ラスボス倒して世界を救った死を操る魔法少女の僕♂が終末思想教団の教祖にさせられた 作:ことばの目
真っ暗な部屋。カーテンもシャッターも閉め切られた、孤独な空間。
周りにはいわゆるオタクグッズと言われるような本、電子機器やタペストリー、アクスタなどなどが雑多に並べられている。
六畳間程の狭い空間にその主はいる。
スマホから昼を知らせるアラームが鳴り響く。
せんべい布団からもぞもぞと手を伸ばし音を止める。
ボーッとした頭で時間を確認する。12時。
まだ予定まで時間はあるし二度寝を決め込もうか……。
そう思ったが、空腹感を感じた。そういえば昨日の21時頃に夕食を済ませてから何も口にしていない。
仕方なく体を起こし、近くの机に置いておいた菓子パンを胃に詰め込んでおく。
これが僕の、
しかし今日は、もう一つの日常の為の準備をしなければならない。
「チェーンジオン!ワン!ツー!スリー!」
ジャキン!シャラララン!
テーレーレレレ〜!テーレーレレレー〜!
テケテンテレレン!テケテンテレレン!キュイーンキュインキュイン!
「魔法少女サナ!堂々参上!」
ピンクを基調としたまるでおとぎ話から飛び出してきたようなファンシーな広い邸宅にたった一つだけ存在する、狭い六畳間から飛び出す。
魔法少女の脚力なら数分で着くライブ会場に到着し、なるべく元気に挨拶する僕。
「おはようございまーす!」
「サナ様おはようございます!」
信者のみんなが口々に挨拶を返してくれる。
そして1番の信者であるあの魔法少女が、ピョーンと元気に飛び付いてくる。
「おはようサナ!今日のラスボス打倒1周年記念ライブ絶対成功させようね!」
「う、うん……苦しいから、そんなに抱きつかないで……。」
魔法少女ファメ。僕と一緒に世界を救ってくれた子。
最初は別々にラスボスと戦っていたけど、ある一件でものすごく懐かれてしまった。
僕1人ではラスボス倒すなんて無理だったから、彼女が居てくれて助かっている。
「今日もビジュ最強すぎ!やっぱサナはマジ最高。神。好き。」
……このノリとかも苦手だけどそんな事は言ってられない。
「ライブの準備は全部アタシに任せてね!この記念すべき日にガンガン信者増やしてくから!」
「あ……ありがと……?」
「フリとか歌詞だけに集中してね!でも失敗してもいいから!むしろしてくれた方が興奮するから!」
そう言い残してファメちゃんはライブの準備に戻っていく。
よく分からないけど、フリと歌詞はちゃんと間違えないように確認しようと心に誓う僕。
陽の気に当てられ、なんだか疲れた僕は1人、楽屋に行き椅子に座る。
用意されていたお弁当を開けながらしみじみ思う。
なんでアイドルやる事になってるんだろ……。
あっという間にライブ本番。
ステージから沢山のファンが見え、みんなペンライトを振ってくれている。
「教祖様ー!」「サナ様!!」「キェーッ!」「尊すぎて倒れた人が」「マジかわいいー!」「サギャーッ!!」
なんか負傷者出てるが僕にはどうしようもない……。
「えーっと……今日は私のライブに来てくれてありがと……。」
ワァァァァァァーッ!
「あっ、それじゃあ、一曲目行くね……。」
僕は歌いだす。ファメちゃんが決めてくれた曲とフリを必死に追うので精一杯だ。
そんな中でファンのみんなから合いの手……アイドルコールだっけ?が聞こえる。
『悪意!恐怖!憤怒ぉ〜!』
『破滅!絶滅!滅亡!』
『ほーろべっ!ハイハ〜イ!!』
……いつ聞いても最悪のコールだ……。
僕の【死】の力の事を知りつつも応援してくれるのはありがたいが……もう少しどうにかならないのか……。
というか誰が言い出したんだこれ……。
そんな事を頭の片隅に置きながら必死にパフォーマンスを続ける。
僕が何曲か歌い終わると、ファメちゃんがステージに上がった。
「サナの歌最高だったよねーっ!」
うぉおおお!!
ここからファメちゃんがMCを挟んで終わるとか何とか言ってたな。任せよう……。
「今日は記念すべきラスボス打倒1周年!それを記念して……」
ジャン!
「サナの闘いの記録をここで初公開しちゃうよーっ!!」
えっ。聞いてない。いつの間に撮ってたの!?
恥ずかしいからやめて!!
心の中で叫ぶが当然届かない。
こんな場で、せっかく用意されたものを妨害するのもどうかと思うので当然何も出来ない。
こうして僕の魔法少女としてのいつもより1日がまだ続くのであった……。