恋をすると、女は美しくなる──。
その言葉通り、ハジメと付き合い始めてから、ヤスコは目に見えて変わり始めていった。
かつて“百貫デブ”と陰で嘲られ、忌み嫌われていた面影は、もはやどこにもない。
トレードマークともいえる瓶底眼鏡を外し、あの隠されていた二重で切れ長の瞳に、すっと通った輪郭。
整った顔立ちは、どこか凛とした気配すら漂わせている。
かつて相撲取りのようだと揶揄されたその体躯も、今ではモデルのようにしなやかで、引き締まったものへと変わっていた。
思わず振り返ってしまう──そんな美しさ。
だが、それは“新しく手に入れたもの”ではない。
もともと、ヤスコは醜くなどなかったのだ。
むしろ──
あまりにも目を引きすぎるほどに、整っていた。
幼い頃から、大人の男たちの視線を引き寄せてしまうほどに。
だからこそ、彼女は隠した。
その視線から逃れるために。
自分を守るために、あえてその身体を膨らませていったのだ。
──あれから、数年。
今日は、人生で最も祝福されるべき日。
結婚式。
純白のウエディングドレスを纏ったその姿は、見目麗しく──まるで天から舞い降りた女神のような美しさ。
思わず息を呑むほどに。
それでもヤスコの胸の中にいるのは、ただ一人──ハジメだけだった。
だが──
そこに、ハジメの姿はない。
一か月前。
彼は、交通事故で亡くなっていた。
それでも──
この式が中止されることはなかった。
ヤスコ自身の、強い意志によって。
幼い日に交わしたあの約束を、ハジメは覚えているだろうか。
(大人になったら、結婚しようね……)
あどけない笑顔で、そう言いながら差し出された彼の小さな手。
もう、その温もりに触れることはできない。
きっと彼は、とっくに忘れてしまっていたのかもしれない。
同級生になって再び巡り合えたというのに、ずっと話し掛けられたことすらなかった。
それでも──
ヤスコは、一度たりともあの日のことを忘れたことはなかった。
それは、ずっと願い続けてきた想いが、初めて形になった日。
そして彼女は、あの日からずっと、この瞬間を夢見てきた。
メグミやカズミが見守る中、ヤスコは静かに歩き出す。
腕に抱えているのは、ハジメの遺影。
誰もいないはずのその隣に、確かに彼がいるかのように。
純白のドレスを揺らしながら、バージンロードを、一歩ずつ進んでいく。
その姿は、凛としていて──悲しみも、悲壮も感じさせない。
ただ。
満ち足りたような、幸せな微笑みだけが、そこにあった。
誰にもそれを否定することはできなかった。
まるで、すべてが叶ってしまったかのように、ヤスコは一歩、一歩と歩み続けていった。
~”歪んだ心”finn~