※この作品はR-18です。

ゴールデンマッドドッグ イン プリズン   作:神剣狩刃

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8-15 名器よき島にイキ寄る

 炭鉱囚人は作業後に必ず入浴できる。休日のナイトルーティーンで30分以上の入浴をする俺にとって、作業日は楽しみが1つ増えるようなものだった。今日も炭鉱夫メンバーで入浴を楽しみ房へ戻る道中、セックスがどうこうという話になった。看守もいないことだし青藍島民として語らざるを得ない。

 

「別にセックスをしなくても人間死にはしないし……」

「ばっかテメェ、あんな最高なもんしねェで死ぬ方がおろかってモンよ?」

「お互いの愛の下するセックスは最高だからなあ……俺も愛のあるセックスの気持ちよさに目覚めちまった人間でよ」

「そういやお前もカミさんいるって言ってたなぁ……分かるぜェ、その気持ち」

 

 この言い分だと小沢にもいるのだろう。そうなると小言の一つぐらい言いたくなる。

 

「妻子持ちなのによく悪時に手を染めたな?」

「そりゃあ……魔が差しちまったっつーか……」

「まあ、ここから出たら上の口と下の口で誠心精子謝るんだな」

「……そう考えるとなんか俺、お前の下位互換みてェだな」

「ペットボトルの蓋がコルク代わりになるわけねえだろどっちの口でもぐうの音を出せ無くするぞコラ」

 

 こんなくだらない談笑も自由にできない分、監視の目を盗んでこっそりとやる楽しさがある。やはり俺には囚人が向いていると心の底から思った。

 

 

 優等収容者として更生プログラムに出席しろとソフィーヤ看守長に言われたので参加してみることにした。相変わらず青藍島民みたいな語彙力をしている山岸刑務官が、リビドーマネジメントがどうので性格診断テストを行うと宣言した。50以上の質問に答えていくと人間性が分かるという、それはとてもとても胡散臭いテストだった。

 

「紙一枚で人間が測れるかっつーの……まあ、優等生らしく正直にやりますかね」

 

 3分程で書き上げ自己採点をする。

 

 コミュニケーション性:6.9点

 共感性:8.5点

 サービス志向性:7.2点

 環境適応性:9.6点

 計画・機密性:8.1点

 芸術性:1.9点

 あなたに向いている職業:警備員

 

 俺の芸術性が1.9点? やはり既定の質問で人間を測ることなど不可能な様だ。

 

「九十九さんはどうでした? 俺のはこんな感じです」

 

 近くに居た湊君が俺に紙を見せてくれたので交換して彼の結果を見る。芸術性が7.4点で他は0点という人外の点数を叩き出していた。『自分で起業する社長タイプ』とは書かれているが、分隊長の適性ありと同じ意味だろう。しかし、彼にはこの程度の質問では計り知れない魅力がある。

 

「……俺と九十九さんが組めば結構いいことができそうです」

「……奇遇だね、俺もそう思っていた」

「"狂人"と適性無しが何をするのかは見ものですね」

 

 こんなことを言う紅林ちゃんのお眼鏡に適う何かをやってみたいものだと思っていたら翌日、湊君が班長になって物づくりをすることになった。

 

「オレにはできません」

「まあまあ、俺が仲間になってやるからやってみなさいな」

「そうだぞ0720番。やってもいないのにできないと決めつけるな」

 

 俺とソフィーヤ看守長に押し切られる形で19班の長になった彼はかなり悩んでいた。

 

「何も思いつかない」

「とりあえず頭数は揃えようぜ。2人だけじゃシナリオライターも出来やしねえ」

 

 とりあえず屑畜生女の件で知り合った紅林ちゃんも参加してもらい、ここから何と作るかの会議をする。

 

「私は簡単なプログラムなら組むことができます。ハードも、得意ではないですが知識はある程度。お前達は?」

「俺は結構なんでも出来ちゃうけど……同人作家の名義があるからあんまりデザインには関われないなあ……"こんじきわんこ"って作家知ってる?」

「……九十九さんが"こんじきわんこ"先生……?」

 

 湊君が前のめりになって俺に迫る。坊主だから分かりにくいが、彼は結構美形の顔をしているのでちょっとドキッとした。

 

「もしかしてファン?」

「一露出狂として『番の月下美人』は読みましたけど……女性の膣に刃渡り19億センチの刀が入るとは思えないです」

「アレは実体験を基にしたフィクションだよ。実際はもっと短い奴が入っていたから。新作は看守×囚人モノにしようと思ってるんだ。タイトルはシンプルに『ドスケベ・プリズン』にしようかと────」

「ファンミーティングはそのぐらいにして本気で考えてください」

 

 とりあえず本気で考えた所、まだまだ人が足りないという結論に至ったので人材を探す。掲示板の保安週間ポスターに興味を持った湊君がこのポスターの作者を誘いたいと言い出したので夕食時に聞き込みをする。小沢に聞いてみたが波多江組にはいないと言われた。

 

「組長さんなら絵を描くのが上手いと思ったんだがな……」

「そういう言い方があるだけでマジで描けるかとは関係ねェだろ? でも、テメェらに興味あるっつう懲役がいたぜ?」

 

 折角の免業日だから会おうということになり、体育館でそのタレ目で風変わりな懲役と会う。

 

「オタクが班長? ふぅん、ずいぶん小さな班長がきたもんだね」

「0720番、『全裸マン』。よろしく」

 

 湊君が挨拶のために手を伸ばしたが奴はその手を取らなかった。俺のファーストインプレッションはかなり悪いが、大体の懲役はそんな物だろうと俺も挨拶をする。

 

「9924番『狂人』────」

「君があの! いやぁ、噂は聞いてるよ! よろしくね!」

 

 求めてもいないのに握手をしてきた。コイツからクソ森や屑畜生女に似た雰囲気を感じたので、俺はその手を振り払って早い所能力を定めようとした。

 

「お世辞は良いから何ができるか言え」

「ああ。僕は外の世界で、音楽プロデューサーをしていて────」

「お前人の話聞いてるのか?」

 

 俺はあからさまに苛立ちの圧を放ちながら言い放った。

 

「外で何をしてきたかなんて証明できねえからどうでもいいんだよ。今、このプリズンで何ができるのか聞いてるんだよ。口は達者だが頭が悪いのはよく分かった。他にあるか?」

 

 奴はしどろもどろになりながらアピールポイントを言ってきた。

 

「せ、制作物のプロデュースさ。スケジュール管理をし、適切なアドバイスを────」

「それなら俺が出来る。グラフィックや音楽、シナリオは作れるか?」

「い、いや、僕はプロデュース専門で……」

 

 話にならないなとあからさまな溜息をついて湊君の顔を見る。彼は右手を首に当てて軽く微笑んで口を開いた。

 

「……一体何をやらかしてこのプリズンに来たんだ?」

「枕営業を嫌がるアイドルがいてねぇ。優しいの句は薬で緊張を和らげて体を重ねてあげたってのに────」

「もういい、話すな」

 

 そろそろ手が出そうになったので殺気を全開にして発言を遮る。

 

「……班長、判断は?」

「決まっている……"物故ろされる前に失せな、ベイビー"、だ」

 

 俺と同じことを考えていたようで安心した。リーダーがこういったのだから俺も何か言っておこう。

 

「これ以上俺達に関わったら……"やりたいようにやらせてもらう"。ご安全に」

 

 

 ポスターの人物ぐらいなら釘谷さんが知ってるかもしれないと思いあの場所に向かう途中、小沢がなぜ断ったのかと聞いてきたので答えてやることにした。

 

「まず湊君に挨拶をしなかった。本当はこの段階で落としたかったが、一応呼び出した側だから我慢した。次に質問に答えなかった。これで落とすと決めたが、湊君がどう思っているかを確認したかったから質問させた。最後に……性交を嫌がる人間に薬を持ち出すようなクズだからだ」

 

 奴は俺の逆鱗を掠めた。場が場だったから手を出さなかったが、もしも俺一人だったら半殺し以上にしていただろう。

 

「俺もあいつからよくない臭いを感じました」

「それで正解だ。ああいう人間は組織をダメにする典型的な無能だ。だったら小沢を雇った方がよっぽどマシだ」

「そこで俺を持ち出すのかよ……まァ、お前から認めてもらえるのは悪くねェか」

 

 そうこう話して小沢と別れ、釘谷さんの所に辿り着いた。相変わらず美味しそうに煙草を吸っている。用件を伝えると故郷の面白話を聞かせて欲しいと言われたので、淳之介君がオナホールを使ったら平行世界に移動した話をした。あまりの発言に2人が固まり、特に釘谷さんが煙草を落とす程だからかなりの衝撃なのだろう。作り話だったとしても面白かったから、と教えてもらった電話センターの影に隠れた人目のつかない場所に行く。そこには真剣な面持ちでキャンバスに向かっている、組長こと波多江妙花がいた。金色至上主義の俺でも唸るような色遣いと重ね方だ。思わずほおと簡単が出てしまう。

 

「いい絵です……しかし、俺からしたら地味ですね。もっと金色を散りばめます」

「そいつも……ん? 坊も一緒か。ならあの呼び方はしない方が良いな、九十九さん?」

「組長がさん付けで呼んでいる……もしかして九十九さんはすごい極道なのか?」

 

 前から思っていたのだが湊君はそこまで頭が良くないのかもしれない。何所か淳之介君味を感じるアホっぽさがある。

 

「反交尾勢力に加担したことはあっても、反社会組織に加担したことはないな。故郷じゃ治安管理委員会委員長やってるんで、治安を乱す様な輩はむしろぶちのめしてきたな」

「それじゃアタシもいつかぶちのめされちまうな?」

「まっさかあ。それよりも湊君が組長に話があるみたいです」

 

 湊君の『手打ちの条件としてオレの願いをひとつ聞く』という約束があって、組長もそれなりに乗り気だったので班に参加してくれることになった。これでリーダー、プログラマー、イラストレーター、オールラウンダーが揃った。こうなったらシナリオライターがいればそれなりのものが作れるんじゃないかとなった。

 

「……ちょっと安直すぎるが、思い当たる人物がいるんだよね」

 

 ただ、あの子と囚人として会うと印象が違って怖がってしまうかもしれないし、先の件で少し懸念があったので看守補佐に戻ることにした。

 

 

「待て待て待て0720番んんん!!!」

 

 看守補佐になって早々、エレベーターを使わずに自由落下で炭鉱に行こうとした湊君の手首を掴んでいる。

 

「岩を食うな0720番! 解毒作用があるのは木炭の方だ! せめて鍋で火を通せ!」

「火を通したからって食えるわけじゃないだろ!」

 

 今度は岩を食べてる彼をソフィーヤ看守長と一緒に止める。

 

「風呂場で溺れんな! 育児経験者は一番気を使ってるんだよ!!」

「赤ちゃんは3㎝の水嵩で溺れる可能性があるからな!」

 

 最後に風呂場でぶくぶく溺れかかっている彼を彼女と一緒に引き上げる。看守補佐として彼を見ると問題児でしかなかった。

 

「最高じゃねえかよ……!」

「お前も十分な問題児だぞ? しかも囚人としては当然、看守でもだ」

「何でですか?」

「お前の故郷からレポートの提出の催促がきているんだが、囚人になってばかりで書類が溜まっているんだよ」

 

 翌日は書類に向き合うことが確定した。その現実から逃げるべくあの子に会うべく図書棟に向かう道中、壁にぶつかりながら歩く湊君と出会った。

 

「おい0720番、何をしている? 隠し通路でも探しているのか?」

「九十九さん……俺の心はどうかしているんです……」

「冒険家や傭兵でもないのに壁にぶつかってたらそうだろうよ」

「新聞のポエムを読んだんです……」

 

 何でもそのポエムは獄中詩人が書いた物らしく、彼の琴線をジャンジャカかき乱したらしい。図書棟にいる彼女ならそれが可能かもしれない。彼が前後不覚のままだとソフィーヤ看守長の胃を掘り進めてしまいかねないので、俺は一か九かに賭けて彼女を紹介してみることに決めた。

 

「……0720番。お前に合わせたい奴がいる」

 

 いつもの死角に彼を連れていき千咲都ちゃんに挨拶を────

 

「────オレと一緒に、物語を作ってくれないか」

 

 最早交通事故レベルの出会いを果たし、19班の物作りメンバーが揃った。彼らが何を作っていくのか楽しみだが、俺が関わることは出来るのだろうか。とりあえず、明日で全ての書類を提出してから考えるとしよう。

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