※この作品はR-18です。

ゴールデンマッドドッグ イン プリズン   作:神剣狩刃

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8-07 遅漏良う雲を恋う

 俺と全裸マンとドローンガールはアホほど仕事を押し付けられ、おかげで洗濯工場は作業が20分は早く終わるようになった。そうなれば必然的に休憩時間も増えて、2人と交流する時間も増える。綺麗になった洗濯物を保管する部屋で、裁縫道具なんかもあるのかと調べながら駄弁ることにした。

 

「ドローンガールって呼ばれ方から察するに、盗撮とか覗きとかで捕まったの?」

「逆に聞きますが、どうやればドローンで公然猥褻が出来るんですか?」

「ドローンで自身の体を釣ればできると思う」

「それやるのに何十機ものドローンで編隊飛行して変態非行をしなきゃいけないね」

「……」

「……」

「……今の発言なかったことに出来る?」

 

 全裸マンはともかくドローンガールは俺に対しての関心が薄く、何かと一人で済ませますと言いたげに避けられている。そんなすました顔はやはりソフィーヤ看守長と重なってしまう。思わず言葉が漏れてしまうほどだ。

 

「やっぱ似てるよなあ……」

「何がです?」

「ドローンちゃんとソフィーヤ看守長ってなんか似てる気がするんだよ。全裸マンはどう思う?」

「……瞳の色が同じだとは思うけど、それしか共通点がない」

 

 普通に考えたらそうだろう。自分でも考え過ぎだと思っているが、勘に引っかかったということは何かあるはずだ。今この状況で手に入れられる情報はないだろうか。

 

「そうだドローンちゃん、匂い嗅がせてくれない?」

「いきなり何言いだすんですか」

「匂いで人が判別できるからさ、万が一失明しても誰が誰か分かるようにしたいんだ」

「……貸しや恩を作っておくのは悪くないでしょう、どうぞ」

 

 監視カメラや看守の見回りが届かない場所に移動してうなじを差し出される。クリーニング工場は大型乾燥機があってサウナみたいに暑い。そのせいで俺でも結構な汗をかくのだが、彼女はそこまで汗をかいていなかった。最近の若者は汗腺が衰えているというがそういう奴だろうか。スンスンと鼻を鳴らして匂いを確かめる。

 

「臭いとか言ったら看守に言いつけますよ」

「そういう匂いはしないけど……純粋な日本人の匂いがしないな?」

「変態発言よりもひどい国粋主義者発言ですか」

「否定しないってことはハーフとかクォーターなんだね。匂いから寒冷地、もっと言えばロシアかな?」

 

 彼女はロシアという単語にピクリと反応した。

 

「あ、ソビエト連邦時代の誇りを持っていたなら誠にEntschuldigung(インシューディゴン)*1

「私が生まれた頃にはとっくにロシアになっていましたよ。なぜロシアと判断したんですか?」

「肌の白さと汗腺があまり活発じゃない所かな。あと……なんとなくそうだったらいいなーって」

 

 何ですかソレと腕を組んで眉をひそめられこの話は終わりとなった。

 

 

 楽しく駄弁っていたら待望の夕食の時間になった。看守の交代のタイミングがあって、少しだけ囚人だけになる時間がある。

 

「はぁああああい皆さん! ちょっとご注目くださぁあああい!」

「こいつを見てくれよォ! この洗ったばかりなのに、汚物まみれになった俺たちの服を、さァ!」

 

 クズと三下がキャスター付きの籠を蹴り飛ばす。中から茶色や黄色に汚れた囚人服が、その塗れた汚物が便器に出されるようにぶちまけられた。言うまでもないが俺達はしっかりと洗って所定の場所に置いた。つまり、あの2人が何かしらやってこうなったに違いない。

 

「この洗濯物を運んでいたのは、この3人なんですよぉ!」

 

 話が見えた。これで俺達を完全に囚人の敵にするつもりだ。だったらその汚れ役は俺が買うとしよう。俺はすっと立ち上がって叫んだ。

 

「まったく、クズ共が狼狽える様は最高だぜ!」

 

 唐突な俺の下衆な発言に畜生と三下は当然、両隣の全裸マンとドローンガールも驚いていた。掴みはばっちりなのでこのまま色々と言ってやろう。

 

「自分が何されるかも知らないで散々俺をコケにしちゃってくれてさあ! まさか腹ペコくんだから何もしないと思っていた!? ンな訳ねーだろ! これでお前らも俺と同じく裸で暮らして看守に罰を受けることになるなあ! 想像するだけでよだれが出るぜ! 今だったらガラス片が入っててもおいしく食べれるね!」

「凛さん……なんか違くないっすか……?」

「アイツ……! 自分に手を出したらどうなるかの見せしめにする気か……!」

 

 ここのいる奴なら俺が看守としてやったことを知っているはずだ。大男を天井まで蹴り上げられるような男がこういう精神的にクることもやる、そうなったら俺と関わるのを止めたくなるはずだ。だからといってそこで止めたら今度は意気地なしと自分が標的になりかね無くなる。これで奴らは俺からの報復を恐れながら関わらざるを得なくなる。あの2人は嫌がらせでやったはずだろうが、俺への恐怖を募らせるだけの結果になった。

 

「な、何言ってんだテメェ! それで言い逃れするつもりか!?」

「そ、そうですよ! 大体自分がやったって認めてるようなものじゃないですか!」

 

 2人が何とか流れを取り戻そうとしている。その食ってる泡で洗濯してほしいものだが、そこを突かれると開き直るしかできない。

 

「それに止めなかったそこの2人も同罪だろォ!? 何ちゃっかり他人事にしようとしてンだよ!?」

「そうですよ! もしかして2人が脅して汚れ役になれって言ったんじゃないんですかぁ!?」

 

 確かにその線もあり得ない話ではない。俺がこの場を掴みかけたように言ったもの勝ちの状況だ、優等収容者の2人がそう言ったらそれがこの場での真実になる。

 

「この2人は関係な────」

「今はそこの2人に話してるんですよ! 早く立ってください!」

 

 全裸マンとドローンガールが立ち上がってしまった。こうなるとこの2人に矛先が向くのは火を見るよりも明らかだ。

 

「どう落とし前付けてくれんだよクソダサチンポ丸出し男が、あぁ!!??」

「シモヘイ、ヘ~~~~~~~~イ!!!」

 

 ファーストペンギンが飛び込むや否や非難轟々の嵐になっていく。

 

「お前らいつまでしました顔してんだよ! イチモツ見せびらかすのと盗撮が趣味のくせに開き直ってんじゃねーぞ!」

「脱ぐのは好きなのにアソコはタートルネック着込んでるんじゃねーのかぁ!?」

「みんなの服が汚れてるのに、自分だけ綺麗な服を着てるってどういう事なんですかねぇー!?」

「そうだァー! 3人で全裸で全員に謝罪するのがすじなんじゃねぇのかよォー!」

「ぬーげ!! ぬーげ!!」

 

 こうなっては俺一人で変えようにも大事にしなければならなず、そうなったら俺は懲罰房行きになる。それはいいが、行っている間に2人が何されるか分からない。下手すれば命にかかわる何かをされてもおかしくない。とりあえず屑畜生女のポニーテールを掴んでジャイアントスイングするかと思っていたその時だ。

 

「────……服を脱ぐという行為は、自己満足的なHENTAI行為とは違う」

 

 なんと全裸マンが服を脱いだ。まさかの出来事に俺を含めたこの場の全員が動けなくなっていた。

 

「なんですって……?」

「露出は、ただ下半身を見せつければいいというものじゃない。見せる体を作り上げ、どのシチュエーションで、どのタイミングで服を脱ぎ捨てるか────すべてを整え、初めて表現される。ならこれは、露出という名の総合芸術だ。だから他者をどれだけ傷つけたかを誇るような、ごっこ遊びをしている人間とは……根本から違う。俺は服を脱ぐという行為に誇りを持っている」

 

 何だコイツは。何でこの場で露出について語れるんだ。何でそんなに堂々と発言できるんだ。

 

「……一度は救ってくれた人だ、耐えればいいのであれば耐えようとも思った。それで済むなら、サンドバッグになってやろうと思った」

 

 彼は屑畜生女を視界に捉えた。逆鱗に触れた不俱戴天の仇を見るかのような殺意が籠った、見ただけで人を殺せるような視線だった。

 

「しかし貴様は、今────……露出そのものを愚弄した。どんな人間であっても、全裸を軽んじたのであれば容赦しない。たかがだついと蔑み、露出を軽んじているというのなら────────貴様を殺す」

 

 傍から聞けば露出狂の意味不明な言い分でしかない。そんなの知るかよと一蹴されたらそこまでの暴論だ。なのに俺は────目から温かな何かが流れていた。

 

「0720番、なぜこんな場所で全裸になっている! 特別警備隊、その男を拘束しろ!」

 

 いつの間にかやってきていたソフィーヤ看守長の命令で彼は連れていかれた。俺達から姿が見えなくなるまでずっと圧殺できるような雰囲気を放ったままだった。そんな彼を見て俺は思わず言葉を溢した。

 

「……アレだよ。俺がココで求めていたのは」

 

 

 夕食後の自由時間、俺はグラウンドで筋トレしながら色々と考えた。あの感じだと全ドロコンビは近い内にかなり追い込まれるだろう。その際に2人が頼れるのはお互い同士だが、問題児2人だけで優等生2人に勝つにはどうすればいいだろうか。一番簡単なのは優等生1人の本性を目の前で見せる事だが、アイツはここの看守の前では猫のコートを着込んでいる。そうそう簡単にぼろを出すとは思えない。

 

「……俺の前では出していたな」

 

 俺と全裸マンが初めて会ったあの時、奴は彼に本名で呼ぶなと教えてたはずなのに俺を九十九さんと呼んだ。土口さんと呼ばなかった辺り、ある程度は頭が回るが肝心な所でトチるのは相変わらずのようだ。

 

「……俺が看守補佐として奴の本性を暴いて、それを看守の誰かに見せればいいな」

 

 そうと決まったら話は早い。ソフィーヤ看守長を見つけて願いを申し出る。

 

「明日から看守補佐に戻りたいです」

 

 彼女は死んだような目を瞑り、一つ小さな息を吐いた。

 

「……先の騒動に巻き込まれてやっと弁えたのか、それとも解決の兆しが見えたのか。どちらかは分からないがそうしてもらえるとこちらも楽でいい。今日の23:00に迎えに行く。それまでは囚人として大人しくしていろ」

 

 ということで23:00になりソフィーヤ看守長に連れられて看守寮の俺の部屋前に連れていかれる。それじゃあまた明日と別れようとしたが、一つの質問を投げかけられた。

 

「なぜあの2人を庇った?」

「いや、俺がやったのを優等生2人がそう言っただけで────」

「とぼけるな。あんな馬鹿な真似をお前がするわけないだろう」

「トラブルエンカウンターズなので加担したらいい問題に遭遇するだろうと思いました」

 

 だと思ったよと言わんばかりに嫌な顔をされて別れた。部屋に入って浴室で謀略を巡らせる。俺が看守補佐に戻った途端に屑畜生女は動き出すはずだ。全ドロコンビに手を出し、今まで以上に苛烈な仕打ちをするだろう。しかし、身内(おれ)によって本性を暴かれるのを防ぐために俺の前では最大限に警戒し、何だったら周りの囚人達には俺に近づくなとさえ言うだろう。

 

「とすると、俺が俺だと思われないようにする何かが必要か……」

 

 風呂から上がって何か良い物はないかと部屋を漁る。持ち込んだ私物と看守服しかないから数分で終わってしまった。ドライヤーで髪を乾かしながら考えアクメる。

 

「金髪高身長なんて遠目でも目立つってのに、それを欺くなんて────」

 

 温風によって落ちた数本の髪を見て何かが繋がっていく。金髪、高身長、わいせつ房、坊主頭、クリーニング工場の裁縫セット。これならいけるかもしれない。

 

「……こりゃ明日からが楽しみだ」

*1
ごめんなさいを意味するドイツ語

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