鏡よ鏡
「理想の世界を映す鏡ね……」
私は新しく手に入れた呪霊を顕現させた。
なんの変哲もない鏡だ。
理想の世界。理想ってなんだろう。呪霊のいない世界? 呪術師が溢れている世界? 理子ちゃんが生きてる世界? はたまた、呪力に関わる一切がない世界?
何を私は望んでいるのだろうな。
千々に乱れる心のままに呪力を流すと、服装の違う私が、鏡を見つめているのが映る。私は悟そっくりの赤ちゃんを抱いて泣いていた。六眼……。鏡の中の私は涙を拭いた。
『「君が、理想の私かい?」』
言葉が重なる。
私は、聞いた。
「そちらに呪力はあるかい?」
『あるよ』
「呪霊はいるかい?」
『いるよ』
「その子は、悟の子供?」
『そうだよ。術式や個性まで使ってフルで使って作った私と悟の子供だ』
「個性?」
『呪力によらない異能力をそういうんだ』
「悟って、男だろ? なんで男同士で子供なんて」
『私の個性が継承でね。あと、私は両性だよ。どうしても六眼が次世代にも欲しいって……まあビジネスだよ。でも私、出来損ないでね。この子も失敗。もう失敗は2回目なんだ』
「六眼に見えるけど」
『五条家の血筋はね。美しい翼の個性を持っているんだよ。それを継承出来なかった。おかげで、悟が父親だとも信じてもらえなくて……』
「それだけそっくりなのに? 求められたのも、翼じゃなくて六眼だろ?」
私は指摘するが、それでも翼がないのは重要らしく、私が不甲斐ないから、出来損ないだからと涙を溢す鏡の中の私。
話を聞くに、異世界ではどうやら九割の人間が個性という超能力を所持しているようだ。個性は一般の目にも見えるし、異形系もかなり多い。
そんな中で、悟は人間に近い見た目じゃないと勃たないという厄介な性癖を持っていて、私は異形系じゃないだけでストライク。
その上、個性が個性だったので、個性を知るともう必死で懇願されたらしい。
私が好きとかじゃなくて、五条家の責務として。
状況は私の世界よりも逼迫していて、呪力のある跡取りを作るのは大事なお仕事らしい。高校入学の時には、一人息子がいたくらい、後継者づくりに必死だったようだ。それも相手は異形系で薬を駆使してやっとの思いで作って、次は遠慮したいとのこと。
しかし、他の婚約者候補も揃って異形系。もう、異形じゃなくて子供が産まれれば付いててもいいと、私が引くほど必死に懇願され、私も個性を使いたいという本能をコントロールできかねていたので、子供を作ったらしい。ビジネスライクの関係だ。
超能力というよりは、悪魔と融合してしまったというのが近いらしく、個性保持者は忌み名と呼ばれる真名を授かるとか。それを縛り名と呼ばれる通称で封じるらしい。私の忌み名は継。紛らわしいので継と呼ぼう。
既に2人産んでいるが、2人とも人間タイプで個性が何かもわからない。個性がないのかもしれない。なかったらかなりのマイナスだ。何せ、個性を持つものは強い。個性犯罪も多く、人心が乱れていて呪霊も年々強くなってくる。個性と呪術、両方で当たりを引かないとお話にならない。
悟は優しいのと人間フェチなので六眼の人間タイプの赤ちゃんの誕生に筆舌に尽くし難いほど喜んでくれたのだが、翼を求める五条家の若者たちのあたりがかなり強く、悩んでいたのだそうだ。長男の蒼月は五条家に連れて行かれ、明日には次男の赤月も連れて行かれてしまう。扱いだってどうなるかわからない。そして、悟がもうすぐ3人目を孕ませにくる。
とても怖い。個性なんてない世界があったらいいのに。そう継は怯えていた。
私は継を慰める。
一旦距離を置いた方がいいと助言したが、とんでもない事を言い出した。
『私と一緒に妊活してくれないか』
「は?」
『翼を生えた子供が生まれる可能性が単純に2倍になるし、無個性は相手の個性を継承する可能性がかなり高いんだ。双子って言えばいいし、君が困ったら力になる。約束する!』
「それは無理だ。まず私は男だ。落ち着いてくれ」
『それは個性でどうとでもなるから!』
宥めていると、上機嫌で翼の生えた悟が乱入。
まるで天使みたいな純白の羽で、私は思わず見惚れてしまった。
『傑の親戚? すげー傑にそっくりで綺麗な人だね。あ、でも傑が一番イケメンだから』
その天使は翼で継を包み込んで、セクハラしだした。
早くベッド行こ♡ とおねだりである。翼の下だから何やっても大丈夫だと思うな。私相手にマウントを取るな。心配せずとも自分に欲情はしない。しかし凄く浮かれてるな。分かりやすくメロメロじゃないか。色々あって追い詰められていた私は、すっかり毒気を抜かれてしまったのだった。
マシュマロ
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