、キモデブの俺から絶対に離れない【完結】   作:ドン・ドナシアン

7 / 35
007 もう、隠れる必要はない。隠れない

 押し入れの襖が、音もなく横に滑った。

 畳の匂いと、少し冷たい空気が流れ出る。

 

「……ちょっと待ってね」

 

 真白は迷いなく下段に手を伸ばした。

 Tシャツ一枚の背中が屈む。

 裾が持ち上がり、蒼い刺繍入りの白い下着が視界に入る。

 心臓が高鳴る。

 

「えっ……あれ?」

 

 だが、その鼓動はすぐに別の衝撃に奪われた。

 押し入れの奥──。

 段ボールほどの飾り箱の横に、小さな本棚がある。

 見覚えしかない背表紙。

 

 写真集──。

 SM雑誌──。

 昔、処分したはずの官能小説──。

 いま部屋に隠してあるシリーズの続巻まで揃っている。

 

 喉が鳴る。

 手を伸ばし、一冊を引き抜いた。

 分厚い付箋が何十枚も挟まっている。余白には細い字。

 

 ──目隠し+首環で反応強──。

 ──主導を渡すとき呼吸浅くなる──。

 ──拒否できない構図で視線固定──。

 ──背後より正面のほうが視線が落ちない──。

 

 無数の書き込み──。

 読書ではない。解析だ。

 

「えっ……あの本とか雑誌って……」

 

 最後まで言葉が出ない。

 

「んっ……ああ、それね……。大悟の好きなものを知りたかったから、同じものを買ったの」

 

 真白は穏やかに言う。

 

「知りたかったって……」

 

 喉が乾く。

 

「大悟のことは、性欲もなにもかも、あたしが引き受けるから」

 

 微笑む。

 

「……ええっと、いつから?」

 

 声がかすれる。

 

「中等部の頃から……」

 

 真白は、さらりと答える。

 

「そんな前から……? どうやって」

 

 完全に隠していたはずだった。

 まさか、中等部のときから真白にばれていたなんて……。

 

「部屋、ときどき、見せてもらってた……」

 

 あっさりと言う。

 

「見せてもらってたって……勝手にだろ?」

 

 思わず強い口調になる。

 

「大悟のこと、なんでも知りたかったから。怒る?」

 

 首を傾げる。

 

「怒るっていうか……普通びっくりするだろ」

 

 羞恥で顔が熱い。

 

「でも、それを使って、準備はずっとしてた」

 

 真白が、押し入れから取り出した飾り箱を引き出し、蓋を開けた。

 

 束ねられた縄──。

 幅の違う首環が数種類──。

 銀色と革の手錠──。

 小さな鍵──。

 数多くの刺激具──。

 

「全部、大悟が持っていた本とかにあったもの……。あたしに使っていい。」

 

「……俺に使えって……こと?」

 

 無意識に唾を飲み込む。

 

「うん、あたしに使えばいい」

 

 まっすぐな目。

 鼓動が早い。

 

「……でも、ごめんね、鞭はまだ買ってない」

 

 少し視線を落とす。

 

「鞭って……」

 

 思わず声が裏返る。

 

「痕が残るのは嫌だし、ちょっと怖い……、大悟は使いたい?」

 

 小さく息を吐く。

 

「……いや……そう言われても……」

 

「……あと、浣腸も、買わなかった」

 

 真白の頬が赤くなる。

 

「浣腸?」

 

 喉が詰まる。

 

「身体に負担があるかもしれないし、ちゃんと勉強してからにしようと思って……」

 

 真白は眼を逸らさない。

 

「使っても……いいのか?」

 

「大悟がしたいならいい……。その代わり……」

 

 静かな声。

 

「その代わり……なんだ?」

 

「命令して……。命令されたら……恥ずかしいけど、ちゃんと準備する」

 

 耳まで赤くなる。

 

「……真白」

 

 名前しか出てこない。

 

「結婚してくれたから……」

 

 息が近い。

 

「それは、俺のセリフだろう……。こんなきもデブだぞ。本当に俺でよかったのか?」

 

 大悟は小さく言った。

 いまさらの言葉だとは自分でも思う。でも、どうしても、大悟は劣等感を捨てきれない。真白と大悟では、あまりにも違いすぎるのだ。

 

「大悟がいい。大悟じゃないとだめ……」

 

 真白の言葉には、やはり迷いがない。

 

「あ、ありがとう……」

 

 大悟はそれだけしか言えなかった。

 

「……何度でも言ってあげるよ……。あたしは大悟が好き。一生懸命にきれいになる努力したのも大悟のため。こんな女を好きにできると大悟が喜ぶように……。これからも、あたしは努力する……。全部、大悟のため……」

 

「いや、それだと、お前だけが……。それなのに、俺は頑張るな、なのか?」

 

「いいの……。大悟はいまのままで……。それに、大悟の欲望は、全部あたしが引き受ける……。だから、他の人に目を向けないで……」

 

 迷いがない。

 鼓動が痛いほどに強くなった。

 

「……真白」

 

 名前を呼ぶと、真白がわずかに身を固くする。

 

「なに?」

 

 声は平静だが、箱の縁を握る指に力が入っている。

 

「そこまで言うならさ……。今度、一緒に店に行ってみるか?」

 

 じりと、近づく。

 真白の目が、わずかに見開かれる。

 

「……店って?」

 

「そういうのを売ってる店……。自分に使って欲しいもの……。自分で選べよ」

 

 わざとゆっくり言う。

 

「あたしが……大悟に……使って欲しいものを……?」

 

 真白の喉が動くのが見えた。

 

「だって俺の性癖ばっかり調べられたのは不公平だしな。真白の性癖も教えてもらう……。愉しみだな。真白はどんな道具を選ぶんだろうなあ?」

 

 わざと羞恥を誘うような口調で言った。

 同時に、自分がこんな物言いができることに驚いた。

 

 一瞬の沈黙──。

 真白の喉が小さく動く。

 

「……それは」

 

 視線が揺れる。

 

「嫌か?」

 

「……一緒に行ってくれるの?」

 

 真白の耳が赤い。

 頬も、わずかに染まっている。

 

「……いいよ」

 

 短く答える。

 

「大悟が隣にいるなら、平気……多分……」

 

 目元が柔らかくなる。

 だが、顔は真っ赤だった。

 

「……じゃあ、今日はこれを試してみるか」

 

 大悟は箱の中から、ひとつの首環を手にした。

 ただの首環じゃない。

 首環の後ろに手枷が付いている。これを嵌めれば、真白の両手は頭の後ろに固定される。 

 真白は、枷付きの首環を静かに受け入れた。

 

「……きつくないか?」

 

 大悟は革の感触を確かめながら問いかける。

 

「うん……平気」

 

 声は小さいが、迷いはない。

 

 両腕が頭の後ろで固定される。

 動きにくくなった拍子に、Tシャツがわずかにせり上がる。

 蒼い刺繍の白い下着が裾からのぞいた。

 息が荒くなりそうになるのを必死に我慢する。

 

「目隠しもあるな……」

 

 箱の中から取り上げる。

 

「……つけるの?」

 

 真白の喉が動く。

 

「怖いか?」

 

 落ち着いた声で聞く。

 

「……少しだけ。でも、大悟がいるなら大丈夫」

 

 大悟はそっと目隠しを当てた。

 

「あっ……」

 

 真白の身体が小さく跳ねる。

 

「見えないと不安か?」

 

「……ううん。大悟がいるなら」

 

 箱の中には、まだいくつもの器具が並んでいる。よくもここまで集めたものだと、呆れるほどだ。

 大悟は、次に乾いた筆を手に取った。

 

「……なにするの?」

 

 目隠し越しに、真白が問う。

 

「さあな」

 

 わざと曖昧に答える。

 筆先を、ゆっくりとTシャツの胸元へ近づける。

 

「ま、待って、大悟──」

 

 焦った声が上がる。

 

「なんだ? いまさら怖くなったのか?」

 

 筆を引く。

 

「違う……約束して」

 

 息が浅い。

 

「なにを?」

 

「大悟はあたしのもの……ほかの誰にも見向きしないって」

 

 目隠しのまま、真っ直ぐ顔を向けてくる。

 

「そんなに心配か?」

 

 大悟の声は自然と柔らぐ。

 

「……心配。もし約束を破ったら……大悟を殺したくなるくらいに……」

 

 迷いのない声──。

 

「えっ?」

 

 さすがにびびって、大悟は戸惑う。

 

「……でも大丈夫……大悟はそんなことしない……」

 

 真白が小さく笑う。

 

「あ、当たり前だ」

 

 大悟は意識して強い口調で返す。

 

「それに、そんなことさせない……。要らないものは、あたしが排除する……」

 

 真白は淡々とした口調で言った。

 

「……怖いな」

 

「怖くても、もう妻……。大悟は離せない」

 

「……離さないよ。俺は、お前の夫で、お前だけのSだ」

 

 言い切る。

 そして、大悟は、筆先をTシャツの上にそっと滑らせた。

 

「ひゃっ」

 

 真白の身体がびくんと大きく跳ねた。

 

 


 

 

 なにかがシャツの上から乳首を擦りあげていた。

 

「ひゃっ」

 

 真白はびくんと身体を揺らして、声をも漏らしていた。

 昨夜も気がついたが、真白は大悟に受ける愛撫にすごく弱いようだ。初めてにもかかわらず、昨夜の真白は正体を失ってしまった。

 しかも、今夜は目隠しで視界を奪われている。

 それが真白の身体を鋭敏にしてしまっているみたいだ。

 大悟が触れてきても、触れてこなくても、緊張でどうにかなりそうだ。

 

「うふうっ、ふああっ」

 

 くるくると反対の胸を円を描くようにくるくると、また撫で回してきた。

 もしかしたら、筆──?

 真白は見えない視界でそう思った。

 

「……立て膝になれよ」

 

 大悟が耳元で囁いた。

 

「あんっ……わ、わかった……」

 

 耳元で言葉をかけられ、耳に息が掛かっただけで真白は身体を強張らせてしまった。

 真白は、崩した正座の姿勢だったが、大悟の言葉を受けて、少し脚を開いた状態で立て膝になる。

 すると、筆が下着の下から股間を蹂躙するように襲ってきた。

 

「あっ、ああ──」

 

 快感が貫き、身体を弓なりにして悲鳴をあげる。腰の力が抜けて、ぺたんと腰を落としてしまった。

 

「座るなよ」

 

 大悟が横から筆を足の裏から踵、ふくらはぎ、膝の横から太腿へと、一気に筆で撫であげた。

 

「あんっ、ああっ」

 

 慌てて反射的に腰をあげ直す。

 大悟の空気が、変わったのがわかった。

 

 昨日も最初は、少し遠慮があった。触れる指先に迷いがあって、様子を窺うような間がある。

 でも、それは長く続かない。

 時間が経つにつれ、確実に変わるのだ。

 

 真白の呼吸の乱れを読む。

 震えた瞬間を見抜く。

 崩れかけたところを、あえて立て直される。

 

 昨夜も、翻弄され、追い詰められ、余裕を削られていく。

 気づけば、自分が何を言っているのかもわからなくなる。

 正体を忘れる。

 真白を全力で感じさせようとする。

 逃げ場を残さず、限界を越えさせる。

 

 大悟は、気づいているのだろうか。

 抱き合うときだけ、別の大悟になる。

 真白のためのSになる。

 やっぱり、大悟はすごい──。

 

「動くなよ」

 

 耳元で囁かれる。

 次の瞬間、Tシャツの脇から筆が滑り込み、腋の下をくすぐられた。

 

「んぐううっ」

 

 思わず声が漏れそうになり、歯を喰いしばる。

 笑いと快感が混ざる。

 逃げたくなるのに、逃げられない。

 

 動くな─。

 

 大悟の命令だ。

 必死に身体を保とうと身体に力を入れる。

 

 まだ、耐えられる。

 でも──。

 このままでは、きっとまた……。

 

「くふうっ」

 

 真白は全身を硬直させた。

 またもや、下着の下から筆──。

 敏感な場所を布の上から筆で投げられる。

 

「……くくっ……真白……いやらしい、敏感だな……。動くなって言ったぞ。ああ、それと……声も出すな」

 

 大悟が耳元で言う。

 

「む、無理……み、見えないと……感じる……くうううっ」

 

 またもや、びくびくと身体を震わせた。

 下着の下から筆が襲いかかった。

 峻烈な衝撃が五体を駆け抜ける。

 いくら自制しても、筆に襲われれば快感から逃れられない。すでに、かなりの蜜が下着を濡らしているのかわかる。そえだけでなく、もどかしいような疼きが身体を悶えさせる。

 

「また、動いたぞ」

 

 大悟が小さく笑う。

 そして、下着の上から的確に膨らんだクリトリスをさすりあげてきた。

 

「ひうううっ、大悟──き、気持ちいいっ──」

 

 痛烈な喜悦の旋律に見舞われ、真白は竦みあがって悲鳴をあげた。

 後少し──ほんの少しの刺激で真白は達していたと思う──。しかし、快感を極めるには、布越しの刺激では足りなかった。

 もう我慢できない──。

 

「だ、大悟──まだ、苛めるなら、服を脱がせて──」

 

 真白は叫んだ。

 眼は見えないが、大悟が当惑したように動きを止めたのがわかった。次いで、くすくすという笑い声が部屋に拡がる。

 

「……わかった。その代わりに、あの三十分は筆責めだ……。ご褒美はその後だ」

 

 大悟が真白の両手を首環の後ろの繋げたままTシャツをめくり上げていく。

 あと三十分もこのまま──。

 真白を焦燥感が包むとともに、ちょっと大悟の言葉使いが突き放すような物言いになったことで、真白をぞくぞくとした被虐感が包む。

 大悟は自分の言葉使いが変わることに気がついているのだろうか……。

 

「ほら」

 

 下着がいきなり膝まで襲われ、お尻の谷間を筆が襲った。

 

「ひああつ」

 

 真白は身体を伸ばし、反射的に腰を突き出すようにしながら声をあげた。

 

 


 

 

 目が覚めたとき、腕の中に温かい重みがあった。

 部屋はすでに朝の光に満ちている。

 カーテン越しの光が和室の冊子の格子をくっきりと浮かび上がらせ、柱の木目まで見える。

 

 身体に触れている感触で、すぐに昨夜を思い出す。

 目隠しの下で、真白の呼吸が浅くなっていき、余裕を保とうとしていた声が、途中で震えた。

 命令を待つと言いながら、その命令を受けるたびに身体が正直に反応した。

 見えない筆を怯えるように待ち、それでも自分の気配を必死に追っていた。……可愛かった。

 崩れまいとする意地と、崩れていく身体──。

 最後には、言葉が続かなかった。

 自分の名だけを繰り返し、掴んだ指先に力を込めて、正体を幾度も手放した……。

 

 あの真白をそこまで導いたのは間違いなく自分だ。

 

 その真白が、裸のまま密着している。

 胸が押しつけられ、太腿が絡みつき、腹のあたりまでぴたりと寄せられている。

 寝息は深い。規則正しいはずの呼吸が、今朝はわずかに重い。

 

 大悟は、首だけをゆっくり動かした。

 机の上のデジタル時計が目に入る。

 

 “5:30”──。

 

 真白は毎朝きっちり五時に起きる。寝坊など一度も見たことがない。

 なのに、起きる気配がない。

 腕の中の身体は、まだ熱を帯びている。

 汗の名残が肌に薄く残っていた。

 

 枕元に、丸まったTシャツが転がっている。大悟のものだ。昨夜、真白が身につけていた。その下に、白いショーツも絡まっている。

 畳の上には、使ったままの筆や外された枷付きの首環が無造作に置かれている。

 

 片付ける余裕などなかった。

 

 最後は──真白が、倒れ込むように身体を預けてきた。

 腕を解いたら、しがみついて離れなくなった。

 呼吸が乱れ、言葉が途切れ、名前を呼ぶ声がかすれて。余裕を保とうとしていた目が、最後には保てなかった。

 あの真白が……。

 

 学園で一番の美少女で、誰よりも整っていて、冷静で、隙を見せない真白が、命令を待つ声を震わせた。大悟の名を声を震わせながら何度も呼んだ。

 幾度も限界を越えさせた。

 その先まで、導いたのは自分だ──。

 

 大悟は、そっと息を吐く。

 自分は、クラスでも誰も相手にしないようなきもデブだ。劣っている自覚は消えていない。勉強も、運動も、見た目も、胸を張れるものは少ない。

 それに比べて、真白は誰もが振り返るような美少女で、勉強も、スポーツも、人を惹きつける魅力がある。大悟とは天と地ほどに立場が違う存在だ。

 

 けれど……。

 その真白を、あんなに崩れさせることができたのだ。

 その事実が、胸の奥に小さな熱を残している。

 

 なによりも……もう、大悟は真白の夫なのだ。

 

「真白、起きろよ」

 

 腕の中の真白を軽く揺らす。

 大悟の脱ぎ捨てた真白自身が口にしたように、大悟も真白もお互いの汗にまみれている。登校前にシャワーを浴びる時間も必要だ。

 

「う、ううん……」

 

 真白は小さく唸ったような声を出したが、眼を覚まさない。

 大悟の下着の裾を掴み、さらに身体を寄せてきた。

 離れない、というより、離さないというかのように……。

 

「……真白」

 

 もう一度、身体をゆさぶって、名前を呼ぶ。

 返事はない。

 ただ、額が胸元に擦り寄ってくる。

 

 大悟は、天井を見つめた。

 なにもできないわけじゃない……。少なくともあの優秀な真白を、あれほどまで崩れさせ、導き、満たすことができたのだ──。

 朝の光が、静かに部屋を満たしていた。

 

「……あ、ああ……あれっ?」

 

 大悟の身体にしがみつくようにしていた真白が、ゆっくりと眼を開けた。

 しばらくぼんやりと大悟の顔を見つめ、端正な顔をくしゃりと歪めて笑った。だが次の瞬間、はっとしたように眼を見開く。

 

「……えっ、いま、何時?」

 

「五時半……をちょっとすぎたところ……。そろそろ起きた方がいいぞ」

 

 真白はがばりと上体を起こし、そのまま一瞬固まる。

 しかし、視線を落とし、自分が裸であることに気づいたらしく、慌てたように両腕を胸元に回し、耳まで赤くする。

 

「……シャワー浴びてくる……。あたしが先でいい?」

 

「ああ」

 

 真白が布団から出る。身体を隠すように腕を添えながら、畳の上に散らばったシャツと下着を拾い集めだす。

 すると、ぴたりと静止し、立て膝の姿勢のまま大悟に振り返って、わずかに口元を上げた。

 

「……見てる」

 

「……駄目か?」

 

「……駄目じゃない。旦那様なんだから、当然」

 

 真白の返しに、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 

「……なあ、真白。やっぱり俺、変わろうと思う」

 

 自然と口に出ていた。

 

「……なんで?」

 

 真白の眼がすっと細くなる。

 

「ああ、見た目の話じゃない。もっと自信を持とうかと思って」

 

 真白は小さく首を傾げる。

 

「……自信?」

 

「俺、何もできないわけじゃない。そう思えた。だから、今日から一緒に学園に行ってもいいか?」

 

 真白は動きを止めた。

 手に抱えたシャツを胸元に押し当てたまま、視線だけをこちらに向ける。

 ほんの一拍、沈黙が落ちた。

 

「……大悟は凄い。昨夜は大悟が二回……。あたしはたくさん……。凄かったよ……」

 

「ありがとう。自信持てたな」

 

 大悟は笑ってしまった。

 

「……だけど、いいの? 騒がれるよ」

 

「俺が一緒に通学したい。だめか?」

 

 再び、わずかな間──。

 真白の目がまた細くなる。

 

「……だめじゃない……。大悟はあたしのご主人様……命令するだけでいい」

 

「なら、命令だ。今日から一緒に学園に行く」

 

「わかった」

 

 無表情のままうなずいた次の瞬間、真白は満面の笑みを浮かべた。その笑みは、学園では決して見せない顔だった。

 真白がシャツを抱えたまま、素足で軽やかに畳を踏む。

 振り返りもせず、まるでスキップするような足取りで部屋を出ていった。

 朝の光に、白い裸身が鮮やかに浮かび上がった。

 大悟は布団の中で、その後ろ姿を見送る。

 

 もう、隠れる必要はない。

 隠れない──。

 朝の光が、静かに部屋を満たしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。