クラスから追放されたけどこちらは元気に温泉ハーレムやってます 作:姫ノ木あく
※R-18描写多めです。苦手な方はブラウザバック推奨
※ノクターンノベルズに同時投稿しています
※ ※ ※
それは控え室でのこと。
「テラリア、倒すまでの必要はない。ゴブリンとオーガの2体を足止めしておくことはできるか?」
「ああ、できるよ。あいつらくらいの実力ならどうとでもなる」
当然とも思えるテラリアの答えが返ってくる。
他の人には見えてないブラウン・ブラウンとカルンガンの能力値が俺には見えていたからだ。
「ええ!? こっちの雑誌にはブラウンさんもカルンガンさんもかなりの強さのように書いてありますよ!?」
「2人を同時に倒すつもりなら厄介だろうけど、足止めをするだけって考えたら気をつけなきゃいけないのはブラウンの〈アース・ブレイド〉だけなんだ。カルンガンの〈グレート・シールド〉は1対1でやりあうなら相当厄介だがそれだけなんだよ。そんな感じだよな、テラリア」
「フン、なんならカルンガンのシールドごとアタシのアーケンでたたき割ってやれると思うけどね」
実際問題、〈アース・ブレイド〉は属性相性的にテラリアには効きにくいし、カルンガンの〈グレート・シールド〉は戦士としてのレベルでテラリアなら余裕で対処できるだろう。
「それは頼もしいけど、今はこの2人の戦士を足止めすることだけ考えて欲しい。この2人さえ抑えてしまえば怖いのはトレントのバラン・バラオウンだけなんだ」
「バランさんの〈リーフ・カッター〉は範囲も広いし、威力も相当なものですよ? どうするんですか?」
バラン・バラオウンは決め手のアーケンである〈リーフ・カッター〉も厄介だが、幾多もの触腕として機能する枝も厄介だ。
あれは、グレンブル男爵を護りつつ、ブラウンとカルンガンの攻撃しやすい範囲を拡げていく。
だが、木だ。
「トレントの弱点を突く。そこでファータ……君に禁忌を破って欲しい」
「禁忌…………まさか」
俺は頷く。
「木の精であるバランさんに、火矢を使え、そういうことですね。雪夜さん、そんなことまで知ってるなんて……」
シルヴァの世界のエルフには木の精霊に火を使わないことを誓う風習があることまで、俺の〈カタログ〉でわかっていた。
だが、こちらも命もシルヴァの世界の存亡もかかっている。
俺は、「俺を信じるならその禁忌を越えてくれ」ということをファータに視線で訴えかけていた。
「……いい作戦だと思います。バランさんが〈リーフ・カッター〉を使う前にわたしが火の矢を撒き散らせば、グレンブル男爵も〈リーフ・カッター〉を使わせることができません。自分の足元をも燃やすことになりますから」
「ファータ……」
「そのヴィジョンがわたしの〈プレコグニション〉にも見えました。エルフの名を穢してでも雪夜さんの作戦を遂行することを誓います」
「ありがとう、ファータ」
※ ※ ※
そして、その作戦はそれはもうバカみたいに上手くいった。
数値以上にテラリアの斧を使った機動力が高く、ブラウンとカルンガンの足止めが想定以上に機能していたからだ。
おかげでファータの火矢によるバランへの攻撃がかなり広範囲に効果を発揮した。
これによってグレンブルはバランのカーゴから離れざる終えなくなった。
「わたしはその後はパーピュレイさんを執拗に狙うということでいいでしょうか」
「ああ、そうなる」
「ちょっと待ってくれ。それじゃあグレンブル男爵は雪夜が相手にするってことか? 確かグレンブル男爵は直接対決したヤツはいないはず。強ぇ気はしないが雪夜だって強ぇわけじゃねえだろ」
「いや、身体能力だけ見れば、グレンブル男爵は俺以下だ。奴隷を使うアーケンが強いだけだな」
「なんでそれが強いのかわかってるのか!?」
「『命懸けで男爵を護ることを命じるから』だろ? 過去にもその例がある。今回もその命令が出ることはほぼ間違いない」
「……間違いない理由は?」
「シャリアスのアーケンが〈リジェネレーション〉、つまり自己回復能力だからだ。今までの仕合のパターンから言っても、そばに置いた奴隷を肉の盾にするのはグレンブルにとっては当たり前の選択になってくる」
ファータは作戦通りパーピュレイを執拗に狙いつつ、状況を見てバランへの火矢を追加する。
いいフォローだ。
「ひぃっ、ひぃっ! シャリアス! 命懸けでワシを護れぇ!」
「かしこまりました、ご主人さま!」
「なにをしている! 速く戦え!」
「どちらのご命令を優先しましょうか?」
「は?」
グレンブル男爵がこちらを向いた時、俺はロングソードを舞台に突き立ててただ立っていた。
殺意がない。
すなわち、『命懸けで男爵を護る』ために俺を相手にする必要がないのだ。
「なんだとぉ!?」
「ぐああああああああ!」
その時、ゴブリンのブラウン・ブラウンが絶叫を上げて舞台に倒れた。
今まで2体を相手に互角以上に戦っていたテラリアだ。
オーガのカルンガンの劣勢は明らかだった。
「ぎゃあああああ」
そこに甲高い悲鳴がしてハーピィーのパーピュレイが落ちてくる。
※ ※ ※
「テラリア、この状況に持ち込めば後の2体、足止めじゃなくて倒せるか?」
「任せておきな!」
「それならあとは、トレントとハーピィーだ。ファータは先にハーピィーを射止めてくれ。トレントにテラリアが辿り着く頃には、もう決着は着いてるはずだが、ハーピィーを射止めたら、また火矢でトレントを攻撃してくれて構わない」
「そうしたら雪夜さんも危険になりますよ!?」
「その状況になったらシャリアスが、ファータの火矢からもグレンブルを護らなくちゃいけなくなる」
「詰み、だな」
「上手くいけばな」
◇ ◇ ◇
「さぁ、グランブル男爵、どうする? 俺に刺されるか? ファータの火矢に刺されるか? おっとちょうどテラリアもカルンガンをやっつけたところのようだな。シャリアスへの命令の前に、できることはたくさんありそうだ」
そして、仕合はほぼ俺の予想通りに運んだ。
ただ一点、グレンブルが最後っ屁とばかりに「こいつを殺せ」と命令しようとしたが、すぐにそれに気がついた俺はグレンブルの鼻面に剣の切っ先を差し向けた。
「おまえの命令と、このまま剣を押しこむのどっちが早いと思う?」
「こ、降参いたしましゅ……」
『なんとここで仕合決着ぅぅぅ! グレンブル男爵の降参によって、チーム〈シルヴァ〉に勝利がもたらされました! チーム〈シルヴァ〉のオッズは3.5倍! これは大穴が出ました!』
チーム〈シルヴァ〉の勝利が決定する。
『チーム〈シルヴァ〉には総額35ヴァロが報奨金として送られます!』
「28ヴァロ」
俺の声にその場にいた全員が振り向いた。
「グレンブル男爵、シャリアスを手に入れた額は28ヴァロだったはずだ。その額を出せば、シャリアスを俺に売るか?」
「なんでシャリアスを手に入れた額まで……」
「売る気があるかどうかを聞いているんだ」
「売ります! こちらに損が出ないのなら是非売らせていただきますとも!」
その言葉を聞いた俺は今度はファータとテラリアの方を向いて、思いきり頭を下げる。
「シャリアスを救いたい! 俺にチームのヴァロを貸してほしい!」
「頭をあげください雪夜さん、いいですよ。わたしはもちろん」
「アタシも構わないぜ」
「ありがとう2人とも……。じゃあグレンブル男爵、契約は成立だな?」
「ああ、そんな役立たず、買い取ってくれてせいせいするよ」
この状況で悪態をつけるのだから大したものだが、それでもシャリアスの奴隷契約はこれで成立した。
「おいで、シャリアス」
「はい、ご主人さま」
俺が呼び寄せると、シャリアスは素直に「新しいご主人さま」のそばに寄ってきた。
「じゃあこれから新たな契約を君と交わそう」
「新たな契約……ですか?」
「そうだ、新たな契約……それは……君との奴隷契約を解除する」
「え」
「シャリアス、君はもう自由だ。奴隷なんかじゃない。自分の自由に生きていいんだ」
俺がそう宣言するとコロッセオの観客たちはざわついた。
「そんなことのためにヴァロを?」
みんなそんな表情をしている。
だが、ファータとテラリアだけは納得したように笑っていた。
「自由……」
シャリアスはまず自分の両手を見、俺を見、そして『セントラル・サン』を見あげた。
「意味が……意味がわかりません……。私はどうすれば……?」
「どうしてもいいんだ。どう生きても。君はもう奴隷じゃない。シャリアスという個人なんだから」
「あのっ……それでもわからないんです。私は奴隷という生き方しかしてきませんでした。ご主人さまの命令以外に一体どう生きていけば……」
「そっか。なんにも知らないんじゃ、やりようがないよな」
「はい」
俺は改めてファータとテラリアに頭を下げる。
「勝手ばかり言ってすまん! 色々なことを知ってもらうために、チーム〈シルヴァ〉にシャリアスを入れてやってはくれないか!? 彼女に自分で生きていく人生を教えてやりたいんだ!」
「もちろんです、雪夜さん! チーム〈シルヴァ〉は人手不足ですからね。大助かりです!」
「おまえならそういうと思ってたぜ雪夜! シャリアス、これからはよろしくな!」
その展開にコロッセオの観客たちは大いに沸き、拍手を鳴らし散らした。
◇ ◇ ◇
一方、その試合を見ていたクーフは苦い顔をしていた。
完全にチーム〈シルヴァ〉が負けると予測していたのだ。
テラリアはともかく、ファータとあの人間の男でチーム〈グレナディア〉との勝負になるはずがないと思っていた。
だが、ファータは部族の禁忌を破ってまで勝ってみせた。
ファータが考えた作戦とは思えない。
だとすれば本当に――
「ファータに謝って〈シルヴァ〉に戻るって選択肢もあるよ?」
クーフは妹ティークの言葉にも一つため息をつき
「フン、相手が間抜けだっただけだ。ティーク、タラル、行くぞ」
と踵を返すのみだった。
◇ ◇ ◇
さらにもう一方、〈シルヴァ〉の試合を見ていたアースチームのクラスメイトたちは、いろんな意見が分かれて大変なことになっていた。
「雪夜を追放する必要はあったのか」
「6人全員パーティが強いんじゃなかったのか」
「他にも安全なやり方はあったんじゃないか」
まい先生にはもちろん義一郎にも収められなかったが、クラスのもう一人の中心人物サッカー部のキャプテンを務める島津陽斗が「まだ俺たちは誰も戦ってないんだ。慌てるんじゃない」と場を鎮めていた。
島津はじっくりと戦況を見極めるタイプで、運動部タイプには天藤よりも信頼があった。