信じていた友人がショタNPCの変態調教にドハマリする何て…… 作:万歳!
モモンガ様「」
シャルティア・ブラッドフォールンは、森の中を進みながら必死に思考を巡らせていた。与えられた任務――それ自体は単純だ。武技を持つ存在の捕縛。
だが、それ以上に重要なもう一つの任務が彼女の思考を支配していた。
どうすれば、緊縛様の本音を聞き出せるのか。あの場でのやり取りが、頭から離れない。
モモンガ様が、あれほどまでに苦悩していた。モモンガ様が、あれほどまでに言葉を濁した。それが何を意味するのか、理解できないほど愚かではない。緊縛という至高の御方が、ナザリックを去る可能性。
それは――あってはならない。
(……何か功を立てて、その褒美として聞き出すべきでありんすかね)
シャルティアは歩みを止めず、思考を続ける。
だが、すぐに首を振った。
(いいえ、それでは不自然でありんす)
あまりにも作為的だ。警戒される可能性もある。
ならば――。
(女子会……)
女性同士の会話の中で、自然に聞き出す。それならば、警戒されることなく本音を引き出せるかもしれない。だが問題がある。
(それが“本音”とは限らないでありんす)
冗談。誇張。あるいは、場の流れに合わせた発言。それらに惑わされてはならない。
求められているのは正確な情報だ。シャルティアは唇を噛みしめた。
(……誰かに相談できれば楽でありんすが)
アルベド。あるいは他の女性NPCたち。だが、それは許されていない。これはモモンガ様から直接下された命令だ。
軽々しく共有してよい内容ではない。例外は二人。しかし。
(デミウルゴスやパンドラズ・アクターに相談することはできるでありんしょうが……)
だが、すぐにその考えを振り払う。
(いいえ)
彼らは、自分にこの役目を任せた。
ならば――。
(自分の手で成し遂げるしかないでありんす)
そのためにも、まずは信用を得る必要がある。そして、そのためには――結果だ。
(任務で手柄を立てる)
それが最優先。
緊縛様と自然に会話できる機会を作るには、それが最も確実だ。シャルティアの瞳が細められる。
(失敗は許されないでありんす)
そして、今回の命令は、モモンガ様と緊縛様の連名。それだけで重みが違う。その瞬間、ふとある考えがよぎった。
――自分をヴァンパイア・ブライドに運ばせるか?
移動速度は上がる。効率もいい。
だが。
シャルティアは即座にその考えを否定した。
(慢心は敗北を招くでありんす)
どれほど格下であろうと、油断はしない。確実に、確実に仕留める。それが、自分に求められているもの。
そして何より――。
(緊縛様が去られたら……)
胸の奥が、冷たく締めつけられる。モモンガ様が、あの御方が悲しむ。あの静かな声の裏にあった感情を、シャルティアは理解していた。
(……それだけではないでありんす)
自分も。他の守護者たちも。ナザリックのすべてが、揺らぐ。
(それを防げる可能性があるのは……)
自分だけ。
そう思った瞬間、背筋が震えた。恐怖ではない。責任の重さだ。
(なら――)
シャルティアは歩みを止めない。
(必ず、成功させるでありんす)
ふと、別の思考が浮かぶ。
(……モモンガ様と緊縛様が結ばれるのが、一番でありんしょうが)
それが最も美しい結末。
ナザリックにとっても、最良の未来。
だが――。
(緊縛様は、それを望んでいない)
その事実が、胸に引っかかる。
そしてもう一つ。
(……そうなれば、わらわも……)
一瞬だけ、言葉にならない感情が胸をよぎる。自分にも可能性があるのではないか。そんな、許されない思考。
(……今は、関係ないでありんす)
シャルティアはその考えを押し殺した。今は任務が最優先。それ以外はすべて、後回しだ。やがて、目的地が見えてくる。
森の奥に口を開ける洞窟。シャルティアは歩みを緩めることなく進む。背後にはヴァンパイア・ブライドたちが控えている。
洞窟の入り口付近には、人間の気配。
だが――。
(脅威ではないでありんすね)
力量差は歴然。
問題はない。
そのまま進もうとした瞬間。
一人の男が、前に立ちふさがった。
「おい、おい。楽しそうだな」
軽い調子の声。
だが、その立ち姿には隙がないように見える。
シャルティアは足を止め、男を見据える。
「残念だけど、楽しんでいる余裕はないでありんす」
静かに言葉を返す。
「ここに一人で来るということは……それなりの使い手と見ていいんしょうかね?」
男は口元を歪めた。
「さてな。それはお前自身で確かめてくれ」
そして、名乗る。
「ブレイン・アングラウスだ」
その名を聞いた瞬間、シャルティアはわずかに思考を巡らせた。
(……なるほど)
名乗りを上げる。誇り。武。
(コキュートスと同じ類でありんすね)
武人。
(……当たり、かもしれないでありんす)
武技を持つ存在。今回の任務において、最適な対象。シャルティアの唇がわずかに吊り上がる。
「シャルティア・ブラッドフォールンでありんす」
優雅に名乗り返す。
「貴方……私の使い魔にしてあげるでありんす」
次の瞬間。
地面を蹴る。
空気が裂ける。
その紅い影が、一直線にブレインへと迫った。
☆ ☆ ☆
戦いは、あまりにも一方的だった。
シャルティア・ブラッドフォールンにとって、人間の武人など脅威にはなり得ない。だが――今回の任務は単なる殲滅ではない。
価値ある個体の確保。その点において、目の前の男――ブレイン・アングラウスは、確かに“当たり”であった。
結果として、彼はシャルティアの支配下に置かれた。そして、それ以外の人間たちは。例外なく、処理された。
洞窟内に残るのは、鉄と血の匂い、そして――
震える女たち。
シャルティアはそれを見下ろしながら、思考する。
(……情報漏洩の可能性は消えたでありんすね)
任務としては完璧だ。だが、問題は残っている。この女たちをどうするか。ナザリックの利益を優先するなら、処分も選択肢だ。だが――。
(……ああ!)
そこで、ひらめく。
(緊縛様に判断を仰げばよいのでありんす!)
それならば、任務の延長として自然。さらに――。
(緊縛様の考えを知る機会にもなる)
一石二鳥。
シャルティアは即座にメッセージのスクロールを取り出した。魔力を込め、対象を指定する。すぐに応答が返ってきた。
『うん、シャルティア? どうかしたの?』
柔らかい声。だが、その奥にある至高の重みを、シャルティアは決して忘れない。
『はい! 任務に成功したでありんす! ですが、捕らえられていた女たちの扱いについて、ご判断を仰ぎたく』
わずかな間。そして、返答。
『慰み者!! 好きな人にされたらご褒美だけど……それは愛情関係はありそう?』
『いいえ、なさそうでありんす』
『……それはちょっと許せないかな。これからのことを考えれば人間でもナザリック寄りの者も必要だろうし……モモンガには私が言っておくから、その女性たちは保護してあげて』
『畏まりんした……その、緊縛様は好きな人に慰み者にされたいんでありんすか?』
『私? 私は好きな人に暴力を振るってもらいたいし、嫌がる私を無理やり手籠めにしてもらいたいかな! できれば私よりはるかに格下なら言うことなし!!』
『そ、そうでありんすか』
……本音なのだろうか。いや、仮に本音だとしたら非常に難しい。えっこれ私がモモンガ様に報告するでありんすか?
『とりあえず、その人たちはお願いね。ゲートで帰還していいよ』
『承知したでありんす』
通信が切れる。しばし、沈黙。シャルティアはその場に立ち尽くした。
(……これは)
あまりにも、難しい条件。だが同時に――。
(可能性は、ある)
視線を動かす。
そこには、膝をつく男。
ブレイン・アングラウス。
「……ブレイン」
「はっ」
即座に応じる。従属の証。シャルティアはゆっくりと問いかけた。
「もし、私をレイプしろと命令されたら、従えるでありんすか?」
ブレインは一瞬だけ眉をひそめる。
だが、すぐに首を振った。
「……そんな恐れ多いこと、できません」
その答えに、シャルティアは小さく頷く。
「では――私の命令で私の使える主人をレイプしろと言えば?」
空気が変わる。
ブレインは迷わなかった。
「……シャルティア様の命令であれば、命を懸けて従います」
その言葉を聞いた瞬間。
シャルティアの中で、ひとつの可能性が形を成した。
(……なるほど)
ナザリックの者ではできないこと。
だが。
(ナザリック外の配下であれば、命令できる)
それは、盲点だった。かつての自分なら、不敬と感じたかもしれない。だが今は違う。
(ナザリックのため)
そして。
(モモンガ様のため)
ゆっくりと、唇が歪む。
(緊縛様の望みを、満たす方法)
それを見つけられるかもしれない。シャルティアは踵を返した。
「女たちを集めるでありんす。すぐに帰還する」
ヴァンパイア・ブライドたちが動き出す。
その様子を見ながら、シャルティアは思考を巡らせ続けた。
(もっと情報が必要でありんす)
好み。条件。許容範囲。
すべてを把握する。
(そして――)
モモンガ様に報告を。この可能性を。ナザリックを守るための、ひとつの手として。紅い瞳が、静かに光を帯びていた。
☆ ☆ ☆
ナーベラル・ガンマは、珍しくわずかに気を緩めていた。
ナザリックの外――人間社会に紛れて行動する任務。普通の任務と違い、今回の任務は決定的に違う点があった。至高の御方――モモンガ様が同行している。
その事実が、常に彼女の神経を張り詰めさせていた。
粗相は許されない。危険は事前に排除しなければならない。不快な思いなど、決してさせてはならない。それらを完璧にこなすため、ナーベは常に周囲へと意識を張り巡らせていた。
……本来であれば、外出などさせるべきではない。
心の奥底で、そう思う。
ナザリックの絶対支配者が外に出るなど、本来あってはならないことだ。どれほど万全を期しても、不確定要素は消えない。
できることなら、全力で阻止したい。
だが。
(モモンガ様ご自身のご意思……)
それを否定することなど、許されるはずがない。
ゆえにナーベは、従う。
全身全霊をもって、護衛としての役目を果たすのみ。
ふと、もう一人の至高の御方のことが脳裏をよぎる。
緊縛様。
あの御方は現在、ナザリックに留まるようモモンガ様に命じられている。
……当然の判断である。もしもの事態を考えれば、至高の御方のどちらかは本拠に残るべきだ。それは合理的であり、正しい。
その時だった。通信のタイミングを知らせる合図。アルベドとの定時連絡の時間だ。ナーベラルはすぐに意識を切り替え、メッセージの魔法を起動する。
『ナーベラル、報告を』
いつも通りの、威厳ある声。ナーベラルは簡潔かつ正確に、状況を報告していく。周囲の警戒状況。モモンガ様のご様子。接触した人間の情報。すべてを漏れなく伝える。
アルベドはそれを静かに聞き、いくつか確認を挟みながらも、最終的には満足したようだった。
だが――。
『それで、ナーベラル』
声音が、わずかに変わる。ナーベは直感的に理解した。――ここからが本題。
『あなたは何故、私がモモンガ様の第二妃になることを応援してくれるの?』
一瞬だけ、思考が止まる。だがナーベはすぐに答えた。
『ユリ姉さまが、アルベド様を応援しているので』
それは事実であり、最も適切な回答でもある。ナーベラル自身の感情ではない。アルベドは一瞬の沈黙の後――。
『そう!』
明らかに機嫌を良くした声音を響かせた。
『私が第二妃になったら、あなた達にもお情けを貰えるように進言してあげるから、応援よろしくね!』
その言葉を聞いた瞬間。ナーベの心臓が、強く脈打った。
その意味を理解できないほど、ナーベは鈍くない。モモンガ様からの寵愛。それを分け与えられる可能性。喉が、わずかに鳴った。
自分でも気づかぬうちに、唾を飲み込んでいた。
(私が……モモンガ様の……)
想像してしまう。絶対者から向けられる、特別な視線。それは、他の何よりも価値のあるもの。胸の奥が、じわりと熱を帯びる。
だが次の瞬間、その感情を強く押し殺した。自分のような存在が、軽々しく望んでいいものではない。それは理解している。
だが。
(それでも……もし許されるのなら)
ほんのわずかに芽生えた欲望を、完全には消し去れなかった。ナーベは姿勢を正し、声を整える。
『承知しました』
そして、力強く続けた。
『必ず、アルベド様が第二妃となられるよう、全力で応援させていただきます』
その言葉に、嘘はない。それが結果的に、モモンガ様に近づく道になるのなら。ナーベラル・ガンマは、そのために最善を尽くす。
なお至高のオリ主の恋愛観でオーバーロードで出てくるキャラの中で、好みなのは(行動的に)スタッファンやフィリップの長所?を掛け合わせた存在とする。