署名を集めた申請書を所長に渡し、形式上ですので気を楽にしてください言われて面接が始まる。
「あなたの囚人としての経歴は違反と厳重注意を合わせても片手で足りる回数、懲罰房は看守補佐としての謹慎ですので0回……表立って評価できない看守補佐の働きを囚人の評価に変えれば、十分に優等な受刑者であると言ってよいでしょう」
「つまり一等囚人になるに相応しいということでしょうか?」
そうですねと彼女が微笑みながら頷いて書類に判子を押した。
「あなたらしくいうのであれば……『やりたいようにやってください』、9924番」
「……それを言われた人間は例外なく痛い目を見てるんですよね……気をつけます」
こうして俺は我妻看守長が行っている特別告解への参加権を得た。そして探鉱作業を早めに終わらせて神父として教えを説くために必要な知識を学び、夜の休憩時間で俺は新19班のメンバーに一等囚人になったことを伝えた。
「これで捜査が大分進むと思うが……」
どうも皆の顔色が良くない。俺が我妻側につくことはないのは分かっているはずだが、それでも不安が拭いきれないようだ。その中で組長が珍しく大きな溜息をついて事態を語った」
「……実は波多江組がアタシひとりになっちまってな」
なんとソフィーヤ看守長の洗脳時期から構成員が抜け始めたというのだ。先日三羽烏が教誨に来ていたのはその影響の可能性がある。
「何かしらの洗脳方法があるはずなんだが……一向に判明しないんだ」
一等と二等の囚人達に何かしているだろうというのが組長の考えだ。確かウィッグ工房シスターズは全員優等収容者の二等囚人だから、通常の告解には参加しているはずだ。何かあるかと目線を送る。
「うーん……告解で特別な事をしている感じはありませんでした……」
内通者である山城の意見はあまり参考にしない方がいいだろう。
「愚生はあの雰囲気が苦手で1度行って以降足を運んでない」
確かにあの雰囲気は人を選ぶ要素であり、人によっては膣にシャープペンシルの芯を入れるように合わないだろう。
「告解は難しいことを言ってて安らかな雰囲気だからすぐ眠っちゃうます」
何故か目を開くようになってからより一層気持ちよく眠れるようになったらしい。なにか何かありそうだが四色本人に意識がないから知りようがない。とりあえず今ある情報で考えて────PCルームのドアがコンコンコンと来客を告げる。
「すみませーん、九十九さんいますかー?」
この一瞬で警戒心を掻き立てる穏やかな声はシスタージュリアだ。
俺が出ないと穏便に済みそうもないので、俺がドアを開けて対応する。
「ただいま製作活動中でして……急用でなければ後日でも────」
「神父服が届きましたので早速今日の教誨を九十九さんにやって欲しいんです。私が付きますから安心してください」
その腕には衣装が入っているであろう段ボール箱が抱えられていた。ここまでお膳立てされて断ったら失礼なのは当然、態度を変えること凛の如くでは信頼を得られない。俺は新19班の皆に向かって両手を合わせて謝った。
「悪い、シスターに急用を頼まれた。この話はまた今度な」
それなら仕方がないと納得してくれたので、部屋を出て彼女と一緒に教誨室に向かう。すでに50人程囚人が並んでおり、その中には炭鉱で働いていたメンバーもちらほらいた。
「みなさーん? 今日は大事なお知らせとその準備がありますので、少し道をあけてもらえますか?」
彼女の一声で列が割れ、教誨室の扉も開かれた。一言発しただけでこれだけの事が起こせるのなら、彼女の洗脳はかなり進んでいるのだろう。室内に入って彼女が段ボールを開ける。
「九十九さんは背が高いですからね。これを着ればかなり風格が出ると思いますよ」
そう言って彼女は金色を基調とし、赤い彼岸花の刺繍が入ったカズラを取り出した。思わず前のめりになって手に取ってしまう。
「おおっ……格好良いですね……! 早く着方を教えて下さい……!」
「もちろんいいですよ。一人で着られるようになってもらわないと、凛ちゃんに頼むことになっちゃいますからね」
それだけは死んでも嫌なので彼女から着方を教えてもらう。まず基礎となる日常着の金色のスータンを着る。次に四角い黒い布アミクトゥスを首から肩にかけて覆うように巻き、紐を胸の前でクロスさせて腰に回し結ぶ。次に足首まである長い黒いローブアルバを頭からかぶるように着る。次にアルバの丈やたるみを調節し、ウェスト部分を締めるための金色の紐シンクルムを結ぶ。次に首からまっすぐ前に細長い帯状の黒い布ストラを垂らす。最後にゆったりとした外套のような金色のカズラを頭からすっぽりとかぶれば完了だ。
「始めて着たのにかなり上手に着れましたね。神父様の才能が有りますよ」
彼女がどこからともなく持ってきた全身鏡で着こなしを確認する。
「うおおお……! これはちょっとキマりすぎじゃあないですか……!」
一般的な神父の色は白と黒と多少の金で構成されていて、荘厳ながらもどこか物足りなさを覚えていた。しかし鏡に映る神父は金と黒と多少の赤という、圧倒的な風格と警告色を彷彿させる危険さを兼ね備えた唯一無二の人と神の架け橋だ。
「心理学や脳科学の観点からも物事は形から入ると良いと言われていますが、形だけの神父様は信頼されませんからね。教えの方はしっかり理解してきましたか?」
「……種よ、
「まあ、ヨハメの福音書ですね」
「あとは……種の魔羅によってきたるオホに、祝福あれ」
「コスルカの福音書も学んできたのですね」
「オマルコの福音書はまだですね……不甲斐ないです」
「いえいえ。たった1日でそこまで勉強する熱心さがあればすぐに覚えられますよ。では、教誨を開きましょう」
彼女に指導されながら教徒たちに教えを説いていく。
「我が教徒の教えはこうです。"笑みて唱えよ、さすれば与えられん"」
「シスターの言う我らの使命……これを"カヌルー"といいます」
HENTAI囚人にも分かりやすい言葉にしてあるというが、専門的な用語を使って印象深くさせ、それを理解できているという高揚感を利用しているのだろう。
「高徳であるオラピーフを積み、修行であるポウトーピを行い────」
「修業はポトウーピですよ。初めてで緊張して噛んじゃいました?」
「……修行であるポトウーピを行い、欲望であるヒワワイピを抑え込み、心のに住む悪魔であるモポッポロを追放することで、あなたたちは神の国へと導きゃれるのです────!」
そのおかげもあってか、俺の拙い教えでも教徒たちは大いに沸き上がった。まるで本当に神から言葉を聞いて、その言葉こそが救いであるかのようだった。あまりにも異様な光景だったが、救いを求める人間の明確な正解など無いのもまた事実だ。
「見てくださいあのピピタミーミたちを……彼らはあなたによって救われているのですよ……」
耳元で彼女が優しく囁く。天使のような包容力と悪魔のような背徳感の入り混じった、思わず歯を食いしばってしまうような快楽が背中を走る。
「では最後に……あの言葉で今日の教誨を終わりにしましょう」
あの言葉。俺がこのドスケベ性教でもっとも不穏に思っている言葉だ。
「「アーラメオラピーフ!」」
故郷の青藍島で朝昼晩の挨拶よりもよく聞く『孕めオラァ』に似た言葉だ。
教誨が終わって後片付けを彼女と一緒に行いながら今回の評価を窺う。
「どうでした?」
「初めてであれだけできれば上出来ですよ。しばらくは毎晩教誨を開いて練習しましょうね」
そうなると19班に顔出しするのも難しくなるだろう。昼休憩に事情を話してご理解いただくしかない。
「九十九さんはどうでしたか? 初体験の神父様は?」
長机を乾拭きしながら軽く思い返す。水乃月学園3年生の時は風紀委員長として、SHOに入ってからは特殊戦闘部リーダーとして部下に教えを説く事は自体は珍しい経験ではなかった。ただ、あそこまでの過剰な反応をされると満足感よりも猜疑心のほうが上回ってしまう。
「……ちょっと怖いですかね。自分の一言で人間を変えてしまっているみたいで」
そこまで乗り気でない俺の回答に彼女は余裕の微笑みをもって返してきた。
「あなたはピピタミーミを救っているのです。褒められる事はあっても、怒られる事はありませんよ?」
彼女の声にはそう言われたらそうなのだろうと思ってしまう、人非ざる魔力のようなものがある。付和雷同に生きている人間は当然、真剣に悩んでいる人間も彼女についていきかねない。彼女が本当に人を救っているならそれでいいのだが、薬を用いての洗脳で救われる人間などいない。だから俺は彼女に心の底から従うことはできず、早く洗脳の被害者をゼロにしたいと思っている。しかし、教誨は洗脳している様子がなかったので、おそらく特別告解で洗脳しているはずなのでその辺りに探りを入れる。
「そういえば自分が一等囚人になったのはご存じですか?」
「いいえ。ただいま言われて初めて知りました」
「折角神父様になるのだから特別告解もやってみたいんです」
俺の言葉に彼女が無邪気にぱあっと笑う。この笑顔は自分の信じる物に賛同する人間ができたことによる喜びから来るものであってほしい。もしこれが洗脳に必要だから身につけたものだとしたら、俺はいよいよ彼女を人間として見ることができなくなる。
「それは嬉しい相談ですね。でしたら……そうですねえ……申請が通ったら1週間後に開けると思います。日時が決まりましたらまたご連絡しますね」
そうこう話している間に片付けが終わった。俺は彼女に一礼と言葉で期待を伝える。
「朗報をお待ちしています。本日はムヒヒッィピククンクサ」
「こちらこそムヒヒッィピククンクサ」
今回は間違えずに言えたようなので部屋を後にする。大人になると新しい物事を覚えるのが大変だが、幸い俺はまあまあ頭がいいので────
「予想を超えて趣味の悪い服になりましたね。売ったら一夜ぐらいは遊べるんじゃないんですか?」
俺が神父になったことによって仕事が奪われ気味の屑畜生巫女が話しかけてきた。なので俺は見せつけるようにバク転をして服を靡かせた。
「お前から見て趣味が悪いってことは最高に格好良いってことだな」
「何でお前は金色が関わるとそんなに馬鹿になれるんですか? 脳が金で出来てるんですか?」
「輝きと柔軟さを兼ね合わせた最強の脳だな」
「まじで脳金ですね。これで1番隊にはイカれた奴しかいないって証明できます」
世間話なら問題が終わってからいつでもできると奴の横を通りすぎようとしたら肩を掴まれた。
「……小沢から面白い話は聞けましたか?」
「なんも面白くなかったぞ? お前にしてはみみっちい嫌がらせだったな」
「……そうですか。19班はあなたがいなくても楽しそうでしたよ」
奴は仕事がなくなって19班に世話になっているらしい。
「そんなわけないでしょう。特別な集会以外では易々と巫女は出てこないんですよ」
「近い内にお前の居場所は無くなる。今の内に改宗しておくんだな」
「どういう意味です?」
そのままの意味だと肩を払って自分の房に歩みを進める。
「…………神に縋るようになりましたか。『金色の狂犬』も堕ちたものですね」
それから数日間、俺が神父として行う教誨はかなりの盛り上がりを見せた。あの『金色の狂犬』直々に教えを説くというのは囚人達には当然、活動家土口精の教えは是非とも聞いてみたいと看守ですら見張りとして参加していた。
「笑顔とは幸せの象徴なのです! そして幸せを全世界に広めるのが我らのカヌルーです! だからパッフンーやポトウーピを重ねるのです! ピピタミーミたちよ! 不安やヒワワイピは誰しも持つ物なのです! それらを払って心の底から笑顔になった時にこそ天国は我々を受け入れるのです! 天国に受け入れられる人間を誰が否定するでしょうか! もしあなたたちを否定する人間がいても神と繋がる私が肯定しましょう! さあ! ピピタミーミの皆様に限りない祝福を! アーラメオラピーフ!」
塩と聖水をばらまく。後片付けは俺とシスターがやるので肉料理の仕込みが如くぶちまけていく。
「神父様! 私にも!」
「いいでしょう! アーラメオラピーフ!」
「シスター! 俺にもやってくれえ!」
「もちろんです! アーラメオラピーフ!」
かけられた人間は恍惚の表情を浮かべて喜んでいる。塩と聖水に薬物の類は入っていないはずだが、神父とシスターにかけられたという事実が日常で味わえぬ快楽になっているのだろう。
「私達が皆様の身体を清拭して本日の教誨を終わりとします! 皆様、ムヒヒッィピククンクサ!」
「「「ムヒヒッィピククンクサ!」」」
ピピタミーミたちの身体を拭いていく内に分かったことがあった。
「流石狂犬先生ですぅ……漏らしちゃいそうですぅ……」
「これはハマっちまうな……女抱くのとほとんど変わらなかったぜ……」
「僕が教誨で起きていられたのは今回が初めてます……」
女は股を濡らし男は勃起していたのだ。いくらドスケベ性教の教えでは許されていても、このプリズンで性的興奮を露にしたら罰の対象だ。これも洗脳されたから起きている事なのだろうか。早い所洗脳の方法と解除方法を見つけないと、このプリズンにいる人間の大半が彼女の手に落ちてしまう。だから特別告解で必ず答えを見つけてやる。