一夜明けた朝食の席で改めて精に事情を説明してもらう。
「……つーことで俺には家族の実感がまったく湧いていねえ。薄情者とか親の風上にも置けないとか罵ってくれても反論はしねえが、それで思い出せるとも思えねえ」
「んなこたどーでもいいんだよ。3人目は仕込んだのか?」
「……そういや全く避妊しなかったな……私の欲望のままにやってしまたが、よくよく考えたらするべきだったな……」
「まあまあ……レイラやお母さんが望んでいるからいいんじゃないかな?」
私は『金色の狂犬』隠匿のために早々に受け入れることができたが、我が子たちも難なく会話を続けられるほどには受け入れているようだ。もっとも、当の本人である彼は現状を受け入れるつもりはなさそうだが。
「いい加減俺が何者なのか知りてえが……流石にもうちっと療養しないと自由に動けそうもないな」
「……ちょっと良いかなお母さん」
セレンが私の肩をポンポンと叩きながら小声で話しかけてきた。
「冷泉院さんがお父さんの情報を送ってくれたんだ。これなんだけど」
セレンが差し出した紙には今までの彼の経歴や家族構成が、『金色の狂犬』に一切触れずにきっちりと書いてあった。これなら彼も納得するだろう。首を縦に振って提出の許可を出す。
「それならこれを見ればいいよ。お父さんの職場の上司の人が送ってくれたよ」
「裏面にまで書かれているとはいえA4の紙にまとまる人生で助かったぜ。しばらく読まさせてもらうぜ……」
そう言って彼は数秒で両面を見終えて天を仰いだ。
「……こんな人生を忘れた上、見てもなお何も思い出せねえ自分が恐ろしいぜ……」
「本当に全部読んだのか……?」
「家族を交通事故で無くした治安管理委員会委員長及び性的マイノリティへの理解を深める活動家……こんな濃い人生が他にあるか?」
記憶はなくとも速読の技術は健在のようだ。そうなると戦闘技術ももしかしたら残っているかもしれない。下手に戦闘本能を刺激して記憶を蘇らせないようにしばらく仕事は休んでもらうとしよう。頭を打ったに等しい事故だったので元から特別休暇になっているだろうが、一応確認のために臨時委員長を務めている郁子に電話する。
「郁子、精はしばらく休暇で頼む」
「元よりそのつもりだよ! じゃあね!」
「郁子先輩! この資料どこに送ればいいっすか!?」
「次はこのデータの添付先を────」
相当取り込み中のようなのでここで失礼するとしよう。
家族会議の結果、彼は我が家の家事全般を行うことになった。家事もしっかりやればいい運動になるかと比較的乗り気になってくれたのは嬉しい。
「記憶無くしても料理はできんのか?」
「記憶がなくても料理なんてレシピ通りにやれば誰だって上手くできるだろ」
「家で料理を作る分には資格や免許は要らないからね」
「ただ車の運転はそうもいかないだろうな。普通と大型二輪を持っていたはずだが、再講習するか?」
「とりあえず一通りの家事ができるようになったら考えるぜ。それじゃ、良い一日を」
彼に見送られてセレンとレイラは学校に、私は佳境のSHO本部に向かった。事務室の扉を開けると電話の呼び出し音と伝達の声が響いていて、卵子に群がる精子が大人しく見える程慌ただしかった。私の入室に気付いた郁子が臨戦態勢でしか見た事のない必死の形相で手招きした。
「礼ちゃん! 手伝って!」
「元よりそのつもりだ。何からやればいい?」
「何でもやって! はいこちら委員長代理です! ……担当の者に代わります!」
受話器を差し出されたのでそのまま変わる。次の彼の講演がいつになるかという話だったので、当面未定であると伝えて詫びて切る。受話器を置くや否や再びなったので対応する。首と肩で受話器を挟み、口と耳で話を成立させ、開いた両手で書類を捌く。こうでもしないと終わらない仕事量に、絶望を前にした時特有の乾いた笑いが出る。
「今日の仕事が終わったら精くんのおちんちん貸してね!」
「私は昨日散々堪能したからいくらでも貸してやるさ」
「待っててねイクのおちんちん!」
私のなのだがというツッコミは何とか飲み込んで、最低限の三大欲求に費やす時間以外はすべて仕事に向ける。一部職員は覚悟を決めて栄養ドリンクとオムツを持って来ていた。その覚悟だけ受けとって、何とか定時の30分過ぎに終わらせることができた。机に突っ伏して一休み────
「休んでいる場合じゃないよ! 精くんのおちんちんが待ってるんだから!」
する間もなく郁子に無理矢理背負われてSHO本部を後にし、彼に家の鍵を開けておけと連絡して全てを郁子に委ねた。
「せーいーくん! パコりましょ!」
堂々とし過ぎている夜の遊びの誘いに応えるように扉が開き、相変わらずの金色のジャージを着た彼が出迎えた。
「誰だか知らねえがそういうダイレクトな誘いは大歓迎────」
彼が郁子の姿を視認して数秒後、彼のジャージのズボンの股間の辺りにまあまあなサイズの染みが現れた。私は何が起きたのか全く分からなかったが、郁子は何かを察して頭を下げた。
「わわっ、精くんトイレに行く途中だった!? ごめんね! お詫びにお口でお掃除するから!」
「いや……小便じゃなくて精液だから安心してくれ……口での掃除はお願いしたいけどな」
「「……へ?」」
そういえば以前彼は性的には私よりも郁子の方が好みだと言っていた。ギャルが好きな当たりそうだろうなあと思っていたが、まさか見た目が好み過ぎて視覚情報だけで射精したのか? そんなに性の閾値が下がっているのか?
「……本気で言っているの?」
「俺だって驚いているさ……エロが人の形をしているような女が目の前にいるからな……」
「因みに昨日はキス、股間の匂い、膣口への接触、それぞれだけで射精しているぞ」
私の情報を聞いて郁子の顔が眼にハートを宿した良くない満面の笑みへと変わっていった。
「ごめん礼ちゃん、明日休むかも」
「……私も急にそれなりの日数休んだんだ、お互い様だ」
郁子が私を地面に下ろす。そして、瞬きする間に郁子の姿と彼の姿が消えた。玄関に郁子の靴が乱雑に脱ぎ捨てられているのを見るあたり、彼を2階の夫婦の寝室に連れ込んだのだろう。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 誰なんだあんた一体!?」
「あはぁ……♡本当にイクを見ただけでおもらし射精しちゃったんだね……♡久しぶりの精くんのおちんちん、いただきまぁす♡」
「ウワアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!」
恐らくドアを締め切らずにおっぱじめたのか、以前では信じられない音声が聞こえてきた。2階に上がって案の定できていたドアの隙間から様子を覗くと、チートデイの畔の食事の勢いでフェラをする郁子が見えた。
「……やりすぎるなよ」
聞こえたかどうかは定かではないが、助言を残してドアをきっちり閉めた。
「女部田さん、相当我慢していたんだね」
「女部田さんは親父が2番目に体の相性が良いって言ってたからな。そうなると親父を超えた奴が気になるな」
一応私公認とはいえ、父の不倫現場を見てこの冷静さだ。我が子2人は中々肝が据わっているようだ。なお、彼と郁子の夜の時間は私たちが家を出る時も続いていた。おかげでリビングのソファーで寝ることになったが、私が許可した事なので何も言うことは出来なかった。
今日の彼の代理の仕事は街の巡回だ。先日のドスケベ性教過激派の襲撃事件もあってか、それなりの人数を割いての巡回を行うことになった。郁子の欠の穴を埋めるべく出陣したのはなんと桐香様だった。相変わらず学生の頃から変わっていない若々しすぎる見た目に羨望よりも驚きの感情が出る。
「何をすればその若さを保てるのですか?」
「そうですね……しっかり寝ることでしょうか?」
それだけで若さを保てるなら苦労しないだろう。とりあえず指定されたルートを指定された時間に通っていく。真ドスケベ条例になってからは自由にセックスができる場所"性感地区"が定められている。性感地区では自由なセックスを、準性感地区ではオーラルなセックスを許可しゾーニングを行っている。また、お互いにSHO公認許可証がなければ生ハメができず、許可証の欄に書いてある情報は可能な限り尊重しなければならない。そこまでしてようやく青藍島に"自由な性"が広まりつつある。
「……皮肉なものですね。誰よりも今の青藍島に貢献した彼が全てを忘れてしまうなんて」
アイツの努力の大半は『金色の狂犬』として成したもので、当然彼がそれを知ることはできない。でも、知らなくていいのだ。未だに課題が残っていることを知ったら、彼はまた命を賭してでもこの島を良くしようとしてしまう。そうしていく内に今回以上の何かに巻き込まれて命を落としてもおかしくない。それだけは絶対に避けないといけない。私はもう彼を失いたくないのだ。
「……果たして今の彼は本当に土口精なのでしょうか?」
道すがら溢した桐香様の質問に足が止まる。彼を構成する要素として『金色の狂犬』はどうしても必要だろう。なにせ彼は『金色の狂犬』であり続けることを人生の目標としていて、そのために様々な活動を行ってきた。だから『金色の狂犬』そのすべてを失った彼は土口精という人間かどうかというのが桐香様の言いたいことだろう。
「たとえ土口精でなくても私はアイツを愛します」
それでも私の答えはこれしかなかった。彼は私に一人では手に入れることのできない幸せをたくさんくれた。それでもまだまだ幸せになりたいし、少しでも彼に幸せになって欲しい。だから私は彼が何者になろうと彼が好きだし一生愛し続けたい。私の決意を聞いて桐香様は目を瞑って頷いた。
「……野暮な事を聞いてしまいましたね。お詫び申し上げます、失礼いたしました」
「……いえ、私も改めて決意を固めることができましたから」
これ以上の会話は任務に支障が出そうなのでしっかり前を向いて歩みを進める。都市部は人目があってきっちりと区分通りのセックスが行われているが、森や山の方に行くとそれなりに死角ができて違反をするものもちらほら出てくる。
「森林地帯は危険な場所が多い! SHO職員の監視なしでセックスをするな! 監視があっても接地面積の少ないものは禁止だ!」
「ここから一番近い性感地区は……北東に向かっていけば混浴温泉がありますね。癖に合わなければ南東のバブみ幼稚園はいかがでしょうか?」
「ちんちん大社はこっちの山ではないな。ドスケベ遊園地から直通のバスが出ているからそれに乗るといい」
「私に手コキをして欲しいんですか? うふふ……細かな手作業は大得意なんです……♡」
「パイズリをして欲しい……? ……すまないが私は性的な事は主人にしかしないんだ」
「でしたら私の足コキはいかがでしょうか? とある人から足に関しては私が一番だとお墨付きをもらっていますから」
いつだか晩酌で酔った彼が会長の足裏が最高で仕事終わりの足を舐めてみたい、と言っていたから間違いないだろう。郁子然り桐香様然り体は2人の方が彼の好みらしいが、内面は私の方が好きだということになる。改めて実感できてちょっと嬉しかった。
「……久々に彼をイジメたくなってしまいました。今晩お邪魔してもよろしいでしょうか?」
手と足を精液で飾った桐香様の圧は断れそうもないものだったので、一言断りを入れてから彼を差し出すことに決めた。
「……郁子に搾り取られた後でしょうから、桐香様が満足できる結果になるかどうかは保証できません」
「交渉成立ですね……うふふ、待っていてください精さん……♡」
桐香様がここまで特定の誰かに執着するのはSS時代に反交尾勢力だった橘に対して以来だ。もしかしたら彼は人を引き付ける、あるいは誑かす魔性の男なのかもしれない。
巡回任務が終わったのでそのまま我が家に向かい、玄関のドアを開けると裸に黒いエプロンを身にまとったレイラが雑巾がけで掃除をしていた。
「おっ、お袋に冷泉院さんか。お帰りなさいアンドいらっしゃい。今ならあーしお手製の水羊羹と水出し緑茶が楽しめるぜ」
「まあ……ご賞味頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。甘いもん食って性欲高めて親父の相手をしてやってくれ。あの女部田さんが遂にダウンしちまった」
まさか2人は今の今までセックスし続けていたのか? 半日以上経っているのに? というかその言い方だと彼はまだやる気なのか?
「家が心配で学校早退して裸にエプロン着て家事してたら喉乾いたって裸の親父が2階から降りてきてな……もうバッキバキのビンッビンでさ。あれが昨日からずーっとセックスしてたヤツのちんこだとは思えねえな。多分、今の親父は性に関してだけは元に戻りつつあるから、お袋がアレの相手をしたら多分死んじまう。持ち帰り用の水羊羹と緑茶準備するから、親父を収めてくれねえか?」
レイラにここまで言わしめるとは。いったい今の精はどうなっているのだろうか。怖いもの見たさはあるが、それ以上に命の危険がある。
「まあ……♡それは良かったです……♡私寝取られフェチなんですけど、もしかしたら寝取りフェチの素質もあるかもしれないんです……♡礼、とびっこはよくても恨みっこ無しでお願いします……♡」
「えっ……あっ、は、はい……どうぞ……」
桐香様がシュルルと糸を舞わせながら2階に登っていった。ただでさえ彼は桐香様に勝ったことがないのに、記憶を無くしていたら勝ち目はないだろう。桐香様がいるなら覗いても大丈夫だろうから、レイラと一緒に後を追って寝室のドアをちょっとだけ開けて覗く。
「こんなおちんちんに勝てる訳ないよぉ♡」
「よく楽しんでおけ。天国にイってもこんな気持ちいい絶頂ショーは────」
「今度は私の番ですね……♡」
「何だこの女どっから現れた────がっ!? か、体が動かねえ!?」
「まずは這いつくばって私の足を舐めてください、精さん……♡」
「ッ!?!?!? んんんー!!!」
「まぁ……♡舐めただけで出ちゃいましたね……♡これはイジメ甲斐がありそうです……♡まずはそのまま足で顔を踏みつけちゃいます……♡」
「んんんッー!!!」
「そしたら射精したばかりの亀頭を足でぐちゅぐちゅしちゃいます……♡」
「ウワアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!」
桐香様が僅か数分でハットトリックを決めた。その後彼の情けない姿を見て蘇った郁子も参加して精子を潮で洗う、それはもう明日の洗濯当番が可愛そうになる光景が繰り広げられた。
「……乱入するか、お袋?」
「いや……流石に勘弁願いたい……」
翌朝、5歳ほど若返って見えた2人に感想を聞いた所、暫くあの状態でいてほしいと言っていた。なお、彼は流石に疲れて眠っていたが、きっちりと勃起したまま寝ていた。もしかしたら性欲に関しては本当に蘇ったのかもしれない。