※この作品はR-18です。

ゴールデンマッドドッグ イン プリズン   作:神剣狩刃

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8-66 陰を固める

 ラーレのビルで情報を手に入れるや否や、俺は家族に全てを話した。

 

「ということでプリズンに行くことが決定した。応援してくれ」

 

 家族から何度もこの流れをやっているかのような軽い笑い声が聞こえた。

 

「相っ変わらずだな親父は。急にとんでもないことを引き受けて、あーしたちには簡単に協力を申し出る……我が家の恒例行事だぜ」

「一番すごかったのはドスケベランドのアトラクションのアイディアだっけ。それで青藍島を発展させていこうとしていたから何も文句はないけどね」

「最初からそのつもりだ。遠慮せずに全力でやってこい。帰ってきたら青藍島総出で祝ってやる」

 

 家族の了承があるのなら俺を邪魔する者はいないだろう。これで作戦会議に集中できる。早速N向かいの橘家兼NLNSの集い場に向かう。その作戦会議室リビングにはすでにNLNSのメンバーが集まって俺を待ち構えていた。恐らくラーレが手配していたのだろう。ならお互い準備万端のはずなので話を始める。

 

「それじゃあそちらの作戦を教えてくれ」

 

 待っていましたと言わんばかりに淳之介がタブレットを起動して作戦を説明し始めた。

 

「俺たちが頼まれたのは湊柊一郎の回収とお前をプリズンまで送り届けることだ。現場は孤島だから美咲が運転する小型ボートで向かうことになる」

 

 ラジャラジャですと美咲なる存在が敬礼をする。曰く戦闘機すら操縦できるそうなので、そのドラテクに期待するとしよう。

 

「ただ、ボートで接近したら迎撃される可能性が高い。そこでお前にはコレを扱えるようになってもらう」

 

 彼がどこからともなく真空パックを持ってきて、そこから薄べったい何かを取り出した。そして彼がスイッチを入れると、バシュっと空気音がして成人女性を模した人形になった。

 

「かつて俺たちが旧ドスケベ条例から逃げる時に使っていた改造空気嫁(ダッチワイフ)"噴射嫁(ジェットワイフ)"だ。これを利用してお前には近づいてもらう」

 

 空気抵抗とかを考えると、水面に寝そべった状態で体中にこれを巻き付けるはずだ。その光景はどう考えても異様、ややもすれば滑稽でしかない。とはいえこれが一番現実的だから仕方がないだろう。

 

「数は足りるのか? これ自体を多く持つだけでそれなりの重量になるだろ?」

「お前の体重と武装を考慮しても、十数人いれば飛んでいける計算だな」

「なら安心────待て今飛ぶって言わなかったか?」

「ボートだったら迎撃されるって言っただろ? それに海より空の方が速い」

 

 コイツひょっとして馬鹿じゃないのか? しかし彼らの協力がなければこの作戦は遂行できない。ここは黙って提案を飲んで、この噴射嫁を上手く扱えるようになるとしよう。

 

 

 水上訓練ということもありヌーディストビーチの一角を借りて訓練を開始する。以前礼が使っていた金色のヘルメットを装備し、"天手力機構"を立ち上げてナビゲート音声に耳を傾ける。

 

「今回のサポートは使用経験が一番多い俺こと橘淳之介が担当する。準備は良いか精?」

「良くなくてもやるしかねえだろ? 早く説明してくれ淳之介」

 

 ということで彼から説明が入る。俺の両手にはそれぞれ350mlのペットボトルぐらいのリモコンがある。右手には1から8番、左手には9から16番のボタンがあり、それぞれが対応した噴射嫁を起動するスイッチになっている。噴射嫁はその性質上一度起動したら出し切るまで止まらず、微調整は俺の身体の体勢でしなければならない。

 

「それじゃあまずは2本起動から始めてくれ」

 

 指示に従って1と9を起動する。バシュンと勢いよく肩の辺りから空気が吹き出し俺の身体を大きく押す。前のめりに倒れそうになるのを何とか堪え、指示が来る前に8と16を起動する。

 

「あっ、そうか……肩から足にかけて装備しているから4本同時に起動しないと危ないのか……」

「ば~~~~~っかじゃねえの!? それでも使用経験あるのかよ!?」

「移動方法としてやるのは初めてだから……」

「これで事故ったらすべておじゃんになるのを忘れんなよ!?」

 

 これでバランスが取れたので跳んで空中移動を開始する。体にしっかりと風を感じ、モニターには30㎞/h前後の表記が出ている。軽車両の法定上の最高速度であるソレは、一歩間違えれば悲惨な事故になることを告げている。とりあえず何とか直進することはできるが、曲がれないようではでは間違いなく撃ち落とされるだろう。肩と足をわずかに傾けて軌道を────全ての推進力をを曲げるのに使うと、その場で回転してしまうというのに気付いた時にはもう遅かった。

 

「あばばばばば!」

「大丈夫か精!?」

「お、お前の事、馬鹿に、できないない、なああああ!」

 

 気合いで立て直した頃には噴射が終わりそうになっていたので、残りの噴射嫁を起動して曲がり方の練習をする。

 

「真横に向けるんじゃなくて斜めにする感じで……! というか腰や背中に着けてる奴は前に進む用にしかならねえな……! だから最初に点火するのはこいつらだ……!」

「すごいぞ精……! たった一回の飛行でここまでうまく扱えるようになっているなんて……! 流石はこん、今日で青藍島最強とままで言わしめただけの事はある……!」

「つっかかるようなお世辞はいいから指示しろよ……!」

 

 空気の続く限り飛び回り、二度目の飛行に挑もうとした時だった。

 

「とても面白そうなことをしていますね、精さん? あら、先輩もご一緒でしたか」

 

 白い布を纏っただけのような服装の会長サマがゆらりと現れた。プリズン特攻の練習だと教えたら嬉しそうに笑って淳之介のタブレットを持った。

 

「折角ですから私が指示を出しましょう。実は天手力機構の初代オペレーターは私だったんですよ」

「懐かしいですね。あれが無かったら文乃が危ない所でした」

「昔話に花咲かせるのもいいが早く練習させてくれ。一分一秒も惜しいんだ」

 

 それではと彼女にオペレーターを代わってもらって練習を再開する。

 

「なるほど空気噴出を利用した三次元的な高速移動ですか……これなら16本を全て同時に起動してしまったほうが良いですね」

「おい待て4本で時速30キロだぞ? 単純計算で120キロ、現実的に考えても80キロはくだらない────」

「この作戦は寸暇を惜しむような作戦です。ならば移動時間は最低限にしたほうがいいと思いますよ?」

 

 そんな単純な方法は俺でも最初に思いついたが、これまたとある単純な理由から却下したのだ。

 

「移動できても着地ができねえだろうが。下手すりゃ事故レベルの速度で着地になるぞ」

 

 人間が安全に行動できる速度など、どれだけ高く見積もっても時速30キロが限界だろう。それ以上の速度で着陸しようものなら転倒及び回転、仮にうまく着地できたとしても脚へかなりの負担がかかるだろう。だからと言って着地に装備の重量を費やそうものならそもそも飛べなくなって本末転倒だ。

 

「だからこそ私が指導するんですよ。空中移動と……糸と羅漢銭の使い方を」

 

 すると彼女の纏っていた布が解けていき、辛うじて視認できる細さの糸に変わった。

 

「ここからはスパルタ教育ですよ。しっかり学んでくださいね」

 

 この時俺は悟った。青藍島最強は俺やレイラではなく、本気になった彼女であると。

 

 

 かくして郁子先輩との生活が甘いひと時に思えるような訓練を重ね、ついに空中移動と糸と羅漢銭の扱い方をマスターした。これでゴールしても誰も怒らないと思うが、まだスタートラインに立っただけに過ぎない。なので次はラーレで開かれる作戦会議に何とか参加した。

 

「こ……これで……ようやく俺も参加できるってところか……俺の負担エグくねえか……?」

「あぁ、あの九十九さんが、疲れ切ってる……お、お茶、どうぞ……」

「青藍島は性の楽園って聞いていたが……思ったよりも武闘派が多いみたいだな」

「調べたところによりますと、上澄みがイカれているだけでその辺のガードマンは刑務官と大差なかったですよ」

 

 そうなのかと黒鐘ちゃんが淹れてくれた冷たいお茶を啜りながら一息入れる。気持ちは休まったので早速本題に入るとしよう。

 

「で……改めて聞くが、俺に頼みたいことはなんだ?」

「あなたに頼みたいのは水城が呼ぶであろう私兵の相手です。どれだけの数が来るかは想像できませんが、少なくとも200人は来ると見積もっていいでしょう」

「どれぐらいの強さだ?」

「ウィッグ工房シスターズが対等に立ち向かえるぐらいだから、本来の実力のお前さんなら余裕で対処できるだろうな」

「今の俺は全盛期の8割らしいから……余裕とまではいかなくても優位に立つことはできそうだな」

「そぉ、それと柊一郎と一緒に、炭鉱のとある場所にまで行ってほしい……地図描くから待って……」

 

 黒鐘ちゃんが網目の様に巡る線を描き進めていく。かなり奥の細まった場所にチューリップの絵を描いた。

 

「ここに来れば柊一郎の脱獄と九十九さんの正体判明の両方ができるものがある……だぁから、なんとかここまでたどり着いてほしい……」

 

 俺の正体が分かるというなら何が何でも行かなければならないだろう。俺としては柊一郎という囚人の事よりも重大な事だ。とはいえ、この機会を提供してくれたラーレの願いを無碍にするつもりもない。やってやるよとニヤリと笑って返す。

 

「それと柊一郎の回収が終わってからあなたの回収になります。イルカ桟橋で行いますが、その時に水城兵がいたらあなたの回収は不可能になるので、可能な限り片付けておいてください」

 

 晩御飯に食べたいからシーフードミックス買ってきてみたいなノリでとんでもない事を頼まれた。

 

「もし回収できなかったら?」

「翌日回収しに来ますが……それまであなたが持ちますか?」

 

 最低でも200は居るであろう兵を相手し続けるのは流石の俺でも骨が折れそうだ。なら兵をぶちのめして帰った方が楽だろう。

 

「言うまでもないですけど殺しはダメですよ。いくら向こうが襲ってきてもこちら側に非がありますから」

「脱獄させようとしてる奴がそこ気にするのか……まあ可能な限り殺さねえようにはするよ。他人様を殺めておいて自分はのうのうと生きる、なんて俺には不可能そうだしな」

 

 言い方を変えれば、殺さなければ多少の障害沙汰は良しということだ。俺の正体が分かるというのに遠慮している暇はないだろうから、これぐらいの割切りは認めてもらおう。

 

「最後に確認だ。俺は湊柊一郎という囚人の脱獄のアシストと俺自身の正体判明を行う。特定のポイントまで彼を送り、その後水城兵を殲滅しイルカ桟橋で合流……これでいいな?」

 

 彼女たちが頷いて作戦が決まり、後は作戦決行日を待つだけになった。それまでは鍛錬を怠らずに待つとしよう。

 

 

 運命の日というのは意外となんてないタイミングでやってくるもので、作戦決定から1週間程経って報告が来た。翌日に嵐が接近すると言うので、その機を狙った奇襲のような形で行うことになる。今後の青藍島の進退、それどころか生存がかかった大一番に俺は武者震いと笑いが止まらなかった。

 

「これですべてが決まる……俺、家族、何より青藍島の運命……全てが俺に委ねられた……こんなこと人生で二度と無いだろうな」

「やっぱ親父にはその恐ろしい笑顔がお似合いだぜ」

「やっとお父さんらしくなって来たね」

 

 子供達からもかなりの期待を受けているようだ。とあれば礼も相応の期待をしている事だろう。

 

「こうやってまたお前を送り出すことになるとはな……だが今度ばかりは帰ってくるかどうか分からない。だからこそ盛大に送り出してやらないとな」

 

 そう言って彼女は俺に服を渡してきた。水乃月学園の男子制服だが、入っているラインが全て金色になっている特別仕様のモノだった。

 

「お前の勝負服だ。折角の晴れ舞台だから新調してやったぞ。それと……千人針ならぬ千九百十九人針だ」

 

 そして俺の首に何かの花の刺繍が施された赤いストールを巻いてくれた。

 

「……こんな時に言うのもなんだが……私はこの瞬間でも本当は行ってほしくないって思っている……それだけはどうしても変えられなかった……」

「だろうな。アンタは簡単に情を捨てられる人間じゃない。だからそれでいい。その情が今まで俺を何度も救ってきただろうからな」

「…………そう言ってもらえるなら嬉しいよ。必ず帰ってこい。命令だ」

「…………ああ。必ず帰ってくる。それも俺を取り戻して」

 

 俺は言葉だけ交わして自室に向かった。ハグやキスは帰ってきたからのお楽しみに取っておくことにした。

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