翌日、面会時間になると同時に精の病室に向かい、未だに状況が分かってなさそうな彼と話した。
「どうだ精? 体調とか気分はどうだ?」
「どうって言われてもな……怪我の所がちっと痛えぐらいで特に何もないが、自分に関して何も分からねえってのはあまりいい気分じゃないな」
今までの彼の自身の喪失は別の自分になっているだけで、本質的には自分であることに変わりはなかった。全てを忘れてしまうという感覚はどう頑張っても共有できそうにない。だから私に出来るのは生活のサポートと、なるべく自然に『金色の狂犬』の記憶から遠ざけることだ。
「……今は怪我を治すことに専念しろ。まともな体にならんと自分探しもロクにできないだろう」
「……それもそうだな。しかし安静ってのは暇だな。無性に体を動かしたくてしょうがねえ」
研修に行く前の彼の活動レベルは3を超えて4.5だったので無理もないだろう。しかし、流石に医者からの指示は守るようで普段では考えられないほどおとなしくしていた。ただ、ある程度想定していた問題が出てきた。
「……めっちゃムラムラする……何でだ……?」
彼の性欲は異常と言ってもいい。そろそろ40になるというのに思春期並みの性欲を持っている。妻としては喜んで処理してやりたい所だが、ここは青藍島ではないため所かまわずそういうことをするのはご法度だ。
「……お前も男だからそういう欲があるだろう。周りに迷惑をかけないようにやっておけ」
「ご理解していただけて嬉しいね。出来ればあんたに気持ちよくしてもらいたい所だが……それは体が良くなってからのお楽しみにするぜ」
記憶を失っても私に魅力を感じてくれているのは凄く嬉しかった。ただ、その夜にベッドを汚すほどの夢精をしたのは流石にどうかと思った。彼の状態について担当医から説明を受けたが、正直自分の耳を疑うようなものだった。
「あまり言いたくないですが……ご主人って人間ですか? あまりにも治りが良すぎるんです……」
頭は血の巡りがいいから他の部位に比べて傷が治るスピードが早いらしいが、常人の1.9倍のスピードで治っているらしい。
「……私もたまにそう思います」
「……なら問題なさそうですね。数日もすれば抜糸を行えるでしょう。その後に検査をして異常が無かったら退院ですね」
退院した後も遅れて出る症状がるから気を付けるようにと言われたが、彼の頭に関してはしょっちゅう検査を受けさせているためすぐに気付くだろう。
「……記憶に関しては何とも言えません。ひょんなことから思い出すかもしれませんし、一生思い出さないかもしれません。あまりにも薄情かもしれませんが……新しく人生を始めると考えるべきでしょう」
言われなくてもそのつもりだ。私はこれから彼に『ただの青藍島民』としての人生を送らせる。そうすれば皆幸せになれるのだから。
数日が経ち、抜糸と検査を行い異常無しと診断されたのでついに退院になる。荷物を纏めて久々に2人で手を繋いで歩く。今日からは私が彼をリードしていく番だ。
「まずは故郷に帰ってゆっくり休んでもらうぞ」
「昨日までうんざりするぐらい休んだんだがな……まあ、気が休まらなかったのは事実だからいいけどよ」
帰りの道は特に予約や手配をしていなかったので、青藍島行きの船が出る港までおよそ半日かかってしまった。それでも久々に精と2人きりになれたからとても嬉しかった。揺れる船の上で青藍島の観光案内PVを見る。
「こんにちは! 青藍島臨時広告大使の橘淳之介です!」
「同じく青藍島臨時広告大使の片桐奈々瀬です!」
まるでラジオのパーソナリティー経験でもあるような安心感を持つ2人が青藍島の名所を紹介していく。改めてみると実に色々のプレイスポットがあるなあと呆れたように笑ってしまった。
「ここで皆様にお詫び申し上げます。カフェで提供している一部商品がメーカー欠品によって提供できない状態にあります」
「販売再開の目途が立っていないため、他の商品を割引きで提供するという対応を取らせていただいています。どうかご容赦ください」
カフェには彼が『金色の狂犬』として監修したメニューがいくつか存在している。当然、あらかじめ根回しをして販売を中止させた。
「カレーライスとコーヒーを頼みたかったんだがな……」
「それぐらい家で作ってやるぞ?」
「んじゃ明日はそれで頼む。病院食は味が薄くて食った気がしなかったんでな」
明日の献立が決まった所でSHO本部を横切る。そろそろ船着き場に到着する頃だ。船を降りる準備をしてその時を待つ。
「おーい! お母さーん! お父さーん!」
「病院ではするなとしか言ってねえが船の中ではしてねえだろうなー!?」
我が子たちが手を振って呼び掛けてきた。
「あれが俺とあんたの子供か……抱き合えば少しは実感が湧くかもな」
彼はまるで他人事のように関心がなかった。到着するや否や船を降りて2人を抱きしめる。
「……心配をかけてすまなかったな」
「困った時はお互い様だよ。それよりも────」
「オイコラ親父! 可愛い可愛い娘の顔も忘れちまったのか!?」
レイラがするりと抜け出して彼に詰め寄る。彼は処女が顔射を食らったように驚いて呆然としている。
「……お前は俺の血を濃く受け継いだんだろうな。俺を女にしたらこうなる気がする」
「……マジで忘れちまってるみてえだな……まあ親父との思い出なんて、これからの方が多くできるから別にいいがよ」
そう言うレイラの顔は今までに見たことがない程不機嫌そうだった。
「……とりあえず家に帰ろうよ。ここで話してるのもアレだからさ」
セレンに進められて家に帰る。彼は帰り道にあちらこちらでセックスしている様を見ても、特別な反応はなかった。
「そういう島なんだろ? だったらとやかく言う必要はねえだろ」
それはそうなのだがいくらなんでも受け入れが早すぎる。私だって初めて来た時は自分の目を疑ったのに。ともかく家に着いたのでリビングで話を────
「悪い、先に風呂入らせてくれねえか? 移動と潮風で体がべたついてしょうがねえ」
「そうだね。折角だから2人で一緒に入ったらどうかな?」
「ついでに3人目もよろしくな。あ、ついでに4人目や5人目ができても大歓迎だぜ」
ということで、話の前に久々の2人っきりのお風呂タイムを楽しむことにした。
頭の傷の事もあり湯船につかるのではなく、お互いにシャワーで体を洗う運びになった。久しぶりに見た彼の身体は、数日程安静にしていたとは思えない物だった。以前より引き締まり、より筋肉がみっちりと詰まった実戦的な体になっていた。
「おっ、おお……すごいな……」
「この体……実際に見て改めて思ったが、只者の身体じゃねえな……」
そして何より清拭しかしていなかったせいか彼自身の匂いが濃く漂う。力強い雄の匂いがむんむん漂って鼻を刺激し、秘部から熱い液体が垂れるのが自覚できた。そんな彼が急に振り向いて抱き着いてきた。私もすでに裸になっていて、ゼロ距離で彼を感じてしまう。
「うひゃあ!? な、何だ急に!?」
「……良い匂いがするな。優しくて、ちょっと汗っぽくて……頑張る母親って感じの匂いだ」
「おっ、あっ、当たり前だろ……! に、二児の母だからな……!」
彼も私の匂いで興奮したのか、はち切れんばかりに勃起した陰茎が私の湿潤した股間をぐいと押し上げてきた。
「も、もうガチガチになってるじゃないか……そんなに興奮したのか?」
「まあまあ禁欲したんでな。どうする? 洗ってからするか? それとも洗う前にするか? 俺は洗う前にしたい」
「……お預けさせるのもかわいそうだからな。私も早くお前を感じたい────」
「それじゃあ、遠慮なく」
そのまま浴室の壁に優しく押さえつけられてから唇を塞がれた。攻める程がっついているはずなのに、唇を重ねるだけの優しいキスだった。十分興奮するモノだったが、いつものが下しいキスに慣れてしまったせいか少し物足りなかった。
「……舌は入れないのか?」
「……舌を入れたら射精する気がする。試してみるか?」
「……私から入れて確かめてみるよ」
今度は私から唇を奪い、彼の口に舌を侵入させる。ぬるりと温かな舌が絡み合い────
「……ッ!!!」
彼がブルリと震え腹部に温かな液体がかかるのを感じた。視線を向けるとほぼ固形に近いゼリー状の白く濁った物体がドロリと腹部を染め上げていた。
「……悪い……やっぱり我慢できなかった……」
「……ほ、本当にキスだけで出ちゃったんだな……」
「自分でも驚きだよ……もう一度勃起させるからちょっと失礼するぜ」
そう言って彼はしゃがんで私の陰毛が生い茂っている股間に顔を埋めて、思いっきり鼻で息を吸い込んだ。
「ばっ、なっ、何をしているん────」
「……ッ!!!」
先ほどと同じような白濁したゼリー状の物体が、今度は足元にぶちまけられた。
「こ、今度は匂いを嗅いだだけでか……?」
「……あんたサキュバスか何かか?」
「わ、私よりサキュバス見たいな奴はいるが……じゃなくて、気持ちよかったか?」
「……頭が痛くなるぐらい気持ちよかったぜ。ただ、この調子だと挿れただけで射精るだろうな」
これは2度と無いチャンスだからとことん絞り取るとしよう。
「も、もう勃ったみたいだから挿れるぞ……?」
「お手柔らかに頼むぜ」
射精の余韻で震える彼の陰茎を右手で膣口に誘う。ぬるりとした入り口に火傷してしまうような熱い肉棒の先端をあてがい────
「……ッ!!!」
またも射精した。私だと今の彼には刺激が強すぎる様だ。ならば遠慮はしなくていいだろう。びゅくびゅくと精液を吐き出していようとお構いなしに挿入する。
「……ッ、あぅ……!!!」
膣を進みながら射精した。彼が見たこともないような情けない顔で歯を食いしばっていた────その瞬間、私の理性が音を立てて崩れた。そのまま乱暴に腰を前後する。1ストロークごとにビュルと精液が吐き出され勃起して固くなる。もはやこのセックスは私が全てを握っていると言っていい。
「まっ、待ってくれ……! こ、腰が、無くなる……!」
「大丈夫だ……! 出なくなるまで搾り取るだけだから……!」
「そ、それって大丈夫なのか……!?」
「大丈夫だ……! 記憶をなくす前のお前は1日中射精できたから……!」
「じ、じゃあ大丈夫か……? あんたに委ねるぜ……」
言質を取ったのでありのままをぶつける。私だってお前のおちんちんが恋しくて何回自慰したか覚えてないんだ。ディルドじゃ味わえない、おちんちんと射精の熱を生のおまんこで感じたかったんだ。私はお前とじゃないと気持ちよくイケなくなったんだ。その責任と溜まりに溜まった欲望を受けるがいい。
私の理性が戻った頃には私の膣と床が精液で満たされていて、全てを出し切ったであろう彼は力なくぐったり私に寄りかかってきた。
「お……俺は、毎日こんなことをしていたのか……?」
「いや、流石にこんなことは初めてだ。いつもお前がリードしていたからな」
「そ、そうか……とりあえず色々流してえ……頼んでいいか……?」
「……流石に私がやりすぎた結果だからな。お前は座って休んでいろ」
私の指示に従って彼が股下が開いている介護用の椅子に座った。
「……ありがとう。今までで一番気持ちのいいセックスだった」
心底満足そうに笑う彼を見て安心した。この調子なら彼はこの生活に問題なくなじんでいくだろう。
「……そうか。ならよかったよ」
身体と床を流してから浴室を出る。2人分の着替えの上にセレンとレイラの書置きがあった。
『ごゆっくりどうぞ』
『退院して早々腹上死は勘弁な』
2人に随分と迷惑をかけてしまったらしい。明日は2人へのご褒美と新生活への準備も兼ねてショッピングモールに行くとしよう。明日の予定が決まった所でぐぐうと思い切り腹がなった。
「……そういや飯は食ったっけ?」
「……まだ食べてないな。折角だしヌき家いくか?」
「この時間までやってる飲食店ならどこでも歓迎だぜ」
ということで久しぶりにヌき家に行って、期間限定のビンビンパンパン丼を頼んだ。
「
相変わらずやる気のない男性店員が手早く提供してくれた。深夜で腹が減っていたということもあってか、今まで食べたメニューの中で一番おいしく感じた。彼も美味い美味いと言いながらスプーンでかきこむように食べていた。
「これでもっと肉に脂が乗っていればよかったんだがな……カルビとかでやったらいいんじゃねえか?」
「来週から販売されるアンイクの
「もうすぐ40なんだから普通の肉にしておけ。いつまでも若い頃の食生活で過ごすとすぐ太るぞ」
「体験談か?」
「……お前が教えてくれたおかげで我が子たちは料理上手なんだ……そして純粋な眼差しで食べて食べてと言われたら……分かるだろ?」
「あんたの人の好さじゃ断れないだろうな」
記憶がないせいか私に対して遠慮が無くなっている気がする。ちょっとムッとしてしまうが、妙に新鮮で悪くないものでもあった。