思い上がった新兵数名をシバきあげ、俺の身体能力が郁子先輩に伝わった所で次のステップに進む。
「それじゃ武器を使った戦いだよ。これも精くんの武器だよ」
鞘と持ち手を金色で柄が何からの花の形をしている、彼女の佩いているものとよく似た長刀を渡された。
「二丁拳銃に刀か……距離を選ばずに戦うためか?」
「本当は糸と羅漢銭もあるんだけど、流石に今の精くんじゃ扱えないだろうからね。まずはあたしに一発当ててみてよ」
彼女が余裕そうに俺の前に立ったので遠慮なく右手で縦に振り下ろす。彼女は笑顔のまま軽く横に跳んで回避した。
「アハハ♪ そんな振り方じゃ何万回振っても当たらないよ♪」
「覚えてねえからしょうがねえだろ……!」
今度は両手でしっかりと握って連続で振るう。軌道を読ませないように縦横斜を織り交ぜた連撃のはずだが、彼女はニコニコのままだ。
「うんうん、準備運動にはもってこいだね♪」
「マジかよ……だが、何となく分かったことがある。多分コレと併用するための刀だ」
いくら何でも両手で振るには軽すぎる。だから右手だけで刀を持ち、左手で拳銃を抜き彼女に突きつける。すると彼女の笑顔がより嬉しそうな物になった。
「へぇー……それにはすぐ気付くんだね」
「この距離なら回避できないだろ」
「試してみたら? でも、引き金を引かれたらあたしも本気に────」
言葉を遮るように発砲し、同時に刀を横に一文字に振り抜く。これならどう避けてもどちらかは当たる────視界がぐらっと上を向いて、頭にもにゅんと柔らかい何かが当たった。
「イクちゃんのおっぱい枕はどうですか精くん♪」
先の状況では上方向に回避していたらどちらかに当たる。つまり下方向、もっと言えば開いた足の両脚の間を潜り抜けて回避したのだ。咄嗟の判断力、体の俊敏性、俺の頭を守る余裕、どれをとっても今の俺では足下に及ばなかった。俺は彼女の胸に頭を置いたまま両手を上げた。
「毎晩これで寝たいが……あんたの胸への負担を考えたら、強くなる度のご褒美って所にしてもらうのが現実的だろうな」
「意外と理性的だねー。連日絞られて性欲無くなっちゃった?」
ご名答と返しながら立ち上がろうとした所に足を引っかけられ、今度は前面から彼女の胸に顔を預けた。
「それじゃあ……ここからはエッチの訓練だよ……♡」
淫靡な囁きによって股間に血が集まる。花のような甘さとムッと来る汗の匂いによって完全に勃起してしまった。
「……アンタの性欲はどうなってんだ?」
「礼ちゃん公認で精くんを好きにできるから無限だよ♡」
確か全盛期の俺は1日中射精できたと礼が言っていた。性力に関してもしっかりと取り戻しておきたいものだ。最低でも彼女に何時でも何回でも絞られてもいいようにしないと。
身チン共に限界まで絞られて迎えた昼休憩、俺は社員食堂で暴食の限りを尽くしていた。
「いくら食っても腹が満たされねえ……! どうなってやがる……!?」
塩サバ、焼き鮭、アジフライ、エビフライと4つの海鮮系の定食を食ってもなお足りない。そんな俺に見知った2つの顔が近づいてきた。
「精さんの身体が元に戻ってるからじゃないっすかね?」
「それもあるかもしれないが、必要な栄養素が摂れていないのかもしれないね。僕のデータによると、今の精くんは明らかに亜鉛が足りてないね。海鮮系なら牡蛎や鰻を食べることを勧めるよ」
「でもここからそんな贅沢なもの食べたら太るっすよ? ススのするめ分けてあげるっす」
スス子から渡されたするめを噛みしめる。噛めば噛むほどジワリと出てくる旨味が心地いい。
「しかし精さんも大変っすね。郁子パイセンに振り回されて、まるで学生の頃に戻ったみたいっす」
「一番隊の最強最エロコンビなんて言われてた頃が懐かしいね。α-1とω-99のコールナンバーは2人を讃えて今でも空き番なんだよ」
俺と彼女はそれなりのお付き合いをしていたようだ。だとしたら不思議なことがある。
「何で俺は礼と結婚したんだ? 話を聞く限り郁子先輩と結婚しそうなもんだが……」
俺の疑問を聞いて2人は顔を見合わせ、これだから精くんはといいたげに笑った。
「そりゃもうススにロマンティックなことがあったんすよ」
「あの話は僕のデータでも受け止めきれないほど感動したね……思い出すだけでも涙が滲むよ」
その話を聞けば多少は俺を思い出せるかもしれないと思い、するめを飲み込んで頼み込んでみた。
「うーん……話したいのは山々なんだが、礼さんから絶対に言うなってキツく釘を刺されているんだ……」
「でもでも、礼パイセンやセレンくんやレイラちゃんのことは止められてないっすよね?」
「なるほどその手があったか! 3人のデータはばっちり取ってあるから何でも質問してくれたまえ!」
それでいいのかと一瞬思ったが、それでも俺に繋がる情報が欲しかったのでまずは礼について質問した。
「礼さんだね。本名は土口礼で旧姓は糺川だよ。誕生日は2月13日、血液型はO型、かつては風紀委員会委員長及び鬼教官として精くんを含めて多くの逸材を指導していたんだ。結婚して家庭ができた今ではすっかりその怖さは無くなってしまったけど、指導力は相変わらずだね」
「戦闘力はどんなもんだ?」
「一般的なSHOガードマンよりは強いけど、流石に全盛期の精くんや郁子さんには劣るかな。今の精くんとならいい勝負すると思うよ」
今の俺はそんなに落ちているのか。夫婦間に力の上下関係があるのはよろしくないかもしれないが、俺の男としてのプライドが礼より弱いということを許したくない。続いて俺を完膚なきまでに打ちのめしたレイラについて聞く。
「レイラちゃんだね。本名は土口レイラだよ。誕生日は8月19日、血液型はA型、土口家のやんちゃプリンセスとしてご近所で知らない人はいないね。成長への貪欲さと剥き出しの向上心で青藍島最強の名を手にしようとしているけど、このまますくすくと育ったらその名を手にするだろうね」
「……一応聞いておくが、戦闘力は?」
「子どもながら郁子さんといい勝負をしているよ。一番隊の人たちはうかうかしているとあの子に座を奪われると冷や冷やしているらしいね」
苦くしょっぱい雪辱の味が込み上げてきたのでスス子からするめのおかわりを貰う。あの敗北は俺の人生で消して拭うことのできない物になるだろう。最後にセレンについて聞く。
「セレンくんだね。本名は土口セレンだよ。誕生日は11月23日、血液型はA型、土口家の優等生プリンスとしてすでに各方々に活躍を残しているね。SHO本部への職業体験、NLNSへの臨時お雇い、家庭への家族サービス……本当にあの土口精の息子かと疑われるのはいつもの事だね」
「……不思議とセレンが戦う印象がないな」
「郁子さん曰く、一番隊のトレーニングに平然とついてこれる程の素質はあるけど、穏やか過ぎる気質が戦いに向いてないらしいよ。よほどの事がない限り戦うことはないんじゃないかな?」
我が家に襲撃者が来た時の話でも、セレンではなくレイラが戦ったらしいから間違いないだろう。
「ベルさんがここまで真っ当なデータを出すなんて……明日はカエルでも降ってくるっすかね?」
「どうだい精くん? 少しは役に立ったかな?」
「役には立ったが……頭の片隅に留めておくとするよ」
家族の話を聞いても全くピンとこず、俺に関しての記憶は戻らずじまいだった。どうやら俺の記憶は周辺情報を知ったぐらいでは取り戻せないようだ。俺の根幹を成す様な重要な何か、あるいは走馬灯の如く全てを知るでもしないとダメなのかもしれない。
昼休憩を終えて再び彼女から指導を受ける。刀と銃の正しい扱い方及び彼女の好みの体位を教えてもらい、またギリギリ限界まで実践した。
「流石精くんだね。たった1日でここまで戻るとは思っていなかったよ」
「い、1番隊の奴らからの視線が人間を見るものとは思えねえんだが……?」
「実際人間離れしてるもん。あたしだって歳をとってそれなりに衰えてきたのに、記憶を失う前の精くんは戦闘能力と性欲は現役を維持していたからね」
「せ、性欲に関してはあんたも同じだろ……」
「ううん、あたしはもっと強くなっちゃったよ♪」
だろうなと思いながら訓練場から見える夜空を仰向きで何となく視界に入れる。ただ広く果てなく延々と広がる星空は、まるで本当の俺を探しを映し出しているようだった。それでも進み続け強くならなければ届くことはないだろう。起き上がって帰宅準備をしようとした所、彼女があっそうだと何かを思い出して話しかけてきた。
「この後飲み会があるんだけど、精くんは参加する?」
飲み会と言えば浮かれて酒を飲む場所だ。その中だったら誰かがうっかり俺の正体を言うかもしれない。なら参加するしかないだろう。コクコクと軽やかに頷いて参加を決めた。
「折角嫁さんから離れたんだ、たまには乱痴気騒ぎも良いだろう」
「たまにはイキヌきしないとやってられないからね♪ それじゃあ行こっか♪」
ということで『二回シた』という焼肉屋にやってきた。まだ1団体しかいないにも関わらず、俺の姿を見て驚きの声が上がり始めた。
「精!? 何でお前がここに!?」
「記憶喪失になったとお聞きしましたが……お体の方はよろしいのですか?」
「だいぶ雰囲気変わったわね……信じられないぐらい大人しくて不気味なのだわ……」
「でも焼肉に来るあたりあんまり変わってないですね。また私と一緒にこの店のカルビを食べ尽くしましょうよ!」
「大丈夫ですよ精さん。食べ滅ぼし系はコイツだけで十分ですから」
「精くん……」
背の高い青年、淡い色をした髪の女性、泣き黒子のすごい美人、ふくよかな女性、片目の隠れた女性、小学生ぐらいの女の子と中々に個性的なメンツだった。今の俺を見てこの反応ということは、間違いなく以前の俺を知っている人間だろう。つまり、以前の俺が知っている人間でもあるはずだ。
「……ダメだ、全く覚えがねえ」
旧知の仲の人間に会うだけで記憶が戻るのなら、これほどまでに苦労する必要はない。諦めて改めての自己紹介をする。
「初めましてということにさせてくれ。俺は土口精。記憶喪失でかなりの情報が抜けてるから自分を知りたい。だから俺についての情報を言える奴は遠慮なく言ってくれ」
俺の言葉を聞いて6人が露骨に目を逸らす。コイツら俺に関しての情報は言えないらしい。なら俺が関わりを持つ必要は何一つない────
「ねえ精くん……本当に礼ちゃんのこと忘れちゃったの……?」
小学生ぐらいの女の子が俺に駆け寄って、涙を浮かべながら見上げてきた。何もしていないのに俺が悪い事をしたような気分になったが、嘘を吐いても仕方がないので事実を話す。
「……ああ。礼が俺に何をしたのか、俺が礼に何をしたのか、何もかもを忘れちまった」
「…………そうだよね……じゃなきゃ礼ちゃんは……」
そこまで言って少女は口を噤んだ。何か言いたいのか、それとも涙を堪えるためか。俺には分からないが、少女には相応の事情があるのだろうか。このままだとせっかくの酒の席が台無しになりそうなので、少女の目線の高さを合わせて頭を正面から見つめる。
「安心しろ。本来の俺に戻れば礼のことも思い出すはずだ。そうすれば何もかもが元通りさ」
「…………精くんの分からず屋さん」
いい慰めをしたと思たのだが、少女は不服そうに俺から離れていった。子供には難しい話だから仕方がないかと軽く笑って席に着く。
「軽くレモンサワーからいくかね。もちろん濃い目炭酸強めで」
「あっ、待って精くん。精くんにその注文は……」
郁子先輩から待ったがかかったが、まあまあと笑って注文する。
「別に医者からは食事制限は言われてないぜ? それに食前酒は食欲を進めるから飲んでおいたほうがいい」
「……今の精くんには言っても分からないか。その身でしっかり味わってね」
やけに含みのある言い方だったが関係ない。灰色の髪の死んだ目の女性店員からレモンサワーを受け取って口にする。バチバチに弾ける炭酸、気泡に乗って広がるレモンの香り、舌にグッと来るアルコール────最高に美味しかった。
「何だコレ!? こんなに美味い飲み物がこの世にあったのか!?」
「アレ? もしかして味覚が変わったせいでお酒飲めるようになったの?」
残りを一気に飲んで爽快感に頭をぶん殴られる。これはいい飲み会になりそうだ。
「おかわりだ! 肉も持ってこい!」
大分気分が高揚してきた。そして店員が2杯目を運んでき────
やけに顔と下半身から刺激を感じる。
「じゅるる……♡味覚は変わってもお酒に弱い体質は変わらないみたいだね……♡」
生暖かい何かが顔と下半身にあてがわれている感じだ。
「んふぅ……♡そしてお酒飲むとすぐに体に出るんだよね……♡」
今度は下半身を押しつぶす様な圧が断続的にかかってきた。
「あぁん……♡媚薬飲ませるよりも効果が出るからすごいよね……♡」
そして下半身に、いや陰茎に火花が散ったような快楽が走る。
「んぐぅ……♡あはっ……♡出しすぎだよぉ……♡今日だけで何回出したと思ってるの……♡」
「……10回から先は覚えてねえ」
「正解は17回だよ……♡このまま抜かずに後に2回出せば19回だよ……♡」
ちらりと見えた時計は23時半を指していた。
「因みに一番スゴい時の精くんは1日で45回射精したんだよ……♡これは誰も超えてない最高記録だよ……♡」
俺が身体能力を取り戻す日はまだまだ先になりそうだ。