※この作品はR-18です。

海賊王に俺はなる?のか?   作:ずんだニャン

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なんとか今回も書けました。
ちょっと今ストレンジャーシングスを今更ながら観てまして。
シーズン1が最高に面白すぎてちょっとおろそかにしてました。



5話 兄弟の思い出

 

 7年後 コルボ山 エースの国

 

 夜の山は静かだった。

 昼間は獣の咆哮で騒がしいこの山も、夜になるとまるで別の場所のように静まり返る。風が木々を揺らし、葉の擦れる音がさやさやと響いていた。遠くで夜鳥が鳴き、コルボ山の上には無数の星が散らばっていた。

 山の上の開けた場所に、小さな焚き火が灯っていた。

 ぱち、ぱち、と乾いた枝がはぜ、その焚き火を挟んで俺とエースは向かい合い、昼間仕留めた野牛の肉を焼いている。

 鉄串に刺した肉から脂が落ち、火に触れるたびに小さく音を立てた。

 ジューー。

 香ばしい匂いが辺りに広がる。

 

「いよいよ明日だなエース!」

 

 思わず声が弾む。

 自分でも分かるくらい、胸が高鳴っていた。

 すると隣のエースが、呆れたように肩をすくめた。

 

「なんでお前がそんなに興奮してんだ?ルフィ!」

 

「だってよー、ついに海賊になるんだぜ!」

 

 胸の奥がむずむずする。落ち着いていられない。

 エースと出会って7年、あの頃はまだ俺たちはガキだった。

コルボ山を走り回り、チンピラをぶっ倒し、獣を狩ったり、修行をしたり、時には二人で喧嘩もした。

 あと、じいちゃんにしばき回されたな。

 ……あれは思い出したくもない。

 

 けど――俺たちは、強くなった!

 俺は14歳、エースは17歳だ。

 2人で約束した17歳で海賊になって出航、ついに明日がその約束の日だ!

 俺が海賊になるわけじゃないのに、自分のことのようになんだか嬉しい。海賊になる!現実味を帯びてきたからだろう。

 長かったような短かったような、でも振り返れば本当に濃い7年を過ごした。

 

「へへ、いよいよだ!」

 

 エースが拳を握るが、その腕がわずかに震えていた。

 ぷるぷるぷる。

 

「ん?なんだエース、もしかしてビビってんのか?」

 

「バカ言え、これは武者震いだ!」

 

 焚き火の光がエースの顔を照らす。

 その目は燃えるように輝いていた。

 

「ようやく俺の実力を、世界で試せる時が来たからな!この強さを世界に知らしめてやる!」

 

 その言葉には迷いがなかった。それを見て俺は思わず笑った。

 

「ししし!エースは強ぇからな。通用するさ!」

 

 これは本心だ。エースは強い。

 この7年、何度も二人で組み手をしてきたが、勝ち越しているのはエースの方だ。

 俺も相当ストイックに鍛えたし、悪魔の実の力に転生特典まである。それなのに負け越すとは思わなかった。

 正直、自信を失くしそうになったこともある。

 

「ルフィお前に言われるとなんか自信がつくな」

 

「なんだそれ、嫌みか?結局エースには勝ち越せなかったし。」

 

「はっはははは。兄貴の俺が弟のお前にそう簡単に負けるかよ!」

 

「ぐぬぬぬ。」

 

 悔しい。けどまあいいや!ちょうど肉が焼けたし食べるか。

 

「ほらよ。焼けたぞ!」

 

 俺は焼けた肉を串ごとエースに渡す。

 

「おっサンキュー!ルフィが焼くと美味いんだよな」

 

「なんだよそれ。おだてても何も出ないぞ」

 

 ばくっ!むしゃむしゃ

 

「「うめぇーーー」」

 

 二人揃って声がハモった。思わず顔を見合わせて笑う。

 肉を食いながら、俺はエースに尋ねた。

 

「それで、どうやって強さを証明するんだ?」

 

 ゴクンッ

 エースは肉を飲み込むと、にやりと笑った。

 

 「まず、すべての海に俺の強さを認めさせてやる!」

 

 「そして世界最強の男!白ひげの首を取る!」

 

 夜の山にその言葉が響く。

 俺は目を丸くした。強ぇ奴の首を取るか、こうでなきゃな。

 

 「世界最強の首か!でかい野望だな」

 

 エースは当たり前のように頷く。

 

 「ああ!最強の男の首を取って海賊王に俺が一番近づく!」

 

 そしてちらりと俺を見る。

 

 「悪いがルフィ、お前を待たないぜ。俺は先に進み続ける!」

 

 挑発するような笑みだった。だけど俺も笑い返す。

 

 「ああ!俺もすぐに追いつくさ!後3年俺はもっと強くなる!」

 

 明日になれば、エースは海へ出る。このコルボ山で過ごした日々も、今日で終わりだ。

 でも――不思議と寂しくはなかった。

 むしろ胸の奥は、わくわくしていた。俺も早く海に出たい!

 その時、ふと思い出した。

 

 「そうだ」

 

 そう言って、立ち上がる。

 

 「エース、ちょっと待ってろ」

 

 「お、おいルフィどこ行くんだ?」

 

 「いいから、いいから!」

 

 俺はダダンの小屋へ走り、扉をそっと開ける。

 中ではダダンたちが酔い潰れて、豪快ないびきをかいて寝ていた。

 

 「ぐごぉぉぉ……」

 

 その中でもダダンのいびきは特にうるさい。

 俺は忍び足で棚を探す。

 そして見つけた。ダダンがこっそり隠していた酒瓶だ。

 今度別のにすり替えとけば問題なし!

 

 「にっしししし。悪いなダダン。」

 

 一本拝借っと。今日は特別な日だし。

 静かに外へ出て焚き火の所へ戻る。

 

 「お待たせ!」

 

 酒瓶を掲げ、エースが目を細めた。

 

 「……お前それ、ダダンの酒だろ?バレてもしらねぇぞ」

 

 エースが心配してくれるが

 

 「へーきへーき、今度すり替えておくから。それに今日はめでたい日だから」

 

 エースはしばらく瓶を見つめて――ふっと笑った。

 

 「……確かにな、今日は特別だ」

 

 栓を抜くと、酒の匂いが広がる。

 エースが瓶を掲げ、俺も瓶を掲げる。

 瓶と瓶が軽くぶつかる。

 カン。

 そして俺たちは同時に言った。

 

 「「二人の夢に!」」

 

 ぐびっぐびっぐびっ

 

 「あーうめぇー」

 

 「ゴッホゴッホ」

 

 うまい!実にうまい。やっぱり酒はいつ飲んでもうまいね!

 というよりほとんどアルコールの味しかしないけど。それでも酒だからうまいよね。

 けどエースはむせて苦々しい顔をしていた。

 

 「ルフィ、よくこんな強い酒グビグビいけるな。酒の味なんてありゃしねぇ、ほとんどアルコールじゃねぇか」

 

 「そうか?普通に飲めるぞ」

 

 俺はもう一口ぐびっと酒をあおる。

 うん、やっぱりうまい。アルコールの刺激が喉を焼くように通り抜けていく感じがたまらない。

 エースはまだ咳き込みながら顔をしかめている。

 

 「お前ほんとに14歳か?」

 

 「失礼な!俺はちゃんと14歳だ!」

 

 「どうだかな。」

 

 エースは呆れたように笑いながら、もう一口酒を飲む。

 今度はさっきよりゆっくり飲んだ。

 ゴクン。

 少しだけ顔をしかめる。

 

「……やっぱりまずい」

 

「ははは!エースはお子ちゃまだな」

 

俺は思わず笑った。見上げればコルボ山の夜空は相変わらず星だらけだ。そんな静かな時間の中で、エースは酒瓶を膝の上でくるくる回しながら、ぽつりと呟いた。

 

「……明日か」

 

 ぽつりと呟く。

 さっきまでの勢いのある声とは違う、少しだけ静かな声だった。

 俺は焚き火を見つめたまま答える。

 

「ああ」

 

 明日、エースは海へ出る。

 このコルボ山で過ごした日々も、今日で終わりだ。

 だけど――悲しいわけじゃない。むしろ胸の奥は、わくわくしていた。

 エースが海へ出るそれはつまり、俺たちの時代が始まるってことだ。

 そんなことを考えていると、エースが酒瓶をぐっと握りしめた。

 

「よしっ!ルフィ、今日は語り合うぞ!」

 

 急に立ち上がったエースに、俺はきょとんとする。

 

「どうしたんだよ急に」

 

 するとエースは笑った。

 

「嬉しいんだ。付き合え!」

 

 そう言って焚き火の前にどっかりと座り直す。

 俺もその向かいに腰を下ろした。

 その夜、俺たちは本当に色々なことを語り合った。

 

 これからどこへ行きたいのか、どんな海を見てみたいのか、どんな強い奴と戦ってみたいのか。

 そして――どんな仲間を集めたいのか。

 剣の強い奴がいいとか、船の操縦がうまい奴がいいとか、酒の強い奴がいいとか、そんなくだらない話まで全部だ。

 

 気づけば酒瓶は空になり、焚き火も小さくなっていた。

 それでも俺たちは語り続けた。

 7年間、同じ山で育った兄弟みたいなもんだ。

 話したいことなんて、いくらでもある。

 そんな時だった。

 

「あっ!」

 

 エースが何かを思い出したように声を上げた。

 

「そういえばルフィ、お前に言い忘れたことがあった」

 

「ん?」

 

 俺は首をかしげる。

 だけどその続きは――そのまま夜の闇の中に消えていった。

 ――翌朝――コルボ山の海岸は、朝から騒がしかった。

 わーわー!

 

「気をつけろよ〜!」

 

 山賊たちの声が響く。

 海の上には、小さな小舟が浮かんでいて、その船に乗っているのはエースだ。

 俺は岩場の上から身を乗り出して叫ぶ。

 

「頑張れよー!エース〜!」

 

 エースは小舟の上で振り返り、にやりと笑いそして叫ぶ。

 

「待ってろ!すぐに名を上げてやる!」

 

 その言葉を残して、エースの船はゆっくりと沖へ進んでいった。

 ――コルボ山の海岸より静かに出航した。――

 見送りに来ていたのは、俺とダダン一家、それからフーシャ村の村長にマキノ。

 ドグラやマグラ、山賊たちはみんな涙を浮かべながら手を振っている。

 

「うおおおおおエース〜!」

 

「頑張れよォ〜!」

 

 泣きながら叫んでいる山賊もいる。

 そんな中、俺は思わず笑ってしまった。

 

「はは!エースのやつ、まだ手振ってる」

 

 遠くの船の上で、エースがまだ大きく手を振っていた。

 その様子を見て、村長がため息をつく。

 

「まったく……ガープの奴が何と言うか……」

 

 エースの船はどんどん小さくなっていき、やがて水平線の向こうへ消えていった。

 それを見届けて、俺たちは山へ戻る。

 ぞろぞろぞろ。

 山賊たちはみんな肩を落として歩いていた。

 ダダンの小屋へ戻ると、小屋の隅で、ダダンが一人座っていた。

 タバコをふかしながら、酒をあおっている。

 山賊の一人が恐る恐る声をかけた。

 

「お頭ァ〜エースの奴……行っちまいましたよ」

 

 ダダンは酒をぐいっと飲み干して言った。

 

「あァそうかい……」

 

 そしてぶっきらぼうに続ける。

 

「結局ガープに怒られるのはあたしだよ……しょうがねェクソガキだった」

 

 すると別の山賊が思い出したように言った。

 

「あ!そういやエースからお頭に伝言が」

 

 その言葉にダダンが顔を上げる。

 

「何を~~!?最後の最後まであたしに文句があんのかい!?」

 

 山賊が言った。

 

「“世話んなった。ありがとう”って」

 

 その瞬間――

 

「うお~~!!」

 

 ダダンが叫んだ。

 

「ふざけんじゃねェよバカがぁ!」

 

 号泣だった。

 ハンカチで目を押さえながら泣き叫んでいる。

 山賊たちもみんな泣いている。

 俺はその様子を見て思わず笑った。

 

「ハハハハ!」

 

「なんだよダダン、やっぱり寂しかったんじゃねぇか」

 

 別れには来なかったけど本当は寂しいんだろうな。エースは赤ん坊の頃からここで育ったらしい。

 なんだかんだ言って、ダダンもずっと面倒を見てきたんだ。

 そりゃ寂しいに決まってる。

 俺は拳をぎゅっと握る。

 

「うっし!」

 

 立ち上がる。

 

「俺もエースに負けてらんねぇー!」

 

 海の向こうには、もうエースの船は見えなかった。空を見上げて叫ぶ。

 

「俺はあと3年!もっと強くなる!」

 

 エースが出て行った海の向こうを見ながら、俺はそう誓った。

 

 ♢

 

 エース side

 

 偉大なる航路《グランドライン》――

 ピースオブスパディル号・船上。

 

 「……俺は強くなったぞ、ルフィ」

 

 空を見上げ、かざした手をゆっくりと握る。

 

 コルボ山を出航してから、もうすぐ一年が経つ。

 スペード海賊団を結成し、今じゃ俺も一つの海賊団を率いる船長だ。

 世間の話題も、今は俺たちの名前で持ちきり――そう言ってもいいだろう。

 ついこの前も、王下七武海の一人を叩き潰した。

 その実績を買われて、俺自身に七武海入りの打診まで来たくらいだ。

 ……だが、断った。

 

 「俺はそんなところで収まる器じゃねェ」

 

 目指すのはただ一つ。海賊王だ。

 それにしても、七武海――“海の均衡を担う存在”ってやつは、もっと化け物じみてると思っていたが……。

 確かに強かった。楽な相手じゃなかった。だが――圧倒されたかと言われれば、そうでもない。

 

 「……ま、あいつとの修行がなけりゃ危なかったかもな」

 

 自然と口元が緩む。ルフィ。

 あいつと過ごした七年間。あの時間が、今の俺をここまで押し上げている。

 もしあいつがいなかったら――今ごろ、海の底に沈んでいたのは俺の方だったかもしれねェ。

 水平線の向こうを見つめ、あの夜をふと思い出す。

 

 コルボ山・出航前夜

 

 焚き火の前。

 ルフィがダダンからくすねた酒を飲みながら、俺たちは飽きもせず語り続けていた。

 夢の話。これからの海の話。くだらねェ話も、全部だ。

 

 「……あっ」

 

 ふと、思い出す。危ねぇ一番大事な事を忘れるとこだった

 

 「そういえばルフィ、お前に言い忘れてたことがあった」

 

 「ん?」

 

 ルフィが首をかしげる。

 

 「言い忘れって何だ?あっ、もしかして出発の準備まだ終わってないのか?あれほど口酸っぱく言ったのに何やってるんだよ!」

 

 「そうそう、出発の準備がって違ーう。準備ならとっくに終わってるわ!」

 

 まったく……こいつ、たまに俺をガキ扱いしやがる。

 

 「そうじゃねェ。……ルフィ、お前はもっと自由になれ」

 

 「えっ、自由?俺は自由だぞ。」

 

 ……やっぱり気づいてねェか。

 

 「ルフィ。俺に組み手で勝てなかったの、悔しがってただろ」

 

 「……まあな。エースに勝ち越すのが目標だったから」

 

 「そりゃ残念だな。んで、なんで勝てねェかわかるか?」

 

 「なんでって、そりゃあ……エースの方が強いからだろ」

 

 「ハハハハハ。俺が強いのは当然として、ただそれだけじゃねェ」

 

 まっ強がっちゃいるが、俺はルフィの弱点をついてギリギリ勝てるくらいだ。

 もしルフィがそれを克服して再戦すれば、負けるかもしれねぇ。それくらいあいつは強い。

 

 あいつと組み手を始めて7年。

ルフィはフーシャ村で一人で鍛えてたみてぇだが、対人戦はド素人だった。

 だから最初の4年は俺が圧倒的に勝ち越していたが、残りの3年で、あいつは一気に差を詰めてきた。

 一年で見りゃ俺の勝ちだ。けど月で見りゃ、負け越した月もある。それに勝ち越してたって言っても、ほとんど僅差だ。

 ……恐ろしいくらいの成長だった。

 

 本当なら、もっと早く教えてやるべきだったんだろうな。

 けど――兄貴の俺が、弟に負けたくなかった。

 そんなくだらねぇプライドで、教えなかった。

 まぁ、そのうちあいつなら気づくかとも思ってたしな。

 けどあいつは気づかなかった。

 いや、気づかないっていうより、あいつにとっちゃ、その弱点が当たり前だったんだろう。

 だから俺は――教えた。

 

 「お前にはな、はっきりした弱点がある。けどな、それがお前の強さでもある」

 

 「それ……弱点なのか?」

 

 「俺からすれば弱点だな。けど、お前がそう思うかは別だ」

 

 「いいか、よく聞け。お前はな、時々ほんの一瞬だけ動きが固ぇ。型にハマりすぎなんだよ。もっと自由になれ!」

 

 少し言葉を探すように、エースは続ける。

 

 「まあ、上手く言えねぇんだけどよ。なんて言うか、お前は誰かに成り切ろうとしてる感じがする。こうあるべきってもんに、縛られてるっつうか」

 

 「ま……そんな感じだ」

 

 これが俺が感じるルフィの最大の弱点だ。

 あいつはどこかで、誰かに成り切ろうとしてやがる。

 自分じゃ気づいてねぇだろうが、戦い方に“型”がある。

 最初の頃は分かりやすかった。動きも荒ぇし、読みやすかったからな。

 けど、あいつはそこから一気に伸びやがった。

 速さも、力も、踏み込みも、全部が洗練されていった。

 一つ一つの動きに無駄がなくなって、正直、何度も押し切られそうになった。

 それでも、長くやり合ってりゃ、分かる瞬間がある。

 

 あいつは攻撃時に、一瞬だけ隙を見せる時がある。

 自分で決めちまってるみてぇに、こう来るってな。

 そのわずかな癖が、動きを鈍らせる。

 だから俺はその一瞬の隙を突く。それでやっと、ギリギリ勝てる。笑えねぇ話だ。

 

 あいつが誰に成り切ろうとしてるのかは分からねぇが、それがあいつの強さを支えてるのも事実だ。

 だから余計に厄介なんだよ。今のままでも十分強ぇ。

 けど、その誰かに成り切ろうとしてる間は成長の足枷になっている。あいつはもっと上にいける。

 

「……だから自由?」

 

 「そうだ!他の誰でもねぇ、ルフィはルフィだ!」

 

「ルフィ、お前はその気になれば俺やジジイよりも強い。自分を信じて全てを解放するんだ。見せてくれ本当の力を、その力で海賊王を目指せ!」

 

「約束だルフィ!俺とお前どっちが先に海賊王になるか!」

 

 ルフィは目を見開いたまま、言葉を失った。

 その言葉を、噛み締めるように。

 

 あの夜は楽しかったな。

 

 「エース船長!島が見えてきましたぜ!」

 

 「もうすぐ到着か!」

 

 今、俺たちが向かってる場所は偉大なる海《グランドライン》にある、とある冬島だ。

 年中雪に閉ざされた島で、寒さも海の荒れ方も甘くねぇらしい。俺たちはその島を目指して航海していた。

 確かな情報だと、今はそこにいるらしい。

 四皇の一角――赤髪のシャンクスが。

 

 島に到着した。

辺りはかなり吹雪いている。視界も悪い。雪と風が容赦なく叩きつけてきて、吐く息は白い。

 俺たちはそのまま上陸した。

 目指すのは、赤髪のシャンクスたちがいる山頂付近の洞窟だ。

 雪を踏みしめながら山を登っていく。

 標高が高くなるほど風は強くなり、吹雪もどんどん激しくなっていく。

 俺は平気だが仲間たちは肩をすくめ、顔をしかめながら必死に俺の後をついてきた。

 

「本気か!? 船長!」

 

 後ろから仲間の声が飛ぶ。

 無理もねぇ。この吹雪だ。普通なら引き返してもおかしくない。

 

 けど、俺は足を止めなかった。

 

 「どうしても会いてェんだ。赤髪のシャンクスに」

 

 そう言って、さらに上を目指す。

 吹きつける雪も風も、今の俺には大したことじゃねぇ。

 やがて、吹雪の向こうに洞窟が見えてきた。

 あそこだ。赤髪のシャンクスがいる場所。

 洞窟の前まで辿り着いた瞬間、空気が変わった。

 

――すげぇ圧だ。

 

 

 肌がひりつく。

 ただそこにいるだけで分かる。

 これが四皇。大海賊、赤髪のシャンクスか。

 俺は一つ息を吐いてから、口を開いた。

 

「大人数引き連れて悪い。初めまして、赤髪のシャンクス。俺たちはスペード海賊団って言うんだ」

 

 するとシャンクスが、わずかに目を細める。

 

「スペード海賊団!? 噂のスーパールーキーがおれに挨拶か?」

 

 その声にも、どこか圧がある。だが俺は首を振った。

 

「いや……そういう意味じゃねェんだ。弟が、命の恩人だってあんたの話ばっかりするんでな。一度会って礼を言おうと思ってよ……」

 

 一瞬、間があった。

 

「ルフィの!?」

 

 シャンクスの表情が変わる。

 

「へェ! 兄貴なんていたのか!」

 

 その瞬間、さっきまで場を張りつめさせていた圧が、嘘みてぇに晴れた。

 

 シャンクスは豪快に笑った。

 

「そうか! よく来たな! 話を聞かせてくれ!」

 

 そして、洞窟の奥にいる仲間たちへ向かって叫ぶ。

 

「宴だァ!」

 

 ごくごくごくごく。

 ぷはーっ。

 酒を飲み干して、息を吐く。

 気づけば小一時間ほど、赤髪たちと酒を酌み交わしていた。

 洞窟の中は、さっきまでの張りつめた空気が嘘みてぇに騒がしい。笑い声はでかいし、酒も次から次へと空いていく。誰かが勝手に肉を焼き始めたかと思えば、別の奴がもう出来上がって寝転がってやがる。豪快で、細けぇことを気にしねぇ連中だ。

 ……なるほどな。

 あの女好きのルフィが気に入るのも納得だ。

 あいつ、こういう自由な空気が好きそうだからな。

 そんなことを考えてると、向かいに座る赤髪が酒瓶を片手に笑った。

 

 「そうか! あいつ今も海賊王になるって言ってるのか!」

 

 「ああ。口癖みてェなもんさ。ま、ルフィには悪ィが……海賊王になるのはおれだ」

 

 「へェ、そうかい」

 

 赤髪は口元だけわずかに緩めたが、目は笑っていなかった。

 俺は酒をもう一口あおって、そのまま続けた。

 

 「ルフィにも言ったが、まずはおれの力を全ての海に認めさせてやる!」

 

「ほォ……どうやって?」

 

 静かな声だった。

 けど、その一言だけで場の空気がわずかに変わる。

 試してるのは分かった。だから俺も、迷わず言った。

 

「この世界で最強と言われてる男を倒す!」

 

 その瞬間、洞窟の空気がほんの少しだけ変わった気がした。

 騒いでた連中の何人かが、こっちを見る。

 

「白ひげの首を……?」

 

「ああ!」

 

 即答だった。そこに迷いなんかねェ。

 赤髪は酒をあおると、少しだけ目を細めた。

 

「白ひげは一筋縄じゃいかない相手だ! まぁ、頑張るんだな」

 

「当然だ!」

 

 そう言い返してから、俺はふと思ったことをそのまま口にした。

 

「それはそうと、ルフィと会うのはあんたたちのほうが早いだろ。ルフィのやつ、昔から少し大人びてたのか?」

 

「ルフィか」

 

 赤髪は懐かしむように笑う。

 

「いや、あいつは急におとなしくなったけど、その前までは海賊王になる! 旅に連れて行け!って騒いでたガキだったな。はははは!」

 

「へぇー、そりゃ意外だな。あいつがそんな子供じみてたとは。逆に見てみたいな」

 

 すると、横で飲んでいたヤソップが吹き出した。

 

「そうそう。俺たちの船の上で、自分の顔にナイフぶっ刺してな。そっから気絶して大変よ! 目を覚ましたら昨日や朝までとは違って、別人みてーになってよ。あん時のうちの船長の驚きったら」

 

「はははは! 確かにあん時の驚きっぷりはすごかったな」

 

 ベン・ベックマンまで笑いながら頷く。

 ラッキー・ルウも肉を頬張りながら続けた。

 

「そうそう。誰よりも心配してたからな。酒場では酔っ払って気を紛らわせてたし」

 

「やめろ、恥ずかしい。バラすんじゃねぇ」

 

 赤髪が珍しく少しだけむっとした顔をする。

 けど周りは誰も気にせず笑ってやがる。

 俺もつられて笑った。

 

「そういや、悪魔の実をあんたに食わされたって聞いたけど、今のと関係あるのか?」

 

「食わせたって言い方はやめろ」

 

 赤髪は酒瓶を持ったまま肩をすくめる。

 

「元気づけようと思って悪魔の実を見せてやったら、まぁ……そこからは不慮の事故でな。たまたまルフィの口に入った」

 

「ははは」

 

 思わず笑いが漏れる。

 

「ルフィもあんたの話をする時、このことだけは苦言してたな」

 

「だろうな。おかげでガープに何度も狙われたよ」

 

「ジジイに狙われてよく平気だな」

 

「ああ。おかげで今はこの冬島に身を潜めてるってわけだ」

 

「だからこの島にいるのか」

 

 なるほどな、と俺は酒をあおる。

 四皇ともなりゃ、そんな昔の縁から海軍の英雄に追い回されることもあるらしい。

 すると赤髪が、今度は少し真面目な顔になってこっちを見た。

 

「それはそうと、ルフィは強くなってるのか?」

 

「ああ」

 

 そこは迷わず答えられた。

 

「7年間、あいつと修行してきたが……あいつの強さは目を見張るよ。しかも、とんでもない速度で成長しやがる」

 

 あの馬鹿みてぇな食欲も、妙に大人びたところも、時々変に達観した目をするところも。

 全部ひっくるめて、あいつは強い。

 赤髪は静かに笑った。

 

「それは、楽しみだな」

 

「楽しみ、ね」

 

 俺は鼻で笑う。

 

「楽しむ余裕なんてないかもしれないぜ。あいつは近い将来、あんたと同じレベルまで上がってくるかもしれないぞ」

 

 冗談で言ったわけじゃねェ。

 本気だ。

 赤髪は少し黙ってから、にやりと笑った。

 

「ほー、あのルフィが」

 

 そのまま酒をあおって、楽しそうに続ける。

 

「それなら高みで待つとするよ。あいつのためにもな」

 

 ♢

 

 エースが出航して、一週間が経った。

 

 少しだけ寂しさはある。

 けど、それ以上に――エースが最後に残していった言葉が、ずっと頭から離れなかった。

 

「自由か……」

 

 空を見上げながら、ぽつりと呟く。

 

「解放の戦士ニカなんだけど、俺って自由じゃないのか?」

 

 分からねェ。自由ってなんだよ。何を持って自由なんだよ?

 その意味を掴もうとして、ひたすら修行を続けてる。

 けど――いまだに答えには辿りつかない。

 

「クソっ、わからん……」

 

「おのれエース……最後の最後に、変なもん残しやがって」

 

 でも、ただの思いつきじゃねェってのも分かる。

 エースがあんなに真剣に言ったってことは、何かある。

 ……なんか重要な気がするし、もう一段上に行けそうなんだよな。

 

「エースから見れば弱点であって、俺からすると弱点じゃない。型にハマりすぎ……か」

 

 頭の中で、あの夜の言葉をなぞる。

 

「意味わかんねェんだよ……!」

 

 弱点なのに弱点じゃないってなんだよ、型ってなんだ。教えろよ、マイブラザー。

 思わず笑いそうになる。けど、笑えねェ。

 

 弱点だと言われてもな、俺は原作ルフィを真似して、大体の技は使えるようになった。

 技だけじゃなくて、すでにギア2もギア3も使える。

 しかもまだ原作開始3年前だと言うのにこの成長速度!

 自分の才能が恐ろしいね!

 

「……いや、こうして考えると、俺かなり強くね?」

 

 ぽつりと漏れる。いやマジで!

 エースと一緒に相当鍛えたし。それに、たまに帰ってくるじいちゃんにも死ぬほどボコボコにされた。ある意味で一番の実践経験だった。

 あとじいちゃんから、覇気のこと教えてもらおうとしたけど、全然教えてくれなかった。だから酒を死ぬほど飲ませて、酔わせて、気分が良くなったところでようやく口を割って教えてくれた。ただ、説明がかなり大雑把だったのでエースと一緒に試行錯誤しながら鍛えた。

 おかげで、覇気もほんの少しだけだが使えるようにはなった。

 けど――

 

「覇王色は、どうやって出すのかすら分からねェし……」

 

「武装色も一瞬だけだし、見聞色も未来は見えねェ。せいぜい危険を感じるくらいだ」

 

 覇気の正しい鍛え方が分からないぜ。もっと実践経験積むとか、相当な実力者に鍛えてもらうしかないのかな?

 それでも強くなってる実感はある。

 けど――何かが引っかかってる。

 

「……型、自由」

 

 拳を握る。

 エースの言葉が、また頭をよぎる。

 

「悩んでも仕方ねぇ。修行だ!体動かしてりゃ何か掴めるだろ!」

 

 




今回はエースの旅立ちとルフィがもっと強くなるための布石のシーン的な話を書きました。

憑依ルフィはエースとストイックに鍛えまくったのでかなり強いです

次でプロローグは終わりです。
そのあとは冒険していきますのでお付き合いください。
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