※この作品はR-18です。

性年のしがらみ   作:村上しんご

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第七話 歪んだ心⑦

 恋をすると、女は美しくなる──。

 

 その言葉通り、ハジメと付き合い始めてから、ヤスコは目に見えて変わり始めていった。

 

 かつて“百貫デブ”と陰で嘲られ、忌み嫌われていた面影は、もはやどこにもない。

 

 トレードマークともいえる瓶底眼鏡を外し、あの隠されていた二重で切れ長の瞳に、すっと通った輪郭。

 整った顔立ちは、どこか凛とした気配すら漂わせている。

 

 かつて相撲取りのようだと揶揄されたその体躯も、今ではモデルのようにしなやかで、引き締まったものへと変わっていた。

 

 思わず振り返ってしまう──そんな美しさ。

 

 だが、それは“新しく手に入れたもの”ではない。

 

 もともと、ヤスコは醜くなどなかったのだ。

 

 むしろ──

 あまりにも目を引きすぎるほどに、整っていた。

 

 幼い頃から、大人の男たちの視線を引き寄せてしまうほどに。

 

 だからこそ、彼女は隠した。

 

 その視線から逃れるために。

 

 自分を守るために、あえてその身体を膨らませていったのだ。

 

 ──あれから、数年。

 

 今日は、人生で最も祝福されるべき日。

 結婚式。

 

 純白のウエディングドレスを纏ったその姿は、見目麗しく──まるで天から舞い降りた女神のような美しさ。

 思わず息を呑むほどに。

 

 それでもヤスコの胸の中にいるのは、ただ一人──ハジメだけだった。

 

 だが──

 

 そこに、ハジメの姿はない。

 

 一か月前。

 

 彼は、交通事故で亡くなっていた。

 

 それでも──

 この式が中止されることはなかった。

 

 ヤスコ自身の、強い意志によって。

 

 幼い日に交わしたあの約束を、ハジメは覚えているだろうか。

 

(大人になったら、結婚しようね……)

 

 あどけない笑顔で、そう言いながら差し出された彼の小さな手。

 もう、その温もりに触れることはできない。

 

 きっと彼は、とっくに忘れてしまっていたのかもしれない。

 同級生になって再び巡り合えたというのに、ずっと話し掛けられたことすらなかった。

 

 それでも──

 

 ヤスコは、一度たりともあの日のことを忘れたことはなかった。

 

 それは、ずっと願い続けてきた想いが、初めて形になった日。

 そして彼女は、あの日からずっと、この瞬間を夢見てきた。

 

 メグミやカズミが見守る中、ヤスコは静かに歩き出す。

 

 腕に抱えているのは、ハジメの遺影。

 

 誰もいないはずのその隣に、確かに彼がいるかのように。

 

 純白のドレスを揺らしながら、バージンロードを、一歩ずつ進んでいく。

 

 その姿は、凛としていて──悲しみも、悲壮も感じさせない。

 

 ただ。

 

 満ち足りたような、幸せな微笑みだけが、そこにあった。

 

 誰にもそれを否定することはできなかった。

 まるで、すべてが叶ってしまったかのように、ヤスコは一歩、一歩と歩み続けていった。

 

 

 

 

 

 

              ~”歪んだ心”finn~

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