めっちゃ嬉しいです(*´ω`*)
「じゃあね、ルフィ」
麦わら帽子を被った男にそれだけ告げて、ナミは船を出した。
帆が夜風をはらみ、小さな船体が黒い海を滑っていく。オレンジの町の灯りは振り返るたびに小さくなり、やがて星の光へ紛れて、どこまでが町で、どこからが夜空なのかわからなくなった。
しばらく黙って海を読んでいた。潮の流れ、風の向き、波の立ち方。どれもナミにとっては慣れ親しんだものだった。
海の上だけは、自分の思い通りに進める気がする。陸の上では何もかも奪われてばかりだったのに、船に乗っている時だけは、まだ自分の足で立っていると思えた。
「それにしても……今日は、ほんっと疲れたー」
船べりにもたれ、固まった背中を伸ばす。両腕を上げると、肩から腰にかけて鈍い痛みが走った。
走って、逃げて、騙して、失敗して、最後には、わけのわからない男に助けられた。たった一日しか経っていないはずなのに、何日も海賊船へ潜り込んでいたあとのような疲れが残っている。
「バギー海賊団からお宝を奪うだけのはずだったのに。なんでこんな、濃い一日になるのよ」
本来なら、簡単な仕事で終わるはずだった。バギーの海賊船へ忍び込み、金目の物だけを盗み出して、見つかる前に海へ消える。
ところが、シェルズタウンで盗んだ
バギーの手下たちを撒きながら町を駆け回っている最中、シェルズタウンで見かけた麦わら帽子の男と再会した。
ルフィだ。
ナミはすぐに利用することを思いついた。ルフィを主犯に仕立て、バギーへの手土産にする。うまく取り入れば、宝にも近づける。
アーロンに渡す金を一ベリーでも早く集めるためなら、使えるものは何でも使う。それがナミのやり方だったし、そうしなければ十年も生き残れなかった。
だが、その目論見もすぐに崩れた。しかも最悪なことに、アーロン一味の刺青まで見られてしまった。
下手をすれば、アーロン一味とバギー一味の争いが、ココヤシ村にまで飛び火するところだった。ナミが必死に守ってきた村が、自分のせいで戦場になる。そんな未来が、ほんの一瞬だけ現実になりかけた。
その最悪を、ルフィが力ずくで遠ざけた。
バギーの手下も、大きなライオンも、猛獣使いも、一輪車に乗った曲芸師も、最後には船長のバギーまで、たった一人で倒してしまった。
町を覆っていた恐怖はルフィの拳に吹き飛ばされ、人々は再び、自分たちの家へ戻れるようになった。
「……ほんと、変なやつ」
星明かりに照らされた海は穏やかで、あの町で起きた騒ぎが嘘のようだった。けれど、甲板の隅に置いたお金の袋だけが、今日という日が現実だったことを教えている。
「でも、一億ベリーは貯まったし。結果オーライよね」
そう言い聞かせたはずなのに、ナミの意識はまたルフィへ戻ってしまった。
自分で海賊だと名乗っているくせに、あの男がしていたのは人助けばかりだ。船もなければ旗もない。仲間もいない。宝を奪うわけでも、町を支配するわけでもない。
あれでは海賊というより、気まぐれに現れて悪党を殴り飛ばしていく、正体不明の賞金稼ぎみたいだった。
「なんで海賊なんかやってるのかしら」
“海賊”
その言葉を思い浮かべただけで、胸の奥が硬くなる。
ナミは海賊が嫌いだった。
あの連中は奪う。人の暮らしも、思い出も、命も、自分たちの欲を満たすための道具のように踏み荒らす。
故郷の島はアーロン一味に奪われた。自由も、人として生きる権利も、あの日からすべて、あいつらの機嫌ひとつでどうにでもなるものへ変えられた。
これまでナミが宝を盗んできた海賊の中には、
それでも、奪われた側にとって、海賊の夢なんて知ったことではない。
どれほど立派な目的を掲げようと、誰かの家を焼き、誰かの家族を泣かせるのなら、結局は同じだ。
それが、ナミの知る海賊だった。
それなのに、ルフィだけは違った。
シェルズタウンでは、海軍大佐の肩書きを笠に着て町を支配していた斧手のモーガンを倒し、オレンジの町では、自分に何の得もないのにバギーと戦った。
誰かに感謝されても、恩を売るような顔はしなかった。自分がそうしたかったからそうしただけだと、本気で思っているようだった。
変な男だ。
あまりにも変で、腹が立つほどまっすぐだった。
ナミの事情を知りもしないのに心配してきて、何度突き放してもついてこようとした。アーロンがどれほど危険な相手かも知らないくせに、故郷を救うと迷いなく言い切った。
普通なら笑い飛ばす。そんな都合のいい話があるわけがないと、すぐに切り捨てられる。
けれど、ルフィの声を思い出すと、あの言葉だけは嘘ではなかったと思えてしまう。
別の出会い方をしていたら、どうなっていたのだろう。
そんな考えが、波間から浮かぶ泡のように、ふいに胸の中へ上がってきた。
もし、ナミがアーロン一味の刺青を背負っていなかったら。
ただの海賊専門の泥棒として、ただの航海士として、あの男と出会っていたら。
もし、あの手を取っていたら。
ルフィについていけば、世界中の海を見られたかもしれない。
幼い頃から夢見ていた、世界中の海図を描くという夢。アーロンに奪われ、金と引き換えに取り戻すしかなくなったその夢を、ルフィとなら叶えられたかもしれない。
ナミが手を差し出せば、あの男は何も疑わずに握り返し、「じゃあ行こう」と言ったのかもしれない。
その光景を思い描いた瞬間、ナミは胸に入り込んできた考えを振り払った。
「違う違う。あいつは海賊よ」
声に出して否定しなければ、芽生えかけた何かが消えてくれそうになかった。
ルフィは海賊だ。どれだけ他の連中と違って見えても、本人がそう名乗っている。
海賊を信じてはいけない。誰かに頼ってはいけない。期待した分だけ、失った時の傷は深くなる。
それでも、ひとつだけ、どうしても消えない考えがあった。
ルフィなら、アーロンに勝てるかもしれない。
モーガンを倒し、バギーにも勝った。もしかしたら、十年間、ナミの前に立ちはだかり続けたアーロンを、倒せるのかもしれない。
けれど、それと同じくらい、ルフィが死ぬ姿も鮮明に想像できた。
アーロンを倒そうとした者は、これまでにもいた。海賊も、賞金稼ぎも、海軍も来た。
だが、誰一人としてアーロンには届かなかった。
船は沈められ、命乞いの声は魚人たちの笑い声にかき消された。捕まった者は宴の余興にされ、射的や投げナイフの的にされた。奴隷として、どこかへ売られていった者までいる。
アーロンたちは、人間を人間として見ていない。
魚人こそが上で、人間は下。支配する者と、支配される者。その考えを疑いもせず、笑いながら押しつけてくる。
ナミは、その笑い声を十年間聞いてきた。あの腕力を、あの牙を、逆らった者がどうなるのかを見続けてきた。
ルフィがどれほど強くても、アーロンの前へ立たせた瞬間、同じように壊されるかもしれない。
そう考えた途端、胸の中で膨らみかけた希望は、形になる前に押し潰された。
もう、誰かが死ぬところを見たくなかった。
ベルメールのように、自分の目の前で大切な人を失うのは、もう二度と嫌だった。
「……考えても仕方ないわ」
ようやくここまで来たのだ。
盗んで、騙して、逃げて、何度も危ない橋を渡り、それでも金を集めた。これをアーロンに渡せば、村は買い戻せる。
ノジコも、村のみんなも、もうあいつらに怯えなくて済む。ナミが十年間を捨てずに耐えてきた意味も、すべて報われる。
そこにルフィはいらない。
誰も巻き込まなくていい。誰かに期待する必要もない。
ナミ一人で始めたことなら、ナミ一人で終わらせればいい。
「一億ベリーをアーロンに渡して、終わり。そうよ。簡単なことじゃない」
言葉にするたび、それが揺るがない事実へ変わっていくような気がした。
夜の海は暗い。けれど、進むべき方角だけはわかっている。ナミは舵を握り直し、星の位置と風の匂いを確かめた。
一分一秒でも早く、ココヤシ村へ帰るために。
「待っててね、みんな。もうすぐだから!!」
その先に待つものを、希望と呼んでいいのかはわからなかった。
それでもナミは、船を進めた。
——♢♢♢——
オレンジの町を出てから三日目の朝、ナミの船はようやくコノミ諸島へ辿り着いた。
懐かしい島影が、朝靄の向こうに浮かび上がる。
十年間、どれほど遠くの海へ出ても、必ずここへ帰ってきた。見慣れた海岸線を目にすれば、張り詰めていたものも少しくらい緩むと思っていた。
だが、真っ先にナミの目へ飛び込んできたのは、懐かしい故郷の景色ではなかった。
「なによ……あれ。なんでゴサの町が壊されてるの?」
海岸沿いに築かれていた町は、ナミの記憶からすっかり姿を変えていた。
家々は土台から引き剥がされ、まるごと裏返されている。屋根や壁は押し潰され、折れた柱や家具が道を塞いでいた。火の手こそ見えないものの、崩れた建物のあちこちから白い煙が立ち昇っている。
瓦礫の間には、動かない人影まであった。
背中の内側が一気に冷え、ナミは慌てて隣の村へ視線を走らせた。海岸から見える範囲を隅々まで確かめ、見慣れた家並みが残っているのを見つけて、ようやく肺に詰め込んでいた息を吐き出す。
「ココヤシ村は……大丈夫みたいね」
ゴサの町とココヤシ村は、同じ島にある隣町だ。一方だけがここまで徹底的に壊されているのなら、事故でも災害でもない。
見せしめだ。
何があったのかはわからない。けれど、アーロンが関わっていることだけは間違いなかった。
「アーロンパークに行かなきゃ」
ナミは帆を操り、船をアーロンパーク近くの海岸へ寄せた。砂浜へ飛び降り、三日ぶりとなる地面を踏む。
普段なら、揺れない大地に安堵するところだったが、今はそんな余裕もない。荷物を抱え、東側の門へ急いだ。
門をくぐると、ハチが海兵たちをタコ壺へ乗せ、どこかへ送ろうとしていた。
先頭にいる男には見覚えがある。
確か、ネズミという名の海軍大佐だ。
アーロンから金を受け取り、この島で起きていることを握り潰している男。この島へまともな海兵が来ないのも、助けを求める声が海軍本部や支部まで届かないのも、あの男が裏で手を回しているからだった。
胸の底から湧き上がった怒りを、ナミは奥歯で噛み潰す。
ここで睨みつけても何も変わらない。最後の最後で、余計な騒ぎを起こすわけにはいかなかった。
平常心。
いつも通りに笑い、いつも通りに振る舞えばいい。
「おお! 帰ったか、ナミ。長旅ご苦労だったな……」
広場の奥から、よく通る声が響いた。
巨大な建物を背にして、玉座のような椅子へふんぞり返っている。長く尖った鼻と、鋸の刃を思わせる歯。並の人間など片腕だけで握り潰せそうな巨体を持つ、ノコギリザメの魚人アーロン。
その傍らには、エイの魚人クロオビと、キスの魚人チュウが控えている。
ナミは胸の内を悟られないよう、荷物を抱え直した。
「相変わらず不用心ね、この屋敷は。門番くらい置いたらどうなの?」
「フン……この俺に喧嘩を売る度胸のある人間なんざ、この島にはいねぇからな!」
アーロンは鋭い歯を剥き出しにして笑うと、ナミの抱えている鞄へ目を向けた。
「それで、今回の収穫はどうだった?」
「上々よ。稼ぎまくったわ」
ナミは鞄を持ち上げ、わざと中身が鳴るよう手のひらで叩いた。
「簡単に騙されてくれるカモが多くてね。ほら、この通り」
「シャハハハハハハハ! さすがはナミだ。裏切りはテメェの十八番だからな!」
「そうだったかしら?」
ナミは涼しい顔で受け流した。
「おう、同胞たちよ! 仲間が帰ったぞ! 宴の準備だ!」
「「
アーロンの声に応えるように、池や建物の陰から魚人たちが一斉に姿を現した。
「ナミだ!」
「ナミが帰ってきたぞ!」
あちこちから声をかけられ、背中や肩を乱暴に叩かれる。ナミは顔をしかめながらも、追い払うことはしなかった。
♢♢♢
陽が海へ沈み、辺りがすっかり夜に包まれても、アーロンパークの騒ぎは収まらなかった。
魚人たちは樽から酒を注ぎ、山のように積まれた料理を奪い合っている。広場に置かれた蓄音機からは軽快な音楽が流れ、酔いの回った笑い声が絶え間なく響いていた。
宴の一角では、ナミを含めた四人が、酒瓶や食べ残しを端へ押しやったテーブルを囲んでいる。その中央には、銀貨や紙幣が山のように積まれていた。
「賭けないなら、さっさと勝負から降りてくれる?」
ナミが指先で自分の手札を揃えながら言うと、向かいに座った魚人が苛立たしげに睨んできた。
「黙ってろ! 今、考えてるところだ!」
魚人は何度も自分の札と場の札を見比べている。大した計算をしているようには見えないが、たっぷり時間だけは使っていた。
ナミは頬杖をつき、わざと退屈そうに尋ねる。
「まさか、五より大きい数字を数えられないの?」
周囲で勝負を見物していた魚人たちが、一斉に噴き出した。
「ギャハハハハハ! 言われてるぞ!」
「ナミの言う通りだ! さっさとしろよ!」
「うるせぇ!」
嘲笑に押されるように、魚人は残っていた金を乱暴にテーブルへ叩きつけた。
「オールインだ!」
ナミの目がわずかに細くなる。
待っていたのは、それだった。
「じゃあ、こっちもオールイン」
自分の前にあった金をすべて押し出すと、魚人は勝利を確信したように手札をテーブルへ放った。
「ストレート! テン・ハイだ! ハッハハハハ! 残念だったな、ナミ!」
勝ち誇る魚人の前へ、ナミは無言で手札を並べた。
「ストレートフラッシュ」
魚人の笑い声が途切れる。
周囲から歓声と野次が上がるなか、ナミは得意げに顎を上げた。
「私の勝ちね」
テーブルの金を自分の方へ集めようとした瞬間、伸ばした手首を魚人に掴まれた。
「この泥棒猫め! どうせイカサマしたんだろうが!」
酒臭い息を吐きながら、魚人がナミを睨みつける。
ナミは怯まず、その目を正面から睨み返した。
「ここじゃ、お金のことで嘘をつくのは御法度でしょ。負けたからって、変な言いがかりはやめてくれる?」
「最初から見てたが、イカサマなんてなかったぞ」
見物していた魚人から声が飛ぶと、掴んでいた手の力がわずかに緩んだ。
「チッ……クソが!」
魚人は乱暴にナミの手を放した。
ナミは何事もなかったように金を集め、鞄へ詰めていく。最後の紙幣までしまい終えると、そのまま椅子から立ち上がった。
「さてと。アーロンと話をつけなきゃ」
広場の奥では、アーロンが三人の幹部と酒を飲んでいた。巨大な樽を囲み、クロオビとチュウは上機嫌に杯を空け、遅れて宴へ戻ってきたハチも、料理を頬張りながらそこへ加わっている。
ナミは騒ぐ魚人たちの間を抜け、その前まで歩いていった。
「アーロン、話があるの」
「おお、ナミ。飲んでるか?」
「ええ。それより、ココヤシ村について話があるわ」
アーロンは手にしていた杯を傾け、面倒そうに片目を細めた。
「今は宴の最中だ。あんなちんけな村の話なんざ、明日にしようぜ。それにココヤシ村はなくなりゃしねぇよ。金さえ払い続けている限りはな!」
「シャハハハハハハハ!」
「クハハハハハハハ!」
「ギャハハハハハハ!」
「ニュー……」
アーロン、クロオビ、チュウの笑い声が重なった。
ハチだけは周りに合わせきれず、曖昧な声を漏らしただけだった。
他人事だと思って、好き勝手に笑って……!
だが、怒りを顔へ出すわけにはいかない。拳を握り込む代わりに、鞄の取っ手へ指を食い込ませた。
「それで、話ってのはなんだ?」
アーロンが酒を飲み干し、空になった杯を傍らへ置いた。
「例の取引のことよ」
「チュッ? アーロンさん、ナミの奴と何か取引なんかしてたんですか?」
チュウがわざとらしく首を傾ける。
アーロンも芝居がかった顔で顎を撫でた。
「ああ? 取引……何の話だったか?」
「とぼけないで!」
思わず声が強くなる。
「一億ベリーでココヤシ村を解放する。そういう取引をしたでしょう!」
「おい、ナミ!」
クロオビが席を立ち、ナミを威圧するように睨み下ろした。
「誰に向かって、そんな口を利いている。下等な人間が調子に乗るなよ」
酔っているのか、それとも最初からナミを苛立たせるつもりなのか。アーロンとチュウの悪ふざけに、押し殺していた感情が一瞬だけ噴き出した。
「おい、落ち着け、クロオビ」
アーロンは片手を上げてクロオビを制し、椅子の背へ体を預けた。
「そんな話を持ち出すってことは……まさか、一億ベリーを用意できたのか?」
「ええ」
ナミは真っ直ぐにアーロンを見た。
「用意できたわ。一億ベリー」
海賊船へ潜り込み、何度も刃を突きつけられた。騙し、盗み、逃げ続けた。憎まれようが、裏切り者と呼ばれようが構わなかった。
すべて、この日のためだった。
「ニュー! すごいな、ナミ! 一億ベリーなんて、よく貯めたな!」
ハチが素直に目を丸くする。
幹部の中でも、ハチだけは最近どこか違っていた。
ナミはハチに返事をせず、アーロンから目を離さなかった。
「それで、金の上での約束は守ってくれるのよね?」
辺りでは、今も魚人たちが騒いでいる。音楽も、酒樽を叩く音も、笑い声も止んではいない。
それなのに、ナミの耳には自分の鼓動だけが大きく響いていた。
アーロンは椅子へ座ったまま、しばらくナミを見上げていた。やがて鋸のような歯を覗かせ、口を大きく開く。
「もちろんだ。金は何よりも信頼できるからな」
ナミの指に、さらに力が入った。
「明日の昼に一億ベリー、耳を揃えてここへ持ってこい。そうすれば取引は終了だ。ココヤシ村も、ナミも解放してやる。今後は一切、村から
一瞬、その言葉の意味を受け止めきれなかった。
終わる。
十年間続いたものが、明日で本当に終わる。
ノジコも、ゲンさんも、村のみんなも、もう金を払わなくて済む。アーロンの機嫌に怯えながら、自分たちの命を買い続けなくてもよくなる。
ナミは胸の内から込み上げてくるものを押し戻し、声が震えないよう静かに答えた。
「……わかった。明日の昼に持ってくるわ」
「ああ。それで取引は終了だ!」
アーロンは新しい酒を杯へ注ぎ、何事もなかったかのように笑った。
「そんな話はもういい。ナミ、もっと飲んでいけ!」
「遠慮しとく。三日間ずっと船の上だったから、もう疲れたわ」
ナミはそれだけ言い残し、背を向けた。
騒がしい宴を抜け、アーロンパークの奥へ向かう。幼い頃から海図を描かされ続けてきた測量室――そして、この場所でナミに与えられた自室へ。
明日、一億ベリーを渡せば終わる。
何度も胸の中で繰り返しながら、ナミはその部屋へ向かった。
読んでいただきありがとうございます♪
アーロンやそのほか手下の魚人たちの残虐性を高めてます。
アーロン推しの方いたらごめんなさい。