クズ三コンビ及び取り巻きを懲罰房にブチ込む楽しみが終わって、報告書を書くために事務室でソフィーヤ看守長と2人になる。治安管理委員会委員長として数多の書類を捌いてきた経験と、会長から文字通り直に接しながら教えてもらった技術があれば本の数分で終わる。
「よしっと……ソフィーヤ看守長、チェックお願いします」
何か言いたげな顔で見られたがとりあえず見てもらう。
「多少字が雑な所はあるが要点を抑えていて簡潔に纏まっている。あの速度でよく作れたものだ。その才能だけは羨ましいよ」
どうやら合格のようで彼女が報告書を返してくれた。その時、黒い手袋をしているのが目に留まった。普段の俺だったら刑務官だしなあぐらいで済むが、彼女と紅林ちゃんとの関係が気になっている今の俺にはある予想がチラついた。
「……もしかして肌が弱かったりします?」
「ん? ああ
紅林ちゃんも肌が弱かった。同じ瞳で同じく肌が弱い、かなり真実に近づいているはずだ。しかし、急いては事を我慢汁のでそれっぽくはぐらかす。
「……いや、俺だったら金色の手袋にするなあって思いまして」
「お前のセンスはどうなっているんだ? まさか金色なら何でもいいのか?」
金色だったら何でもカッコよくなると思うと頷いたら、何所か不機嫌そうに彼女は部屋を出ていった。同じ金髪だが解釈違いがあったのだろうか。まずはこの報告書を所長に提出するとしよう、なんてこともあってこのプリズンに来ての初めての休日がやってきた。俺の休日はココアから始まるのだが、あろうことに持ってくるのを忘れてしまった。ということで今日は本島に行って買い物をするとしよう。オキニの金色ジャージを着込み、金色のチャックを一番上まで上げ意気込み、これまた金色のキャリーケースを引いて船に乗る。甲板で本日の予定を考えていると、後ろから聞き覚えのある優し気な女性の声が聞こえてきた。
「おや、もしかして九十九さんではありませんか?」
「その声は我が友樋口絵里子ではないか」
「友だなんてわやなこと言うじゃないかこのこの」
脇腹を肘でちょんちょんされる。挨拶も程々にお互いの近況の話が弾む。
「聞いたぞ九十九くん? 何でも柊一郎さんと協力して問題を解決したんだって?」
「相手方が油断していたってのもありますけどね。看守と囚人が協力して囚人を陥れた、なんて言われてなくてよかったです」
「看守の人で君を悪く言っている人はほとんどいないぞ? ソーニャさんもいつもああだったら良いのにって言うぐらいだし」
ソーニャさん? と思ったが恐らくソフィーヤ看守長の愛称だろう。あの知的で冷酷な人間を想像させるのが不可能な愛称だ。
「悪く言う奴は今の所一人しか思いつきませんね。陰口は聞こえない所でって言ったのにあの売れ残り干瓢死ねばいいのに……まあ壁に耳あり障子に目あり床に穴ありだから陰口なんか叩かない方が良いってことですね」
「私は何も聞いて無いぞーっと」
樋口さんがわざとらしく両耳を塞ぐ。カウンセラーなだけあって心を開いてしまうような愛嬌がある人だ。
「樋口さんがいたら卵も少しは救われたのかな」
うっかり叶わぬ願望が漏れてしまった。それを聞き逃す様な人間がカウンセラーを続けられるわけがない。
「おや、悩みがあるなら聞こうじゃありませんか。本島までまだまだ時間はありますから」
「……休暇中ならば聞かないほうがよろしいかと」
「困っている人がいるのに見て見ぬ振りはできないんですよ。それに……九十九さんのことを知りたいですから」
湊君が屑畜生女に騙された理由が分かった。人間はよく知らない相手でも、優しくされて関心を持たれたら簡単に信じてしまう。どうせいつか話す話だ、今話してしまってもいいだろう。
「……俺には妹がいたんです」
俺は死んだ妹の卵の話を樋口さんにした。かつて青藍島は同性愛に対して否定的だった。その中で同性愛者であった卵はとても苦しんでいた。そんな卵に俺は"卵が気持ちよくドスケベセックスできる青藍島に変える"という約束をした。しかし、その約束を果たす前に卵は両親と共に事故で亡くなってしまった。燃える車の中で必死に泣き叫んで助けを求める卵は今でも夢に見る。
「……俺にとって卵は全てでした。今では奥さんや子供たちや同僚や友人が出来ましたが、昔の俺には卵しかなかったんです」
手摺に寄りかかって青藍島がある方角を見る。見えなくとも、いや見えないからこそ今なお心に強く残っている。
「……九十九さんは私と違って頑張り屋さんなんだね」
そんな俺をみてか樋口さんも俺の隣に立ち、手摺に両腕を乗せて呟いた。
「折角だし私の昔話もしていいかな?」
「もちろんですよ。俺も樋口さんの事を知りたいですし」
彼女は優しく、でもそれ以上に悲しく微笑んで口を開いた。
「私ね……逃げてきちゃったんだ」
彼女は奨学金を借りながら医学に努め、大学付属病院で血液・腫瘍内科の医者として働いていた。その中で小さな女の子の患者と出会いその闘病生活を見たが、新薬を使ってもなお苦しんだ挙句亡くなってしまった。そこから心身ともに背負っていた疲労が襲い掛かり、パニックを起こして鬱状態になってしまった。母からの"自分をちゃんと守るために逃げなさい"という助言を聞いて────
「患者さんも、恩がある病院も、ぜーんぶ捨てて逃げちゃった……本当に、ぜーんぶ」
そしてこのプリズンの矯正医官兼カウンセラーとして働いている今に至った。
彼女の過去を聞いて一番最初に思った言葉を口にした。
「……人間一人の力ってたかが知れてますよね」
「ほんとにそうだよねぇ……一人で滅茶苦茶頑張ったらからってどうにかなる訳じゃないからねぇ……」
お互い助けたい人間を助けることが出来なかった。その過去はどうやっても拭い去れない。ならばその過去を糧にして進むしかない。だからこそ樋口さんは逃げたことが心の負い目になっているのだろう。ならばここは『金色の狂犬』の過去を使って励ますとしよう。
「でも、樋口さんは逃げるのが下手ですね」
「えっ?」
「本当に全部を捨てて逃げるなら手っ取り早い方法があります────死ねばいいんですよ」
俺のとんでもない発言に彼女は呆れたように笑った。
「……自分の身を守るために自分の身を亡ぼしたら本末転倒じゃないかな」
「俺はそんな方法で逃げようとしました」
卵という全てを失った俺は死を選ぼうとした。そこで偶然礼と出会って引き留めてもらったから生きている。だからこそ俺は彼女に言えることがある。
「どんなに辛い状況でも生きることを捨てなかった樋口さんは強い人ですよ」
「……それをする勇気がなかっただけでも?」
「それを勇気と言ったら死ねという奴が人に勇気を与える英雄になっちゃいます。生憎、俺は英雄じゃないので」
卑下混じりの俺の言葉に彼女が笑いながら泣いた。
「……そうだよ。九十九くんは私の友達だもん」
「ですから────泣いている友達がいたらこうするんです」
俺は両腕を広げて彼女に優しく微笑んだ。
「俺が救われたみたいに、その涙が止まるまで俺の胸で泣かせます」
彼女がコツコツと歩いて俺の胸に顔を埋めた。揺れる船上だろうと俺はしっかりと受け止めて抱きしめる。
「九十九くん……! 私……! 間違ってないよね……!」
「ええ。樋口さんは間違っていませんよ。生きるためにやったことが間違っているわけないでしょう。例えそれが殺人であっても、俺は間違っていないと言います」
世界を照らす太陽も時に雨雲に隠れるが、時が経てば再び世界を照らす。俺の胸にいる太陽も同じだろう。今はその雨が止んで、また誰かの心を照らせるようになるのを待つだけだ。そろそろ本島に着こうかという時になって、彼女がようやく顔を上げた。泣いていましたと言わんばかりに真っ赤だが、どこか誇らしげでもあった。
「いやー……年甲斐もなく大泣きしちゃった。服汚しちゃってごめんね九十九くん」
「そろそろ買い替えようかなと思っていたから大丈夫です。それよりもこの後どうします? よろしければ一緒に買い物しませんか?」
「それじゃ、お言葉に甘えてご一緒しようかな。九十九くんがどんなもの買うのか気になるし」
それではご覧頂こうと近場のドラッグストアに入り、お目当てのピュアココアを数袋カゴに入れる。
「へー、意外な物を買うなあ……もしかして一から練って作るの?」
「その通りです。俺の休日は一杯のココアとジョップリンの『The Entertainer』から始まります」
「優雅な朝でいいなぁ……九十九くんのココアを飲んでみたいなー?」
「故郷では俺監修のココアを出しているカフェもあるぐらいですから。せっかくですし今夜、本家のココアを振舞いますよ」
嬉しそうにしている彼女を尻目にもう一つのお目当てである避妊具を一箱カゴに入れる。それを見た彼女が俺の顔を見て顔を赤くしている。
「えーっと……そ、そういうこと、だよね……?」
「プリズンでやってバレたら大問題ですからね。この後適当なラブホテル行きましょう」
「わ、私の意見は聞かないのかなー……?」
「……一応聞いておきますけど、したいですか?」
「……したいです」
先日以上の快楽を期待している自分を悟り、彼女は恥ずかしそうに俺のジャージの裾を引っ張った。ネットで調べれば近場の施設などすぐに分かるので、良い感じに調べタクシーで直行した。
スムーズを手続きを済ませムーディーな部屋のベッドの上に一組の裸の男女がいる状況が出来た。こうなったらすることは青藍島でなくても一つしかない。
「お好みの体位は?」
「は、初めてだからよく分からないです……」
「それじゃあ正常位にしましょう。失礼しますよ」
目の前にいる生娘を優しくベッドに押し倒す。覆いかぶさる形になり、流石に威圧感が凄かったのか目をそらされる。
「年取って怖くなりすぎちゃいましたかね?」
「い、いや……その……九十九くんってギャップすごいなーって……」
「分かってますよ。雌としてときめいちゃったんですよね」
「だ、だって、あんな金ぴかジャージ着てたのに、すっごく優しくて、なのにこうやってみるとカッコよくて……全員同じ人とは思えないよ……」
彼女の秘部に手を当てるとすでに準備は出来てるようだった。
「好きにならないように今の内にとんでもない事を言っておきましょうか?」
「……それは後がいいな。今の九十九くんとセックスしたいって思っているから」
初体験はいい気持ちで行いたいはずだ。ならばそれを尊重して余計なことを言わないようにしよう。慣れた手つきで避妊具を勃起した陰茎に纏わせ、それを受け入れるべく愛液を湧き出している割れ目にあてがう。ジュンと内に秘めていた熱が溢れているようだった。
「……その、九十九くんのは大きいから……ゆっくり優しくしてほしいな」
青藍島でもプリズンでも常識を超えた大きさなのは自覚している。だから俺はやや意地悪く微笑んで答えることにした。
「抑えられる内は、と言っておきましょうか」
「……ほんとにズルいなあ君は……いいよ」
言葉に従い彼女の入り口に先端を沈める。自慰で多少使われているのか最初は入りやすかったが、すぐにきつくなり侵入が止まる。それと同時に彼女の顔が痛みに歪む。
「んんっ……! ちょ、ちょっと待って……!」
ここで急くようでは男として失格だ。優しい微笑みを作りながらで彼女の頭を撫でる。
「大丈夫ですよ。しっかり待ちますし、無理だったら止めますから」
「……ありがとう。ちょっとずつ慣らしてかないと全部入らないかも……」
「無理に全てを受け入れる必要はありません。望んだ分、あるいは可能な限りでいいんですから」
「紳士的だね……奥さんがいるのにこんなことしちゃうのに目を瞑れば」
「それはお互い様でしょう?」
会話していく内に彼女の顔に笑みが戻る。それに合わせて少しずつ挿入を進めていく。7割方入った所で彼女の器を満たした。
「や、やっぱり全部入らないかぁ……ちょっと悔しいなぁ」
「樋口さんはちょっと小柄ですからね。でも、悪くはないでしょう?」
「……そうだね。私の知らなかった九十九くんを見れた気がするよ」
「ならもっと知ってもらいましょう」
ゆっくりと腰を引く。
「おおっ♡待って♡それヤバい♡」
あまりの快感に何も取り繕うことができず、あまりにも彼女らしくない声が上がった。彼女の顔がみるみる熱を帯びながら赤くなっていく。
「……今のは聞かれたくなかったなー……」
「また枕使います? 嬌声を作ることは出来ても抑えるのは難しいですから」
「……そうさせてもらおうかな。でも、不安だから片手は繋いでいてほしいな」
左手で枕を顔に押し当てた彼女が右手を伸ばしてきた。その手を左手で絡め合うように、いわゆる恋人繋ぎで握る。
「止めてほしかったら遠慮なく手を開いてください。言い方を変えるとそれ以外では止めないので」
枕越しに肯定を確認しピストンを再開する。突く度締まり引く度震える、心の底から快感に身を委ねている反応をしてくれた。
「気持ちいいですか樋口さん……いや、絵里子」
下の名前で呼ばれたのが琴線に触れたのか愛液がドッと溢れてきた。締まりも震えも先程より大きく激しくなっている。絶頂を迎えるのも時間の問題だろう。正直、俺は射精できるほどの快感は得てないが初めてぐらい夢を見せるとしよう。
「絵里子……俺もイキそうだ……!」
俺の言葉に彼女がピクリと反応する。初体験で同時に達することができたらいい思い出になるだろう。彼女が大きく仰け反ると同時に下腹部に力を入れて無理矢理射精する。SSの男なら行為中であればいつでも射精できるように訓練されている。『金色の狂犬』だった俺がそれをできない訳がない。射精を終わらせ彼女の中から陰茎を引き抜く。いつもの射精の三分の一にも満たない量だが、快楽を味わえたと言うには十分な証拠になるだろう。枕で隠しきれない程肩で息をしている彼女に向けて優しく声をかける。
「…………気持ちよかったですよ、絵里子」
彼女が枕から顔を覗かせる。気持ちよさそうな笑顔ではあるが、なぜかその目には涙が浮かんでいた。
「…………分かってはいたけど悔しいなぁ……」
「最初から全部受け入れるのは難し────」
「九十九くんに気を遣わせちゃったね」
彼女はなんとなく分かっているようだった。だから俺は素直に白状することにした。
「……樋口さんが気持ちよかったなら俺のことは気にしないでください」
「そうですかとは引き下がれないなぁ……私も女としての意地があるんだぞ?」
「……回数を重ねれば見込みはありますよ」
「奥さんに勝てる?」
「……それは無理ですね」
「……だよね。でも、いい初体験になったよ。ありがとう九十九くん」
最高にはならなかったが、お互いにとって悪くない体験になったようだ。