姉妹仲が解決されて数日、俺はいつものウィッグ工房で3人に重大な事を発表しようとしていた。
「何ですか狂犬先生大切な話って?」
「まさか
「その時はその時ます。僕は伊栖美ちゃんの所にお世話になるます」
相変わらずニュプノクス改め四色は話が早くて手がかかる。
「お前たちはしばらく19班に参加してもらいたい」
3人は何で急にそんなことをと言いたげに目と口をぱっかり開けている。なので納得のいく説明をするとしよう。
時はボクシング大会の翌日、暴走した看守を止めた紅林ちゃんが特別賞与としてソフィーヤ看守長の世話役を貰ったというのに、暴走した看守でやらかした俺は所長に呼び出されて責任追及されている。
「特別警備隊十数名への治療費と諸手当及び備品破損……相応な額になりますが、あなたに払えますか?」
「金なら相応にあるので気にしないで下さい。仮に無かったとしても、とある人に払ってもらいますので」
「どなたでしょうか? 確かな資産のある方でないと信用に────」
「我妻看守長ですよ」
所長の書類を捲る手がピクリと止まり、眼鏡の奥から鋭い視線が放たれた。
「……なぜ我妻看守長があなたの立て替えをするのですか?」
「今回の2つの事件の犯人としての責任を取ってもらうからです」
ソフィーヤ看守長の豹変と俺の『不俱戴天』の強制起動。この2つが可能であり、行う動機があるのは彼女しかいない。俺はその推理を所長に披露する。
「彼女は何かしらの道具を用いて洗脳を行いソフィーヤ看守長に、そして教徒たちを駆使して『不俱戴天』を使わせて俺に失態を追わせました……そうすれば自動的に自分の下に権力が集まるからです」
「……動機は分かりましたが、彼女がやったという証拠は?」
「ソフィーヤ看守長が豹変する前日の夜に彼女とソフィーヤ看守長が接触しています。そしてこのプリズンで俺の『不俱戴天』の存在を知り得るのは19班での捜索活動をしていた者だけです」
所長は目を閉じて呆れるように溜息をついた。
「前者に確たる証拠がないのは当然として、後者に至っては彼女と19班には関係がありません」
「一見すれば関係無しのように見えますが、紐解いていくと一筋だけ繋がるんですよ」
「と、言いますと……?」
「19班の活動には花丸凛が関わっています。確か彼女の宗教の巫女が花丸凛だったはずです。なら19班の活動を通して俺の情報を知り、それを彼女に伝えることも可能です」
他にも証拠がないわけではないがどのみち状況証拠でしかない。ならば一番の問題児が関わっている件だけで十分だ。話を聞いた所長がなるほどと言いながらとある物を取り出した。金の装飾と卵の写真が特徴的な俺のスマホだ。
「このスマートフォンはあなたの言っている花丸凛によって届けられました」
「では、俺の話を信じてくれるんですか?」
所長は眼鏡をくっとかけ直し、目を開きながら頷いた。
「……一理しかないですが、一理だけはあるとも言えますね。それに今回の件でプリズンの力は彼女に集中するでしょう。0720番にも我妻看守長の打倒を提案する予定でしたから」
流石清濁併せ吞む所長だ。組織のトップはこれぐらいじゃないと務まらない。
「彼女は製薬会社の令嬢らしいですからね。多めにふんだくってやります」
「その時が早く来ることを祈っていますよ」
こうして俺はなんとか首の皮一枚を繋げてプリズン生活に戻っていった。
ということで早速ウィッグ工房シスターズを連れて19班のPCルームにやって来た。19班の皆は何事だと驚いているが、そんなのお構いなしに事を進める。
「いきなりで不躾だが、今日から彼女達が19班を手伝う。お前たち、自己紹介をしろ」
「はい! 囚人番号9101番、ジョッキーこと山城瑠美亜です! タイピングに自信があります!」
「囚人番号3507番、海神こと青柳御白子だ。デザインには自信があるな」
「囚人番号3838番、ニュプノクスこと四色沖奈ます。力仕事は任せるます」
「以上ウィッグ工房シスターズだ。それでは質疑応答を始める。質問がある人間は挙手しろ」
早速湊君が挙手をしたので指名する。
「シスターズという割には1人男がいます」
「四色だな?彼女はそういう癖を持っているんだ。出来る限り女の子として扱ってくれ」
そうなんだと納得したようで黙ってくれた。次に手を挙げたのは紅林ちゃんだ。
「人数が増えたからと言って作業が効率的になるとは限りませんけど?」
「その際は身の回りの雑務を頼んでくれ。全員優等囚人だから色々できるはずだ」
そうですかと呆れたように納得してくれた。次に手を挙げたのは伊栖美ちゃんだ。
「ぇと、色々お話し、ていいか……?」
「もちろん構わない。ただ、俺の事を聞いても世間で知られている事しか知らないぞ」
それはちょっと残念だとしょんぼりしてしまった。僕がいつか聞き出してやるますと四色が慰めたから大丈夫だろう。組長が手を挙げたので指名する。
「ちょっと1人の顔をよく見たいんだが、いいかい?」
「構わないぞ。誰も特徴的な顔だからすぐに覚えると思うぞ」
俺の返答を聞いて組長は青柳に向かって近づき、俺でも寝起きに見たらビビるようなその顔をじっくりと見始めた。
「確か……青柳とか言ったか?」
「ああ。おしるこって言ったら例えアンタでも────」
「お前さん、生まれは九州だったりしねえか?」
青柳の肩がピクリと跳ねる。
「そ、そうだが……なんで分かった……?」
確かに何故分かったのだろうか。すると会長はくつくつと笑って青柳の坊主頭を撫でた。
「あの小娘が随分デカくなったもんだ。もしかしてあの時のあたしに惚れて紋を入れたのかい?」
「……っ! お、覚えているのか……!?」
「流石に坊主頭になったから思い出すのに時間がかかっちまったが……確かあたしが12の時に助けたはずだ」
なんと組長は以前、暴漢に襲われていたに青柳を助けてたという。その際に抱きしめて慰められ、青柳は会長に惚れて憧れた。しかし組長から自分みたいな道を歩むのは止めておけと言われ、刺青を入れるだけにとどまったという。
「……アタシはこんな恐ろしい顔だから家族以外誰も関わろうとしなかったんだ。だからアレがあたしの家族以外から受ける初めての愛だったんだ」
「……そいつは申し訳ない事をしちまったな。あたしからの愛はお天道様の下じゃ絶対に見つかりっこないからな」
「だからあたしは女を抱き続けてアンタを作ろうとした。金の使い道なんてそれしか考えられなかった。そしたらいつの間にか捕まって……そうしたらアンタがいたんだ。でも、何年も経っているから覚えていないだろうと思っちまったし、狂犬先生がアンタを想いながら自慰をすることを認めたからそれでいいと思っちまった」
青柳の特別用便が比較的普通の自慰だったのは、行為よりも心で満たしているからだったのだ。その青柳の気持ちを汲み取った組長が優しく抱きしめた。
「……あたしにとってはただの仁義でしかなかったんだったんだが、お前さんにとっては大切な愛だったんだな。それを追い求めて……よく頑張ってきたな青柳御白子」
「……っ、波多江さん……!」
青柳が泣きながら組長を抱きしめる。
「だがな……あたしには守るべき家族がいる。だからはお前さんに愛を与え続けることはできない。赦してくれるか?」
求めていたモノが手に入らないと分かった時、人間は生き死にを考える程の絶望に襲われる。青柳はどうするのだろうか。
「……赦すさ……むしろ……それで……それでいいんだ……波多江さん……」
その言葉と共に青柳が柔道の組を解くようにぬるりと組長から離れる。
「あたしは愛を求めるあまり他人様の愛を踏みにじっちまった……なら本物の愛なんか受けちゃいけない。幸い紛い物を作るのは得意なんだ、娑婆に出たら紛い物のアンタを作って一生愛し続けるよ」
それが青柳なりのケジメの付け方なのだろう。組長は目を閉じて惜しむように息を漏らした。
「……何かが違えば四羽烏になっていたかもな」
「……
初恋を引き摺り続けると決めた乙女は、金糸雀の羽ばたきの様に優しい笑顔を見せ涙を飛ばした。
良い雰囲気になった所なのに申し訳ないが、とソフィーヤ看守長が挙手をする。
「こいつらが19班に来るのは良いが、お前はどうするんだ?」
確かにと19班とウィッグ工房シスターズの視線が向いたので堂々と宣言する。
「我妻看守長の宗教に入信します」
「……は?」
「だから、我妻看守長の宗教に────」
「正気ですか九十九さん!? あのクソシスターに洗脳されたお姉ちゃんを見なかったんですか!?」
紅林ちゃんが詰め寄って俺をガクガク揺さぶってきたので、なんとか止めて事情を説明する。
「この1ヶ月ぐらいでこのプリズンは激変した。ソフィーヤ看守長の失墜、『金色の狂犬』の判明、そして普段より多くなったシスタージュリアの教誨……鰻丼ととろろ汁とティラミスを同時に出されたように事態が動いている」
「なんだその妙に高い飲食物の羅列は……?」
「どれも精力をつけるものですね。私の殺しちゃった彼氏と一緒に食べた外での最後の晩餐と同じです。あんまりにもおいしくてそれぞれ五人前は食べちゃったかなあ……」
「食べ過ぎます。だからあんなに出るます」
話が逸れてきたので閑話休題だと手で話を遮る。
「要は我妻が動き出してきたってことだ。だから俺はその内部に探り込みを入れる。看守と囚人を自由に行き来できる『金色の狂犬』なんて上下の口から涎を垂らして欲しがるはずだ」
「で、でも、九十九さんは、看守長を2回も倒しているから警戒されるんじゃあ……」
伊栖美ちゃんのもっともな指摘にチッチッチとわざとらしく指を振って待ったをかける。
「不思議とイケるルートがあるんだなコレが」
「もしかして凛さんですか? あの人はもう二度と九十九さんと関わりたくないと言っていましたけど」
「いや、アイツじゃない当てがあるんだ。その辺はあまり追及しないでくれ」
「えー、気になりますよー。私にだけこっそり教えて下さいよー」
ぶりっ子ぶるんじゃねえ山城ババアと思いつつ、こうもねだられ続けるのは間違いなくうっとおしいのでそっと耳打ちする。
「お前だよ」
「……え?」
「今夜の教誨前に種明かししてやる……さっ、今日も元気にエロゲ作りだ!」
「事実だが大声で言うな馬鹿者。創作活動と言え」
驚く山城を放っておいてPCに入っていた俺の音声データを全て消した。代わりに編集無の生AVをブチ込もうとしたら、紅林ちゃんから隠すのが大変だから小分けにして入れろと言われてしまった。なので大人しく従って今日は礼と撮った奴を数本入れるだけにした。