「よ、お姉ちゃんたち。」
「あなたたち・・・・・」
声を掛けられて振り返ると、蘭と和葉の目の前にあの時の三人組のひとりがいた。
確か湊伸という6年生だったか。当然、蘭たちには良い印象はない。
「なんや?」
「何か用?」
普段の彼女たちからは思いも付かぬ、素っ気ない言葉を吐いた。顔つきも少し強張る。子供相手に大人げないとは思うのだが、あの陰湿ないじめを見てからは、年少者に対する口にきき方をしようとはとても思わなかった。
「こないだは世話になったよね。」
「・・・・・・・。」
「宮野さんも親父さんにだいぶ締められたっていうし、僕も小倉も叱られたよ。」
「・・・・・当たり前や、あんなことしといて。」
「先生たちにもよく言っておかないといけないわ。」
少年は、和葉や蘭の言葉を聞いても不遜とも思える笑みすら浮かべている。蘭たちは苛立ちと不安を覚えた。
「ところで公くんはどうしたん?」
「もう公君をいじめたりしてないでしょうね?」
「へえ。」
湊伸は少し意外な顔をした。
「・・・・もう名前で呼ぶほど仲が良くなってんだ。」
「そんなことどうでもいいでしょ。公くんと仲良くしてるのかって聞いてるの?」
「それなんだけど・・・・・。」
「なんや?」
「公のことで、ちょっと話があんだけどさ・・・・。」
「どういうことや?」
「いいから。」
湊伸はめんどくさそうに答えた。
「いいから来てよ。」
「そうはいかないわよ。あたしたちの質問に答えなさい。
「公くん、どないしたん?」
「だから来ればいいんだよ。公が呼んでるんだからさ、ほら。」
「あっ。」
少年は、蘭の左手を掴み、引っ張ろうとする。不審なものを感じた蘭はその手を振り払った。
「何するの! ちゃんと説明しなさい、あの子は・・・・・」
「いるってば。来てくれれば会わせるよ。でも、お姉ちゃんたちが来なければ公のやつ、
どうなるかなあ。」
「何やて!?」
「・・・・・俺たちはともかく、宮野さん、かなり激怒ってたからなあ。お姉ちゃんたちが来なければ、公、タダじゃ済まないと思うよ。」
「こ、この子たち・・・・・・・。」
蘭と和葉は唖然とした。これでは公を人質にとった脅迫ではないか。いや、誘拐あるいは拉致監禁である。とても小学生のやることとは思えなかった。少年はだめ押しとも言える一言を放った。
「来ないの? ま、俺はそれでもいいけど。公は・・・・・」
「わ、わかったわよ!」
湊伸はにやりと笑うと手を伸ばし、手を繋ごうとしたのだが、蘭たちはさりげなくそれ
を無視した。少年は面白くなさそうにぶすっとすると、足早に先を歩いて行く。蘭たちは少し距離を置きながら、見失わないようについていった。すぐに見慣れないワゴン車が見えてきた。
「乗れ。」
湊伸はワゴンのスライドドアを大きく開けると、蘭と和葉を真ん中のシートに座らせ、湊伸自身は最後部のシートに座り、ドアを閉めた。ドアが完全に閉まったのを確認すると、湊伸と最後部のシートに隠れていた小倉がいきなり蘭と和葉に覆い被さった。
「!」
湊伸と小倉は手にした大振りのハンカチで少女たちの口を覆った。やや鼻につく柑橘系の匂いが蘭たちを襲う。口と鼻をふさがれ、その息苦しさに抵抗しようとするのだが、鼻腔を突いてくる甘い香りが、なぜか筋力を奪っていく。そして何より、蘭たちは公を人質にされているということもあって抵抗出来なかった。少女たちを見下ろす小倉たちの無表情な顔が、蘭たちに残った最後の意識だった。
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