「やっぱりここにいたか……相変わらずだな……」
俺の背後から礼の声が聞こえてきた。まるで俺がここに来ることをあらかじめ知っていたかのような口ぶりだった。振り返って見たその顔からは呆れと諦めと悲しみといった、とにかく決して明るいものが含まれていない事だけは理解できた。
「礼……俺は────」
「どうすればいいか、だろ? 本当に記憶を失っているとは思えないな……」
もしかしたら俺は過去に何度かこんな風に礼に頼っていたのだろうか。しかし、今回は今までと明らかに違うだろう。彼女が震えながら涙をこぼしているのが何よりもの証拠だ。
「でも……桐香様と話して青藍島規制の真実を聞いたんだろ……? だとしたらもうどうしようもないことぐらい分かるはずだ……兵力、権力、財力、ありとあらゆる力で勝てない相手なんだ……」
「……まだ分からねえだろ……俺が本当の俺を取り戻せばまだ────」
「いい加減に分かれ! 今更本当のお前を取り戻したってどうにもならないんだぞ! いや、取り戻したらもっと悪くなるかもしれないんだぞ!」
彼女の言い分も分からなくはない。かつての俺の行動が今の青藍島の惨状に繋がっているのだから。
「もうお前だけじゃなくて青藍島の全てが無くなってしまうかもしれないんだぞ!? お前が大好きで、生きていた、たった一つの故郷が無くなるかもしれないんだぞ!? そんなの私には耐えられない! だからも何もしないでくれ!」
彼女が俺に縋りついて涙を流す。何も知らない俺なら邪魔だと跳ね除けただろうが、彼女がこうなってしまった原因が俺であると知った今の俺にはそんなことは出来ない。だから、最早こう言うしかなかった。
「……分かった……もう休むよ……」
「え……?」
驚いた顔で見上げた彼女の頭を撫でて、諭すように語り掛ける。
「もう……疲れちまった……引退して仕事も辞めて……家族皆で幸せに暮らそう……」
「精……」
「今まで心配かけて悪かったな……これからは家族サービスに専念するよ……」
服を着直してから彼女を優しく抱きしめて謝る。これでいいはずだ。これで皆幸せになれるはずだ。ならいいじゃないか。だから────俺は泣いているんだ。
家に帰って子供2人に今後の展望を話す。
「……ということで俺は仕事を辞めて残る余生を大人しく過ごすつもりだ。金に関しては程々に遊んで暮らしていける程あるし、こんじきわんこ先生として大ヒット作品を売り出せればもっと遊べるはずだ」
「おいおいマジかよ親父……!? 何をどう考えりゃそうなんだ……!?」
いつも通り下着姿のレイラが俺の服の裾を掴んで揺さぶってきた。早く放してもらうためにも全部話してしまおう。
「今の青藍島の規制は全部俺のせいなんだ……もう何もしないためにも全てを諦めるって決めたんだ……本当の俺を取り戻すこともな……」
「んだよそれ……! それでもお前は────」
「止めるんだレイラ……お父さんだって苦しい決断をしたはずだよ……」
セレンがレイラを両手で止めて俺から引き剥がす。顔一つ変えず行っている所から彼の素質がうかがえる。
「オイコラ兄貴! こんなところで馬鹿力を発揮するんじゃ────」
セレンが何か耳打ちをしてレイラを大人しくさせた。話術も中々の物があるらしい。
「……それじゃあ、僕たちは一旦寝るね。おやすみなさい」
子供達が寝るというのだから俺達も寝ることにした。翌日、仕事が始まる前に会長室に向かい、部屋の主に辞表を叩きつけて全てを投げ出すことを告げた。
「全てが嫌になったとでも思ってくれ。もう何もしない、というか何もしたくねえ」
会長サマは何も言わずに一度だけ首を縦に振って背中を向けた。受理されたとみなし、足早に部屋を出る。
「…………青藍島に迷惑かけて悪かったな」
「…………いえ、あなたのおかげで青藍島は良くなりましたから」
SHO本部を出る直前、慌てた様子のスス子とシューベルトに絡まれてしまった。
「仕事辞めるってマジすか精さん!? 何か嫌な事でもあったっすか!?」
「僕のデータで対応できることなら何でもするよ!?」
「…………嫌な事がありすぎたんだ。お前達じゃどうしようもねえから仕事しろ」
あまりにも俺らしくもない返答に2人が言葉尾を失って固まった。その隙に帰ろうとしたら今度は郁子先輩が現れて、俺の肩をゆさゆさしながら話しかけてきた。
「ちょちょちょっと精くん!? どうしたの!? 24時間搾精の刑にかけられた後よりも酷い顔してるよ!?」
「…………仕事を辞めたんだ。これからはムラついた時はいつでも呼んでくれていいぜ。礼からの許可が出たらいくらでもセックスしてやる」
「ウソ、でしょ……?」
「…………会長サマに聞けばすぐわかる。早く帰りてえんだ、放してくれ」
郁子先輩が手を放した、というよりは力を無くして手をするりと落したから解放された。それからも何人かに話しかけられたが同じ調子で躱していき、ついに我が家に帰ってきた。まだ正午も回っていないのに家にいるという幸せは、真っ当な社会人では味わえない幸せだろう。幸せを噛みしめたら空腹を自覚したので、凝った料理でも作ってしまおう。
「……そう言えば礼が俺の入院中に滞在したホテルの近くでいいイタリアンがあったって言ってたな……海鮮系のパスタでも作ってみるか」
スマホをスイスイと操作してレシピを調べる。気分的にアサリの酒蒸しのパスタを作ってみることにした。ショッピングモールで具材を準備している最中、礼からメールが来た。
『仕事を半休にしたから今日は楽しみたい』
なんとも嬉しいお誘いだ。それではさっそく作っていこう。フライパンにオリーブオイルとニンニクを入れて熱し、いい香りになってきたらアサリと白ワインを入れてアサリの殻が開くまで蒸し煮にする。次にスパゲッティをたっぷりのお湯と適量の塩で茹でる。俺は麺は硬めが好きなので表記時間よりやや短めに茹でる。
「ただいまー……おっ、何かおいしそうな物でも作っているのか?」
愛しの妻が帰ってきたので楽しげな声を作って出迎える。
「ボンゴレビアンコを作ってるんだ。お風呂は……食べたら一緒に入ろうか」
「……それがいいな。それじゃあ私は食器とか飲み物とか準備するぞ」
食卓の準備を彼女に任せている間に茹で上がったスパゲッティとアサリを混ぜ合わせる。良い感じになったら深めの皿に盛り付け、最後にパセリを散らして完成だ。
「おまちどうさま。『ボンゴレビアンコ~娼夫風仕立て~』だぜ」
「風と仕立てって両立するのか……? まあいいか、いただきます」
硬めの麺が貝の旨味とニンニクの香りを纏い、華やかに抜ける白ワインの香りがとても心地いい。確か殻付きの貝が入っているパスタは先に麺を食べて伸びないようにし、そこから貝を楽しむものだと先のレシピに書いてあった。ならばそれに則って楽しむとしよう。
「私は貝と麺を同時に楽しんじゃうけどな……うん、相変わらず料理の腕は落ちていなくて安心するよ」
「折角の白ワインなんだ、退職祝いの祝杯にもしようぜ?」
「……程々にしておけよ? お前は酔うと手が付けられないからな」
郁子先輩の時にやらかして理解しているので、お洒落なワイングラス2つに一口分だけ注いでグラスを掲げる。
「チンチン」
「ぶっ……それも覚えているのか……まあ、青藍島民は皆それで乾杯するからな……」
カチンと鳴らしクッと一気に流し込む。調理用に買った安物だが気分を盛り上げるのには悪くなかった。食事が終わって食器を片付けた頃には酔いも回ってきて、すでに理性がぐらついていた。そのまま彼女に抱き着いて耳元で囁く。
「……お風呂は後回しにしても良いか?」
「……奇遇だな、私もそうしたかった」
今の2人を止める者は誰もいない。料理や汗の匂いを漂わせたまま寝室に向かう。
ベッドに辿り着くや否や彼女を押し倒して服を脱がせていく。
「礼……! もう我慢できない……!」
「私もだ……! 早く脱がせて……滅茶苦茶にしてくれ……!」
彼女も俺の服を器用に脱がせていき、ほぼ同時に一糸纏わぬ産まれたままの姿になる。以前よりも引き締まった体は美しさを引き立てながらも、胸や腰や尻といった雌の部分が強調され強烈な扇情効果があった。
「礼……! 礼……!!」
「精……! 精……!!」
最早名前を呼ぶ事しかできず、それさえもお互いの唇で塞がれてできなくなる。絡み合う唾液の糸が2人を繋ぎ、もっと深く繋がりたいとお互いの欲望を加速させる。
「それじゃあ挿れ────」
「ま、待って……今日はコッチがいい……」
礼がギリギリ理性に抗って四つん這いになり、ムワリと雌の熱気と匂いを振りまいている尻を向けた。なんとなく糸を察した俺は彼女の肛門に指をあてがった。
「んひゃう……♡ゆ、指じゃなくってぇ……♡」
「分かってる……じゃあ、挿れるぞ……」
肛門での性向は青藍島でも危険な行為らしい。故に両者の合意と技術が必要なのだが、彼女が誘っているのだから問題ないだろう。その好意に、いや色欲に溺れて肉棒を沈める。
「っぐぅ……!」
入り口はまんこより締まり、中は生暖かい空間が広がっていた。
「ふあっ、んぐっ……はああぁっ……この感じ……久しぶりだぁ……♡滅多にしてくれないから……ずっと待ってたんだぞ……♡」
これだけの気持ちよさでありながら避けていた理由が全く分からない。ただ、乱暴に動かしては彼女に甚大な負担がかかるだろうから、ギリギリの理性を枷にしてゆっくり腰を動かす。
「私の、アソコ、ぉっ……旦那様の、アレに突かれっ……てぇ……♡すっごく、んっ……♡ジンジン、して、ますぅ……はんっ♡」
「アソコだのアレだのじゃ分からないな……! もっと正確に報告してもらおうか……!」
「うぁ……私の……あ……アナル……っ♡旦那様の、ぉ、おっ……おちんちんに、突かれてぇ……あっ、ん……♡さっき、から……♡ずっと、気持ちいいの……止まらない、ですぅ……ひゃぁぁ♡もっと……もっと、気持ち良くっ~~♡気持ちよく、して、ほしいです……旦那様……っ♡」
どうやら彼女は快感に身を委ねると俺の事を旦那様と呼ぶらしい。俺としても征服欲が満たされていく感じがしてたまらない。
「もっと言ってくれ礼……! 俺はお前の最高の旦那様なんだ……!」
「っ……あ、ああ……最高の旦那様ですぅ……♡」
その言葉と共に頭とちんこに痺れが走る。酔っていると色々我慢できないようだ。
「あっは♡そろそろ限界みたいだね……んっ、ああ……い、いいよぉ~、出して……旦那様の精液で直腸を叩かれるの気持ちよさそう♡イッちゃえ、イッちゃえ~♡遠慮なく精液、ぶちまけちゃえ♡」
彼女も酔いが頭に来たのかかなり淫靡になっている。ならその言葉通りにぶちまけるとしよう。
「ならアナルセックスで3人目を孕め!」
「ケツ穴イぐっ、ケツマンコでイくっ♡おっ♡ごおっ♡ほおおおおおおおおおおオオオォオっ♡♡」
腸壁を越して子宮に届くのではないかという勢いで射精をする。肛門はまんこと違い精液を求めるのではなく、ただ受け止めるように優しくうねりを上げる。
「んはぁ♡びゅるびゅるって、ザーメン出てるぅ♡アツアツのザーメン、ケツマンコで暴れてるぅ♡」
彼女の顔は見えないがとても嬉しそうな声を上げている。これなら問題ない────安堵していたらヌポンと肛門からちんこを引き抜かれ、彼女に押し倒されて顔面騎乗の形になっていた。
「あはぁ……♡いくぞ旦那様……♡マンコとケツから同時におもらしするぞ……♡んんっ♡」
彼女がブルリと震えると同時に俺の口にブッシャアと生温かな液体が注がれ、喉元にぶぴぴと生温かいゼリー状の物が垂れてきた。
「ああぁ~……♡この時が堪らないんだ……♡旦那様ぁ……私の恥ずかしいおもらしいっぱい見てぇ……♡おしっこいっぱい飲んでぇ……♡」
どうやら俺は以前から彼女の尿を飲んでいたらしい。だからレイラに負けた時に既視感が────
やけに不快な匂いを感じる。酸っぱくて、えぐくて、やけにプンと来る匂いがある。
「だーから酒飲んでヤるのは止めろっつってるんだよお袋!」
「ごめんなさい……退職祝いだからってつい甘くなっちゃって……」
レイラの怒声と礼の消え入りそうな声が聞こえる。
「親父はションベンとゲロに塗れてるし、お袋は下から出せるもの全部出してるし! 学校から帰ってきてこの光景を見るあーしたちの身にもなれよ!」
「ごめんなさい……反省してます……」
それは最悪といってもいいだろう。人生で一度たりとも経験したことない地獄絵図だ。
「しかもこれで2度目だぞ!? 去年の結婚記念日にやらかしたのをもう忘れたか!?」
「ごめんなさい……でもアナルセックスがしたいなんて酒の勢いを借りないと恥ずかしくて……」
「一言一句同じ言い訳をするんじゃねえよ! 今月のお小遣いを2倍以上にしねえと今日の事をSHOの皆様に言いふらすからな!」
「どうかこの事は内密にしてください……好きな額渡しますので……」
俺は親として止めるべきなのかもしれないが、彼女は親として受け入れいているから何も言わないほうが良いのかもしれない。
「まあ……お母さんがはっちゃけた時に止めるのはいつもレイラだから、お父さんは何も考えなくていいんじゃないかな」
掃除をしているセレンがそういうのだから俺は何もしないほうが良いだろう。