俺の圧倒的な力を見せつけたはいいもののノロマンちゃんが良くない呼吸になってしまったため、俺が医務棟まで運ぶことになった。逆茂木ちゃんに案内してもらって町医者の診療室のような部屋にたどり着いた。そこにはボブっぽいようなショートヘアーに、青緑色のストライプのシャツの上から白衣を着た、いかにも医者ですといった女性がいた。
「おや……? 男性の刑務官ということは君が研修生くんかな?」
「ええ、本日からこの刑務所で研修することになりました九十九終です」
「自己紹介ありがとう。あたしはチューリップ・プリズンの専属医師とカウンセラーをしています、医務課所属、矯正医官の
なんとも丁寧なあいさつだ。思わず頭を下げてしまった。
「あまり、ひっ、揺らさないで、ひっ、ください……」
「あれ、太田部ちゃんじゃない? どこか具合悪いの?」
「久々に『金色の狂犬』の、ひっ、実践稽古を受、ひっ、けたらこうなりました……」
「ええ!? 太田部ちゃんを実戦でこうしちゃったの!? 九十九くん何者なの!?」
「まずはノロマンちゃんを診てください」
樋口さんが診断した所、ただのしゃっくりだということが判明し、落ち着くまでこの部屋にいることになった。頭の方はよろしくないが、体が頑丈なのが元一番隊の売りだ。
「お手数おかけしました。後ほどお礼に参りますのでお待ちください」
「普通に仕事をしただけだよ。でも、どんなお礼をしてくれるか期待しているからね」
パチンとウィンクをして俺を送り出してくれた。この異質な収容所の中での数少ない癒し的存在だろう。とりあえず所長室に戻って案内の続きを受けるとしよう。色々あったせいでこの刑務所について何も説明を受けていないのだから。
「失礼します九十九です。太田部さんを医務棟まで送り届けてきたので戻ってきました」
所長室の扉を開けると水城所長が書類を読んで椅子に座っていた。
「ありがとうございます。それにしても話以上の実力でしたね」
「身内読みの部分もありましたが、それでも自分の実力がどれぐらいか皆様に知ってもらえてよかったです」
「ただ……いくらあのような態度を取られたからといって、女性のセンシティブな部分に土足で踏み込むのはよろしくないですね」
「……後で夕顔看守長に謝っておきます。それはそれとしてこの刑務所について教えてもらえないでしょうか? 実を言うと、資料も碌に渡されていないので────」
「それはそうでしょうね。ここは表向きには存在を秘匿されているのですから」
所長の口から語られるこの収容所、いや『チューリップ・プリズン』は正に異様としか言えない、俺の知り得る中で最も過酷な環境だった。ここは「更生不能」と判断された性犯罪者(ここではHENTAIという)が収容される最後の施設で、受刑者は人権のほとんどを失い、矯正のための体罰も許されている。元は岩礁であり古い施設を転用していて、複雑な海流の中にある孤島で脱獄は絶対に不可能と言われている。また、性犯罪者をレベルによって分けており、その罪の重さが房あるいは囚人のヒエラルキーとなっている。この説明を聞いて俺はとある考えが思い浮かんだ。
「囚人の立場も経験しておきたいですね」
中々に壮絶な人生を送ってきた俺だが、流石に悪事を働いて捕まった経験はない。そもそも性的マイノリティへの偏見をなくそうとする人にやましい汚点があったら信用ならないだろうから、そういった法的問題を起こさないように努力義務を果たしてきた。故にこのプリズンならば囚われの身を合法的に経験できるだろう。
「……成程、確かにそれも悪くない案ですね」
所長としても、並外れた力を持つ囚人を看守がどう扱うかを見るまたとない機会になる。多少の手続きは必要になるにしても、それに見合った見返りは十二分に手に入れられるはずだ。所長はクイと眼鏡を正し、軽く笑って俺を見た。
「看守補佐としてある程度このプリズンを知ってもらったら、特別囚人としての研修を行いましょう」
「ありがとうございます。出来れば囚人番号は九十九とギリシャ文字の終わり24番という意味で9924が良いです」
「故郷でのコールナンバーω-99ですね。特別で良い番号だと思います。では────九十九看守補佐、改めて本日からよろしくお願いします」
こうして俺のチューリップ・プリズンでの研修が始まった。
看守棟の俺に割り当てられた部屋に荷物を置いて、お礼をするために樋口先生の所に向かう。
「失礼します。九十九です」
「おっ、待っていたぞ九十九くん。さあさあ、先生と色々お話ししようじゃないか」
キャスター付きの椅子に座った先生がポンポンとやすそうな丸椅子に俺を誘う。俺はホイホイと誘われてギシリと音を立てながら座った。
「体格と太田部ちゃんを倒したから事実から予想していたけど……九十九くん、めっちゃ鍛えているでしょ?」
「毎朝バーピージャンプ100回を3セットに全身の筋トレとランニングをして、特殊戦闘部で実戦訓練をしています」
「想像以上に鍛えてるね……ちょっと触ってもいい?」
「減る物じゃないのでどうぞ」
俺はシームレスにネクタイとスーツのボタンをはずしバッと上半身を晒した。ダビデ像と見紛うほどの筋肉に、樋口先生は口に両手を当てて驚いていた。
「うっひゃ~……バッキバキじゃない……何年かけたらこうなるの?」
「中学生の頃から鍛えていたから……最低でも20年ですかねえ」
「えっ、九十九くんって本当に私よりも年上だったの? 見た目が若いから同じぐらいだと思っちゃった」
「詳しくは言いませんが40手前とだけ」
いつまでも礼と若々しく荒々しく交わりたいと日々努力してきた甲斐があった。
「この体に支えられる奥さんが羨ましいなあ……」
「……あの一瞬で左手の婚約指輪の跡を見つけましたか」
「もっと言ったら……九十九くん、愛妻家でしょ」
この人もビシャーコック・ンホォムズのファンだろうか。なぜわかったのか聞いてみる。
「実を言うと、署長さんから君に関しての書類は渡されているんだ。何でも慢性外傷性脳症の既往歴があるんだって? だからあたしとよく話すかもしれないから知っておこうかなって」
「性格の所に愛妻家と書いた記憶はないですよ?」
「青藍島ってすっごくエッチな島で女性には困らないでしょ? なのに結婚したってことは────その人の事がすごく大切で、誰よりも大好きだからでしょ?」
この人は本物だ。ここまで的確なカウセリングが出来る人はなかなかいない。俺はわざとらしく目を瞑って肩をすぼめた。
「俺の研修が終わったら青藍島に来て、俺のかかりつけ医になってくれません?」
「うーん……悪くない話だなあ……」
先生がわざとらしく両手を組んで唸った。
「……あれ、じゃあ九十九終って名前が本名じゃないことも?」
「何かしらの事情があるんでしょ? 深くは追及しないよ」
なんとも素晴らしい先生だ。お礼に先生のカウンセリングをしてみるとしよう。
「話は変わりますが……ここでの生活は大変でしょう?」
「そりゃね~。何分一人で生きてかなきゃいけないから────」
「特に欲求不満が」
先生がピクリと止まった。
「……一人暮らしの女性が必ずしも欲求不満だなんて────」
「先生は俺の体を見て"触りたい"と言い、俺が肌を見せても驚くだけで特に何も言いませんでした。普通、初対面の男女でそういうことをやったら"服の上からだよ"と言うはずです。つまり最初から直で触るつもりだった……そこまで積極的になるのならそれなりに欲求不満なのではありませんか?」
先生もわざとらしく目を瞑って肩をすぼめた。
「最終手段で俺の上裸を見て愛液の匂いが強まったから、と言うつもりでしたがその必要はありませんでしたね」
「……あたしの助手にならない?」
「余裕が出来たらお願いします」
大げさにため息をついた先生がぽつりぽつりと言葉を降らす。
「……女は加齢で性欲が増すんだ。そんな中で九十九くんの情報が私の所に来たんだよ。金髪で釣り目でちょっと危険な雰囲気を醸す男性、でも既婚者だからなあと思っていたら出身はあの青藍島……ちょっと期待しちゃったんだよね」
俺の想定していた有事が早速やってきた。今から青藍島に戻って礼が取り上げた避妊具を取りに戻りたい。そんなことはともかく、据え膳を前にして手を出さないのは青藍島魂が黙っていないので折衷案を出す。
「避妊具がないので性交は出来ませんが、手淫ならいいですよ?」
「……それって不貞行為じゃない?」
「尻餅を着いたらお尻の穴に何かが入っちゃった、なんて事例はよくありますよね」
「医師の前でそれを言っちゃいますか……転んだのを受け止めたら偶々お股を触っちゃったってことにしようか」
先生に椅子から立ち上がってもらい、俺は上裸になってお姫様抱っこで安っぽいベッドに運ぶ。その間に上半身をベタベタと触られて気持ちが良かった。
「これはハマっちゃうかもなあ……」
「奇遇ですね、俺もです」
そのままベッドにふわりと仰向けに置いて先生を眺める。人の本質をしっかりと捉えて真摯に向き合う、フランクになった文乃ちゃんみたいな人だ。もちろん言うまでもなく美人で、この人が青藍島にいたら診察室が震擦室になるだろう。それでは九十九先生による震擦を始めよう。
「それじゃ、脱がしますね」
先生が軽く腰を浮かして脱ぎやすくしてくれた。薄茶の短いズボン、黒のストッキング、紫の下着と順々に脱がしていく。
「こ、これはかなり恥ずかしいなあ……手慣れ過ぎてて怖いぐらいだよ……」
「下着をスムーズに脱がせるようになるのは青藍島島民の義務教育です」
先生の秘部は蛍光灯を反射して映すまでに濡れており、抱えている欲求不満を露わにしていた。
「じ、自分ではしたことあるけど……人にしてもらうのは初めてだから……ね?」
先生が不安そうに俺を頼ってきたので、ニコリと優しく微笑んで割れ目に指を沈めた。
「ひゃん……へ、変な声聞かせちゃったかな……?」
「良い声ですよ。演技や混じり気の無い、心から気持ちよさそうな声です」
「な、ならよかった……そ、それじゃあ、遠慮なく声を出してもいいかな……?」
「他者にバレたら流石にいい訳できないので、枕で抑えた方が良いかと」
それもそうかと先生が枕で顔を隠した。顔が見れないのは残念だが、目隠しプレイだと思えばそれはそれで滾る。これでお互い準備完了なので、小陰唇を指の腹でまるで精密機械を扱うようにゆっくりとなぞっていく。
「……っ!」
ぬるりと動かすたびに先生が悶えて震える。物理的な刺激は当然、性が禁止されたこのプリズンで、あったばかりの医師と研修生がこのような事をしている、という背徳感がより快楽をもたらすのだろう。愛液もシーツに染みを作るほどにあふれている。
「先生はクリトリス派ですか? 膣派ですか? Gスポット派ですか?」
俺の質問に枕越しからか細い声が聞こえる。
「……Gスポットでイッてみたい……」
未開発だと保証は出来ませんよと念押ししたうえでGスポットを刺激する。
「──っ!!!」
その途端、先生が大きく仰け反ってシーツに大きな染みを作った。どうやら生まれながらの素質があったようだ。
「おめでとうございます。先生は選ばれた人間ですよ」
「つ、九十九くんが言うなら……間違いないだろうね……」
枕から覗く先生の顔はほわっと気持ちよさそうに赤くなっており、そしてどこか恥ずかしそうに笑っていた。
2人で後片付けと事後工作を行い元の部屋の様子に戻した。これなら天井から覗きでもしていない限り、誰も俺と先生が秘め事をしていたとは思わないはずだ。
「いやー……すっごい事しちゃったけど、すっごい気持ちよかったよ。ありがとう九十九くん」
「これでお互いに弱みを握り合いましたね。良いお付き合いが出来そうです」
「おっとそう来たか……でも、九十九くんは悪いことするような人には見えないから大丈夫かな。それじゃあ、この関係を祝して……アメちゃんどーっちだ?」
握り締めた左右の拳が俺に差し出された。普通の人間ならどちらか1つを選ぶだろうが、俺は普通の人間ではないので両手を両方の拳の下で開いて差し出した。
「どっちもで」
「やっぱり通じないか」
両方の拳から赤いアメが出てきた。俺は2つのアメを右手にまとめて先生に返そうとした。
「どっちと言われて両方を選ぶような悪人には過ぎたものですね」
「九十九くんはそれを分かって遠慮できるいい子だから特別に1個だけあげちゃおうかな」
先生は1個だけアメを取りパクっと口に放り込んだ。この人は信頼できる、そう思った俺はアメを先生と同じようにパクっと口に放り込んだ。