※この作品はR-18です。

盈虚の華燭〜嫁巫女は双子のような義兄に溺愛される   作:朱河なつめ

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※月経の描写がありますのでご注意下さい。


盈月の章④

 浴槽の中でそよぐを抱き竦めた凌は、根負けしたそよぐが「お兄ちゃんのザーメン、お腹一杯に頂戴」と泣いて強請るまで妹を犯した。

 たっぷり精液を注ぎ込んでなお、凌の剛直はガチガチに怒張したまま胎内に居座っている。そよぐは堅い胸板に凭れて肩で息をしながら、ずくずくと脈打つ子宮の熱の昂りを感じて眉宇を曇らせた。

 血流が沸き立っているかのように全身が火照り、頭がクラクラする。

 頭の中に靄がかかったような倦怠感がしんどくて身動ぐと、首筋を吸っていた凌がぽそりと囁いた。

「そよぐ、このまま移動するぞ」

「へ……は、ひ――ぁあ、アアッ!?」

 凌の左腕が腹に巻きつき、右腕が両膝の下に回される。

 陰茎を挿入された状態のまま持ち上げられ、そよぐは悲鳴を裏返した。

 そよぐを抱き上げた凌は山間部の夜気に冷えた窓辺に近づくと、ベンチのように広い浴槽の縁にそよぐを膝立ちにさせた。

「やだッ、お兄ちゃん、やぁ、いや……」

 窓の外に向かって両手を突き、淫らに実ったHカップの乳房をガラス面に押しつける姿勢になる。腫れぼったい乳頭部が氷のように冷たいガラスに押し潰されて、啜り泣きながら頭を振った。

「ここなら涼しいからのぼせなくて良いだろ」

 背後からそよぐに覆い被さった凌は、わなわなと震える白い肩に口づけながら上機嫌で笑った。

「こっ、こんな格好、恥ずかしいよ!」

「誰かに見られるかもしれないって?」

 凌の右手がひしゃげた乳房の下側に回り、餅のような乳肉をふにふにと柔らかく揉んだ。

 左手は鼠蹊部の渓谷を辿って恥丘に行き着き、ピンと勃起した愛らしい陰核をつまみ上げる。

「んあぁぁぁぁッ!?」

 緩やかに陰茎を抜き差しされながら陰核を捏ねくられ、そよぐは激しく潮を飛沫かせた。

 腰の動きに合わせて双乳がぷにゅぷにゅと圧迫されて乳首が窓ガラスをこする。滲み出した母乳がたらたらと窓ガラスを伝い落ち、柳腰が痙攣する。

 そよぐは今にも放尿してしまいそうな衝動を必死に堪えた。

 内定筋の緊張がより強く陰茎を締めつけ、凌は娘の項にふいごのような吐息を吹きかけた。

「普通に考えれば、下からは見えない距離だと思うけど……」

「ンっ、お兄ちゃん……あッ、ひぃ」

「沢鳴の住人って、山育ちのせいか視力の良い奴が多いんだよ。狩猟免許持ってる奴もいるしな。だから――」

 凌は喉の奥で笑い、そよぐの耳元で囁いた。

「母乳垂れ流してるやらしいおっぱいと、口一杯広げて俺のちんこ咥え込んでるそよぐのまんこ……見られちゃってるかもな」

 鈍重に胎を突き上げられ、陰核をぐりっと捻り潰された。

「――ふ、ぃ、あァァァァァっ!!」

 ぶしゅッと栓が抜けるような音がして、そよぐは再び潮を迸らせた。

 ずり下がった亀頭部がポルチオ越しに膀胱をズンズン衝く。

 涙を溜めた裏葉柳の瞳が見開かれ、血脈を青く透かす内腿が激しく痙攣した。

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 しゃあァァァ……と水音と共に湯気を立てて小水が溢れ落ちる。

 浴槽の縁に溜まった尿は、浴槽と窓枠の間に敷かれた排水用の溝へ流れ込んだ。

 そよぐは窓ガラスへ突っ伏すように体勢を崩した。

 浴場の窓辺で兄に後背位で犯されながら失禁すると言う痴態の情報量の多さに、頭がパンクして茫然自失となるしかない。

 絶頂の波が引き始めると、強烈な羞恥に襲われて清水の舞台よろしく窓から飛び降りたくなった。

 太腿や浴槽の縁に後ろから湯をかけられて肩が跳ねた。

 凌はニ、三度湯をかけて尿を洗い流すと、俯いたままのそよぐの項に口づけた。

「恥ずかしいところでお漏らししちゃったな、そよぐちゃん」

「……お兄ちゃんの鬼畜」

「俺、Sのつもりはないんだけど」

 首筋を甘噛みされ、そよぐはふるりと背中を震わせた。

 左右の腋下から回り込んだ凌の手が双乳を捕らえて揉みしだく。窓ガラスに突いた両手を握り締め、ぶんぶんと首を横に振った。

「嫌……もうやだ、お兄ちゃんっ、嫌ぁ」

 嗚咽混じりの訴えに、凌の手は止まるどころか快感を引き出そうとするかのようにいやらしく蠢いた。

 雁首のエラで恥骨の裏側からポルチオをゴリゴリとこそがれる。

 亀頭部でキスするように子宮口をぷちゅぷちゅとつつかれると、そよぐは涎を垂らして深く喘いだ。

「……俺が嫌い?」

 小声で問われ、ひぐ、と喉が鳴った。

 例え嘘でもそよぐは「嫌い」と言えない事を理解していて、この男はわざわざ質問してくるのだ。まさに鬼畜の所業である。

「そよぐ」

 甘えるような呼び声が背筋を舐め、精悍な掌が優しく乳房を愛撫する。

 骨張った長い指がくすぐるように乳首を扱いて母乳を飛び散らせた。

「そよぐ――なあ、そよぐ。こんな酷い目にまで遭わされて、まだ俺が好き?」

 知っている癖に、と思いきり詰ってやりたい。

 声を殺して啜り泣くと、逞しい胸にぎゅうッと抱え込まれた。

「好きって言って、そよぐ。俺が好きだって……言ってほしい」

 ふと瞬き、そよぐは視線を持ち上げた。

 夜の闇に黒く塗り潰された窓ガラスに映る、そよぐを抱き締める凌の泣き顔のような切ない表情。

 そよぐに餓える男の双眸と、ガラス越しに見つめ合う。

 乙女椿の花が綻ぶように女の唇が彼を呼んだ。

「お兄ちゃん」

 濡れた溜め息を零し、少しずつ膝を広げて腰を落とす。

 子宮口の手前で留まっていた亀頭部が熱く滑る胎内へ呑み込まれる。凌は息を詰め、陰茎をより硬くした。

「はっ、ぁ……そよぐ……っ」

「どんなに酷い、恥ずかしい目に遭わされても良いよ。さ、流石に人前でエッチしたり、おしっこさせられたりするのは嫌だけど」

 もじもじと腰をくねらせると、声のトーンを落とした凌が告げた。

「見せねぇし、万が一覗き見した奴がいたら俺が殺す」

 何処までも本気の発言に苦笑し、そよぐは肩越しに振り向いた。

「そよぐに嫌いって言われたら凌ちゃんが泣いちゃうから、好きって言ってあげる」

 清らかな色彩の瞳に溺れる程の愛欲を湛え、そよぐは嫣然と微笑んだ。

 凌の喉仏が大きく上下する。

 そよぐは半身を捻って右手を背後に伸ばすと、更に両足を開いて尻の割れ目を広げて見せた。

 凌によって花開いた陰裂がくぱぁ……と咲き誇り、蜜を滴らせる媚肉が貪欲に陰茎を咥え込む。

「好き、よ」

 甘露のような女の声が湯面に滴り、二人っきりの浴場の空気を震わせる。

「貴方にお強請りされたら、どんなにみっともなくてはしたない真似も出来るぐらい、好き」

「頭が可笑しくなるくらい、貴方が……凌ちゃんが好きなの」

 そよぐは褐色の睫毛を伏せると、限界まで腰を落としてからゆっくりと上げた。

 子宮と膣で屹立を愛撫すると、凌がくぐもった呻き声を漏らして肩に突っ伏した。

「クッソ……こんなの、反則だろ……ッ」

 胎内でジワリと精液が漏れ出る感覚に思わずほくそ笑む。

 ゆるゆると腰を上下させて陰茎を扱くと、堪らないとばかりに抱き締められた。

「あ……くっ、そよぐ……そよぐっ」

「凌ちゃん、気持ち良い?」

 凌は引き締まった頬を上気させ、潤んだ目で睨んできた。

「とんだ生殺しだよ……ッ! 糞、何処でこんな手管覚えたんだよ」

「あたしにエッチな事教えたの、お兄ちゃんしかいないよ?」

「きっかけは俺だとしても、ポテンシャル高過ぎだろ……」

 快感が籠もった息を吐き、凌はそよぐの唇にかぶりついた。

「ふっ……ん、むぁ……お、にちゃ、んぅ」

「……そよぐ……このまま、俺が出すまで腰動かしててくれる?」

 唇を重ねたまま乞われ、そよぐは下瞼を持ち上げて艶笑した。

「良い、よ」

 前へ向き直り、腹筋を使って緩慢に腰を上下させる。

 蠕動する膣のうねりが陰茎を隈なく包み込み、彼の為だけに門戸を開いた子宮の奥まで誘う。

 凌は溺れる漂流者のように女體に縋りつき、全身を官能に打ち震わせていた。

 必死な様子に愛しさが込み上げ、下腹部がずくりと脈打つ。

「あッ」

 丁度亀頭部が子宮口を潜り抜けた時、キュ――ッとそよぐの胎が凌の肉棒を締め上げた。

「……ッ!」

 左の首筋に噛みつかれて痛みが走る。

 凌の長身が瘧のように震え、音が聞こえそうな勢いで射精した。

 のしかかってきた凌の腕に掻き抱かれる。そよぐは切なく眉根を寄せ、凌の頭に頬を寄せて焦れったい絶頂を味わった。

 大量の精液が繋がったままの性器の隙間から溢れ、そよぐの尻たぶや太腿を汚す。むず痒さに内腿を擦り合わせると、敏感な陰茎を締めつけられた凌が低く唸った。

 永遠のような射精が終わると、凌は右手を窓ガラスに突いて崩れかけた体を支えた。左腕はがっちりとそよぐを捕らえて離さない。

 額から垂れてきた汗が目に入りそうになり、そよぐは睫毛を打ち叩いた。

「お兄ちゃん……?」

 そよぐの左肩に額を伏せたままの凌に声を掛けると、起き抜けのようにぼんやりとした眼差しを向けられた。

 暫し肩越しに見つめ合っていると、凌が両目を眇めてキスしてきた。

 くすぐったく唇を啄まれ、そよぐは吐息のような笑い声を漏らした。

 凌はそよぐの左の首筋にそっと口づけた。出血こそないものの、抜けるように白い肌にくっきりと刻まれた歯型の周囲には小さな内出血が滲んでいた。

 ひりひりと疼く噛み跡を舌先で舐られ、思わず声が漏れる。腰を抱く凌の左腕に力が入った。

「ごめん。痛かっただろ」

 凌の方が余程傷ついているような顔をしていた。

 そよぐは陶然と笑むと、凌の左腕を慰めるように撫でた。

「ちょっと痛かった、けど、お兄ちゃんが気持ち良かったなら、別に良いの」

「……腹上死するかと思った」

「ふくじょう……?」

 一発で漢字変換出来ず疑問符を浮かべていると、凌は左手でそよぐの腹を撫でさすった。

「体位が違うから『腹上』じゃないけどな……本気で死にそうになるくらい、気持ち良かったよ」

 劣情と恋慕が燻る眼差しに搦め捕られ、そよぐは大きく胸を震わせた。

 ずる、と陰茎が引き抜かれると、胎内から更に精液が溢れ出た。

 すっかり腰砕けになったそよぐは、ぺたんと浴槽の縁に座り込んだ。

 身を屈めた凌に唇を貪られる。

「ん、ふっ……ぁ、はっ」

 喉の奥まで舌が押し入り、ぬぷぬぷと粘膜を蹂躙される。骨が軋むほど抱き締められ、ガラス窓に半ば倒れ込む。

「お兄ちゃ……ぅ、あッ!」

 胸元に顔を埋めた凌が右の乳房の上側に歯を立て、グッと顎で挟み込む。

 一瞬食いちぎられるかと思ったが、微かな痛みと共に歯型を刻むと、彼は満足げに舌舐めずりして顔を上げた。

「え……ぁ、何?」

「目に見える形で俺の痕跡が残ると、そよぐは俺のものなんだなって実感する」

「……痛いのは程々にしてね?」

 恥ずかしい事なら耐えられそうだが、流血を伴うような性行為は出来ればご遠慮願いたい。恐々と伝えると、凌は小さく笑った。

「SMプレイは趣味じゃないから安心していいよ。俺の体以外、そよぐに触れさせたくないしな」

「お兄ちゃんの悋気の対象って、その、エッチなオモチャも入るの?」

「入る」

 怖いほど真顔で断言され、そよぐは困惑した。

「男の人って……おっ、オナホ? とか使うんじゃないの?」

「俺は使った事ないよ。……精通したって聞きつけた要人に『オトナの仲間入りの祝いだ』って山程アダルトグッズ押しつけられて、心底嫌いになった」

「立派なセクハラじゃん!」

「そういう嫌味ったらしい野郎なんだよ、彼奴は。八尋のジジイには『添い臥しの相手を見繕ってやろう』とか言われたな……流石に伊織爺ちゃんがブチ切れて、何もなかったけど」

 時代錯誤も甚だしい話だが、要人が精通した際には彼の要望通りの娘を八尋が見つけてきて息子の慰み者にしたらしい。反吐が出る真性の鬼畜である。

 改めて凌の味方は伊織しかいなかったのだと痛感し、そよぐは凌の首に抱きついた。

「そよぐ?」

「そよぐが、ずっと側にいるから」

 凌がそっと息を震わせる。

 そよぐは凌の頬を両手で包み込み、すんと鼻を鳴らして口づけた。

「お兄ちゃんが変なオモチャ使う気にもならないぐらい、寂しさが入る付け入る隙間もないぐらい、そよぐを抱いて」

「……俺への殺し文句を考える天才だな、そよぐは」

 凌は力が抜けたように微笑むと、そよくの唇にキスを返した。 

「心配しなくても、そのつもりだから安心して」

「ちょ、ちょっとは手加減もしてもらえると、嬉しいな?」

「時と場合による。……あのさ」

 凌はぐっとそよぐの腰を引き寄せ、真剣な顔つきで尋ねた。

「そよぐはアダルトグッズ、自分で使った事ある?」

 ぷるりと首を横に振り、そよぐは表情を曇らせた。

「友達に使ってみればって言われた事はあるけど……あの、ハマり過ぎてオモチャで処女膜破っちゃったって言う子の話聞いて、怖くなったちゃった」

「……マジかよ」

 凌は痛そうに顔を顰めた。

 気持ちは分かる。とても痛かったらしい。

「血が止まらなくて、婦人科に駆け込んだら滅茶苦茶怒られたって」

「あー、痛い痛い。聞いてるだけで痛い」

 凌は腰が引けたように若干青くなっていた。男性は女性より痛みに弱いと聞くが、本当なのかもしれない。

 げっそりと溜め息を吐いた凌は、折れそうに細い腰のくびれを優しく撫でた。

「お前が思い止まってくれて良かった」

 こそばゆさにそよぐが首を竦めると、下腹部の奥から鈍い痛みが生じた。

 子宮がずん……っと重苦しくなる。嫌と言うほど身に覚えのある痛みに目を瞠る。

 あ、と声を漏らした時には、精液の白濁色に混じって目にも鮮やかな血が滴り落ちた。

 ――一ヶ月以上ぶりに訪れた、月経だ。

 今更になって祭の間、全く月経が来なかった事に気が付いた。

 下腹部の痛みは次第に酷くなり、そよぐは思わず顔を顰めた。

「そよぐ!?」

 何時になく狼狽えた様子で顔を覗き込んできた凌に、「ごめん、タオル取って来て」と何とか伝える。

「生理、来ちゃったみたい……」

「待ってろ」

 凌は一直線に脱衣室へ走ると、バスタオルを抱えて戻って来た。

「一回タオル巻いて移動するけど……俺が触っても平気か?」

 黙って頷くと、凌はそよぐを大判のバスタオルで包んで浴槽から上がった。

 洗い場までそよぐを運び、一旦下ろしてバスタオルをはだけさせると水流の弱いシャワーで下半身の汚れを洗い落とす。

 されるがままに身を任せていると、凌は再びバスタオルでそよぐを押し包んだ。

 ついでに自分の腰にもバスタオルを巻いてから、そよぐを抱え上げる。

 浴場から続く脱衣室はやはり広々として、清潔な籐タイルが床に敷き詰められていた。その上に何枚も広げられたバスタオルの上にそっと座らされた。

 タオルの上から髪の水分をわしわしと拭われると、児童養護施設時代に戻ったような懐かしさを覚えた。

「……大丈夫か?」

 奥歯に物が挟まったような口調で凌が訊いてきた。

 そよぐは苦笑いを浮かべた。

「結構お腹痛くなってきたかも。あの……お兄ちゃん、あたしの荷物ってどうなったか分かる? 緊急用の痛み止めと生理用品が入ってたんだけど……」

「俺がそのまま預かってるよ。下男に回収される前に確保しておいた。……あ、鞄の中身は見てないからな?」

「ありがとう」

 ホッと胸を撫で下ろす。生理用品と痛み止めがあれば急場は凌げる筈だ。

「お兄ちゃん、ごめんね……嫌なもの見せちゃって」

 凌の目の前で経血を垂れ流したばかりか後始末をしてもらった事を思い出し、恥ずかしいやら申し訳ないやらで泣きたくなってくる。

 バスタオルに潜り込んでもだもだしていると、ふわふわとしたパイル地の上からぎゅっと抱き締められた。

「驚いただけだよ。迷惑掛けたなんて思う必要ないからな」

 染みるように温かい声に、うん、と頷いた。

「祭の間、巫女は絶対妊娠しないって本当だったんだね」

「え?」

 そよぐの呟きに、凌は怪訝そうな表情を見せた。

 じくじくと痛む腹を撫で、そよぐは凌の肩に凭れ掛かった。

「生理って要するに、受精しなかった場合に子宮内膜が剥がれ落ちて血と一緒に出てくる訳だから……あんなに毎日お腹一杯中出しされたのに赤ちゃん出来なかったんだな……って」

 凌は物言いたげに口を開けたり閉めたりしていたが、ガシガシと頭を掻いた後、真摯な眼差しを腕の中の娘に注いだ。

「そよぐは――俺の子供が欲しい?」

 そよぐは静かな瞳で青年を見つめた。

 凌は言葉を探すように忙しなく睫毛を上下させ、バスタオルからはみ出したそよぐの右手を左手で握り込んだ。

「お袋と出会う前の親父がさ、呪われた血筋は自分の代で終わりにしたいって言ってたって伊織爺ちゃんが話してただろ?」

「うん」

「親父の気持ち、分かるんだよ。自分が生まれた家に心底嫌気が差して、糞共と同じ血を引いている自分が汚らわしくて死にたいくらい惨めなんだ。将来子供が出来たとしても、不幸になるに決まってるって――」

 凌は一度言葉を切ると、哭女が父親そっくりだと評する面を泣き笑うように歪めた。

「でも、俺、そよぐと本当の家族になりたいんだ」

 胸の奥深く、仄暗い水の底からあぶくのように微かな声が浮かび上がる。

 啜り泣くような、切ないほどの愛おしさに魂を震わせて慟哭する、女性と――男性の思念。

 凌、と。

 生前名付ける事も、抱き締める事も出来なかった息子の名前を、彼に届かないと知っていて凌の両親は繰り返し呼び続ける。

 命を失ってなお透悟と凍鶴は呪われた血を継ぐ我が子を愛し、生かす事を望んだのだ。

 二人の慟哭は仄暗い水面に二重三重の波紋を残し、ひっそりと水中に沈んでいった。

 そよぐの目から涙が零れ落ちる。凍鶴の代わりに泣いておあげ、と哭女が囁いた。

 うん、とそよぐは頷いた。

 哭女の思念に、凌の告白に、泣きながら微笑んで頷いた。

「あたしも、凌ちゃんの、家族になりたい」

 本当の兄妹ではない自分達が兄妹という関係性にしがみついていたのは、家族への憧れによって成り立つごっこ遊びの延長線だった。

 始まりこそ歪だったけれど、今は胸を張って、心から好きな人と家族になりたいのだと言える。

 そよぐは凌の左手をきつく握り返した。

「あたしだって、結局父親は何処の馬の骨か分からないままだし、母親の血筋は曰くまみれだし、哭女様を元の居場所にお還しするまで普通の生活は送れないし……一緒になったら、一杯苦労すると思うよ。それでも良いの?」 

「良いよ」

 凌はきっぱりと言い切って、右手でそよぐの頬に触れた。

「そよぐが良い」

 胸が震えた。

 裏葉柳の瞳から次々と涙が光りながら滴り落ちる。

 これは誰のものでもなく、自分が凌を想って流した涙だ。

 この人が好きだ。堪らなく好きだ。

 いつか命を懸けて我が子を生むのなら、凌の子供が欲しい。

「そよぐじゃなきゃ嫌だ。もしもそよぐが望んでくれるなら、俺の家族になって……いつか俺達の子供を生んでくれないか」

「うん」

 凌の右手に自分の左手を重ねたそよぐは、嫋やかに瞼を閉じて温かい掌に頬を寄せた。

 愛する男に命を懸けて身を委ねる覚悟を伝える、女の仕草だった。

「そよぐを、凌ちゃんのお嫁さんにして」

 あえかに覗いた薄緑の眼差しが凌を恋うる。

 凌は花嫁のヴェールのように白いバスタオルを捲り上げた。黒曜石のナイフを思わせる双眸を烟らせて、そよぐの唇に口づける。

 バスタオルがふわりと滑り落ちる。

 

 その夜、そよぐは凌の妻になった。

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