※この作品はR-18です。

海賊王に俺はなる?のか?   作:ずんだニャン

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お久しぶりです。なんとか生きてます。
更新が遅くて申し訳ないです。


13話 蜜柑と道化 5

 

 東の海(イーストブルー)オレンジの町 港

 

「アディオス、バギー」

 

 吹っ飛ばしたバギーに対して、空に向かって敬礼をしていた。どこまで飛んでいったのかは知らないけど、生命力高そうだし……まー大丈夫だろう。

 青い空の向こうには、もうバギーの影すら見えない。残っているのは、港に吹く潮風と、町の方から薄く流れてくる焦げた臭いだけだった。

 

「ようやく終わったの?」

 

 バギーの船の船縁から、ナミが身を乗り出してこっちを見ていた。

 

「ちょっと手こずったけど。そっちは、収穫あったのか?」

 

「こっちに上がってくればわかるわよ」

 

 顔がすごくほころんでいるし、声も浮ついている。よっぽどの収穫だったのかな?

 腕を伸ばし、船縁を掴んでバギーの船に乗り込んだ。

 

「よっと、甲板も広いな」

 

 遠目で見てもバギーの船は、数百人乗り込むだけあってでかい。甲板には樽や木箱、ロープが雑に転がっていて、海賊船らしい荒っぽさがそこら中に残っている。

 考えてみたら、転生してから初めて海賊船に乗ったな。

 俺も早く船が欲しいな!

 

 そんなことを思いながらナミの方を見ると、大きな風呂敷に、これでもかと財宝を詰め込んでいた。根こそぎ奪ったのかな? 容赦ないな。

 

「大漁だな」

 

「ええ。一回でこれだけの量を盗めたのは初めてよ」

 

 にしても、すっごい笑顔だな。いや、ほんとさっきまでのが嘘みたいにニコニコしている。

 

「金に換えればどれくらいになるんだ?」

 

 これだけの財宝だ。一千万そこらじゃないだろうし。

 

「そうねぇー、これだけの量なら二、三千万ベリーにはなるんじゃないかしら?」

 

「結構な金額だな」

 

 とは言ったものの、バギー海賊団の規模ならもっと溜め込んでいるのかと思ってた。仮に三千万ベリーだとして、バギー一味は約百五十人くらいいたから、山分けしても一人あたり二十万ベリーだ。そう考えると少ないし。

 ま、酒場の上でどんちゃん騒ぎしてたし、あれを毎日やってれば金も吹っ飛ぶのかな?

 

「これで、ようやく私の夢が叶う……」

 

 ナミがどこか遠い目をしている。けど同時に、達成感を得た顔もしていた。

 その目は、目の前の財宝を見ているようで、もっと遠くにある何かを見ているようでもあった。

 

「そう言えば、何がなんでも一億ベリー稼ぐって言ってたな」

 

「そうよ。ようやく……」

 

 財宝の入った風呂敷を掴むナミの手に、さらに力がこもった。

 まー無理もないだろう。一時はバギーVSアーロンで故郷が戦火になるところだった。けど、バギーどころかバギー海賊団を俺が倒したし、財宝を手に入れて、一億ベリーも稼げたわけだし。

 ところで、ナミは山分けする気があるのだろうか?

 そんなことを考えながら、船縁からオレンジの町を見渡した。

 

「しかし、改めて見ても酷い荒れっぷりだな」

 

 地面から見るだけじゃわからなかったけど、町の端の方なんかは全焼して倒壊している建物もあった。民家やお店は一軒一軒荒らされ、二発のバギー玉で吹き飛ばされ、散々な目に遭っている。

 屋根の抜けた家。壁だけになった店。黒く焦げた通り。人が暮らしていた痕跡だけが、無残に残されていた。

 感極まっているナミには悪いけど。

 

「その財宝は全部、町の人に渡すぞ!」

 

 俺の言葉を聞き、ナミの目が一気に見開かれた。

 

「はぁ? 冗談じゃないわ! そんなの嫌よ。これは、私がバギーから盗んだ、私の財宝よ!!」

 

 私の財宝って、俺の取り分ないんかい! まっ、それはいいんだけどさ。

 

「この町を見てみろよ、酷い有様だろ」

 

「それは、バギー達が荒らしたからであって私には関係ないわ!」

 

 結構ドライだな。一億ベリーで自分の故郷を救えるのと天秤にかけてるのかもしれないし、もしくは、これが普通の反応なのかもしれない。

 大航海時代。世界中で海賊たちが群雄割拠してるし、今この瞬間も略奪されてる町なんてあるだろう。全部に手を伸ばしていたら、きりがない。むしろ俺が干渉しすぎなのかな?けど。

 

「本当に関係ないって言えるのか? 町長のおっさんの家があった辺りはバギー玉で吹き飛んだ。その原因に、お前も責任はあるぞ!」

 

「わ……私のせいだって言いたいの!?」

 

「バギー玉に関して言えばナミ、お前のせいだろ! おれがバギーを引きつけて、ナミがお宝を盗む算段を最初からしてたらこうはならなかった。ナミが裏切っておれをバギーに突き出したからこうなったんだぞ!」

 

「そ……それは……」

 

 図星を突かれたように、ナミが口ごもった。

 言い過ぎかもしれないけど、事実だし。それに、この町の住人もバギーに町を荒らされ、金まで盗まれたなんて、さすがに報われなさすぎる。

 ナミの事情はわかっている。わかっているからこそ、ここでなあなあにはできなかった。

 

「だから、この財宝はおれが回収しておく」

 

 財宝の入った風呂敷に近づく。ナミが握っていたはずの風呂敷が、突然目の前から消えた。

 それに驚いたナミは目を見開いた。

 

「え?……ちょっと、私のお宝よ!どこにやったのよ?」

 

「ここ」

 

 おれのズボンの腰につけている収納袋を、指でトントンと叩いてみせた。

 

「返しなさいよ!」

 

「ダメだ! これはおっさん達にあげる」

 

「海賊のくせに随分お人好しなのね。町長さんには悪いけど、私にも譲れないよ!」

 

 ナミが武器を構えた。おれから奪い返すつもりだ。

 その目は本気だった。

 

「やめとけ! お前がおれに勝てるわけないだろ! それに、この収納袋はおれにしか取り出せないから」

 

「だったら早く返しなさいよ!」

 

「はー、お前この町の惨状を見て何も思わないのか?」

 

「……」

 

 ナミの言葉が詰まった。事が事だけに、今のナミには余裕がない。

 怒りも焦りもある。けど、それだけじゃない。ほんの一瞬だけ、ナミの視線が町の方へ揺れた。

 

「ナミの故郷も、こうなってた未来だったかもしれない」

 

「どういう意味よ? なんで私の故郷が出てくるわけ?」

 

「『何がなんでも一億ベリーを稼ぐ』。あれは、自分の故郷を買うためだろ?」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「どうして? って、バギーのやつがコノミ諸島に行くって言った時、酷く焦ってただろ。あれはアーロンに迷惑をかけるってより、何か大事なものから遠ざける感じの必死さだった」

 

「……」

 

「それとナミはおれと会った時に、『海賊がこの世で一番嫌い』って言った。それなのに、お前はアーロン一味で、左腕に一味の刺青まである。変だろ。海賊が嫌いなのに海賊なんて。それに、さっきこうも言った。『好きで仲間になって、刺青を入れたわけじゃない』って。それはつまり、アーロンと何か協力関係、ないしは取引関係にあるんじゃないのか?」

 

「どんな取引なのかしら?」

 

 ナミの声から、さっきまでの勢いが少し消えていた。

 試すような言い方だった。けど、その奥には、触れられたくない場所を踏まれたような鋭さがあった。

 

「そうだな、ナミは航海士だ。なら航海術を……って言いたいけど、魚人なら海に潜って進めばいいし、あんまり必要はないか。航海術以外での才能、例えば……海図を描くのが上手いとか?」

 

 その一言に、ナミの体がビクッと跳ねた。

 まさか言い当てられるとは思わなかったんだろう。

 

「アーロンはナミの測量士としての力を必要としている。そしてナミはその見返りに、一億ベリーで自分の故郷を買うってところかな? どう、当たってる? 俺の推理は」

 

 と……いかにも推理した感じで答えたが、ただの原作知識である。ま、チートだね!

 でも原作知識がなくても、今日一日のナミの言動、行動を見聞きしてれば同じ答えに辿り着く。

 

 パチパチパチパチパチ。

 ナミが拍手をしている。

 

「ええ、だいたい合ってるわよ。すごいね、おめでとう。あんた、海賊やめて探偵に転職したほうがいいんじゃない!」

 

「真実はいつも一つって? 勘弁してよ。ここが、米花町の死神がいる世界なら探偵になってたかもだけど」

 

「ベーカチョ? 死神? あんた何言ってんの?」

 

「あーごめん。気にするな、こっちの話」

 

 ナミはじろりとこちらを見た。けど、すぐに財宝のことを思い出したように、収納袋へ視線を戻した。

 

「それで、私にお金が必要なのはあんたもわかったでしょ! だから返して!」

 

「悪いな、断る! けど……」

 

「あんたねぇ! いい加減に……」

 

「最後まで聞け! このお金はオレンジの町の人に返す! 代わりに俺が持ってるお金をナミに渡す! だから、ナミに何があったのか教えてくれ!」

 

「意味がわからないわ。なんで教えなきゃいけないの?それに、あんた何がしたいの?どうしてそこまで私に肩入れをするの?」

 

「ナミを助けたいんだ!!」

 

 自分でも、まっすぐすぎる言葉だと思った。

 でも他に言い方がなかった。理屈を並べても、遠回しに言っても、たぶんナミには届かない。

 

「それはご親切ね!それならお金だけ渡してくれればいいわよ!」

 

「渡すから、何があったのか教えてくれ!」

 

「はぁーー、わかった……また別の海賊から盗むのも面倒だしね。」

 

 長く息を吐いた後、ようやくナミの硬い口を開くことができた。

 正直めんどくさいし、うざがられてるだろうな。悲しい。

 けど、大事なことだ!

 

 ナミは財宝が消えた収納袋を一度見て、それから、遠くの海へ目を向けた。

 波の音だけが、少しの間、二人の間を埋めた。

 

「そうねぇ、あれは十年前」

 

 

 

——♢♢♢——

 

 

 

「さあ、話したわよ!」

 

 ナミの口から語られた過去は、俺が知っていたものより、ずっと生々しかった。

 さっきのシュシュの時もそうだったけど、この世界の住人から直接聞く話と、一読者として漫画を読んで得た情報とでは全然違う。

 目の前で奪われた人間の声には、紙面越しでは拾いきれない重さがあった。

 

 ”大海賊時代”

 

 華々しい冒険の裏で、どれだけの町が踏みにじられ、どれだけの人間が泣かされているのか。

 改めて、その余波を思い知らされる。

 それとは別に、ナミの話には引っかかるものがあった。

 

「なんというか……壮絶な過去だな」

 

「同情なんていらないから。それより渡してもらってもいいかしら?」

 

「ああ、もちろん。一億ベリーまでには、あといくら必要なんだ?」

 

「あと、一千……いや、二千万ベリーかしら」

 

「欲を出すな! 一千万ベリーだな」

 

「あら、サービスしてくれてもいいのよ。ところであんた、本当にお金あるんでしょうね?」

 

「ちゃんとあるよ」

 

 少しジト目で疑っているナミを横目に、収納袋から一千万ベリーを取り出した。百万ベリーの札束を十個。

 それをナミに渡すと、彼女は素早く枚数を確認し、当然のようにバッグへしまい込んだ。

 

「これで、取引は終わりね」

 

 ナミが、バッグに金をしまいながらそう告げた。

 

「なあ、最後に一つ聞いてもいいか?」

 

「まだ何かあるの? まっ、別にいいけど。なに?」

 

「一億ベリーで故郷を買ったあとはどうするんだ?」

 

「……どうする? あんた、私の話聞いてた? 故郷を買って、私も村のみんなも自由になるの。ようやく解放されるの!」

 

 ああ……これだ。

 さっきから引っかかっていたのは。

 なんでナミは、そこから先を見ようとしないんだ?

 

「解放されたあと、どうするのかってことだよ」

 

「だから、解放されたら私たちは、ようやく自由になれるのよ!」

 

『自由になれる』『解放される』。

 

 口ではそう前向きなことを言っているのに、ナミの顔は笑えていなかった。

 何より、その目が少しも喜んでいない。

 ナミの約束は破られる。原作でも、そうだった。

 アーロンは最初から、ナミを解放する気なんてない。

 仮に金を受け取ったとしても、別の理由をつけて、また同じ鎖をかけてくるはずだ。

 

 多分、ナミも心の奥底ではわかっているんじゃないだろうか。

 けど、そのことには蓋をしている。

 ナミには、一億ベリーを貯めて村を買うってことしか残っていない。だから、すがるしかないのだろう。

 たとえ、その先に何もなかったとしても。

 

「本当に、アーロンが約束を守ってくれると思うのか?」

 

「ええ、金の約束だけは必ず守るわ!」

 

「……そうか、わかった」

 

 もうこれ以上は何も言うまい。

 そう思った。

 思ったけど、やっぱり無理だった。

 

 ここで見放せば、ココヤシ村は壊滅する。

 ナミも、またあの場所に縛られ続けることになるだろう。

 言えば、ナミは怒る。そんなことはわかっていた。

 ナミが十年かけて積み上げてきたものを、横から否定することになる。それでも、助けたい。

 けど、俺が今やろうとしているのは、ナミが必死に信じてきたものを壊すことだった。それでも、ここで黙ったら駄目だと思った。

 

「なあ、はっきり言うけど、アーロンは約束を破るぞ。だから、おれも連れて行ってくれ!」

 

「ねぇ! あんた、なんなの? 助けたいって言いながら、おちょくってるの?」

 

「いや、おちょくってるわけじゃ……」

 

「じゃあなんなのよ! なんで、あんたが約束を破るなんてわかるの?」

 

 原作知識ですなんて、アホなことを言えるわけがない。

 

「ナミがさっき話してただろ。アーロンは人間を下等生物だと見下してるって! そんな奴が本当に約束を守ると思うのか?」

 

「だから、金の約束だけは守るって……」

 

「それに、コノミ諸島にアーロンがいる限り、島の支配は続くぞ! それは、自由って言えるのか?」

 

 ナミが、今にも噛みつきそうな目でおれを睨みつけている。

 けど、返ってきた声は、思っていたよりずっと小さかった。

 

「……うるさい」

 

 さっきまでの強がりが、そこで少しだけ崩れた。

 

「わかってるわよ……そんなこと……」

 

 ナミの目から、涙が一つこぼれた。

 

「ぐすっ……なら、どうすればよかったのよ!! うぐっ……」

 

 何も返せなかった。

 

「平和に暮らしてただけなのに、ベルメールさんを目の前で殺されて、村のみんなを傷つけられ、強引に一味に入れられて……どうすればよかったのよっ! みんながみんな、あんたみたいに強いわけじゃないのよ!!!」

 

 最低だな、おれ。

 助けたいなんて言いながら、人の傷口を勝手に開いている。

 

 ナミの言っていることは正しい。

 あの時のナミには、それしか選べなかった。力もなく、逃げ場もない子供に他に何ができたっていうんだ。

 呆然と立ち尽くしていると港から声が聞こえた。

 

「おーい! 大丈夫かー?」

 

 港の方を見ると、町長のおっさんにシュシュ、街の人たちがぞろぞろとやってきていた。

 

  

 

 

———♢♢♢————

 

 

 

 

 オレンジの町 広場

 

 あれから船を降り、町の人たちに事の経緯を説明した。

 バギーを倒して遠くまで吹っ飛ばしたこと。幹部の着ぐるみ野郎とカバジを倒したこと。バギー一味をほとんど壊滅させたこと。

 

 最初はみんな、どこか半信半疑だった。

 けれど、港に転がっている大量の手下どもを見て、ようやく本当だと信じてくれた。

 

 その後、バギー一味の連中は全員ロープで縛り、ビッグトップ号に乗せることになった。

 海軍に引き渡すにしても、町はこの有様だ。百人単位の海賊を閉じ込めておける場所なんてない。だから、ひとまず船の中に押し込んでおくしかなかった。

 

 だが、それが仇になった。

 全員を船に乗せ、町の方へ戻ったその隙に、おれが最初に会ったあの三人組がこっそり船に忍び込んでいたらしい。

 そして、そのままビッグトップ号を出航させて逃げられてしまった。

 

 船長は不在。幹部も手下どもも大怪我。町の人たちが海軍にも連絡したらしく、当分は表立って動けないだろう、という話になった。

 どこかの島に潜伏するにしても、すぐに悪さを再開できる状態じゃない。そう結論づけられたところで、町は一気に祭りの空気に変わった。

 

 今、広場では酒が振る舞われ、町の人たちがあちこちで騒いでいる。シェルズタウンでも見た光景だし、会う人、会う人に感謝される。

 

「兄ちゃん、ありがとうよ!」

「ようやく平和が戻ってくるさね」

「本当にありがとう! あなたのおかげよ!」

 

 そんな言葉を何度も浴びせられた。悪くない気分だ!

 バギーの船に積まれていた財宝は、町長のおっさんに渡しておいた。あれだけあれば、町の復興はどうにかなるらしい。

 今は、この町が元に戻ることの方が大事で、復興さえすればまた町に活力が戻るようだ。

 

 おれは町の人たちに囲まれながら、もらった酒を飲んでいた。何度目かわからない感謝の言葉に返事をしつつ、ふと視線をやると、ナミは少し離れた場所でひとり酒を飲んでいた。

 船を降りてから、まだ一度も喋っていない。

 このまま何もしないわけにはいかないと思い、おれはナミの方へ歩いた。

 

「あー……ナミ。その……さっきはあまりにも無神経だった。ごめんなさい」

 

 頭を下げると、ナミはすぐには何も言わなかった。怒っているのか、呆れているのか、それとももう気にしていないのか。少しだけ居心地の悪い時間が流れたあと、ナミは目元を軽く拭って、ようやくこっちを見た。

 

「別に気にしなくていいわよ。私も取り乱しちゃったし。久々にあんなに泣いたから、むしろスッキリしたわ」

 

「そ……そうか。ありがとう」

 

「それにしても、シェルズタウンにオレンジの町。あんたが立ち寄った場所は、みんな救われてるわね」

 

「ははは、たまたまだよ」

 

「ねぇ……」

 

 ナミの声が、少しだけ細くなった。

 

「本当に助けてくれるの? 私の故郷も、この町の人たちみたいに笑えるのかな?」

 

「もちろんさ!」

 

 おれは真っ直ぐに言った。

 

「ナミも、ナミの故郷も、おれが助ける!!」

 

 それから、ナミとはまた少し話せるようになった。

 どうやってアーロンを倒すか。どうやってコノミ諸島まで行くか。ふたりで作戦を練った。

 まあ、作戦なんて言えるほど立派なものではない。

 

 内容はこうだ。

 ナミとおれで、別々の船に乗ってコノミ諸島へ向かい、おれはどこか近くに身を隠し、アーロンとナミの取引を待つ。

 取引が破られた段階で、おれがアーロンパークに突撃する。

 仮に、ナミが約束通り村を買い戻せたとしても、アーロンがあの島に居座る限り、本当の平和なんて来ない。その場合は、寝静まった夜に襲撃をかける。

 

 以上。

 ものすごい脳筋ゴリ押しプレイである。

 けれど、遠回りしている時間はないし、一日でも早く、ナミの故郷を解放しないといけない。

 それに、もうこの町でやることは終わった。

 港に向かい、小舟に荷物を積み込む。

 町の人たちから、水と食料も分けてもらった。

 

「なんじゃ、もう行くのか? もう少しゆっくりしていったらどうだ」

「ワン!」

 

 港には町長のおっさんとシュシュ、それにたくさんの町の人たちが見送りに来ていた。

 もう少し休んでいけと言われたが、おれは首を横に振る。

 

「急ぎの用ができたからな。またいつか来るよ」

 

 そう言い残し、小舟を出した。

 

「じゃあなー! また来いよーー!!」

「ありがとう、海賊の兄ちゃん!!

「ワン! ワン!」

 

 港では、みんなが大きく手を振ってくれていた。

 

「んじゃ、出発するか」

 

「ええ。距離を保ってついてきてよ」

 

 コノミ諸島までは、ナミの船と一定の距離を置いて進むことになった。

 

 ナミと話した時、万が一にも一緒にいるところを魚人に見られたら、ややこしくなると言われたからだ。

 距離を保っていれば、追いかけられていたと言い訳がつくかららしい。

 

「コノミ諸島までは、どれくらいで着くんだ?」

 

「普通に航海すれば五日くらいね」

 

「結構遠いんだな」

 

 これから小舟の上で五日間か……なかなかしんどそうだ。

 

「でも、私なら三日で着けるわ。この辺の海域は全部頭に入ってるから」

 

「おー! 流石だな!!」

 

 そんな会話をしながら振り返ると、オレンジの町はもう遠くなっていた。

 しかし、海賊になったはずなのに、今のところ人助けばかりしている。これは本当に海賊なのか?

 

 それにしても、ナミは速い。

 少し距離を取って航行していたはずなのに、ナミの船はぐんぐん前へ進んでいく。

 すごいな!海流を読むと、似たような船でもこんなに差が出るのか。そう思っていたが――。

 

「あれ?」

 

 おかしい。ナミの船が速いんじゃなくて、おれの小舟が、離されている?

 

「潮の流れが変わってる!」

 

 海面を見ると、ある場所を境に流れが変わっていた。

 ナミの船がいる方は沖へ向かう流れ、おれの小舟がいる方は、岸へ押し戻される流れになっている。

 この世界特有の不思議海流か?

 いや、そんなことを考えている場合じゃない。

 このままだと、ナミと離れ離れになる。

 

「おーーーい、ナミ! こっちの海流が変わった! このままだと離れちまう!」

 

 すると、ナミは船の上で振り返った。

 けれど、戻っては来なかった

 

「ごめんね!」

 

 風に混じって、ナミの声が届く。

 

「やっぱりこれは、私の問題だから! あんたを巻き込めない!」

 

 助けると約束したのに……

 それなのに、最後の最後で、こいつはまたひとりで背負う道を選んだ。

 

「本当にいいのか!? ハッピーエンドにはならないぞ!」

 

「大丈夫よ! 上手くやるわ!」

 

 ナミは笑っていた。

 笑っているのに、その顔は少しも楽しそうじゃなかった。

 

「私のことは気にしなくていいから、あんたはあんたの冒険をしなさい!」

 

「いや……おい!」

 

「あんたなら、すごい海賊になれるかもね」

 

 ナミの船が、遠ざかっていく。

 

「じゃあね、ルフィ」

 

 その瞬間、こちらの小舟に強い向岸流がぶつかった。

 ぐん、と船体が押し戻される。

 ナミの船は逆に、沖へ向かう流れに乗って一気に遠ざかっていった。

 まるで、最初からこの流れを知っていたみたいに。

 みるみるうちに、ナミの船が小さくなっていく。

 

 そして当然、おれはオレンジの町へ戻ってきた。

 港に押し返されたおれを見て、町の人たちが何事かと集まってくる。

 

「おまえさん、何か忘れ物でもしたのか?」

 

 町長のおっさんが尋ねてきた。

 

「あー……いや、向岸流に戻されて……」

 

 めちゃくちゃ恥ずかしい。

 あんなに見送られて出発したのに、もう戻ってきた。

 しかも忘れ物ではなく、海流に負けて。

 恥ずかしすぎる。

 

「あ! 言い忘れとった。この時期のこの時間帯は、岸へ押し戻す強い潮が出るんじゃった」

 

「そういうのは、先に教えといてくれよ」

 

「はははは、すまんかった。もう陽も沈む。今日はここに泊まっていけ。明け方までこの潮じゃ、船は出せん」

「ワン!」

 

 ナミのことは心配だ、すぐに追いかけたいけれど、船が出せないならどうしようもない。いや、追いつく方法はあるんだけども。でも、ナミは覚悟を決めて、おれを置いていった。

 その覚悟が正しいとは思わない。けど、軽くも扱えなかった。

 

「……わかった。世話になるよ」

 

 オレンジの町では、まだ宴が続いていた。

 おれはもう一度、その輪の中に戻ることになった。




読んでくれてありがとうございます。
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