「・・・・・言いにくいかも知れないけど、さっきのやっぱりその、いじめだったんでしょ?」
「・・・・・・・。」
公の足がぴたりと止まる。三人は顔を見合わせて立ち止まり、彼の顔を覗き込んだ。
「どんなことされるの?」
和葉と蘭が心配そうにそう尋ねると、公はぽつぽつと話し始めた。いつからだったのか、それはあまり記憶にない。
気がついてみると、湊伸治、小倉譲、そして宮野裕史という三人から陰湿ないじめを受けるようになっていた。
菊池、小倉譲は6年生だが、リーダー格の宮野はまだ5年生らしい。なぜ彼が頭目なのかはわからない。理由は不明だが、なぜか圭太が目をつけられ、何かにつけいじめられるようになった。公がおとなしく、あまり抵抗もせず、されるがままになっていたからかも知れない。
図に乗った彼らは、あらゆるいやがらせをやってきた。無視したり、笑いものにしたりなど、精神的なものはあまりなかったようだが、その分、物理的な暴力行為が多かった。ぶったり、蹴ったりはもちろんのこと、プロレス技をかけたり、体育マットで簀巻きにしたりなどは日常的だったらしい。さらには、教科書やノートなどに落書きして使えないようにしたり、ランドセルにゴミを詰めたりなど、陰湿なこともやってきた。下駄箱の靴や上履きを隠す、捨てるのも当たり前のようにやられた。暴力はエスカレートして、最近では圭太の席を取り囲み、座布団や鞄などで周囲の視線を遮っておいてから、つねったり、定規で叩いたり、シャーペンで突き刺したりと、それはもうやりたい放題だったらしい。
「ひどい・・・・・」
「なによ、それ!?」
蘭は気の毒そうに、慈愛に満ちた目で公を見ていたが、和葉の方は逆に腹を立てたらしい。いじめる側への怒りはもちろんだが、同時に圭太のだらしなさにも我慢ならぬようだ。
「それで黙ってんの、なんもせんとって? ひっぱたかれたら殴り返せやとは言わへんけどや、黙ってやられっぱなしになっとるから、あの子たちいきんのよ。」
「和葉ちゃん、そんな責めるようなこと言っちゃダメよ。・・・・公くん、言いにくいよね、そういうのってさ。」
気の優しいこの少年は、自分の窮状を教師はもちろん両親にも打ち明けることが出来なかった。仲の良かった友人たちでさえ、勝村らの報復を恐れて手助け出来ず、それどころか公から徐々に距離を置くようにすらなっていった。
「でもさ、もし先生たちにも言いづらかったら・・・・今度はお姉さんたちに言ってくれる?」
「え・・・・・?」
「あたしたちは公くんに一日中ついてるわけにはいかないけど、出来るだけ何とかしたる。ね?」
手を繋いだまま蘭と和葉が微笑むと、公は照れたように視線を外した。そしてすぐに顔を戻すと、何とか小さく頷くことが出来たのだった。夕日に染められて、蘭と和葉からはわからなかったが、公の頬は赤く染まっていた。
この時、少年は蘭と和葉に対して、はっきりとした憧憬を抱くに至った。和葉と蘭に握られた左右の手を少し強く握っていた。暖かく、柔らかい手だった。
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