遂に迎えた俺の40歳の誕生日。夕方からは家族と過ごすが、それまでは俺の誕生日企画を通すための会議をすることにした。会議室でスーツとネクタイをきちっと改め、会議の流れと配布する資料の確認をする。今回の会議はとある株式会社2社それぞれの社長を呼ぶかなり大きなもので、失敗は許されない物となっている。緊張しすぎるのは良くないが、俺ならできると油断しすぎるのも良くない。目を閉じて両手を合わせ、1つ深呼吸をする。
「青藍島の歴史から見ても大きなプロジェクトですから、流石の精さんも今回ばかりは本気ですね」
桐香様の静かで柔らかな笑いが静かな会議室に通る。
「俺の誕生日プレゼントになりますからね。ここで本気にならなければ方々に示しがつきませんよ」
ニッと笑い返すとほぼ同時にノックが響き、ガチャリとドアが開く。
「失礼します。精委員長、連れてきました」
SHO役員の制服に身を包んだ礼と。
「失礼します。株式会社NLNSの社長、橘淳之介です。本日はよろしくお願いします」
珍しくスーツに身を通した淳之介君が現れた。彼を案内し席に着かせ、礼に礼を言って仕事に戻ってもらう。
「……駄洒落か?」
「精の精液よりはマシだろ」
同級の仲の社長との軽口も程々にしもう一人の社長を待つ。再びノック響いてドアが開く。
「失礼します。土口委員長、連れてきました」
SHOガードマンの制服に身を包んだソフィーヤと。
「失礼します。株式会社ラーレの社長、内呂修平です。本日は誠によろしくお願いします」
これまた珍しくスーツに身を通した内呂君が現れた。彼も案内して席に着かせ、ソフィーヤにソフィーヤを言い仕事に戻ってもらう。
「ソフりんにソフィーヤを言うって何ですか?」
「滑ったギャグの解説をさせないでくれ……何で俺ってギャグのセンスは無いんだ……?」
「戦闘もファッションのセンスもいいのにな……まあ、魚清ければ水棲まずっていうからな」
「魚が清かったら水は澄んでいるだろ。それを言いたかったら水清ければ魚棲まずだ」
「……精さんと橘さんの仲が良い理由が分かった気がする」
「このままお茶会を開いても良いですが、そのために呼んだわけではありませんよね? 早く会議を始めてはいかがでしょうか、土口委員長?」
桐香様に糸を絡められるほど釘を刺されたので早速始めるとしよう。
彼等に資料を配り、ホワイトボードの前に立って会議を始める。
「今回御二人を呼んだのは今回の企画にご協力願いたいからです。その企画というのがこちらです」
ホワイトボードにはこれでもかと前面を埋めるように『土口精誕生日記念AV撮影~40周年ハメバーサリー迎えてなお本番! ~』と書いてある。
「「……は?」」
彼等は一応義務教育は終えているはずだが、書いて文字が読めなかったようなので音声で案内する。
「土口精誕生日記念AV撮影────」
「いや読み方が分からないんじゃないんだ……何でこんなことが書いてあるのかが分からないんだ……」
「……もしかしてオレたちラーレがゲームで有名になったから対抗してってことですか?」
内呂君の的確な指摘に笑いながら頷く。
「あと奥さんに自作AVを消されたからそれの埋め合わせですね」
「滅茶苦茶私情で企画考えてないか?」
「企画のきっかけ何て何でもいいんです。それでは具体的に何をするのかの説明をします」
ホワイトボードをグルンと裏返すと、これまた全面を埋める程細かな字や図がびっしりと並んでいた。
「簡単に言うと成人向け映像作品を原作としたメディアミックス及びグッズ販売による経済活性化ですね」
「そういうとそれっぽく聞こえてくるな……」
「青藍島である程度の効果が出たら、適切な規制をかけて本島への展開も考えています」
「それがメディアミックスで行う理由ですね」
「その通りです。まずは原作となる作品について説明します」
ジャンルはアクションコメディ・キャストは青藍島民及びそこから連絡と都合がつく人間・内容はとある島の英雄で妻と幸せな生活をし主人公に倒された敵組織が復讐のために妻をさらい、主人公が敵を倒しながら取り戻しに行くというものだ。タイトルはまだ決めていないが名無しだと説明に困るので、今のところ『ドマンコー』と仮定している。
「最初は幸せな夫婦生活(エロシーンあり)、そこから誘拐されて住宅地でチェイス、ビーチで敗北して拘束拉致監禁、脱出してドスケベ遊園地で乱闘(エロシーンあり)、水乃月学園で準備、SHO本部で最終決戦、最後に自宅に戻ってハッピーエンド(エロシーンあり)、というのが大まかな流れです」
「王道の物語でエロシーンを抜いても十分物語が成り立つな。逆にエロシーンだけ抜いてもAVとしていい時間にまとまりそうだな」
「すごい……これが精さんの本気……」
「資料の最後に台本の一部を添付してありますのでよかったら参考にしてください。では、次に映像以外での作品について説明します」
コンコンとホワイトボードを叩いて注目するべき場所を指し示す。
「まずはコミックスです。これはこんじきわんこ先生に描いてもらいます」
「企画発案者・監督・演者・同人作家を兼ねるお前ならではの手段だな」
「草鞋を履きすぎていつかムカデになりそうですね」
「次にゲーム。こちらはラーレ様と共同開発の予定です。できれば格闘ゲームで出したいですが、ラーレ様の得意としているADVでの販売も考えております」
「格闘ゲームか……アサちゃんが喜びそうなシステムでやってくると嬉しいな」
「ならADVと格闘の2つのパートがあるシステムにすれば良さそうですね」
「さらにグッズ。こちらはNLNS様と『かりそめのひまく』様に協力してもらう予定です。全年齢向きには主人公の武器を模した玩具、青藍島ではそれに加えエロシーンで使用したアダルトグッズとヒロインを再現したラブドールを販売する予定です」
「へー……一例だけでも結構な量だな……おっ、これは穿ち丸と菊一文字じゃないか」
「……ラブドールって結構な値段するんですね」
「最後にアニメ……と言いたいのですが、これに関しては今のところ掛け合ってくれる制作会社様がいないので一旦無視してください」
「展開して利益が望めるようになってからでも遅くはないだろうな」
「アニメか……もし制作決定になったらオレの姉さんを採用してくれると嬉しいです」
「以上で説明を終わります。これから質疑応答に移ります。質問がある方は挙手をして、指名されてから発言されますようお願いします」
早速淳之介君の手が上がったので指名する。
「これほどまでの展開をできる予算は確保してありますか?」
「本年度のSHOの予算を手厚く回しております。それに加えとある製薬会社とのスポンサー契約、グッズの割引を返礼品としたクラウドファンディングも考えておりますので、予算は潤沢にあります」
なら問題ないですと納得してもらえた。次に内呂君が挙手したので指名する。
「報酬の契約についての説明をしてほしいです」
「成果報酬を基本として、必要であればその都度都合の着く形での特別報酬を考えております」
「……金欠で苦しくなったら前借とかできますか?」
「もちろんです。そのための資金ですから」
なら問題ないですと納得してもらえた。次に桐香様が挙手したので指名する。
「寝取られシーンはありますか?」
「……青藍島バージョンのエピローグで敵組織の女幹部が自らやってくる、という形で納得してもらえますか?」
その役は私がやりますねと納得してもらえた。これ以上の質問は無いようなので最終確認をする。
「それでは伺います。橘淳之介様、本企画に協力していただけますか?」
右手を差し出して返答を待つ。
「当たり前だ。むしろお前の誕生日企画から仲間外れにされるなんて、こっちから願い下げだ」
ガシリと右手で握って快諾してくれた。次は内呂君の確認だ。
「次に内呂修平様、本企画に協力していただけますか?」
同じように手を差し出して返答を待つ。
「喜んで協力します。これ以上ない精さんへの恩返しになりそうですから」
すると彼は両手で拳を作って低めに差し出した。
「ですからオレたちはコレのほうが良いでしょう」
「……粋な事してくれるじゃないか」
俺が上のプリズン流の挨拶をして快諾してくれた。最後に契約書類を出して、サインと判子を貰い会議を終了する。
「映像先品には社員の皆様にも登場していただく予定ですので、なるべく連絡がつくような環境づくりをお願いします」
「連絡も何も向かいだろ。場合によっては電話するよりも確実だぞ」
「買い出しとかで出かけていない限り、全員ラーレ本社かSHO本部かかりそめのひまくにいますからね。いつでも連絡待っています」
2人の社長を見送り片付けを始める。まだスタートラインに立ったに過ぎないが、それでもスタートラインに立てたことに安堵の息を漏らす。
「あれほど本気になる精さんを見たのはいつぶりでしょうか……うふふ、とても楽しみです」
「これから忙しくなりますよ。俺の40歳記念の企画で、1年以内に作り終えないといけないんですから」
「業務の調整はお任せください。必要であれば有給の事前使用も考えますので」
俺の有休は結構あったはずではと聞いたら、記憶喪失時にかなり使ってしまいましたと返された。どうやら引退時に有給消化をする必要はなさそうだ。過去の俺に少しの感謝と多大な恨みをぶつけるように片付けを終わらせた。
仕事が終われば楽しい誕生会のお時間だ。玄関の扉からすでに美味しそうな匂いが漏れ出している。なら遠慮はいらないだろう、俺は勢いよく扉を上げて声を上げた。
「ただいまあ!」
その声とほぼ同時に破裂音と火薬の匂いが襲い掛かってきた。任務中だったら即座に伏せる事態だが、そんな物騒に出迎えられるわけがない。
「お父さん! お誕生日おめでとう!」
「親父! 誕生日おめでとう!」
セレンがレイラにクラッカーを渡し、景気よく連続で鳴らし続けながら出迎えてくれた。
「あーしは馬鹿みたいに引き続けるだけだから楽でいいぜ! 本当はバズーカタイプでやりたかったんだが、お小遣いの都合上できなかったぜチクショウ!」
「片付けは僕たちでやっておくからお父さんはリビングに行って! 今晩のディナーは豪華だから!」
今年はどんな姿で待っているのだろう。去年は潔く全裸で待っていたが、そろそろネタ切れが近いのではと勝手に勘繰っている。期待しながら扉を開けると────
「おかえり精。料理は揃っているぞ」
私服姿で食卓に着席している礼と。
「九十九ぉ! 誕生日なンだってなァ!」
黒いタンクトップを着た小沢がキッチンに立っていた。
「何でお前がいるんだよ!?」
これしか思えなかった。いつだか内呂君から小沢のまかないがウマいと言っていたから青藍島にいるのは知っていたが、よりにもよって俺の家にいるとは思わなかった。
「私が出張料理人を頼んでな。お前の妻だと言ったら、知り合いとして喜んでって引き受けてくれたよ」
「プリズンではお前にも散々世話になったからなァ! 腹がはちきれるまで作ってやるよォ!」
そういえば彼はプリズンでは飯場担当だったか。調理師の免許を取って青藍島で第二の人生を始めたのだろう。なら俺がとやかく言うのは無粋だ。礼の向かいの席に着いて彼に向かってオーダーを通す。
「カルビを可能な限り焼いてくれ」
「あいよぉ! タレでいいかぁ!?」
「当たり前だ。カルビはタレ以外認めん」
「40になっても相変わらずだな。咎めるつもりはないが、食べ過ぎて動けないなんてやめてくれよ? お前の誕生日は夜が本番だからな」
「言うこと言いますねえ奥さん……やっぱり彼と付き合うとソッチのお付き合いも大変で?」
「大変なんてものじゃない。私1人では追いつかないから浮気を公認している」
「う、浮気ィ!? お前よくそれで俺に説教できたな!?」
「喋ってないで早くカルビ出せよお前の罪言うぞ」
彼の焼いたカルビは結構美味しかった。タレにしっかり漬け込んであって脂身に至るまで味がしみ込んでいて、さらにコショウを加えてパンチを利かせてあった。全盛期の俺だったらキロ単位で食べていただろう。
「よくそんなに食べられるな……私は数口で大分キたっていうのに……」
「コイツは料理に何が入っていても平気で食っていましたからね……ちょっと油が多いぐらいじゃむしろ滑りが良くなって多く入るとか言い出しますよ。あ、奥さんはこっちの山かけ海鮮丼をどうぞ」
「どうも……ん! 滅茶苦茶美味いぞコレ!」
「俺の友人によく作る得意料理でして……気に入ってもらえたのなら何よりです」
「なるほど……精、いい人と知り合えたじゃないか」
彼がプリズンに行った理由は未成年に手を出しかけたからなのだが、ここで言って不必要に空気を悪くする必要はない。しかし、ただ"いい人"と判定するには待ったをかけたいので懐かしい話題を出す。
「何せ『波多江の狂犬』だもんなあ?」
「狂犬繋がりで知り合ったのか……なら納得だな……」
「それを今出すか……奥さん、俺の方は肩が強いって書いて強肩です」
「そうなのか……でもどのみちキョウケン繋がりだからOKだな……本当に美味いなコレ……」
彼女が美味しそうにもむもむと海鮮丼を頬張っている。考えてみれば俺が作る料理はガッツリ系が多く、あまりあっさりしたものを作ってこなかった。子供達には大好評だったが、彼女からは程々の評価しかなかったのはそのせいかもしれない。今度俺がキッチンに立つ時は気をつけるとしよう。
「ふー、やっと片付いた……おっ、もうおっぱじめてるか。あーしにもカルビ焼いてくれ」
「用意した分で足りなければ買ってきますので、遠慮なく言ってください」
子供達が戻ってきて誕生日ディナーはさらに盛り上がっていった。こうなると小沢だけでは手が足りず、セレンが手伝ってようやく追いつくぐらいだ。とっても大変そうだが誕生日ぐらい何も考えずに楽しむとしよう。
望めば望んだだけ出てくるカルビを何とか我慢して、俺は礼と一緒に風呂に入ることにした。腹八分目で済ませ後片付けは子供達と小沢に全任せだ。後でお小遣いやチップを渡せば文句はないだろう。服を脱いでまずは彼女の身体から洗う。郁子に負けるわけにはいかないと気合いを入れて若さを維持しているため、子供2人を産んでなおキチッと引き締まっている。
「流石に20代後半は無理だろうけど、30代だったら誰も疑わないな」
「生々しいけど嬉しい評価だな……まあ、お前がおいそれと他の女に目移りしないように色々ケアしてるからな」
「すごく嬉しいよ。ありがとう」
「……ふっ、もっと褒めろ」
「だからその姿をしっかりと記録するよ」
「……何をするつもりだ?」
「俺の40歳記念に大作AVを作ることにした」
AVという言葉に反応して彼女が過剰に振り向き、濡れた髪がしなって俺に叩きつけられた。折角だから企画の全貌を聞かせてあげよう。
「……まさかここまでの大事になるとはな……我ながらとんでもない事をしてしまったな」
「だから今夜は導入のエロシーンの撮影をしようかなって思って」
「まあ幸せな家庭を描くシーンだったら、家族と過ごす誕生日ほど適した日はないだろうからな。今日が1年で一番幸せなセックスができるだろう」
「だから納得のいくセックスが取れるまで付き合ってもらうよ。答えは聞かないけどね」
「…………念には念を入れて明日明後日を休みにしてよかった」
発端が自分であることを悟った彼女は軽く笑って全てを受け入れていた。そうと決まったらなるべく早く、なおかつしっかりと体を洗って臨むべきだ。彼女の身体を綺麗にし、今度は俺を綺麗にしてもらう番だ。ドッと座って俺は髪を、彼女は体を洗う。
「……相変わらずすごい体だな……40になっても、むしろ40になったからこそ練り上げられたのかもな」
「その代わり薄毛がちっと気になってきたがな。健康診断で男性ホルモンが常人の倍は出てるって言われたからしょうがねえっちゃしょうがねえが……ウィッグの世話になるのもそう遠くはねえかもな」
「性欲は大人しくなったって言っていなかったか?」
「『金色の狂犬』の復活と共に再燃したよ。衰えて勃たなくなるまでずっと付き合ってもらうぜ」
「勃たなくなっても死ぬまで付き合ってやるさ」
何時になっても頼もしい先輩だ。そんな人と心の底から望んだセックスができる、俺が掴んだ幸せを今夜は存分に味わうとしよう。