※この作品はR-18です。

海賊王に俺はなる?のか?   作:ずんだニャン

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10万UAありがとうございます(*≧∀≦*)

なんとか今回も書けました。




8話 絶対正義!?

 

 東の海《イーストブルー》――どこかの海域。

 

 俺たちは今、海軍第153支部がある町、シェルズタウンへ向かっていた。

 俺自身、海軍に用があるわけじゃない。けど、コビーの夢を叶えるには、まず海軍基地のある町へ行かないと話にならない。

 

「にしても、この方向で本当に着くのか? 何を目印にしてるんだ?」

 

 コビーはさっきから海や空を見て、こっちです、と迷いなく進路を決めている。

 何を見て判断してるのか、俺にはさっぱりわからない。

 

「ええと……ルフィさんって、どうやって冒険するつもりだったんですか?」

 

「いやー、なんとなく勢いでいけるかなって……」

 

 そう答えると、コビーはしばらく黙った。

 それから、ものすごく言いにくそうな顔で聞いてくる。

 

「……航海術は、学ばなかったんですか?」

 

「うん! 完全に忘れてた!」

 

 おもいっきり忘れてた。

 出航してから気づいたし、正直ちょっと甘く見てた。

 偉大なる航路《グランドライン》がやばい海だってことは知ってた。

 でも、まさか東の海《イーストブルー》みたいな普通の海でも、何も知らずに出たら普通に遭難しかけるとは思ってなかった。

 

「忘れた!?じゃ、じゃあ海図とかコンパスとかは!?」

 

「無い!!だから簡単でいいから教えてくれ、コビー!」

 

 威張って言うことじゃないが、無いもんは無い。

 

 というか、コンパスなんてまともに使ったこともないし、紙の地図だってほとんど見たことがない。

 だって前世じゃ、行きたい場所があればカーナビか地図アプリに放り込めば終わりだったし。

 そんな俺の事情を知るはずもなく、コビーは半眼になった。

 

「ルフィさんに死なれるのは嫌なので……わかりました」

 

「助かるぜ!それで、何を見ればいいんだ? 太陽を見るってのはなんとなくわかるけど」

 

「えっと、まず昼なら太陽、夜なら星です。方角を見るならそれが基本です。それに風の向きと潮の流れも見ます。船は思ってる以上に流されるので、何も考えずに進んでると、どんどん進路がずれていくんですよ」

 

「へぇー……」

 

「本当なら海図とコンパスがあるのが一番なんですけど、ない以上は、見えるもの全部を頼りにするしかないです」

 

 そこから30分ほど、俺はコビーに航海の初歩を教えてもらった。

 

 昼は太陽、夜は星。風の向き。波の流れ。潮目の変化。

 鳥の飛ぶ方向や、遠くの島影の見つけ方。

 聞いてみると、思ったよりちゃんと理屈があって面白い。

 しかもコビー、意外と説明がうまい。かなりわかりやすかったし興味をもてる感じで教えてくれた。

 

「まさか、こんな初歩的なことも知らないで海に出るなんて……死にに行くようなもんですよ……」

 

 教え終わったコビーが、呆れたような、それでいて哀れむような目でこっちを見てきた。

 

「はははは。そう考えると、コビーに会えてほんと助かったな」

 

 今さらだけど、エースが出航前にやたら本を読んでたのって、もしかして航海術の本だったのか?

 あいつ、意外とちゃんと準備してたんだな……。

 

「まあ、僕もルフィさんに助けてもらわなかったら、今ごろどうなってたかわかりませんけど」

 

 コビーはそう言ってから、少し考えるように視線を落とした。

 

「それで、他にはちゃんと準備してきたんですか?」

 

「ああ、もちろん!まず十年間しっかり体を鍛えた!修行もした!飯も作れるし、掃除も洗濯もできるぞ!」

 

 えっへん、と胸を張る。

 どうだ。ここまでできる海賊、そうそういないだろ。

 けどコビーは、なぜか微妙な顔をした。

 

「えっと……ルフィさん。その……それだけですか?」

 

「え? それだけって?」

 

「たとえば、魚貝類の食べられるものと危ないものの見分け方とか……。水の確保とか保存方法とか、怪我の応急処置とか……そういうのです」

 

 うっ。

 

「今後、仲間が増えたら役割分担もできると思います。けど、今のルフィさんは一人なんですから、知っておいた方がいいことは結構ありますよ」

 

 まー、基本的に俺は大抵のもの食っても平気だし、怪我してもわりとすぐ治るし、あんまり困ったことなかったんだよな。

 でも、普通はそうじゃない。

  ……俺って、もしかして何も知らない?

 これはもう、早急に仲間集めを進めた方がいいな。

 

「まあ、知らないなら今から覚えればいいんですよ!」

 

 コビーはさっきまでのしょんぼりした雰囲気が嘘みたいに、少し得意げな顔になった。

 

「シェルズタウンに着くのは、たぶん明日のお昼前後です。それまで僕がルフィさんの先生になります!」

 

「押忍、おねしゃす!先生!」

 

 ありがたいことに、そのあともコビーは航海術だけじゃなく、海で生きるためのあれこれを色々教えてくれた。

 どれも、コビーがアルビダ海賊団にいた二年間で嫌でも覚えた知識らしい。そう思うと、こいつもこいつで相当苦労してきたんだなと改めて感じた。

 

 そうして色々教わっているうちに、いつの間にか空は赤く染まり、やがて夜になった。

 海賊どもから貰った食料を二人で適当に食べ、俺たちは小舟の上で星空を見上げながら、少し早めに休むことにした。

 

「どっちか起きて見張りしなくて大丈夫なのか?」

 

「この風と潮の流れなら、今夜はそこまで心配いりません。たぶん大丈夫です」

 

「へぇー……」

 

 やっぱ航海士ってすげぇな。

 早くちゃんとした航海士を仲間にしたい。

 そうして、波の音を聞きながら目を閉じる。

 

 そして朝になった。

 樽の中で寝るのとは違い、星空を眺めながら寝るのは気持ちよかった。目を覚ました時に見えたのが一面の海と空だけっていうのも、なんだか妙に気分が良かった。

 ――ああ、俺、今ちゃんと海賊してるんだな。

 そんな実感がじわじわ湧いてきて、思わず一人でにやけそうになる。

 

 簡単に朝飯を済ませたあと、俺はコビーから東の海《イーストブルー》の情報を色々聞いていた。

 やっぱり一番気になるのは――他の海賊たちのことだ。

 

「なあコビー。東の海の賞金首って、どんな奴がいるんだ?」

 

 そう聞くと、コビーは少し考えるように視線を上に向けてから、指を折るようにして話し始めた。

 

「そうですね……東の海で一番有名なのは、やっぱり魚人のアーロンです。懸賞金2000万ベリー。東の海では頭ひとつ抜けた大物です」

 

「次が首領・クリーク。懸賞金1700万ベリーです。部下は5000人、船は50隻とも言われていて、海賊艦隊の提督って呼ばれてます」

 

「5000人!?すげぇな」

 

「ただ、偉大なる航路《グランドライン》に入った話もあるので、今の時点では東の海にはいないかもしれません」

 

「ほかには、道化のバギー。懸賞金1500万ベリー」

 

「トランプ海賊団船長ベアキング。懸賞金1160万ベリー」

 

「それからエルドラゴ。懸賞金1000万ベリーです」

 

 そこでコビーは話を区切った。

 

「この五人が、東の海で懸賞金1000万ベリーを超える有名な海賊たちです!」

 

 それにしても――

 

「海賊は大量にいるのに、1000万超えはあんまり多くないんだな。なんか意外だな」

 

 正直、原作に出てないだけで、ほかにももっとごろごろいるのかと思ってた。

 でもこうして聞くと、やっぱり東の海《イーストブルー》は名実ともに“最弱の海”なんだなって実感する。

 

 ……それにしても最後の二人、たしか映画のキャラだった気がするな。どんな奴だったかいまいち思い出せない。

 

「まあ、大抵の海賊はひとつなぎの大秘宝《ワンピース》を目指して、偉大なる航路《グランドライン》へ行きますからね」

 

「わざわざ東の海に留まり続ける海賊は少ないんですよ。東の海で名を上げたところで、大した意味はありませんし」

 

 たしかにそうだ。

 最弱の海でどれだけ暴れたって、別に箔が付くわけでもないしな。

 偉大なる航路《グランドライン》を最初から目指した方がいいって考えるのも自然か。

 

「なるほどなぁ」

 

 俺が頷くと、コビーは少し間を置いてから思い出したように続けた。

 

「それと……百計のクロっていう海賊が、三年前までいて」

 

「ん、クロ?」

 

「はい、今向かってるシェルズタウンの海軍基地、そのトップのモーガン大佐が三年前に処刑したって言われてるんです……」

 

 そこでコビーは少し首をかしげた。

 

「ただ、これはアルビダ海賊団の人たちが話してた噂なんで本当かどうかは分からないんですが、百計のクロを見たって言ってた人がいたんですよ。たぶん気のせいだと思いますけどね」

 

 コビーよ。その噂、実は本当なんだぜ。

 けどまあ、海軍が処刑したはずの海賊が、実は替え玉を使って生き延びてました――なんて話、普通は誰も信じないよな。

 俺だって原作知識がなきゃ信じないし。

 

 なんて話をしてたら、ついに島が見えてきた!

 

――♢――

 

 東の海《イーストブルー》――シェルズタウン。

 

「着いたー! ここが海軍基地のある町、シェルズタウンか!」

 

 ついに目的地へ到着した。

 けど、思っていたより町に活気がない。海軍基地があるんだから、もっと賑わってるもんかと思ってたんだけどな。

 

 まあ、そんなことは今はどうでもいい。

 一番大事なのは、ゾロを仲間にすることだ。麦わらの一味の主力の一人だ!この世界でもぜひ仲間にしたい。

 

「はい……!ついに……。うぅっ……ルフィさん、ありがとうございます……」

 

 横にいたコビーが泣き出した。

 ほんとによく泣くな、こいつ。

 

「まだ到着しただけだぞ? 泣くには早いんじゃないのか?」

 

「だって……あの地獄から解放されて、ようやく海軍に入れると思うと嬉しくて……!」

 

「コビーを助けた甲斐があったよ。ま、それはそれとして――飯食おうぜ! 腹減ってしょうがねぇ!」

 

 島が見えてきたあたりからずっと腹の虫が鳴ってたし、今も限界だ。

 ぐぅ〜〜〜。

 

「そうですね。僕も何か食べておこうかな」

 

 飯を食うことに決め、二人で店を探して少し歩く。

 すると、”FOOD FOO!”と書かれた看板の店を見つけたので、そこに入ることにした。

 

「いらっしゃい!」

 

 店の奥から元気な声が飛んでくる。

 

「おねえさん、二人だけど席ある?」

 

「ええ、好きなところに座って構わないよ」

 

 俺たちは角の窓際の席に腰を下ろした。

 どうやら店はおねえさん一人で回しているらしい。ワンオペなのかな?

 しばらくして、コトン、コトンと音を立てながら水が運ばれてきた。

 

「ご注文は何にする?」

 

「えっと、僕はこのハンバーグのランチセットを一つお願いします!」

 

「じゃあ俺は、肉料理を全種類!」

 

「え、全種類?」

 

「ダメだったか? この通り、腹減っててな」

 

 ぐぅ〜〜〜!

 また腹が鳴った。しかも結構でかい音で。

 おねえさんは思わず吹き出しそうになりながら笑った。

 

「ふふっ、それは大変ね。急いで作るから、ちょっと待ってて」

 

 そう言って、おねえさんはにこにこしながら厨房へ向かっていった。

 それにしても――

 

「昼時なのに、俺たち以外に客がいないって不思議だな」

 

「たしかに……。もしかして、このお店、あんまり味がよくないとか……?」

 

「いや、それはねぇよ。よく見ろ、店の中。掃除がちゃんと行き届いてる。掃除がちゃんとしてある店は大丈夫だ」

 

 ……ってのはマキノの受け売りだけど、たぶん間違ってない。

 そんな話をしているうちに、料理が運ばれてきた。

 

「はい、お待ちどおさま。他の料理も今、大急ぎで作ってるから、もう少し待っててね」

 

「いい匂いだな。食べるか!」

 

「はい!」

 

「「いただきます」」

 

 その後も次々に別の肉料理が運ばれてきて、俺はそれを全部平らげた。

 

「「ごちそうさま」」

 

「いやー、うまかったなぁ」

 

「おいしかったです」

 

 満腹になって一息ついたところで、俺はコビーを見る。

 

「そんじゃ、コビーとはこの町でお別れだな。海軍に入って、立派にやれよ!」

 

 一時的とはいえ一緒に旅した仲だ。

 ちょっと寂しい気もするな。

 

「はい!ルフィさんも立派な海賊になってください!今後は敵同士になりますけど!」

 

「おう!」

 

 俺は立ち上がった。

 

「それじゃ、海軍基地まで行くか!おねえさん、お勘定!」

 

「はーい。これが代金ね」

 

 女将さんが伝票を持ってきた。

 俺は収納袋から金を取り出して渡す。

 

「はい、これ!お釣りはいらないから!」

 

「あら、気前がいいのね」

 

「あ、ルフィさん!自分の分は払いますよ!」

 

「コビーの入隊祝いってことで、奢るよ」

 

「それなら、遠慮なく……ありがとうございます」

 

 店を出たあと、俺たちは二人で海軍基地へ向かって歩き出した。

 道中、掲示板を見つける。そこには入隊希望のポスターや、コビーが教えてくれた賞金首たちの手配書がずらっと貼られていた。

 

「これ見てみろよ! コビーが教えてくれた以外の手配書もいっぱいあるぞ。海賊ってマジでめっちゃいるんだな!」

 

「偉大なる航路《グランドライン》には、もっといますよ」

 

 それに混じって、原作で見たことも聞いたこともない奴の手配書まである。

 

[食い逃げのケン 懸賞金200万ベリー]

[ロマンス詐欺師 ミッシェル 懸賞金300万ベリー]

 

 そもそも海賊ですらない連中までいる。

 けど、それよりも気になるのは、掲示板の上にでかでかと描かれたモーガンの肖像だ。

 町を見渡しても、あちこちの壁にモーガンの肖像が描かれている。

 そうこうしているうちに、海軍基地へ到着した。

 どーーーん!!

 

「でっけぇな!」

 

 まず建物がデカいし頑丈そうだ。“海軍”と書かれた、分厚い鋼鉄の扉もある。建物の上には大砲が何門も並んでるし、基地って呼ぶだけのことはある。

 それに――

 

「なんだありゃ……」

 

 屋上には、モーガンの巨大な銅像が建っていた!

 独裁者気取りかよ。

 

「とうとうここまで来ました……! ルフィさんとはここでお別れですが、このご恩は一生忘れません!」

 

 コビーがまた泣きながら礼を言ってくる。

 

「ああ、気にすんなよ。それと、そのすぐ泣く癖は直せよ!」

 

「は、はいぃ……」

 

 さて。コビーを海軍基地のある町まで送り届ける、という第一目標は達成した。

 次はゾロだ!!

 俺は海軍基地の塀に近づき、よじ登ろうとする。

 

「あ!ルフィさん、何やってるんですか!?」

 

「せっかく来た記念に中を覗いてみようかと思ってな」

 

 なんてのは建前だ!目的はゾロだ!

 さあロロノア・ゾロ!俺の前に姿を現せ!

 未来の海賊王のクルーにして、未来の世界一の大剣豪!

 麦わら海賊団の最初の仲間は、キミにきめた!

 

 塀の上から中を見渡す。

 あった!磔だ!誰かが縛りつけられている!

 ゾロだな!待ってろ、今助けて――

 

「……ん?」

 

 固まった。

 

「どうしたんですか、ルフィさん?塀の上で固まって。……あっ、誰か男の人が磔にされてますよ!」

 

「ゾ、ゾロじゃない!誰だあのおっさんは!?」

 

 思わず、小さく声が漏れた!

 困惑していると、すぐ横から話しかけられた。

 

「わたしの旦那よ」

 

「さっきの……飯屋のおねえさん!?」

 

 見ると、さっきのおねえさんが梯子を塀に掛けて登ってきた。

 

「しーっ!少し静かにしてて」

 

 そう言っておねえさんは塀を降り、磔にされている旦那のもとへ向かった。

 どうやら飯と水を持ってきたらしく、食べさせようとしているが、旦那さんは断っているようだった。

 そんなやり取りをしているうちに、基地の中から二人の海兵を連れたヘルメッポが現れた。

 女将さんが何やら大声で怒鳴ると、怒ったヘルメッポがビンタを食らわせ、そのまま海兵に命じて外へつまみ出させた。

 

 女将さんの方へ向かうと、泣いていた。

 ……ゾロのことは、一旦忘れよう。

 

「なあ、あーっと……大丈夫、じゃないよな」

 

 俺はそう言って手を差し出し、女将さんを立たせた。

 

「それにしても酷い。市民に手を上げるなんて。」

 

 コビーも一連の流れを見て、かなり怒っているようだった。

 

「なんで、旦那が磔にされてるんだ?」

 

「お店で話しましょう。こんなところで話してたら、あなたたちまで被害に遭うよ」

 

「わかった!」

 

 俺たちは三人で、さっきの店へ戻った。

 

「さっきは見苦しいところを見せたね。わたしはリリカっていうの。それで、何が聞きたいの?」

 

 どうやらおねえさんの名前はリリカというらしい。

 ……そういや原作で、砂糖入りのおにぎりをゾロに持っていった女の子、リカって名前じゃなかったか?その子の母親かな?

 

「俺はルフィだ!こっちはコビー!」

 

「コビーです。よろしくお願いします!」

 

「直球で聞くけど、なんでリリカさんの旦那さんが海軍基地の中で磔にされてるんだ?」

 

 本来あの場所にいるのはゾロのはずだった。

 でも実際にいたのは、リリカさんの旦那だった。

 

「モーガンの息子に、ヘルメッポっていうバカがいるんだけどね。さっきわたしをビンタした変な髪のやつ」

 

 リリカさんは忌々しそうに顔をしかめた。

 

「ヘルメッポはモーガンの権力を笠に着て、やりたい放題やってるの。三週間前も、オオカミを連れて町を歩いてたと思ったら、この店に入ってきて好き放題。客の料理は食べ散らかすわ、客に襲いかかろうとするわ、もうめちゃくちゃだったよ」

 

「本当にやりたい放題だな……」

 

「それで、怒った娘のリカがそのオオカミを止めようとして噛まれてね」

 

「な……娘さんは大丈夫なのか?」

 

「ええ。幸い傷は浅くて、怪我もすぐ治ったんだけど……あの日のことがよっぽど怖かったみたいで、今も部屋から出るのを怖がってるの」

 

 なるほど。

 ってことは、そもそもゾロはこの町に来てないのか。

 原作だと、そのオオカミをゾロが切って、磔にされてたな。

 

「それで、なんで旦那さんが?」

 

「リカを噛んだオオカミを旦那が蹴っ飛ばしたら、ヘルメッポがいろんな罪をでっち上げてきてね。あげく、わたしとリカを処刑するって言い出したの。けどその代わりに、旦那が一ヶ月、磔の刑に耐えたら許してやるって……」

 

「酷い話だな」

 

 後々改心するのかもしれないけど、今のヘルメッポはゴミクズ以下だな。

 

「ゆ、許せない!!」

 

 いきなりコビーが立ち上がった。

 怒りで顔が真っ赤になっている。

 

「海軍の人たちは何をやってるんですか!? 守るべき市民に怪我をさせて、罪をでっち上げるなんて!弱きを守る海軍の姿がこれですか!?」

 

 コビーがこの町の海軍に本気で怒っていた。

 

「コビーくんの言うことは正しいよ。でもね、この町の海兵たちに、弱きを守るなんて立派な志はないのさ。みんなモーガンのご機嫌取りばかりだよ。二人もこの町を見たでしょ?」

 

「ああ。あちこちにモーガンの肖像があったし、基地の屋上にはでかい銅像まであった。それに、海軍基地のお膝元の町なのに妙に廃れてる感じがする。独裁者の町って言われた方がしっくりくる」

 

「モーガンはまさに独裁者よ。“敬服金”とか言って、毎月町の人から金を巻き上げてるんだよ。それ以外にも銅像を建てるだの、骨董品を買うだの、いろんな理由をつけては金を取っていく。一年前にモーガンがこの基地に来てから、町はこの有様さ。」

 

 シェルズタウンの事情は想像以上にひどかった。

 海軍本部はなんでこんな奴を放ってるんだ。身内の恥にもほどがあるだろ。

 

「そ、そんな酷いことが……。誰も海軍本部とか、別の基地に連絡しなかったんですか?」

 

 コビーがたまらず尋ねた。

 

「したよ」

 

 リリカさんは静かに言った。

 

「電伝虫で他の基地に連絡した人がいた。でも、その会話は盗聴されてて、その日の夜にはその人はいなくなったよ。それ以来、誰も連絡しなくなった。おまけに、この島から出ることも簡単じゃないしね」

 

 リリカさんからモーガン親子の悪行をたっぷり聞かされていると、店の奥から女の子が顔を出した。

 

「ママ、その人たちは誰?」

 

「リカ!部屋から出て平気なの?」

 

「話し声が聞こえたから」

 

 やっぱり、この子が原作でゾロに砂糖入りおにぎりを食べさせようとした子だ!

 

「こんにちは、リカちゃんだよね?俺はルフィ、海賊だ!こっちは海兵志望のコビーだ」

 

「ど、どうも、よろしくね」

 

「リカです。お兄さん、海賊なの?」

 

「おう、海賊だよ!」

 

「それなら頼みたいこと――」

 

 リカちゃんが言い終わる前に、

 

 バァンッ!!

 店のドアが蹴破られた。

 ヘルメッポがずかずか入ってきて、そのまま椅子にどかっと座る。

 そしてテーブルを叩きながら怒鳴った。

 

「おい、ババア。腹減ってんだ!タダで飯食わせろ!モタモタすんなよ、酒も持ってこい!」

 

「ちょっとあんた!ドアが壊れたじゃない!修理代だって馬鹿にならないのよ!」

 

 リリカさんが怒って近づく。

 

「あー?知らねぇよそんなこと!今日、磔場にいたことを親父に言ってやろうか?俺が黙ってやってるから、ババアとガキの命が助かってんだぞ!感謝しろ!」

 

「パ、パパを返してよ!元はといえば、あんたが悪いんじゃない!」

 

 いつの間にかリカちゃんがヘルメッポの前に立ち、必死に言い返していた。

 

「このガキ!誰に向かって口きいてんだ!ガキのくせに舐めた口聞いてんじゃねぇよ!」

 

 パチンッ!!

 ヘルメッポがリカちゃんの頬を叩いた。

 

「うぅ……ママぁ……」

 

 リカちゃんが泣き出し、リリカさんが慌てて抱き寄せる。

 

「リカ!大丈夫!子どもを殴るなんて最低だよ!」

 

「あなたそれでも海兵ですか!」

 

 コビーがヘルメッポに食ってかかった。

 

「うるせぇ!部外者はすっこんでろ!もう決めたぜ。明日、お前の旦那を処刑してやる!楽しみに待ってるんだな!へへへへ」

 

 ……黙って聞いてたけど我慢の限界だ!!

 俺はヘルメッポに歩み寄り、その顔面をぶん殴った!

 ボコッ!!

 ドガーンッ!!

 

「ルフィさん!?何やってるんですか!」

 

「クズを殴っただけだ!」

 

 殴られたヘルメッポは店の壁を突き破り、そのまま道の真ん中まで吹っ飛んだ。

 顔を押さえながら、涙目でこっちを睨んでいる。

 

「いてぇよ痛い!、テ…テメェ!俺が誰だかわかって殴ったのか!?俺は海軍大佐モーガンの御曹司だぞ!」

 

「うるせぇ!お前が誰の息子だろうが知るか!」

 

「ルフィさん!こらえてください!相手は海軍ですよ!」

 

「放せコビー!あのクズ野郎、もっと殴らねぇと気が済まねぇ!」

 

「お前も、後ろのメガネも、お前ら親子まとめて親父に言いつけてやる!」

 

「それなら親父に伝えとけ!今からぶっ飛ばしにいくってな!」

 

「ルフィさん、ここは落ち着きましょう!」

 

「お前ら死刑だ! バーカ!」

 

 ヘルメッポは海兵に担がれて、捨て台詞を吐きながら去っていった。

 もうゾロとか一旦どうでもいい。

 モーガン親子をぶっ飛ばす方が先だ。

 

「リリカさん、ごめん。店の壁、壊しちまった」

 

「いいのよ!あのバカを殴ってくれてスカッとしたよ!」

 

「あの!海賊のお兄さん!」

 

 リカちゃんが俺に話しかけてきた。

 

「ん、どうしたのリカちゃん?」

 

 目線を合わせるため、しゃがみこむ。

 

「あの……これ!」

 

 リカちゃんが両手で何かを差し出してきた。

 

「これ、わたしの全財産です!これで、パパを助けてくれませんか?」

 

 金額にすればたかが数百ベリー!だけど金額じゃない!

 ……女の子に助けてと言われて、助けない男がいるかよ!

 俺はその小さな手から金を受け取った。

 

「俺に任せとけ!」

 

 にかっと笑って見せる。

 そして俺たちは、海軍基地にいるバカ親子をぶっ飛ばすため、もう一度店を飛び出した。

 

「ルフィさん、僕も行きます!」

 

 コビーもついてくるつもりらしい。

 

「お前、俺の仲間だと思われたら海軍に入隊できないぞ。ここで待ってろ」

 

「かまいません!僕も行きます!これが僕の正義ですから!」

 

「はぁー、わかったよ!なら、人質の解放を頼む!」

 

「わかりました!行きましょう!」

 

――♢――

 

 海軍基地の分厚い鋼鉄の正門前。

 俺とコビーがたどり着くと、ヘルメッポと一緒にいた二人の海兵が、見張りとして正門の前に立っていた。

 

「止まれ!ここは海軍の――」

 

 ボコッ!! ボコッ!!

 

 最後まで言わせる前に、二人まとめて腹を殴って気絶させる。

 海兵たちは白目を剥いて、その場に崩れ落ちた。

 俺はそのまま正門に手をかけ、力ずくで押し開ける。

 

 重たい鉄の門がギギギ……と鈍い音を立てて開いた。

 中へ足を踏み入れるが、警報も鳴らないし、周囲に他の海兵の姿も見えない。

 ――好都合だ。

 

「おい、コビー! 今のうちに縄を解け!」

 

「はい!」

 

 俺たちは磔にされているリカちゃんの父親のもとへ一気に駆け寄った。

 さっきは遠くからしか見えてなかったが、近くで見ると想像以上に酷い有様だった。

 顔は腫れ、唇は切れ、服の上からでも打撲の痕がはっきりわかる。

 長く縛られていたせいで腕や肘のあたりは紫色に変色し、皮膚の一部は壊死しかけていた。

 三週間よく持ちこたえた方だ。

 けど、このまま放っておけば、どのみち長くはもたなかっただろう。

 

「コビー、急げ!」

 

「もう少しです!」

 

 コビーが必死の形相で縄をほどいていると、基地の上から鋭い叫び声が飛んだ。

 

「侵入者だー!! 磔場で罪人を逃がそうとしてるぞ!!」

「親父ィィ!! あいつだー!! 俺を殴って、親父に啖呵を切りやがったのは!!」

 

 あ、バカメッポだ。

 俺に殴られた頬とは逆の頬まで腫れてる。多分モーガンにでも殴られたんだろう。

 

 やっぱりバレたか。

 やべーな。このままだと海兵がここに集まってくる。

 

「まだか、コビー!」

 

「解けました!」

 

「よし! 急いで担げ!そのまま医者に連れて行け!」

 

「わかりました!」

 

 コビーがリカちゃんの父親を支えた、その直後だった。

 基地の奥から銃を構えた海兵たちが次々に現れ、俺たちの進路を塞いだ。

 

「動くなぁ、貴様らぁ!!モーガン大佐への反逆罪で、三人とも今この場で処刑する!!」

 

 銃口が一斉にこちらへ向く。

 コビーが一歩前に出た。

 

「ちょっと待ってください!この人は今すぐ医者に見せないと死んでしまうんです!」

 

「関係ない!モーガン大佐の命令だ!」

 

 やっぱりこの基地じゃ、モーガンの命令が絶対らしい。

 けど、海兵たちの顔を見ると、心の底から納得してるわけじゃないのはすぐわかった。

 恐怖で縛られてるから従ってるだけだ。

 

「そんな……あなたたちが海兵になってやりたかったことは、こんなことなんですか!?市民に手をかけて、理不尽な命令に従うことが!!」

 

 コビーの叫びに、海兵たちの表情が揺れた。

 

「うぅ……そ、それは……」

「俺たちだって……こんな命令……」

「でも逆らったら、今度は俺たちが……!」

 

 たじろいでる。

 この反応を見る限り、芯まで腐ってるわけじゃない。海軍としての誇りは、まだ少し残ってるらしい。

 そして、その元凶が姿を現した。

 

「貴様ら、何をしている!!」

 

 重たい足音と共に現れたのは、海軍大佐――斧手のモーガン。

 すげぇ見た目だな。

 肘から斧の柄が生えてるって、どう考えても使い勝手悪そうなんだけどな。それに本人はめちゃくちゃ偉そうだ。

 

「た……大佐……」

 

 モーガンが現れた瞬間、海兵たちの空気が露骨に変わった。

 張り詰めるというより、凍りつくって感じだ。明らかに怯えてる。

 

「俺は、なんと命令した? 侵入者を即刻撃ち殺せと命じたはずだ。なぜまだ殺していない?」

 

「モーガン大佐……それは……できません!」

 

 一人の海兵が、震える声でそう言った。

 その瞬間、モーガンの目が見開かれる。

 

「できない、だと? なら貴様も反逆者だ!!」

 

 ザクッ!!

 斧が一閃した。

 “できません”と言った海兵が、あっさりと斬り伏せられる。

 血が飛び散り、その海兵はその場に崩れ落ちた。

 もう動かない。

 

「じ……自分の部下を殺すなんて!」

 

 コビーの顔が真っ青になる。

 俺もさすがに眉をひそめた。

 

「誰も、貴様らの意見など求めていない!」

 

 モーガンが怒鳴る。

 

「世の中は称号がすべてだ!この基地で最高位の大佐である俺は、最高に優れた人間であるということ!偉い人間がやることは、すべて正しい!違うか、貴様ら!!」

 

「その通りであります、大佐!」

 

「そうだ!俺は偉い!そして大佐命令だ!貴様ら、自分の頭を撃って自害しろ!!」

 

「た、大佐……それは……」

 

「俺の命令すら実行できない弱卒など、俺の部下には要らん!!」

 

 当然、すぐに従えるわけがない。

 だが――

 

「命令だぁぁぁっ!!」

 

 モーガンの怒号が響いた瞬間、海兵たちは怯えた顔のまま、自分の頭に銃口を向け始めた。

 

 馬鹿か。

 こんな奴のために死ぬ気かよ。

 

「なあ、海兵さんたちよ!」

 

 俺は一歩前に出て、大声で叫んだ。

 

「海賊の俺が言うのも変だけど、自分の命をこんなことで捨てる必要はねぇぞ!」

 

「貴様が、バカ息子が言っていた……この俺をぶっ飛ばすとかぬかした小僧か!」

 

「そうだ!今からお前をぶっ飛ばす!」

 

 俺はモーガンを指さした。

 

「だからこんな奴の命令なんか聞くな!命を無駄にするな!」

 

 海兵たちの目が大きく揺れる。

 

「え……」

「ど、どうしたら……」

「俺たちは……」

 

 そりゃそうだ。

 死にたいわけがない。こんな馬鹿みたいな命令で、自分から命を捨てたい奴なんかいるわけがない。

 

「海賊の言葉に耳を貸すな!俺に従え !!」

 

 モーガンがさらに怒鳴りつける。

 その恐怖に押され、海兵たちは再び銃を構え直した。

 だから――

 

「やめろって言ってんのが、聞こえねぇのかぁぁぁぁ!!」

 

 俺が本気で怒鳴りつけると、その気迫に呑まれたのか、海兵たちは一斉に尻もちをついたり、構えていた銃を取り落としたりした。

 もう限界なんだろう。心がついていってない。

 それを見たモーガンの顔に、ぶわっと青筋が浮かぶ。

 

「残念だったな、カス野郎!部下たちはお前の命令に従わねぇってよ」

 

 さらに追い打ちをかける。

 

「それとな、お前が捕まえたっていう百計のクロ……実は生きてるらしいぜ」

 

 モーガンの目が見開かれる。

 

「なにぃ!」

 

「さっきから自分のことを偉い偉いってうるせぇけど、お前の栄光、全部偽物なんだよ。ばーーーか!!」

 

 盛大に煽ってやると、モーガンの顔どころか首筋まで真っ赤になった。

 声には出してないが、あれはもう完全にブチ切れてる。

 

「があああぁぁぁ!!八つ裂きにしてくれるぅ!!」

 

 モーガンが斧を振りかざして突っ込んでくる。

 けど、その一撃を俺は左手を“鉄塊”で固め、真正面から受け止めた。

 

 ガギィンッ!!

 

 鉄と鉄がぶつかったような鈍い音が響く。

 モーガンの斧は、俺の手のひらの中でぴたりと止まっていた。

 

「なっ……!?」

 

 モーガンの目が見開かれる。

 そりゃそうだろうな。殺すつもりで振り下ろした斧を、俺が片手で止めたんだから。

 

「腕っぷしだけでのし上がった大佐の実力ってのは、その程度か?」

 

 さらに挑発すると、モーガンはみるみる顔を赤くした。

 

「なめるなぁぁぁ、小僧ぉぉぉ!!」

 

 モーガンが斧を引き抜こうと全力で力を込める。

 けど、残念ながらびくともしない。

 

「どこにこんな力が……! 放せぇぇ!!」

 

 さらに反対側へ体重をかけて引っ張るが、それでも俺の左腕は微動だにしなかった。

 

「今、放してやるよ!」

 

 俺は右手も“鉄塊”で固め、手刀の形を作る。

 

「ゴムゴムのナイフ!!」

 

 ズバァンッ!!

 

 手刀が一閃し、モーガンのトレードマークだった斧手を叩き斬った。

 切り口から鮮血が舞い、支えを失ったモーガンは悲鳴を上げながら後ろへ尻もちをつく。

 

「ぐああぁぁぁぁっ!!き、貴様ぁぁ……俺の自慢の斧を……!」

 

 モーガンは右腕の切断面を左手で押さえながら、よろめくように立ち上がった。

 

「この程度で大佐になれるとは、海軍はよっぽど人手不足なんだな」

 

「黙れぇぇ!!海賊風情がぁぁ!!」

 

 モーガンが左腕だけで殴りかかってくる。

 痛みより怒りが勝ってるんだろうが――もう終わりだ。

 

「ゴムゴムの――」

 

 俺は腕に力を込める。

 “マッスルコントロール”で筋肉を極限まで収縮させ、一気に解放した。

 

「JET銃《ピストル》!!」

 

 ドゴォォォォォンッ!!

 

 大気を爆ぜさせたような衝撃とともに、拳がモーガンの胸に深々とめり込む。

 モーガンの巨体は弾丸みたいに空へ吹き飛び、そのまま基地の屋上に建てられていたモーガン像へ激突した。

 

 ドカァァァンッ!!

 

 直撃の衝撃で、モーガンは完全に沈黙する。

 さらに像も、モーガンが叩き込まれた胸部から派手に砕け散り、そのまま轟音とともに崩れ落ちた。

 

「JET銃《ピストル》はやり過ぎだったかな?」

 

 本来ならギア2を発動して使える技だ。

けど俺は、マッスルコントロールにより筋肉の収縮と解放を自在に操ることで、通常状態のまま再現できるようにした。

 

「すごい……ルフィさんのパンチ、全然見えなかった……!」

 

 コビーが呆然と呟く。

 ようやく終わったか――そう思った、その時だった。

 

「動くなぁーっ!動いたら撃つぞ!」

 

 まだ一人、残ってやがった。

 見ると、ヘルメッポが震える手で銃を構え、俺たちに狙いをつけていた。

 

「はぁーバカなことやってねぇで、その銃を下ろせよ。バカメッポ」

 

「うるせーっ!どいつもこいつも俺をバカバカ言うんじゃねぇ!!」

 

 まったく、最後までウザいやつだ!

 俺は“剃”で一気に距離を詰めた。

 

「いい加減にしとけ!」

 

 ボコッ!!

 拳がヘルメッポの顔面にめり込み、そのまま吹っ飛ばす。

 ヘルメッポは地面を転がったあと、ぴくりとも動かなくなった。どうやら気絶したらしい。

 

「大佐も……ヘルメッポ様もやられたぞ……」

 

 海兵の誰かがぽつりと漏らす。

 一瞬だけ、場がしんと静まり返った。

 けど次の瞬間――

 

「うおおおおおおおおおおっ!!」

 

 歓声が爆発した。

 

「やったぁぁーーーっ!!」

「モーガン親子が倒されたぞ!」

「やっと支配が終わったんだ!」

「海軍万歳!!」

 

 海兵たちが、堰を切ったみたいに喜び始める。

 そりゃそうだ。長いこと恐怖で縛られてたんだ。ようやく解放されたんだから、嬉しくないわけがない。

 

 ……まあ、海賊に助けられて喜ぶ海軍ってどうなんだって気もするけど。

 でも今ここでそれに突っ込むのは、さすがに空気が読めなさすぎる。だから黙っとく。

 

「お……おい、こりゃどうなってるんだ?」

 

 別の方向から声がして、俺は正門の方を見た。

 どうやら騒ぎを聞きつけた町の人たちが、大勢集まってきたらしい。

 崩れた銅像も見えたんだろう。みんな不安そうな顔でこっちを見ている。

 

「銅像が崩れるのが見えたから来たが、何があったんだ?」

「モーガンが倒されたって海兵さんたちが言ってたけど、本当なのか?」

「ようやく……俺たちも自由になれるのか?」

 

 まだ状況が飲み込めてないんだろう。

 ざわめきが広がっていく。

 すると、人だかりをかき分けるようにして、小さな影がこっちへ走ってきた。

 

「海賊のお兄さん!パパは!?」

 

 リカちゃんだ。

 

「ここにいるよ!けど、急いで医者に見せないとまずい」

 

「パパ、死んじゃうの?」

 

 不安でいっぱいの顔を見上げてくる。

 俺とコビーは、ほとんど同時に答えた。

 

「大丈夫、死なないよ!」

「だ、大丈夫!きっと助かります!」

 

 リカちゃんは泣きそうな顔のまま、それでもこくりと頷いた。

 

「なあ、あんたら!この人を医者のところまで運んでくれ!」

 

 俺は正門のところに集まっている町の人たちに向かって叫んだ。

 

「リリカさんの旦那さんだ!」

「ひどい状態じゃねぇか!」

「俺が運ぶ!」

「いや、こっちも手伝う!」

 

 よし。

 どこに医者がいるのかは俺にはわからない。こういうのは町の人に任せた方が早い。

 

「リカちゃん、パパについててやれ! お前が近くにいた方が、きっと安心する!」

 

「うん! ありがとう、海賊のお兄さん! 海兵さん!」

 

 そう言って、リカちゃんは父親のもとへ駆けていった。

 

「あはは……僕、まだ海兵じゃないんですけどね」

 

 コビーが少し照れくさそうに笑う。

 

「リカちゃんには、この場の誰よりも海兵に見えたんじゃねぇか?」

 

 俺がそう言うと、コビーは一瞬きょとんとして、それから少しだけ嬉しそうな顔をした。

 

「なぁ、おい君たち!」

 

 その時、後ろから海兵たちに声をかけられた。

 俺は振り返り、ちょうどいいと思ってコビーの背中を押し出す。

 

「あ……ちょ、ちょっとルフィさん! その……ありがとうございました!」

 

「おう! しっかりやれよ!」

 

 俺は軽く手を上げ、それだけ言い残して海軍基地をあとにした。

 

――♢――

 

 海軍基地内――モーガン大佐執務室。

 

 カチャッ。

 静まり返った執務室に、小さく金庫の開く音が響いた。

 

「あったわ。偉大なる航路《グランドライン》の地図!」

 

 この騒ぎに乗じて、基地内に泥棒猫が忍び込んでいた。

 その狙いは金品ではなく、海図だった。

 

「さっ、急いでここを出なきゃ。海兵が戻ってくる前に」

 

 目当ての海図を手に入れ、泥棒はすぐにその場を離れようとする。

 

「それにしても……あの麦わら帽子の男、一体何者なの?」

 

 ふと、さっき見た光景が頭をよぎった。

 

「モーガンを一撃で倒すなんて……。パンチも速すぎて、全然見えなかった」

 

 あんな男、今まで見たことがない。

 もしかしたら――

 

「あいつなら、もしかしたらアーロンを……」

 

 そこまで考えたところで、泥棒ははっとしたように首を振った。

 

「……はぁ。いや、無理ね。何バカなこと考えてるんだろう、私」

 

 そんな都合のいい話、あるはずがない。

 希望なんて持ったって、ろくなことにはならない。

 

「あと1000万ベリー……それでようやく……」

 

 そう小さく呟くと、女は海図を抱えて、音もなく執務室をあとにした。

 

――♢――

 

 ルフィがモーガンを倒したあとの基地内は、しばらく大騒ぎだった。

 モーガン親子を拘束して牢に入れ、屋上の銅像を撤去し、モーガンの隠し資産を帳簿と照らし合わせながら町の人たちへ返金す準備を進める。

 ほかにも、無駄に集め込まれていた美術品の売却や、基地内の立て直しなど、やることは山ほどあった。

 

 そんな中、泥棒猫が去ったあとの執務室では、入隊希望者であるコビーが、リッパー中佐とロッカク中尉から事情を聞かれていた。

 

「まず確認したい」

 

 口を開いたのはリッパー中佐だった。

 厳しい顔つきのまま、まっすぐコビーを見据えている。

 

「この町や我々を救ってくれたルフィという男は、どう見ても海賊だ。君はなぜ、その海賊と共に行動していた?」

 

「は、はい! ルフィさんには助けてもらって……それで、この町まで送ってもらったというか、その……」

 

 うまく言葉が出てこない。だめだ。

 もし僕が二年間とはいえアルビダ海賊団にいたことが知られたら、海軍に入れないかもしれない。

 せっかくルフィさんに助けてもらって、ようやくここまで来たのに――。

 

「助けてもらった、か。なるほど」

 

 リッパー中佐は少しだけ目を細めた。

 

「では、もう少し踏み込んで聞こう。君は、どこかの海賊団に所属していたのではないか?」

 

「えっ……いや、それは……」

 

「嘘をついても無駄だ!」

 

 今度は語気が強くなる。

 

「海軍が本気で調べれば、すぐにわかることだ」

 

 どうしたらいいんだろう、僕は――ここまで来たのに。

 でも、ここで嘘をついたら終わりだ。

 前に進みたいなら、もう正直に言うしかない。

 

「……はい」

 

 コビーは拳を握りしめた。

 

「おっしゃる通りです。僕は、つい最近までアルビダ海賊団にいました」

 

「なんだと!?」

 

 ロッカク中尉が驚いて声を張り上げ、腰の銃に手をかけた。

 そのまま抜き放ち、コビーへ銃口を向ける。

 

「銃を下ろすんだ、ロッカク中尉」

 

「しかし、リッパー中佐!こいつは海賊ですよ!」

 

「落ち着きたまえ」

 

 リッパー中佐が静かに言う。

 ロッカク中尉はなおも険しい顔をしていたが、しぶしぶ銃を下ろした。

 そしてリッパー中佐は、あらためてコビーを見た。

 

「コビー。君はなぜ海軍に入りたい?」

 

 その問いに、コビーは迷わなかった。

 

「海軍に入って、困っている市民を助けて、悪い人を捕まえたいからです!」

 

 言い切ったあと、自分でも驚くくらい、声ははっきりしていた。

 リッパー中佐はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

 

「では仮に、君の入隊を認めたとして……我々は、元海賊である君をどう信じればいい?」

 

 厳しい問いだった。

 けど、ここで怯んじゃいけない。

 

「僕は海軍将校になる男です!」

 

 コビーはまっすぐ二人を見た。

 

「信じてください!」

 

「海賊にやられた同士は星の数ほどいる。海軍を甘く見るな!……では、入隊を許可する!」

 

 リッパー中佐が言った。

 しかしロッカク中尉が驚いたように振り返る。

 

「中佐!?お待ちを」

 

「最後まで聞け!ただし条件付きだ」

 

 リッパー中佐はコビーへ向き直った。

 

「試用期間を設ける。その間に、君が不穏な動きを見せたり、我々の信頼を損ねるような真似をした場合、即刻入隊は取り消しだ。いいな?」

 

「はいっ!!」

 

 コビーは勢いよく答えた。

 

「雑用でも何でも、精一杯やらせてもらいます!」

 

 リッパー中佐はしばらくコビーを見つめ、それから静かに言った。

 

「海軍将校になると言ったその言葉――失望させないでくれよ」

 

「はい!!」

 

 こうして、僕の夢はようやく動き出した!

 

――♢――

 

 コビーと別れて基地の外に出ると、ことの経緯を知った町の人たちが、あちこちで歓喜の声を上げていた。

 

 その中にリリカさんの姿を見つけたので、旦那さんは無事に医者のところへ運ばれたと伝える。

 すると、助けてくれたお礼をしたいと言われたので、俺はリリカさんの店で待つことにした。

 

 しばらくして、リリカさんがリカちゃんと一緒に医者のところから戻ってきた。

 

「ルフィ兄ちゃん!パパ、助かるって!」

 

 店に入るなり、リカちゃんが真っ先にそう教えてくれた。

 どうやら、旦那さんは無事に助かるらしい。

 ……それと、いつの間にか呼び方が“海賊のお兄さん”から“ルフィ兄ちゃん”に変わっていた。

 

「そっか。それはよかったな!リカちゃんの想いが、ちゃんとパパに届いたんだよ」

 

 そう言って、俺はリカちゃんの頭を軽く撫でた。

 

「えへへへ」

 

 リカちゃんが嬉しそうに笑う。

 

「本当にありがとう、ルフィさん」

 

 リリカさんも、ほっとしたような顔で頭を下げた。

 

「旦那さん、後遺症とかは大丈夫なのか?」

 

「ええ。栄養不足と脱水症状がひどいから、しばらくは入院生活になるみたいだけどね。でも、ルフィさんがモーガンを倒してくれたから、もう大丈夫よ」

 

 どうやら命に別状はないらしい。

 助けた甲斐があったな。

 

「こんなお礼しかできないけど……ご飯、食べていって!」

 

「腹減ってるから助かるよ!」

 

 リリカさんの料理が次々に運ばれてくる。

 俺がそれを夢中で食っていると、今度は町の人たちがぞろぞろと店にやってきた。

 

「モーガンを倒したのは、あんただろ? 兄ちゃん」

「俺たちにも何か礼をさせてくれ!」

「欲しいものとか、何かないのか!?」

 

 口々に礼を言われて、俺は思わずきょとんとした。

 なんか、英雄扱いされてるな。

 まあ、モーガンの圧政から解放されたんだから、そうなるのもわかるけど。

 

「いや、特にないぞ!」

 

 ほんとに思いつかない。

 別に今すぐ欲しいもんとかないしな。

 

「そんなこと言うなよ!」

「何かしなきゃ、こっちの気が済まねぇ!」

 

「うーん……」

 

 少し考えてから、ふと思い出した。

 

「あ、じゃあ、この店の壁壊しちまったから直しといてくれねぇか?」

 

 ヘルメッポをぶん殴った時に、派手に壁をぶち抜いたんだった。

 

「そんなことでいいなら、お安い御用だ!」

「任せとけ!」

「すぐ直してやる!」

 

 そこから先は、あっという間だった。

 

 店の壁を直したと思ったら、酒を持ち込む奴や、つまみを運ぶ奴がいた。

 いつの間にか店の中も外も人でいっぱいになって、気づけば大宴会みたいな騒ぎになっていた。

 

「くぅ〜っ!久しぶりだ、こんなに酒がうまいのは!」

「今日ほど生きててよかったと思えた日はねぇよ!」

「今まで耐えて良かったぜ!」

 

 たった一年で、よくここまで町を地獄みたいにできたもんだ。

 逆に言えば、それだけみんな苦しかったんだろう。

 でも今は違う。

 笑い声があって、酒があって、飯の匂いがして、みんな好き勝手に騒いでいる。

 ようやくこの町にも、まともな空気が戻ってきたって感じだった。

 

「おい、みんな!」

 

 その時、若い兄ちゃんがひときわ大きな声を張り上げた。

 店の中にいた連中が、いっせいにそっちを向く。

 

「キャプテン・ルフィに乾杯だーー!!」

 

「「「いぇぇぇぇーーーい!!」」」

 

 こうして、いつの間にか町は、笑い声の絶えない宴の場へと変わっていた。

 

 そして、一時間ほど経った頃だろうか。

 今度は海軍の連中が店にやってきた。

 

「ルフィさん!」

 

 先頭にいたのはコビーだった。

 

「おっ、コビー!その服……ちゃんと海軍に入隊できたんだな!」

 

 見ると、コビーはもう海軍の制服に袖を通していた。

 さっきまでの格好とは違って、まだぎこちないながらも少し凛々しく見えるな。

 

「はい!僕も夢のために頑張ります!」

 

 その顔には、前よりずっとはっきりした意志が浮かんでいた。

 

「さて、失礼」

 

 コビーの後ろから、一人の男が前に出てくる。

 いかにも真面目そうな、厳つい顔つきの海兵だ。

 

「私はリッパー中尉だ」

 

 リッパー中尉は俺をまっすぐ見たまま、はっきりと言った。

 

「まず、この町と基地を実質的に救ってくれたことに対し、我々海軍一同、感謝している」

 

 ……海軍が海賊に礼を言うってのも、なんか妙な感じだな。

 

「そりゃ…どういたしまして」

 

 俺がそう返すと、リッパー中尉は表情を崩さず、そのまま続けた。

 

「だが、君が海賊である以上、海軍の名において黙って見過ごすわけにはいかない。即刻、この町から立ち去ってもらう。せめてもの義理として、海軍本部への連絡は控える」

 

 きっぱりとした口調だった。

 甘さはないが、筋は通している。

 すると、その言葉に町の人たちがすぐに反応した。

 

「おい、海軍!なんだその言い草は!」

「お前たちだって、モーガンの顔色をうかがってただけじゃないか!」

「そうだ!キャプテン・ルフィは俺たちの恩人だぞ!」

 

 あちこちから非難の声が飛ぶ。

 けど――まあ、仕方ない。

 これが海軍の仕事だ。海軍という組織に所属している以上は仕方がないことだ。

 それに、ここで俺が海軍に突っかかったところで、コビーに迷惑がかかるだけだ。

 俺は立ち上がった。

 

「ああ、わかったよ。腹もいっぱいになったし、出発するよ。」

 

「感謝する」

 

 それから、リリカさんの方を向いた。

 

「ご馳走さま、リリカさん。うまかった!」

 

 リリカさんは少し寂しそうに、それでも笑ってくれた。

 

「こっちこそ……旦那ことは本当にありがとう、ルフィさん」

 

「ルフィ兄ちゃん、もう行くの?」

 

 リカちゃんが不安そうな顔で見上げてくる。

 

「もっと一緒にいたいよ……」

 

 ……せっかく仲良くなったのにな。

 でも、ここでお別れだ。

 俺は腰を落として、リカちゃんと目線を合わせた。

 

「ごめんな。でも、俺はもう行かないといけねぇんだ」

 

 そう言って、リカちゃんの頭を軽く撫でる。

 

「またいつか会えるさ」

 

「……ほんと?」

 

「おう、ほんとだ」

 

 にっと笑ってやると、リカちゃんは少しだけ安心したみたいに頷いた。

 

「……うん」

 

「じゃあな!」

 

 リカちゃんとも別れを済ませ、俺は店をあとにし、そのまま港へ向かって歩き出した。

 

 町の騒がしさも少しずつ遠ざかり、港まで戻ってくる。

 潮の匂いと波の音が、ようやく耳に馴染んできた。

 

 俺は小舟を確認し、出発の準備をしていた。

 すると、背後から慌ただしい足音が近づいてくる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ルフィさん!」

 

 振り向くと、そこには息を切らしたコビーがいた。

 

「どうしたんだ、コビー?そんなに慌てて」

 

「あの……!」

 

 コビーは肩で息をしながら、俺の前でぴたりと立ち止まる。

 

「本当に、本当にありがとうございました! この御恩は一生忘れません!」

 

 そう言って、びしっと敬礼した。

 ……いや、律儀すぎるだろ。

 

「いいってことよ!」

 

 俺が笑って答えると、コビーも少しだけ表情を緩めた。

 けど、まだ何か言いたそうにしている。

 

「それと、ルフィさん。最後に聞いておきたいことがあるんです」

 

「ん? なんだ?」

 

 コビーは少し首をかしげながら聞いてきた。

 

「基地の塀を登って中を覗いてた時、ルフィさん、途中で固まってましたよね?あれって、どうしてだったんですか?」

 

「あー……あれな」

 

 俺は頭をかいた。

 

「ゾロがいるかと思ったんだよ」

 

 この町に来た本来の目的は、コビーを海軍基地まで送り届けることと、もう一つ。ゾロを仲間にすることだった。

 残念ながらそれは果たせなかった。というか、そもそもゾロがこの町に来てなかった。

 あの方向音痴め。予定が狂ったじゃねぇか。

 

「ゾロ……?」

 

 コビーがきょとんとした顔になる。

 

「ゾロって、ロロノア・ゾロのことですか?」

 

「そうそう。賞金稼ぎの海賊狩りロロノア・ゾロ!」

 

 俺が当然のように言うと、コビーははっきりと首をひねった。

 

「賞金稼ぎ……?何言ってるんですか、ルフィさん」

 

 そして、少し不思議そうな顔のまま続ける。

 

「ロロノア・ゾロは、海兵ですよ」

 

「……え?」

 




モーガン親子のクズっぷりを増やしてみました。
ヘルメッポって海軍によく残れましたよね。

ゾロが海兵だって!?

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