※この作品はR-18です。

性年のしがらみ   作:村上しんご

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第十五話 支配されていく教室②

 あの後しばらく、僕は何も手につかなくなっていた。

 いくら勉強に集中しようとしても、あの時のことが記憶によみがえり、心をかき乱していく。

 

 正直、口に咥えられるのが、あれほど気持ちいいものだとは思っていなかった。

 

 ほんの僅かな時間で、絶頂を目前に迎えるほどの心地好さ──しかも、相手はあのヤスコ先生だ。

 

 それを考えただけで興奮が収まらない。

 自慰行為に耽り、気分をすっきりさせようとしても、欲望は増すばかり。

 

 それをどんなに繰り返そうと、あの時の感触が記憶に焼き付いて離れない。

 

 しかも──

 

 最後までして貰えずに、絶頂を迎える寸前でお預けを食らったのだ。

 

 それはまるで蛇の生殺しのように、僕の身体をいつまでも疼かせている。

 

 もし、あのまま発射していれば、どんな未来が待っていたのだろう。

 それを考えただけで、胸が熱くなり、夜も眠れなくなっていた。

 

 だが──

 

 だからといって、このまま何もせず、指をくわえて見ているわけにはいかない。

 

『続きをしてほしかったら、今度のテストで順位を上げなさい。……結果が良ければ、もっといいことをしてあげるかもね』

 

 あの言葉が、本当だとしたら──

 

 今こそが、チャンスだ。

 

 そういえば授業中にも、成績の良い生徒にはご褒美をあげると、さりげなく口にしていた。

 

 他の生徒たちは、その言葉の“本当の意味”には気づいていないだろう。

 

 だが──

 

 少なくとも、僕は違う。

 あの時の言葉が、頭からずっと離れない。

 

 だからこそ、僕は徹夜を繰り返し、必死になってテスト範囲の予習をした。

 

 そして本番を迎え──

 

 手応えはこれまでにないほど、確かなものだった。

 

 間違いなく、やり切った。

 そう思えるだけの自信に溢れていた。

 

 ──そして、数日後の結果発表の日。

 

 教室には、どこか落ち着かない空気が漂っていた。

 そんなざわめきの中、不意に扉が開く。

 

 いつもと変わらない足取りで、教室に入ってくるヤスコ先生。

 クラス全体を、冷たい視線でひと巡りすると──先生は、静かに口を開いた。

 

「安西と林。……そのパーテーションで、この辺りを囲いなさい」

 

 教室の片隅に置かれていた、布製のパーテーション。

 先生の指示に従い、二人がそれを引きずり出す。

 

 相変わらず何を考えているのかわからない、感情の読めないその顔。

 

 何をするつもりなのか。

 

 誰もがそう疑問に思ったはずなのに──

 

 声を上げる者は、誰一人としていない。

 

 そして教壇側の端の方、窓際の近くにパーテーションが置かれ、仕切られた小さな空間が出来上がる。

 まるで、教室の中を切り取った、別の場所のように。

 

 それが完成すると、ヤスコ先生は、何事もなかったかのように口を開いた。

 

 眼鏡の奥で、光が一瞬きらりと反射する。

 その佇まいには、一分の隙もない。

 

「今回のテストで──成績が一番よかった人を発表します」

 

 唐突なその一言に、教室の空気が、ぴたりと止まった。

 誰もが、息を呑む。

 

 だが──

 

 先生は、あの仕切られた空間について、一切触れようとはしなかった。

 何か意図があるのは明らかだった。

 

 それでも、それが何のために使われるのかは、誰一人として分からない。

 ざわめきが広がりかけては、すぐに消える。

 

 生徒たちは互いに顔を見合わせながら、戸惑いを隠しきれずにいた。

 

「宮田。……今回のテストで、あなたが学年一位です。……前に出てきなさい」

 

 静まり返った教室の中で、ヤスコ先生は淡々とそう告げた。

 その冷たい視線はまっすぐに、ただ一人──宮田だけに向けられていた。

 

 普段は目立たない彼に、教室中の視線が一斉に集まっていく。

 

 名を呼ばれた彼は、一瞬、何が起きたのか理解できないように固まっていた。

 

 しかし戸惑いながらも、ぎこちなく立ち上がる。

 そして彼は小さく息を呑みながら、一歩ずつ、教壇へと歩み出した。

 

「宮田は前回のテストでは五十位。──ですが、ずっと成績の振るわなかった彼が、今回、学年一位という結果を出しました……彼には約束通り、“ご褒美”を与えます」

 

 宮田が側に来ると、先生は開口一番そう言った。

 彼は状況を理解できていないのか、動揺し始め、視線が落ち着かずに泳いでいる。

 

 教室中にざわめきが走る中、先生は宮田の肩に軽く手を掛け、意味深に薄っすらと笑う。

 

「これから何があっても、声を出したり、覗いたりしないでください。……もし、それを守らない人がいたら、こんなチャンスは二度と訪れません」

 

 そう言って、クラス中の生徒たちを、鋭い視線で見回す先生。

 誰もが、その意図を飲み込めず、呆然と目を見開いていた。

 

 だが、僕はそのひと言で、咄嗟にあの時のことを思い出す。

 

(……口だ……口でして貰えるんだ……)

 

 この状況と、あの時の記憶が頭の中で結びつく。

 

 パーテーションで見えない空間を作ったのは、宮田をそこに連れ込んで、あの時僕にしたように口でするつもりなのだ。

 

 それをしてもらおうと、一生懸命勉強を頑張った。

 なのに、その相手が宮田だなんて──。

 

 僕は怒りを通り越し、彼に対して殺意すら抱き始めていた。

 そんな僕の感情など知る由もなく、二人は何事もなかったようにパーテーションの中に消えていった。

 

 そして──

 

 窓から差し込む光に照らされて、布越しに、二つの影がぼんやりと浮かび上がる。

 その瞬間、教室中の視線が、そこに吸い寄せられていた。

 

 ──見えている。

 

 だが、何をしているのかまでは、分からない。

 彼らは、自分たちの姿がこうして外から見えていることを、分かっているのだろうか。

 

 それを目の当たりにして、さらに静まり返った教室。

 誰一人として、声を上げようとしない。

 

 すらりと伸びた細い影と、それよりも低く、小さな影が見える。

 どちらが誰なのかなど、考えるまでもなかった。

 

 その中で──

 

 ヤスコ先生の声だけが、静かに響く。

 

「宮田。……そこの椅子に座りなさい」

 

 その言葉に応じるように、小柄な影が、ゆっくりと椅子へ腰を下ろした。

 ぎこちない動きが、布越しにもはっきりと伝わっている。

 

 だが──

 

 その表情も、どんな思いでそこに座っているのかも、外からでは、まるで分からない。

 

 ただ、二人が“これから何をしようとしているのか”だけは──嫌でも、理解できていた。

 僕の予想では、これからスラリと伸びた影が、椅子に座った影の前で跪き、その股間に顔を埋めるだろう。

 

 そうなれば、今まで沈黙を守ってきたクラスの連中も、さすがに黙ってはいられない。

 誰もが狂ったように声を上げ、我先にとパーテーションの中を覗き込もうとするはずだ。

 

『もし、それを守らない人がいたら、こんなチャンスは二度と訪れません』

 

 ──先生は確かにそう言った。

 だが、思春期の健全な男子たちに、そんな約束など守れるはずがない。

 

 僕だって、宮田がそんなことをされると思うだけで、悔しさが込み上げて自分自身を制御できなくなっている。

 それに股間のものは、すでにはち切れんばかりに膨らんで、痛みを感じるほどカチカチになっている。

 

 しかし、次こそは──と希望を捨てきれない僕たちには、それを見ていることしかできなかった。

 

 静まり返った教室は、生徒たちの熱気に包まれ、どこか異様な空気が漂っていた。

 

 そんな中、すらりと伸びた影が椅子に腰掛けた影に顔を近づけ、そっと何かを囁いた。

 何を言っているかは、まったくわからない。

 

 きっと、「声は出すな」とでも耳打ちでもしているのだろうか。

 

 そして──

 

 次の瞬間、僕たちは想像をはるかに超える光景を目にすることになる。

 

 すらりと伸びた影が、胸元のボタンをプチプチと外していく。

 

 目の前には宮田がいるというのに、先生は今まで隠し通してきた豊満な胸を、惜しげもなく露わにさせようとしているのだ。

 

 シルエットには胸元がはだけられ、ブラジャーを捲り上げる様子までもが、はっきりと浮かび上がっていた。

 

 そして、揺れる胸がぷるんと飛び出た瞬間、宮田の「わぁ~」という、心躍る声が微かに聞こえてくる。

 

 その途端、クラスの誰もが苦虫を噛みつぶしたような顔で、股間をぎゅっと握りしめた。

 前屈みになりながら、パーテーションをランランとした瞳で見つめる。

 

 その様子には、計り知れない悔しさに溢れている。

 

 男子ばかりのこの教室で、この状況は拷問とも思える行為──。

 

 どんなに羨ましがろうと、それを目にしているのは宮田だけなのだ。

 

 僕たちには、覗いてはいけないと念を押され、制約まで結ばされた。

 もしここで覗きに行ったら、先生はきっと、こんな施しはもう二度としてくれないだろう。

 

 興奮はピークに達している。なのに、誰も動くことはできない。

 

 僕たちは血走った目で、パーテーションに浮かび上る影を、ただ見つめることしかできなかった。

 

 しかし、これで終りではなかった──。

 

 先生の影が少し前屈みになり、宮田のベルトを外しているような仕草が浮かび上っていく。

 カチカチとベルトが擦れる音に混じって、宮田の荒い息遣いが「ハァハァ」と響き渡る。

 

 そして、ズボンを脱がされたのか、その股間から飛び出した棒のような長い影──。

 

「覚悟はいい?」

 

 穏やかな声と共に、先生の影がゆっくりと自分のスカートを捲り上げていった。

 そして、宮田の影に重なり合うかのように、すらっと伸びた影がその膝の上に跨っていく。

 

(……ま……まさか……!?)

 

 棒のように伸びたものを手にしながら、腰を落としていく先生の影。

 

 二つの影が重なり合うと、宮田の口から動揺の声が漏れた。

 

「あ……あわわわわ……」

 

 張り詰めた空気の中、ギシギシと軋む椅子の音が響いていく。

 

「ああ……うっ……うぅっ……」

 

 それと共に重なり合った影が上下に揺れ動き、宮田の口からすすり泣くような声が漏れ始める。

 すると、その影が目の前のふくよかな胸に、しがみ付くように顔を埋めていく。

 

 微かに聞こえてくるヌプヌプという卑猥な音──。

 それと共に、ほんのりと漂ってくる甘すっぱい匂い。

 

 それは、少し鼻をツンと刺激するものの、嫌な感じはまったくしない。

 普段は嗅ぎ慣れないその匂いは、むしろ男性の本能を掻き立てて、堪え切れないほどの衝動が込み上げてくる。

 

 それが、何をしてるのかは一目瞭然だった。

 

 重なり合った影が、次第に動きを速めている。

 

 先生の口からは悩ましい声は聞こえてこない。

 だが、その激しい息遣いと、切なげな宮田の声が淡々と響き渡っていた。

 

 僕たちは、もう居ても経ってもいられなかった。

 パーテーション一枚で隔てられたところで、宮田と先生が交尾をしているのだ。

 

 ここにいる殆どの者が童貞だろう。

 パーテーションに映しだされる影をガン見しながら、ひとり、また一人と立ち上がる生徒たち。

 

 その足は何かに憑りつかれたように、パーテーションに向かってゆっくりと歩み始めていた。

 

 だが──

 

 その時、断末魔のような叫びが高らかに響き渡る。

 

「うぎゅ──────────っ!」

 

 その瞬間、ピタリと止まる生徒たちの動き。

 

 パーテーションのシルエットには、プルプルと身を震わせる宮田──

 それを抱きしめ、胸に埋もれた頭を優しく撫でる先生の影が映しだされていた。

 

(……な、中出し……中出しさせて貰ったんだ……)

 

 それを見て、僕の目から知らぬ間に涙がこぼれ落ちていた。

 ──なぜ、あの場にいるのは僕じゃなかったのだろう。

 

 彼が憎い──。

 

 そんな憎悪が心の底から湧いてくる。

 

 そしていつの間にか、隔離されたパーテーションから出てくる二人。

 

 うっとりとした夢見心地の表情を浮かべた宮田──時折り何かを思い出しては、ニヤニヤとはにかんでいる。

 

 それとは対照的に、いつもの冷めた顔で生徒たちを一瞥するヤスコ先生。

 

「宮田に”ご褒美”は与えました。……あなたたちも頑張りなさい。そうすればこんな御褒美が貰えるかも知れません」

 

 彼女はそう告げると、まるで何事もなかったかのように教室を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

              ~to be continued~

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