※この作品はR-18です。

ゴールデンマッドドッグ イン プリズン   作:神剣狩刃

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8-17 姫始めが姦心

 ここ数週間の俺の仕事はウィッグ作りの指導だった。専用のネットに針を使って髪や繊維を縫い付け、ヘアアイロンでカールやハネをつける。この仕事は力よりも器用さが求められるので、やってくる囚人の大半が女囚だった。とはいえ、針を使うということもあり厳重に見張り続けなければならず、クリーニング工場の近くでの小学校の教室ほどの広さの一室を、延々と見回り続けなければならない。

 

「良いか? お前らは優等収容者だから選ばれたのではない。使えないクズ共を落としていった消去法で残っただけだ。俺が使えないと判断したら……クリーニング工場でも炭鉱でもどこにでも飛ばしてやるからな」

 

 初日に色仕掛けを仕掛けてきた阿婆擦れがいたので、相姦係数を+0.1して(相姦係数加算の手続きをしていないので、実際に増えたかは知らない)クリーニング工場に飛ばした所、この場での俺の恐怖はとんでもないものになっていた。30分ごとの針の本数確認と同時に先の言葉を飛ばし、その中で残った選りすぐりの3人の囚人達を紹介しよう。

 

 

「あのぉ……9101番……よ、用便願います……」

 

 まずは(うぐいす)色のおかっぱでいつも顔の上半分が隠れている9101番、二つ名は"ジョッキー"だ。顔面騎乗からの放尿で彼氏を窒息死させてこのプリズンにやってきたらしい。意外と知らない奴もいるが女だって排泄はするし、女の排泄事情は男の数倍複雑なもので意外と時間がかかる。だからといってその間に監視の目を外す訳にはいかない。その隙に針の代わりに魚の骨を紛れ込ませたバカがいるほどだ。ソイツは懲罰房にぶち込んでやったが、繰り返す奴がいないとは限らない。なので俺はその対策を用意している。願い出た女囚の身体検査を済ませて、部屋の片隅の足場が置いてあるカーテン付きの手洗い場を指差す。

 

「うう……漏れちゃう漏れちゃう……」

 

 シャーっとカーテンが閉められ、蛇口を捻る音と勢いよく水が流れる音が聞こえる。スンスンと鼻を鳴らし報告に虚偽がないかを確かめる。その内、蛇口からの流水では隠し切れない水っぽい空気音が部屋に響き、次第に腐った卵のようなが漂い始める。

 

「うっわ本気かよ……今日は大便もするのか……」

「ふわぁ……腸内環境が不安になるます……」

 

 一応消臭剤とアロマを置いてはいるが、ごまかしようがないものはある。なのでここで普通の用便を願うと他の囚人からすごい顰蹙を買うのだが、なぜか彼女は毎回ここで用便を済ませる。

 

「よ、用便……終わりました……」

「……なら早く作業に戻るように」

「……3507番、特別に用便願います」

 

 次は金糸雀(カナリア)色の坊主といつもかっぴらいている髪と同じ色の瞳、何より(本人曰く股間以外には施しているという)波飛沫の刺青が特徴の3507番、二つ名は"海神(わだつみ)"だ。今までに寝た女のラブドールを作りまくって捕まったという。再びカーテンが閉められ流水の音が響き────その中にぐちゅぐちゅと粘液の音が混じる。次第にあからさまな愛液の匂いが漂い始める。しかし、俺は見回りを続けた。他の女囚もマン黙の了解を貫いている。致し終えた3507番が戻って来て報告にやってくる。

 

「……最近色欲制作最高責任者(エロデューサー)がやけに動いてやがる。何か企んでるかもな」

「……今夜は水分補給を怠らないように」

 

 暗にチャプター19があることを伝え作業に戻させる。ここに集まった囚人は優等収容者であり、二等者および一等者でもある。その辺りの高等な囚人達の情報を手早く集めるには、看守補佐としての特権を利用してしまえばいい。理不尽に罰を科すことができるなら、理不尽に罪を見逃すこともできる。そうすれば普通にやっていては手に入らない情報もこの通りだ。このシステムを思いつけた切っ掛けとなった彼女には少し感謝している。

 

「ふわぁ……3838番、特別に用便願うます……」

 

 最後は濡羽色のお団子といつも眠たそうな糸目が特徴の男の娘囚人3838番、二つ名は"ニュプノクス"だ。睡姦の常習犯で通算19回やっていきたが、最後の一回で自分の飲み物にも睡眠薬を入れてしまい捕まったという。彼女の特別用便は少々特殊で、穴に蛇口を突っ込んでフルスロットルにするというものだ。おかげでジョッキーを上回るすさまじい音が響く。彼女のせいでこの作業場では水分補給ができない。ちなみに一番汚すのでここの清掃当番は彼女で固定されている。

 

「陰部摩擦じゃないからセーフなのでしょうか……」

「馬鹿言ってんじゃねえ。"狂人先生"じゃなかったら一発摘発だろ」

 

 "狂人"が看守補佐をやっているから狂人先生とのことだ。悪くない呼ばれ方だと噛みしめている内に、あれだけのことをしておいてなお眠そうな彼女が出てくる。

 

「ふわぁ……ソフりん看守長が19班と何かしているます……」

「……今夜は上の口から水分補給をするように」

 

 以上がこのウィッグ作り場のイカれた女囚達だ。しかしよぉと海神が出来上がった赤いツインテールのウィッグを被りながら聞いてきた。

 

「何で狂人先生はあたしらを選んだんだ?」

「そ、そうです。2人はともかく、私はごく一般の優等収容者です」

「ふわぁ……偶々だと思うます……」

 

 実はニュプノクスの言う通りだ。最初は8人の女囚がいたのだが、俺の厳しさとコイツ等の異質さに怯え今や半分以下になった。それでも彼女達は耐えた。ならばそこから幾らでも耐えられるはずだ。故郷の部隊で経験した根性論だ。

 

「ふわぁ……でも、仕事は楽で半分寝ながらでもできるます……」

「ええ……もう少し意欲的になりましょうよ」

「ジョッキーの言う通りだ。俺の前ではそれで構わないが、他の看守の前でそれやったら相姦係数の保証は出来ない。振りでいいから真面目に働け」

「愚生が言うのもなんだが、狂人先生ももうちっと真面目に指導したらどうだ? それこそ他の看守共に見られたら良くて謹慎処分だろ?」

 

 海神の言うことは最もなのだが、そうもいっていられない事情がある。

 

「個人的に引っかかることがある、とだけ言っておこう」

 

 先日の湊君の『プリズンを大きく変える何かを企んでいるって本当ですか?』という質問だ。俺はこのプリズンにやってきた本当の理由を会長以外の誰にも話していないし、その会長もそれをわざわざプリズンに言うとは思えない。つまりこのプリズンの誰かが気付いて湊君にそれとなく伝えたということになる。俺はその誰かを判明させるより、目的を果たすための情報収集を進めた方が良いと判断しこの作業場のシステムを作り上げた。

 

「それと、明日はここの作業場の監視を別の看守に任せる。俺の不真面目さを露呈するためにお前達が不真面目にやってもいいが、俺とお前達のどちらがプリズンに信用されているかをよく考えるんだな」

 

 俺の警告に対し三者三様に意気込みを見せる。

 

「わ、私はいつも通りに頑張ります!」

「この収容所で唯一の自慰が許される場所なんだ、死ぬ気になって守ってやるよ」

「ふわぁ……今日はしっかり寝るます……」

 

 誠に頼もしい三人組である。

 

 

 19班に動きがあったというので更生センターの受付の看守に聞いてみる。

 

「19班の活動日誌を見たいんですけど」

「それは許可できません」

 

 形式上は部外者だから見せられないということだろう。でもルール上では看守補佐は9924番としても扱うから問題ないはずだ。

 

「9924番として活動していたから大丈夫ですよ」

「9924番は19班のメンバーから除名されていますので」

 

 それはおかしな話だ。ここ最近は看守補佐として活動しているとはいえ、19班から抜けるという話を湊君にした覚えはない。あの作業場が安定したら囚人に戻って、敏腕プロデューサーとして舞い戻るつもりだからだ。

 

「……海神曰く、エロデューサーがなんかしてるだったな」

 

 彼は19班の正式なチーム名を決めていなかったはずだ。ならば奴が新たなチーム名を考えて何かしている可能性がある。確信とまではいかないが思い当たる節があるので、ここはひとつカマをかけるとしよう。

 

「……新たな『物故ろされる前に失せな、ベイビー』チームにも関わっていないと?」

「ええ。ですから貴方に見せることは出来ません」

 

 奴は湊君に警告するかのようにあの言葉をチーム名にしたようだ。

 

「……九十九さん」

 

 タイミングよく湊君が俺に声をかけてくれた。

 

「0720番、制作活動について確認したいことがある。案内してくれるか?」

 

 彼は珍しく真剣な顔でPC教室に案内してくれた。そこで19班のメンバーから話を聞く。どうやらエロデューサーがこの企画をまるっと乗っ取ろうとしているということだ。それを聞いて俺は真っ先に頭を下げた。

 

「すまなかった。俺がプロジェクトが安定するまで囚人でいるべきだった」

「いや、九十九さんは看守補佐としても忙しいでしょうし、何よりオレがリーダーとしてしっかりするべきだった」

「じゃあこっから捲る手段を考えるか」

「切り替え早すぎません?」

「まあ奴さんは日替わりで囚人と看守を楽しんでいるって噂もあるぐらいだからな……」

「囚人の九十九さん……ちょっと見た、ぁかった……」

 

 彼はすでに勝手なリーダー変更についての異議申し立てを行っており、それの"審問会"で勝つ必要があるという。裁判官1人、陪審員10人、全員看守の陳述と判決で2日で終わる法の暗黒時代のような裁判だ。ただ、向こう方は看守にも顔が効いて外では金も役職も社会的信用もあり、問題児上がりの優等収容者の湊君には分が悪い勝負という。俺はそれを聞いてこの後の展開が読めた。

 

「手を貸してほしいと?」

「いや……この件は俺が片付けます」

 

 これだから彼は俺を突き動かしてくれる。

 

「分かった。俺は俺で勝手に君の支援をしよう」

「……どうやるんですか?」

「そりゃもちろん────」

「はぁーい、どうもお疲れチャーンはタラヲの鳴き声ぇ~!」

 

 全てを馬鹿にしたような声で奴が甚だ図々しく部屋に入ってきた。

 

「あれぇ~? 何で関係のない看守補佐さんがここにいるんですかぁ~?」

 

 どうやらコイツの権力の前ではどちらの俺でも大したことない存在らしい。だったら俺も本性を見せてしまおう。

 

「チーム名のセンスがないリーダーがいるから指導してほしいと申し出を受けてな。で、そいつはどこにいるんだ班長?」

「……俺のチームにはそんな芸術性が低い人はいませんね」

「だとよ。部屋を間違えてるみたいだから恥をかく前に出ていきな」

 

 俺と湊君の流れるような連携口撃を受けたのにも拘らず、奴はお構いなく組長や紅林ちゃんや千咲都ちゃんに話をしている。どうやら色々と悪い所が多そうなので簡潔に話したほうがよさそうだ。

 

「班長、あのバカに一言言ってやれ」

「いいんですか?」

「ダメだと言っても言うつもりだっただろ?」

「……やはり九十九さんは敬語を使いたくなる人です」

 

 すごくいい評価を貰えているみたいで嬉しい。そして彼は奴に向けて指を差して宣言した。

 

「オレは露出狂だ。でも、今回脱ぐのはオレじゃない貴様の兜を────……脱がせてやる────物故ろしてやるぜ、ベイビー?」

 

 相変わらずダサカッコ良い台詞だ。とはいえ、一応今は看守補佐なので咎めておくとしよう。

 

「物騒な言葉を使うんじゃない0720番。相関係数+0.0001……あとセンスが悪い奴がお前だということが分かったから指導させてもらう」

 

 俺はソフィーヤ看守長とお揃いのデザインの看守の帽子を深くかぶって指導する。

 

「チーム名を『やりたいようにやらせてもらう』に変更した方が良い」

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